狩猟依頼 イワン視点

 ………………

 …………

 ……



 やっぱりか……


 思わず二度見してしまったが、見間違いなどでは無さそうだ。

 あの魔法バカめ!

 ギルドの掲示板の隅の依頼。

 そう、森の魔王の討伐依頼……ではなくその隣の依頼に。

 そもそもこんな昔の古びた魔王の討伐依頼なんて今更誰が受けるんだと言うんだって話だが。

 そもそも受けられる難易度では無い訳だが。


 本題はその隣。



狩猟依頼


 “未確認魔獣” 警戒度2

   (報酬:銀貨十枚〜)


・目撃地:

  地竜の森、内心部

・外見:

  狼型の魔物 体毛が白い 小型(幼体と思われる)

・詳細:

  知能が高く、魔法を使用する。

  魔法は氷属性である。

  この魔物が生成する魔法物質は法力伝達率が高く、持続性も優れている。

  群れで活動しない。

  何らかの回復スキルを所持している。

  捕獲、魔法物質の納品などで追加報酬。

  その他不明。


期間:無し

依頼:法術研究所


 時は少し遡る。



「何の誤用でしょうか?」

 受付嬢はいつもの様子で聞いてくる。

 この人は人柄も良いし美人で人気な女性だ。

 ただ、周りの視線が痛い。

 が、有能な人である事には変わりはない。

 こんな時はさっさと話を終わらせたい。


「特殊個体の魔獣を発見したからその事についてギルドマスター……ではなくてサブマスターと話がしたい。証拠品もあります。」

 それと同時にギルドカードも出す。

 ギルドマスターは変じn…特殊な人って聞いたことがある。

 確か、新人に異様に厳しいらしいし、犬猫が大嫌いだそうだ。

 この話をしたら面倒くさくなるのは目に見えている。

 ……数秒前の俺、グッジョブ。


「ははぁ……わかりました」

 彼女は半信半疑のようだが、つっぱねたりせずにきちんと手続きっぽい事をしている。

 カードをいつも使う受付用のよく分からない小さい機械に入れたり、他の従業員の人に話たり。

 でも時々こちらを見て来る。


 まあそうだよな。

 こんな下から数えた方が早いような新米の冒険家が特殊個体を見る事なんて滅多にないからそんな反応は分かる。

 だからって何だこいつ? って感じの目を向けて来るの?

 確かにこの人にはあまり話しかけたことが無かったけども。

 俺、変な事言ってた?

 

「ではあちらの席でお待ち下さい」


 あ……そう言えばサブマスとは言えどう考えても防具付けたままはダメだ。

 成る程。

 道理であんな態度だった訳だ。

 後ろから笑い声と拍手が聴こえる。

 うっせぇわ!

 真っ昼間から酒飲みやがって!

 あぁ……余計に視線が痛い。

 もはや突き刺さってるんじゃ無いかって思うくらい痛い。


 大人しく言われた席で防具を脱ぐ。

 安物だから下はほぼ私服なので助かった。

 早く良い防具が欲しいなぁ。

 きっとあと少しの辛抱だ。

 

 「イワンさーん」


 刺さる視線に耐えながらそんな事を考えているうちに呼び出された。

 そういえばサブマスターってどんな人だったっけ?


 多少傷付いているが、高級であろう扉を開ける。

 目の前にソファが机越しに向かい合わせになっている。

 要するに、応接室だ。

 その向かい側にサブマスが座っている。

 サブマスの身長は少し低いくらいで、薄桃の髪がくるくるとしている。

 噂ではこんな見た目で男なのだと言う。

 このままでは話が進まなさそうなので取り敢えず手前のソファに座る。

 やはり凄くふかふかだ。


「魔の森で特殊個体を発見したと言う事で宜しいですよね?」

 見た目通りの若々しい声で優しそうな印象だが、どこか淡々としている。

 声は女みたいってより男の子みたいな感じだ。


「はい。魔の森の中心部でビックボアに襲われている所に特殊個体と思われる狼に助けて貰いました出来ればその狼の保護をお願いしたい。」

 


「襲われたのでは無く助けて貰ったのですか?魔獣は人を優先して襲うはずなのですが 」

 サブマスが疑わしそうに見てくる。

 あれ? 今の一言だけで分かった。

 コイツ、優しくねえ。

 なんというかズバッとくる。


「何故かは分かりませんがそれでもあの狼は俺たちには全く殺気がありませんでした」

 あの時、あの狼は全然怖く無かった。

 今考えてみればきっと害意が無かったんじゃ無いかと思う。


「へぇ〜。君って殺気なんて分かるんだ?」

 うぐっ!

 まあ確かにそうだけど。

 直感とういか……そんなこと言って信じてもらえる筈も無いのは火を見るより明らかだ。

 どうやったら信じて貰えるだろうか?

 仕方ない。最終兵器だ。


「でも、証拠は有りますよ。コレです」

 拾ったあの狼の使った魔法のかけらを出す。

 それを見て、サブマスは目の色を変えた。

 

「これは何ですか?」

 凄くそわそわした様子で聞いてくる。


「その狼が出した魔法の一部です」


「やはり魔法を使ったのですか!? 何色? 形は? 大きさは? 威力は?」

 え……?

 なんかいきなり態度変わったんですけど。

 あ……思い出した!

 この人、魔法大好きで有名なあの法術研究所の研究員だった!

 もう、だれが見ても明らかに興奮している。

 

「これは……伝導率が!適性も……いや、…………本部で調べれば……」

 やばい。

 一人でなんかぶつぶつ言い始めた。

 この人大丈夫?

 正直言って結構怖い。


「その魔法について!詳しく!話して下さい!」

 肩をガッと掴まれた。

 やばい。


 結局、知っている狼の情報を全て話し終えると直ぐにあのかけらを持ってすごい勢いでどこかへ行ってしまった。

 勢い良く扉が閉まり、この部屋に一人残された。

 あれ? 俺の方はまだ話が終わっていないのに……

 

 結局、苦笑している受付嬢に言われて帰路に着いた。

 あの人はちゃんと保護してくれるのだろうか……?

 あの様子じゃな……心配だ。

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