#168 王の中の王

 飛竜戦艦リンドヴルムから放たれた法撃が竜の王へと降り注ぐ。

 豪雨さながら吹き付ける法弾は、しかしさほどの効果を上げずにいた。


「法撃、効果低い! 堪えていませんね……」

雷霆防幕サンダリングカタラクトを防ぐのだ。さもありなんといったところだが」


 船橋ではグスタフが表情を歪めていた。

 竜の王は彼らの想像を超えて頑強である。有効な攻撃はというと格闘戦か、あるいは――。


「嫌がらせにしても魔力マナの無駄というべきか。法撃止め! 魔力貯蓄量マナ・プールは対要塞基準にて維持せよ。魔力転換炉エーテルリアクタの出力を上げる。源素過給機エーテルチャージャーを起動!」

「! りょ、了解! 魔力流量増大します!」


 飛竜戦艦がその身に膨大な魔力マナを蓄え始める。全ては来るべき時のために。


「あとは機会を掴むしかない、か……」

「竜の王、口を開きました! 吐息ブレスの前兆です!」

「フン、黙って眺めている気などないだろうな。格闘戦だ、奴を黙らせてやれい!」


 竜の王が噛みつくかの如く口を開く。

 ほぼ同時に飛竜戦艦が推力を上げて前進、頭めがけて格闘用竜脚ドラゴニッククローを突き出した。


 大気の唸りを引きつれて迫る大爪に、さしもの竜の王も口を開いたままとはゆかず回避に移る。

 巨体同士のすれ違いざま、竜の王は身体を捻って旋回すると飛竜戦艦の後ろへと回り込もうとしていた。


「後方のみ法撃開始! 奴に自由を許すな!」


 飛竜戦艦の後方に接続された法撃戦仕様機ウィザードスタイルが一斉に法撃を吐き出す。

 さほどの被害がなくとも、ちくいち炸裂する法弾を浴びた竜の王が煩わしそうに吼えた。

 魔獣を牽制しながら飛竜戦艦もまた素早く旋回を終える。


 再度の攻撃に備え格闘用竜脚を構えたところで、対する竜の王が動き出した。


「……石の竜。どうやらお前はおおきく見えて小物の集まりらしい。ならばこれはどうだ……」


 竜の王から放たれる不可視の波動。

 突然、それまでは巨大存在同士の戦いを遠巻きに見守っていた混成獣キュマイラたちが動きを変えた。


「王の命とあらば……御意に」


 魔獣に跨がるハルピュイアたちが手綱を放り出し羽を広げる。

 御者が去った混成獣たちは空間を越えて伝わる意思に反応し、飛竜戦艦めがけてまっすぐ飛び込んでゆく。


「至急! 監視より報告、魔獣たちがこちらに突っ込んできます!」

「なに。法弾幕により防御せよ。どちらの方向か!?」

「ぜ、全方位だとっ……」


 悲鳴のような報告を聞いた、グスタフが思わず絶句する。

 彼らの動揺が収まるより早く、混成獣たちが飢えた獣が餌に群がるがごとく飛びかかってくる。


 させじと飛竜戦艦に搭載された法撃戦仕様機が一斉に法弾を吐き出し始めた。

 本来であれば逃れるものなき濃密な法弾幕も、多数の魔獣を相手にしては分が悪い。

 ましてや混成獣は頑健さに長けた獣。数発程度の被弾などまるで気に掛けずに突き進んでくる。


「これでは抑えきれません! 取り付かれます!」

「最大推力、振り切れ!」


 マギジェットスラスタが咆哮し、膨大な炎を吐き出す。

 群がる混成獣を弾き飛ばして飛竜戦艦が飛び出した。


 危ういところを逃れた、しかし彼らに安堵する余裕などなく。


「竜の王、再び口を開いて……こちらを狙っていると!」

「おのれ獣めが、小癪な戦い方をする! 回避行動! 足を止めるな!」


 飛竜戦艦が身体を捻り旋回する。進路をずらし相手の攻撃を避けようとして――。

 その時ふと、船橋のグスタフは遠くに見える竜の王の醜い貌が、まるで笑みの形に歪んだのを見た。


 疑問を解き明かすよりはやく、彼らを突然の震動が襲った。

 飛竜戦艦の巨体が激しく揺さぶられている。ここは空の上、まさか地揺れに襲われたわけでもなかろうに。


「どう……した!? 報告を!」

「ま、魔獣が推進器に……ッ!!」


 顔色を変えたグスタフが窓にへばりつく。

 飛竜戦艦の左右に備わった巨大なマギジェットスラスタ。あろうことかその吸気口に混成獣が首を突っ込んでいた。

 巨大な異物を取り込んだ左の推進器が苦悶のような軋みを上げる。


