第2話:招かれ者
「...『招かれ者』...?」
「ああ。国や地域によって呼び方は様々だが、この国では一般にそう呼ばれてる。」
淡々と説明してくるのは、金髪の鋭い目の男、「フェルノー」。ちなみにもう一方の茶髪イケメンは「アリュ」というらしい。
俺がここに来た経緯を説明した時に、フェルノーの口から出た言葉が、あの『招かれ者』というものだった。
「普通に暮らしていた者が突如として奇妙な記憶や知識を得たり、または最初からそういったものを持っていたり、何もないところに突然ヒトが現れたりする。これが『招かれ者』だ。外国なんかでは、魔術儀式によって人為的に召喚した例も聞いている。しかもどういうわけか、その件数はここ数年で急上昇している。」
「は、はあ...。」
なるほど、こういうのは俺が初めてじゃなかったのか。なら、二人の反応も納得だ。
フェルノーは、俺を見ながら続ける。
「で、そいつらにはいくつか共通点もある。奇妙な服を着、聞いたこともないような知識を持ち、『ニホン』だとか『ニッポン』だとかの出身者が多い。」
「それと、とんでもない能力もね!」
アリュが、目を輝かせて横から割り込んだ。
彼は、俺にキラキラとした眼差しを向けながら言う。
「ねえミランガ、君、ここに来てから自分が強くなったように感じなかったかい?それか、なんか珍しい力を手に入れたとかは!?」
...彼には申し訳なかったが、完全に身に覚えがないのでそう答えると、彼はあからさまに肩を落とした。おいおい、俺のせいじゃないからな?言っとくけど。
しかし彼は、あるのかどうかも分からない俺の秘められし力がどうにも気になって仕方がないようで、こんなことを言い出した。
「よし、こうしよう。ミランガ、ここに来る途中で、この学校の隣に大きな教会があっただろう。」
ああ、あのとんでもない大聖堂ね。
「そこの神父様に、君の能力を見てもらおう。うん、そうしよう!」
え?能力を『見る』ってどういうことよ、と聞く俺を無視して一人で盛り上がるアリュの襟首を、フェルノーが引っ掴む。そして彼が言うことには、
「あそこの神父は、見た者の『筋力』や『武器の扱い』、『魔力』なんかを、FからSの七段階に分けて測れるんだ。『鑑識の魔眼』ってのを持ってるんだと。」
「へえ。」
魔眼だなんて、なんとも厨二心をくすぐるものもあるんだな、とワクワクしていたその時、ふと、おかしなことに気がついた。
「...あの、こっちの世界にもあるんですか?アルファベット。」
そう。さっき何気に、FからSの七段階、とか言ってたよな。ってことはこっちの世界にもアルファベットが...
「そんなもんねえぞ?この世界には。」
とフェルノー。
「だいたい、お前の国の言葉だって、この国じゃ話されてないぞ?どうして招かれ者ってのは、こっちの常識は知らないくせに、こうも流暢に言葉だけは喋れるんだ。」
「はいいいい!?!?!?」
転移したときに翻訳能力でも授かったんだろうか。それとも、この体に乗り移ったからか...。
地球のどこにも存在しないはずの言語を、まるで母国語のように操れてしまうのは何とも変な気分だが、とにかく、言語の心配はしなくていいらしい。
と、本題に戻ろう。えーと、神父様のとこに行って能力を見てもらうんだって?
