#153 空より来る脅威

 停泊する飛空船レビテートシップを掠めるように巨大な獣が飛び去ってゆく。

 背に小さな人影を乗せた魔獣、鷲頭獣グリフォンは並んで停まる船を眺めて少しばかり邪険そうな鳴き声を上げた。


 浮遊大陸の住人ハルピュイアと地上の人間が同盟を組んだことにより、かつて小規模だった村は大きく姿を変えていた。

 森の一角には簡易ではあれ確かに港が設置され、大地の上には人間たちのための住居が軒を連ねる。当初は雨風を凌ぐ程度だった住まいも時間がたつにつれそれなりにしっかりとしたものへと作り替えられていた。


 空に並ぶ飛空船の多くはシュメフリーク軍のものだ。これでも全て揃っているわけではない。中には偵察など様々な任務を帯びて離れているものもあった。


 なにもかもが急ごしらえながら、新しい関係が着実に積み上げられてゆく。そのうち最も目立つひとつが、小さな羽音を立てて木々の間を飛んでいた。


 はたはたと羽ばたくエージロは探し物の途中だった。くるくると回って村の周りを見て回り、お目当てを見つけるとにんまりと笑みを浮かべる。

 ひと羽ばたきを残して急降下。地面にぶつかる前に風を巻き起こして減速すると、そのままアーキッドキッドの肩へと着地する。

 慣れた様子でしゅとっと肩車の体勢に移り、びしっと指をさした。


「キッド! ハイヨー!」

「おいこら俺は馬でも鷲頭獣でもねーぞエージロ。お前さ、自分で飛んだほうが早いんだから飛べよー」

「えー。でもこっちのほうが楽しい!」

「いや俺そんな暇じゃないんだけど」


 “黄金の鬣ゴールデンメイン号”と合流したことにより、キッドはエムリスの側近としての立場に復帰していた。

 ハルピュイアとの同盟、シュメフリーク王国との折衝、さらにはパーヴェルツィーク王国や“孤独なる十一国イレブンフラッグス”への備えなど考えやるべきことは無数にある。

 そんな中で勢い任せのエムリスが暴走しないよう手綱を取らねばならないのである。なかなかに多忙の身の上なのだ。


 とはいえ彼の事情など鳥の少女には関係なく。

 向きを伝えるために頭を掴んで左右に動かしてくるエージロをそっと押しとどめ、キッドは周囲に救援の視線を送った。


「ちょっと代わってく……」

「おっと船の掃除をしないとな」

「俺、幻晶甲冑シルエットギアを点検してくるわ」

「あっと若旦那がお呼びだー」

「お前らぁ……!」


 なぜだろうか、決まって誰も助けてくれない。

 もう一度くきっと首を曲げられ諦めて歩き出しかけたところで、救いの手は意外な人物から差し伸べられた。


「いつもいつもふらふらと。なにをしているのエージロ」

「ホーガラ! いいところに来た……ぜ」


 ハルピュイアの少女、ホーガラだ。

 笑顔で振り返ったキッドがすぐさま怯む。彼女の普段から引き締められた表情が、今はより鋭角に眉を吊り上げていたからだ。

 厳しい視線はそのままキッドへと向き、彼はすぐに逃げ出さなかったことを後悔し始める。


「お前もお前だ! 私たちの獲物なんだから勝手にうろつくな。見張るのが私の役目なのだぞ!」

「えっ、それもうナシでいいかと思ってたぜ。若旦那たちとも合流したし、いちおうは同盟を組んでいるんだ。おとなしく捕虜やってる場合でもないだろ」


 事実、ハルピュイアと多少なり縁がありかつ人間側の立場もあるキッドは、橋渡し役として重宝されている。本人としては面倒ごとを投げられているだけのような気もしていたが。


「確かに私たちとの話し合いにも参加しているな」

「だろう? だから……」

「しかし獲物が巣から逃げ出さないようにするのも私の役目だ。ではこうしよう、これからは私がお前についていってやる」

「どうして増える!? じゃなくて。ホーガラだって村じゃけっこうな立場なんだろう。俺の監視ばかりしてる場合じゃ……」

「見るのはお前だけじゃない。今は地の趾ちのしの考えを知ることも必要だからな」


 キッドは思わず唸る。

 ハルピュイアから構いに来るキッドなんてものは例外中の例外であって、以前より交流があったらしいシュメフリーク軍でさえまだ微妙な距離をおいて接している。ここで互いを知ることは無駄ではないだろう、仮にも同盟を組み動こうというのだから。