 吐き出す爆炎が異常をきたし、不規則な推力が振動となって船を揺さぶる。


「馬鹿な、あの法弾幕をかいくぐったとでも!? ただちに法撃にて弾き飛ばせ! 船体が傷ついてもかまわん!」


 グスタフは伝声管にしがみつくや怒鳴るように命じる。

 すぐさま放たれた法撃が集中し、魔獣の巨体を吹っ飛ばした。


「駄目です、主推進器内の紋章術式エンブレムグラフに損傷が! 左舷推力上がらず、進路維持できません!!」

「船体を振れ! 勢いをつけて制御せよ……」

「竜の王! 吐息ブレス来ますッ!?」


 悲鳴のような報告が上がった時、グスタフは目を見開いて振り返り窓の外を睨みつけた。

 嘲笑うように竜の王が口を開いてゆく。

 渦巻き放たれた腐食の白煙が、まっすぐに飛竜戦艦へと伸びた。周囲の混成獣が巻き込まれようとお構いなしだ。


「左舷推力停止! 右舷推進器のみ全開にせよっ!!」


 グスタフが叫んだ命令は間一髪で伝わった。

 無事に残った右のマギジェットスラスタが死力を尽くし猛烈な炎を噴きだす。


 片側が沈黙したまま、重心位置からずれた場所で推力が発生したことにより船体は回転運動を始め――。


「いまだ、格闘用竜脚をかざせぇ!」


 ぐるりと回り、迫りくる白煙に左舷をさらす。

 さらに格闘用竜脚を振り上げ、吹きかけられた白煙の吐息へと殴りつけるようにかざした。


 竜脚に直撃した白煙が爆発し、周囲にもうもうと立ち込める。

 幻晶騎士シルエットナイトすら握りつぶす強力な格闘用竜脚であったが、見る間に腐食し装甲から骨格まで剥がれ落ちていった。

 さらに広がる白煙が船体に迫るが、壊れた推進器が盾となりいましばらくの時間を稼ぎ出す。


「ダメです、竜脚もちません! 推力停止、このままでは……!!」


 それでも片側の推進器が動かない以上、逃れることも容易ではない。

 このままでは白煙に飲み込まれ空の藻屑となるのを待つばかりだ。


「……業腹だが。今となっては殿下がここにおられないことだけが救いであるか」


 最悪の事態を覚悟した、グスタフの額を一筋の汗が流れ落ちる。



「おおおおおおおおおおおお!!!!」


 鋼の竜が諦観に沈み、竜の王が勝利を確信してほくそ笑む。

 その間隙を縫って裂帛の叫びが空に木霊した。


 竜頭騎士“シュベールトリヒツ”。

 竜闘騎ドラッヒェンカバレリをしのぐ巨体に魔力転換炉を二基搭載した大出力を振り絞り、推進器よ焼け付けとばかりに全力全開で飛翔する。


「させるかぁ!! ぅぅけぇぇ蒼い騎士ぃぃぃ!!」

「お任せをっ!」


 混成獣もハルピュイアも彼らの眼中にはない。流星のごとき突撃をもって、狙うはただ竜の王のみ。

 白煙の吐息を吐き続ける横顔へと向けて衝突すら恐れず突入し。


「それではお教えしましょう、巨大兵器破壊の心得その三! 一点集中突破!!」


 最後の距離、蒼い幻晶騎士トイボックスがマギジェットスラスタを全開にし足場を蹴って飛び出す。

 竜の王が接近に気付いた時、その視界は蒼い蹴り足によって埋め尽くされていた。


「……なっ!?」


 逃れる暇など与えない。

 攻城兵器もかくやとばかりに勢いの乗ったトイボックスの蹴りが、竜の王の小さな眼球めがけて突き刺さる。


 どれほど頑強な魔獣であっても生物である以上逃れられぬ弱点がある。

 炸裂した蹴りの衝撃が竜の王から視界の半分を奪っていた。


「や、やった……!?」


 直後、空を揺るがす咆哮が上がる。

 身の毛のよだつような叫びと共に竜の王が首を振った。


 既に白煙の吐息は止まっている。

 代わりに喉の奥から吐き出されるのは憎悪の雄たけびだ。


 トイボックスの操縦席で、フリーデグントは心臓をわしづかみにされるような恐怖を味わっていた。

 飛竜戦艦に並ぶ巨体もつ超大型魔獣、その憎悪が彼女に向けて収束している。

 咆哮の振動によって操縦席は嵐も斯くやと言った揺れようだ。


「ダメだ、この程度では……!」

「もちろん! まだまだこんなもので終わりではありませんよ!」


 そんな状況でむしろ前のめりになっている者がいる。

 トイボックスを操るエルネスティは喜色すら浮かべながら操縦桿を押し込んだ。