そう聞くと、アリュはえらく興奮して答えた。
「ああ。招かれ者は、かなりの確率でとんでもない能力を持ってるからね。神父様に鑑定してもらって、もし大変な力があれば...、それこそキミが『勇者』だったりしたら、世界中に報告しなきゃいけない義務がある。」
唐突に出てきた聞き慣れた単語に、少し拍子抜けする。
「いるんですね、『勇者』...。」
「ああ、いるとも。実際、ここの国王も数年前まで現役の勇者やってたらしいよ。」
うーむ、ますます某有名ゲーム感が強まる...。
一つため息をつくと、突然の俺のテンションの変化にキョトンとしているアリュに言った。
「じゃあ、行きましょうか、教会。」
にっこり笑って「うん!」と答えたアリュに対して、フェルノーは疑り深そうな顔で言う。
「待てアリュ。俺たちも一緒に見てもらおう。理由は三人でやった特訓の成果を見てもらいたいとでも言えばいい。」
すると、何かを察したのか、アリュが急に緊張した面持ちで彼を見た。
「...確かに。その方がいいかもな。」
「ミランガ。俺たち二人が先に見てもらって、その流れでお前も見てもらえ。お前が招かれ者だとバレると、それはそれで厄介だ。」
「...えぇと...、なんでですか?」
聞き返すが早いか、フェルノーの口から恐ろしい単語が飛び出した。
「...『招かれ者狩り』がいるからな。」
ええええ!?!?なにそれ怖い!!!俺らみたいな異世界人専門のハンターってこと!?
「招かれ者どもは、有益な知識を持っていたり、やたら便利な能力を持っていたりしてな。それで商家なんかに売り飛ばされて商売道具にされたり、高い能力に目をつけられて、今の地位を守りたい奴から狙われたり、酷い場合じゃ顔やスタイルがいいから見世物や性奴隷なんかにされた例も聞いたことがある。そういった行為をはたらく者全般を指してそう呼ぶんだ。」
...おいおいおい、なんだそりゃあ!!!いきなりとんでもない危機じゃねえか!よくそんな状況で神父様んとこ行こうとか言えたな、この茶髪!!異世界人だってことバレたらどうすんだ!!
俺の焦りを察知したのか、決まり悪そうに縮こまるアリュと、彼を横目に溜め息をつくフェルノー。
「でも、僕らが守ってるから大丈夫だよ、だから行こうって!」と慌てて付け加えるアリュだったが、ごめん、全然安心材料にならない。
だが、ここで意外にもフェルノーが発言を覆した。
「ミランガ。一応教会へは行ったほうがいいと思う。神父以外にも鑑定魔眼持ちはいるから、バレるのは正直時間の問題だろう。ましてやお前のそそっかしさなら尚更だ。だから早めにお前の能力を知って、奴らへの対策を講じた方がいい。奴らが対抗できないような能力があったなら、それに勝るものはないしな。」
おお、確かに。こいつ頭いいな。でも、そそっかしいってのは余計だよ。この体のやつはそうだったかもしれんけど、俺は違うし。
それで結局、俺がその案に賛成したことで、俺たち三人は教会で能力を見てもらうことにした。
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うお...。すげえなこりゃ...。
目の前に広がりますは、一面に美しい紋様が掘り抜かれた巨大な壁と、そこに嵌め込まれた巨大なステンドグラス。
床と柱は大理石で、左右に十数列になった長椅子の中央をフッカフカの赤い絨毯が飾る。
さすがこの国の宗教の総本山、ハーマス大聖堂だ。
そして絨毯の先の祭壇におはしますは、この町の最高権力者にして、この国の宗教の統括者、法皇マブロイン様。金で飾られた白いローブと白い帽子を身につけた、長いお髭のおじいさんだ。
隣に控えているのは、緑色を基調としたローブをまとった若い男。法皇の補佐をしている神官で、ロルークさんというらしい。
「ようこそおいでくださいました、敬虔なる神の使徒たちよ。」
法皇がそう言うと、二人は右手を胸に当てて跪いたので、俺も慌てて続く。
法皇はにっこり笑うと、俺たちを立たせてから言った。
「それで、今日はどのような御用件ですかな?」
アリュが進み出て、自信満々な(フリの)顔で答えた。
「はい、今日は僕たち三人の能力の鑑定を行なっていただきたいのです!三人で行った特訓の成果を見ていただきたく存じます!」