「……はぁ。わかった。そういうことならなるべく力になるよ」


 キッドに逃げ道は残されていないらしい。そうして彼は深い溜め息と共に降参したのである。

 彼に肩車されたまま話を聞いていたエージロがくりっと首を傾げる。


「じゃあ、みんなで遊ぶの?」

「だから遊ばねぇって!」


 徐々に緩みつつあったホーガラの眉が再び跳ね上がった。


「エージロ! あなたは風切カザキリのもとに戻りなさい。もっと教えを受けてから……」

「えー。ホーガラがキッドを独り占めしようとしてるー」

「ちっ、違う! 私は風切から受けた役目があるのよ」

「なんでもいいけど、俺はこのままなのか? このままだろうなぁ」


 当のキッドを置き去りに、二羽はしばらくやんやと騒いでいたのだった。




 拠点となるハルピュイアの村から少し離れた位置に、飛空船が浮かんでいた。シュメフリーク軍所属の哨戒船だ。

 広がる森の景色も見飽きてきたころ、彼らは空に変化を見つけていた。


「船影確認! ……規模は一隻だけです!」

「こちらからの航行予定は聞いていないな。所属は見えるか?」


 船員が遠望鏡を伸ばし覗き込む。針の頭のような大きさだった影は見る間に大きさを増し、今ではコルク栓程度になりつつある。所属を示す旗があるならばそろそろ見えてもよいはずだ。


「ずいぶん速いな……。旗や帆はないか。所属が確認できない。敵船の可能性あり、警戒の発光信号送れ。しかしハルピュイアたちは信号の意味を覚えているんだろうな」


 取り決めに従い、彼らは監視の役目を遂行する。船に備えられた魔導光通信機マギスグラフが明滅し周囲に警戒を伝えた。

 しばしして、木々の間から鷲頭獣が次々に舞い上がってくる。


「光った! 地の趾が使う合図だな。あれの意味は……なんだ?」

「覚えきれるか。ひとまず何かあったのだろう」


 空飛ぶ大地で暮らすハルピュイアたちは空中にあるモノを探すのが得意だ。すぐに近づいてくる船影を見出していた。


「また船とやらか。本当にどれだけいるのだ!」

「どこの地の趾か知らないが、“敵”だというなら地に返すまで。ゆくぞ!」


 鷲頭獣が長く鳴き声を上げ大きく羽ばたく。

 一気に速度を上げて不明船を目指す動きを見て、シュメフリーク兵たちがざわついた。


「ハルピュイアに動きが。不明船に向けて先行します!」

「あいつらまだ警戒を伝えたところだろう、囮だったらどうするつもりなんだ。仕方ない、周囲の監視を怠るなよ」


 互いの文化も戦術そのものまでもが違う。一朝一夕に噛み合うものではないだろう。しかしふたつの種族はそれぞれにできることをやりながら不器用に動き出していた。

 とはいえ不審船にとってそんな事情は知ったことではない。自らを迎え撃つべく近づく魔獣の存在に気づいてなお速度を緩めることなく、直進を続けてきたのである――。



「警戒信号だって!? まさかパーヴェルツィークが」

「いいや、船らしいが所属は不明らしい。哨戒がそのまま一当てやるようだな」


 村はにわかに騒がしさを増していた。人間もハルピュイアも緊張感を湛えそれぞれに動き出す。

 “黄金の鬣号”を率いるエムリスもまた船長席について表情を険しくした。伝わった情報では敵の規模は大きくない。まだ動くには早いと見て待機している。


「船は少ないのだろう。ならば鷲騎士グリフォンライダーの敵ではない」

「強さと戦いの結果は別だぜ、ホーガラ。油断しないにこしたことはない」

「む……」


 ホーガラの脳裏に先日の戦いが思い浮かぶ。実力では鷲騎士たちが勝っていたにもかかわらず、あわや全滅の窮地に追い詰められたのではなかったか。言い返す言葉をためらうだけの分別は彼女にもあった。


「それとエージロさん。船内は天井低いんだからそろそろ降りてもらえませんか」

「やだ」


 エージロを肩車したままのやや情けない姿で、キッドが長いため息を漏らした。

 そうしていると周囲からざわめきが伝わってくる。状況が思わしくないのかと、エムリスは唸る。


「いやな予感がするぞ。“黄金の鬣号”を動かし……」


 そう命じようとした瞬間、上方監視の船員が悲鳴のような声を上げた。


「嘘だろ!? 突破され……速い、来る!」


 窓の外、空を貫く弓矢のように飛ぶ船の姿がはっきりと見える。

 長大な炎の尾を曳き連れて、不審船は馬鹿げた速度でもって村の中央を無理やりに突っ切っていった。轟く爆音が皆の鼓膜を震わせる。


 シュメフリークはおろかエムリスたちですら対応する余裕がない。

 しかし彼らは見た。まるで剣のように鋭い形状シルエット。極めて高性能であること窺わせるマギジェットスラスタの噴射。それによる“黄金の鬣号”に勝るとも劣らない速度性能。