 目の前に倒すべき敵がある。自らに応える機体がある。

 ならばやるべきことなんてただひとつ。


「さぁさ、おかわりをどうぞっ!」


 執月之手ラーフフィストを打ち込み、トイボックスが無理やり機体を固定する。

 振り回される頭部にしがみつきながら、両肩のマギジェットスラスタを回し足元に向け展開して。


「ブラストリバーサ!」


 甲高い音が収束し破壊的な衝撃波となって放たれる。

 いかに竜の王が強固な甲殻を備えようと、超至近距離から撃ち込まれてはたまらない。

 ましてや相手はエルネスティ謹製の玩具箱トイボックス

 ブラストリバーサはむやみやたらと威力に特化した必殺兵器(本人談)なのだ。


 暴風の鉄槌に打ちのめされ、竜の王すらたまらずのけぞる。


「や……やったな! 我々があの竜の王を止めたぞ!」

「これでひとまず窮地を逃れたはずです」


 やりたい放題やった後、さらに竜の王を足蹴にしてトイボックスが飛び出してゆく。

 旋回し戻ってきたシュベールトリヒツが合流し、再び機体の上へと着地した。


「殿下! 殿下はご無事ですかっ!?」

「大丈夫、私なら問題……ない。それよりもイグナーツ、発光信号を! 今しかないのだ、飛竜戦艦よ応じてくれ……!!」


 祈りを乗せて魔導光通信機マギスグラフが明滅する。

 彼らが生み出した貴重なる機会を逃さないために。


「イグナーツ隊長からです! 我……殿下とともにあり! 敵沈黙、竜の炎を請うと!」

「なんと。まさか共に突っ込んだのか!? いや、それよりもだ。周囲に味方はあるかっ!?」

「竜闘騎、退避済み! イグナーツ隊長も離脱してゆきます!」


 グスタフが身を乗り出す。


「絶好の機である、これを逃せば我らに勝機はないぞ! 竜炎撃咆インシニレイトフレイム用意!!」


 この時のために残しておいた切り札。

 全ての枷を解き放たれた飛竜が、力を漲らせて鳴動する。


「残存魔力貯蓄量、許容範囲!」

「各魔力転換炉、出力最大!」

「強化魔法出力上げ、耐性良し!」

「法撃開始。魔法反応、連続します!!」

顎門あぎと、開放準備良し!」

「竜騎士長! 敵位置が射角内に入りません!」

「船体の制御をこちらによこせ! 総員身体を固定しろ!!」


 もはやなりふり構っている余裕などない。グスタフは強引に生き残った推進器を起動する。

 瀕死の船体が軋みを上げながら回りだし。さらに船首を巡らし振り返ることで無理やりに竜の王の姿を射角に捉えていた。


「焼けて滅べ魔獣! 竜炎撃咆、投射ァ!!」


 飛竜戦艦が顎門を開く。

 船首内で連続して発生した魔法現象が、眩いばかりの獄炎となって放たれた。


 白煙の吐息のお返しとばかりに、空を一直線に引き裂いて赫い炎が伸びる。

 それは狙い過たず、衝撃から立ち直りつつあった竜の王へと直撃する。


「……おおおおおっ!!」


 要塞すら焼き尽くす、人類史上最高位の威力を誇る破壊兵器。


 炎の濁流が竜の王を呑み込んでゆく。

 圧倒的な耐久性を見せつけた甲殻ですら焼けて弾ける。

 短く不格好な腕は燃え落ち、翼は枯れ枝のように砕け散った。

 燃え盛る炎の轟音にかき消され、竜の王の咆哮は既に聞こえない。


 永遠とも思えるような、しかし短い時が経ち。

 魔力貯蓄量の限界に達した飛竜戦艦からの法撃が止んだ。


 思うさま破壊の限りを尽くした炎が去った後、そこには焼け焦げた巨大な塊だけが残されていたのだった。


「おおお、やった……やったぞ!」


 もはや竜の王の面影はほとんど残されていない。

 最初に竜炎撃咆が直撃した頭部は完全に焼失している。

 もともと短めだった首も焼け、そこから胴体にかけて大きく抉れていた。

 翼も焼け落ちた今となっては元の形を読み取ることも難しい。


 枯れ木を砕くような音をたて、竜の王の残骸が傾いてゆく。

 周囲を圧倒した巨大存在も、今は焼け焦げた肉に過ぎない。


 ぼそぼそと炭化した肉の欠片をばらまきながら落下を始めていた。


 飛竜戦艦から、竜闘騎から人間たちの歓声が上がる。

 しかしそれはすぐに収まった。ある程度墜ちたところで残骸の落下が止まり、空中を漂い出したのだ。


「竜の王、落下止まりました……。動きは見られません!」