すると法皇は、幸いこちらの意図には気づかなかったようで、穏やかに微笑んだまま話し続けた。
「ほほう。それはなんとも勤勉なことです。よろしい、鑑定をして差し上げましょう。」
「ありがとうございます。」
そして、まずアリュが鑑定を受けた。
鑑定といっても別に何かするわけではなく、数秒間法皇に見られているだけでいい。それだけで相手の強さが分かるなんて、何とも便利な能力があったもんだ。
鑑定が終了し、法皇はアリュに言った。
「うむ。前回に比べ、剣の扱いと筋力のランクが一つ上がっていますね。この二項目は、Bランクに昇格です。これからも頑張ってください。」
「はい、ありがとうございます。」
アリュが跪き、続いてフェルノーも鑑定を受ける。
「前回Aだったステータスは、今回もすべてAランクです。それと、槍の扱いがCランクに、弓の扱いがBランクに上がっていますね。相変わらず素晴らしい。」
「ありがとうございます...。...くそ、Sランクには届かなかったか...。」
「自らの強さに慢心せず、さらに高みを目指すその姿勢、高く評価します。ですが、それだけがすべてだと思い込むことのないように気をつけて、これからも鍛錬に励んでください。」
「ご忠告、ありがとうございます。」
そしていよいよ俺の番。
法皇に見つめられる数秒間が、永久に終わらないかのように感じられた。
そして法皇が、ゆっくりとその口を開く。
「ステータスは前回とほぼ同じです。ただ...」
何、「ただ」何だってのよ!?
「なんらかのスキル反応が見られます。」
「「!?!?」」
アリュとフェルノーが衝撃を受ける。
スキル?それってそんなに珍しいもんなの?
「何か、スキル習得の儀式を行いましたか?手順を間違えましたかな...?」
何やら考え込む様子の法皇。その隣で、ロルークも難しげな顔で俺と法皇を交互に見遣っている。
すると、アリュが少し慌てた様子で割り込んだ。
「ああ!多分あれです、僕が転んだ時に、魔法陣が一箇所薄くなってしまったので、多分そのせいでしょう!改めてやり直してきます!!」
法皇は、彼の焦りには気づかなかったようで、
「そうですか。では、そうされるとよいでしょう。すでにスキル反応は出ていますから、スキル習得の素質はあるということです。ただ、スキルを手に入れても、それに使われるのではなく、それを使いこなせるよう、鍛錬に励んでくださいね。」
と俺に言った。
俺はよくわからないままに跪き、法皇にお礼を述べると、二人に続いて大聖堂を出た。
そして、先程の部屋にたどり着くや否や、フェルノーが難しそうな顔で、
「これは、少し厄介だぞ...。」
と、先程の法皇同様に考え込んでしまった。
アリュも、出かける前の浮ついた面持ちは完全に消え失せ、緊張しきった様子である。
俺は、二人の沈黙に耐えきれず切り出す。
「あの...、皆さん、さっきからどうしたんですか...?」
するとアリュが溜め息をついて言うことには...
「ミランガ...、キミ、とんでもないことになったかもしれないよ...?」
「え。なんですか、とんでもないことって...」
フェルノーが、こちらに視線を移す。その、半ば睨みつけるような鋭い視線のまま、彼はこう説明した。
「あの法皇、お前のスキル言わなかったろ?」
「はい。なんらかの、としか言ってませんでしたね。」
「だがな。あの法皇の魔眼、本来そいつのスキルも「見る」ことができるはずなんだ。」
「...まさか。」
「そう。法皇はお前のスキルを「言わなかった」んじゃない。「言えなかった」んだ。つまり...。」
フェルノーは一息置くと、とんでもないことを言い放った。
「お前のスキルは、少なくとも法皇の魔眼では測れないイレギュラー、それか、奴らにとって非常に都合の悪い代物かのどちらかだ。」
「...つまり。」
「ああ。招かれ者狩りに目をつけられたら、まず助からんと思え。」
「...そんな...。」
どうやら俺の異世界生活は、とんでもないハードモードになってしまったらしい。
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