「ふうむ。奴の中に浮揚力場レビテートフィールドが残っていたのかもしれんな。いずれにせよあの有様では死んでいよう」


 グスタフはようやく胸を撫で下ろすと船長席に深く沈みこんだ。

 一時は肝を冷やしたが、なんとか窮地を切り抜けることが出来た。


 飛竜戦艦の被害は深刻だが、天空騎士団は健在である。

 残る魔獣の駆逐は近衛をはじめとした竜騎士に任せればよい。


「まさか羽根付きたちにこうまで追いつめられるとはな。しかし……殿下をこちらにお招きするかは、考えどころか」


 なにしろ飛竜戦艦は推進器をやられまともに動けない。

 拠点に戻るためには近衛船で曳航する必要があるだろう。


 一時の安堵に緩んだ心を引き締め直してグスタフは立ち上がった。

 彼の仕事は終わっていない。

 天空騎士団に命じて残った魔獣を倒し、王女を無事に拠点まで護衛せねばならなかった。


「各竜闘騎は本船の護衛につけ! 近衛船に連絡、曳航の準備をせよと。魔獣に対しては各自の判断で法撃を許可する……」


 船員が慌てて動き出し、指示を周囲に伝えてゆく。

 窓の外では竜闘騎が集まってくるのが見えた。


「魔獣の群れ、再び集まってゆきます……!」


 その時、監視から上がってきた報告が緩み始めていた空気を再び引き締める。


 空に浮かぶ黒い染みのような魔獣たちが集まってゆく。

 その先にあるのは浮かんだままの竜の王、その骸だ。


 まるで守るかのような行動。しかし中心にあるのが焼け焦げた死骸だとなれば不自然さはぬぐえない。


「あくまでも戦うというか。それとも、獣でも王の死を嘆くものか」


 敵対するものであれ、ハルピュイアや混成獣も王の死体を守ろうという考えがあるのか。

 その行動にはグスタフも感じ入るものがあった。


「いや。なんだ……?」


 そうして魔獣の動きを眺めていた時。ふと竜の王の死骸がわずかに動いたような気がして、彼は目を凝らした。

 勘違いならばよい、しかしもしも違うのであれば。


「……近衛隊の状況はどうか」

「はっ。竜闘騎は防衛配置についております。飛空船レビテートシップは現在こちらに向かっており……」

「急がせよ。すぐに飛竜戦艦を移動させる」


 指令が伝えられ飛空船が急行する。

 しかしその素早い動きですら間に合うことはなかった。


 ビク、と竜の王の躯体が震えた。

 炭化した肉がぼろぼろと零れ落ちてゆく。

 ソレはどう見ても死んでいた。

 首が焼け落ち腹を抉られながらいまだ死に至らない生命などあってよいはずがない。


 だというのに天地自然の理を捻じ曲げ、ソレは確かに動き出しているのだ。


「死にぞこないめ、なんと悍ましいものか! かまわん、法撃を加えよ! 欠片も残さず砕いてしまえ!!」


 命令を受けた竜闘騎が次々に法撃を加える。

 しかし混成獣がその身を盾として防ぎ、死骸までは届かない。


 多くの魔獣たちに護られながら、竜の王の動きが激しくなってゆく。

 ついに焼け焦げた甲殻がずり落ちるに至り、海老のように曲がった背中が音を立てて裂けた。


「なん……だ。あれは……!?」


 グスタフだけではなく、その光景を目撃した人間たちは残らず言葉を失い、眼前の異様に見入っている。


「ふむ。なんだか思っていたのと違う感じですね」

「お! ま! え! は! なぜこの状況で落ち着いていられるのだ!?」


 だいたい一人を除いて。


 竜の王の背中に開いた裂け目がメキメキと音を立てて大きく開いてゆく。

 未だ内部に残っていた体液をまき散らしながら、ぞろりと内部から何かが伸びた。


 刃物のように薄く鋭利な部位が生える。

 それはぼんやりと虹色の輝きを放つとゆっくりと開閉した。

 さらには根元が続き、肢のような部位が現れる。


 ソレは竜の王に肢をのせると、一気に身体を引き抜いた。

 全身が完全に抜け出たところで、残された竜の王の躯体はまるで魂が抜けたかのように墜ちていった。


 混成獣たちも焼け焦げた残骸を追うことはしない。ということは。


「あれが竜の王の中にいたということか!? なんなのだあれは!」


 ソレは支えもなく宙に浮いたまま身体を伸ばしていた。

 この戦場において最大級を誇った竜の王に比べると小柄である。それでも大きさは幻晶騎士の倍はくだらない。


 躯体は光沢のある甲殻に覆われ、肢は細く長くだらりと垂れ下がっていた。

 混成獣ともドレイクとも異なる姿。あえて近しいものを挙げるとすれば――。


「“蟲”のような……。なるほど、そういうことですか」

「なんと気味の悪い奴だ」


 まるで昆虫のようであり、さらに複雑な甲殻をまとった形状はどこか鎧甲冑をまとった騎士にも似て見える。

 三対六本ある肢のうち、上下にある二対四本がやたらと長い。見ようによっては“人型”のようにも思える姿をしていた。


 守るように周囲に集まっていた混成獣たちが道を開く。

 竜の王より現れたものがぎこちなさの残る動きで“腕”をあげた。


「……まったく。まったく台無しじゃあないか“西方人せいほうびと”。お前たちはいつも私の前に立ちはだかり、そして奪ってゆく……“二度”は許すものか」


 空間を越えて声ならぬ声が届く。竜の王と同じ異能を行使し、ソレは高らかに謳った。


「ここから先はこの“魔王”自らの手によって貴様らを葬ってやる。心してかかるがよいよ!!」



【後書き】


飛竜級ヴィーヴィルクラス二番船“リンドヴルム”


本章のラスボスのうち一隻。

オリジナルの開発者であるオラシオが亡命先であるパーヴェルツィーク王国において建造を指揮した。

飛竜戦艦と航空母艦二隻を連結して構成される超巨大艦である。

これは法撃戦仕様機の登場とともに発見された「船体を通じての魔力貯蓄量、出力の共用化」という概念をさらに拡大したものである。

飛竜戦艦本体、及び母艦に接続された法撃戦仕様機の魔力を船体を通じて共有する。

加えて全体を強化することで、見た名以上の防御力を獲得している。


余分な船体を付け加えても高い法撃戦能力にかげりはない。

切り札である竜炎撃咆の存在もあり、圧倒的な対飛空船性能は健在である。

反面、巨体ゆえに機動性の低下が著しいが特に問題ないとされた。

これは一番艦とイカルガの戦いを分析し「極端な機動性を持つ幻晶騎士級の兵器との戦闘は不向き」という結論を得たためである。

本船は対飛空船・対地能力に特化し、その代わりに竜闘騎との連携により機動性の不足を補っている。

この基本方針の変換は、本船を単体の戦闘艦から空中移動要塞的な存在へと昇華せしめる要因ともなった。




・竜の王/魔王(竜王体)


小王とともに逃れた穢れの獣を成長させた姿である魔王(魔人体)が使用していた生体装備。

生体と機械をつなぐ、小王の技術を応用して生物の死骸を外部装備として纏っている。

生きた竜だと思われたが、実体は死骸を利用したものである。基となった生物の入手経路は不明。

つぎはぎゆえその姿は非常に醜悪なものとなっていたが、能力は非常に高い。

巨体による強固な防御力と高い魔法能力による攻撃力を備える。

緒戦において無敵を誇ったが、人造の竜である飛竜戦艦との戦いにおいて竜炎撃咆の直撃を受け破壊されてしまった。




・魔王(魔人体)


本章のラスボスの内一体。

生き残った最後の穢れの獣、幻操獣騎が成長した姿。

いずれ時間をかければかつての魔王に迫るほど成長する可能性があるが、現時点ではそこまで至っていない。

生物としての不自然を小王の持つ改造技術によって補っている。

前肢と後肢が特に発達し、まるで人型のような形状をしている。そのため魔人体と呼称される。

成長途中であるため身体が不安定な面があり、そのため普段は竜王体をまとって身を守る必要があった。


魔王に比べ小型ゆえ魔法能力では劣るが、身軽なため格闘能力は高まっている。

また穢れの獣由来の酸性体液は健在である。

新たな特殊機能として『囁きの詩』と呼ばれる魔法装置がある。

これは滅びの詩を応用したもので、生物の魔法演算領域を通じて思考情報を伝達する、ある種の無線通信としての利用が可能である画期的な装置であった。

ただし調整が十分ではなく、思考の伝達には激しいノイズを伴う。

この機能は混成獣を従える過程において開発された。

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