 もしやの可能性が脳裏を過ぎる。彼らが表情をひきつらせる暇すら与えず、次なる驚愕が空に現れた。


「急いであげろ! のんびりしてる余裕はなさそうだ!」

「違う。若旦那、あれを! 何かが残って……!!」


 不審船はただ通り過ぎただけではなかった。

 村のちょうど真上で、船から零れ落ちたものがある。逆光を受けて黒々とした影と化したそれは、空中で大きく“四肢”を広げると迷わず村のど真ん中目指して落ちてきた。

 まるで人に似た形を持つソレ。だが大きさはとても人間のものではなく――。


幻晶騎士シルエットナイトが!? 冗談だろ!!」


 幻晶騎士は空を飛ぶことはできない。パーヴェルツィークのドレイクモドキやイレブンフラッグスの船付きならばともかく、人型の近接戦仕様機ウォーリアスタイルが飛べるわけがない。


 そんな“常識”は、直後に起こった猛烈な炎の噴射によって吹き飛ばされた。


 空の奥底のような深い蒼色をした機体が両肩から長大な炎を噴きだす。マギジェットスラスタの噴射によって一気に減速すると、慣れた様子で村へと降り立ったのである。


「あのような幻晶騎士があり得るのか!? 船を泊めろ、幻晶騎士を呼べ!」

「地の趾が使う人形か。許しもなく村に降りるなど!」


 シュメフリーク軍が、ハルピュイアが、事態に追いつくべくあらゆるものが動き出す。

 そんな極まった混沌の渦中にて、引き金となった蒼い幻晶騎士はといえばまったく気負った様子もなく堂々と周囲を見回していた。


 慌てた様子の鷲頭獣が村の上空を飛び回り、シュメフリーク軍の幻晶騎士が押っ取り刀で駆けつける。

 迫り来る者たちを全く無視して。蒼い幻晶騎士はゆらりと首を巡らせると、浮き上がりつつあった“黄金の鬣号”に向けて指さした。


「突然の来訪失礼します……。そこの船! クシェペルカ王室所有“黄金の鬣号”とお見受けしますが、いかに!!」


 シュメフリーク軍の動きが止まる。

 問いかけの内容にも引っかかるが、それよりも蒼い幻晶騎士から響いてきた声音が奇怪なほどに可愛らしいものだったからだ。とても拠点のど真ん中に飛び降りを敢行した蛮勇の持ち主の声とは思えない。

 ハルピュイアは人間たちの動きを見て警戒しつつ様子を見ている。


 そうしてにわかに沸き起こった静寂を、絶叫が切り裂いた。


「え……エルネスティぃぃぃぃぃッ!!??」




 “黄金の鬣号”に先導されて“銀の鯨ジルバヴェール号”が戻ってくる。同じところで作られた姉妹船ともいうべき二隻だけあって、それらはよく似た姿をしていた。


 振り返れば佇む蒼い幻晶騎士。どことなくエルネスティの乗騎“イカルガ”を思わせる感じもあれど、見慣れない姿の機体だ。

 これもまた新鋭機の類なのかと、ド派手な登場を思い出してエムリスは溜め息を漏らした。


「……いずれ誰かが追ってくるとは思っていたが、まさかお前とはな。銀の長エルネスティ!」


 トイボックスから降りてきたエルネスティが無駄に胸を張る。


 空から幻晶騎士ごと降りてくるなどという無茶をやってのけた騎操士ナイトランナーが、まさかこんな小さな少年であるとは。

 驚愕に戸惑うシュメフリークの騎士たちを横目に、エムリスは軽い同情を覚えていた。コレが現れたからには、これからきっともっととんでもないことになるだろうから。


「で、お前たちだけなのか? よくここがわかったな」

「いずれ本国から騎士団が派遣されると思いますが、まずは僕たちだけです。場所は親切な人に教えてもらいました」

「は? 誰だそいつは余計なことを」


 エムリスは首を傾げるが、すぐにエルがよくわからないことをしでかすのはいつものことだと気にしないことにした。


 彼らが話している間に“銀の鯨号”から船員が降りてくる。

 先んじて軽やかに飛び出してきたのはアデルトルートアディだ。彼女はエムリスやキッドの姿を見つけてぶんぶんと手を振りまわしている。


 続いて藍鷹騎士団の団員たちが降りてくる。彼らは周囲の確認に余念がない。ひととおりの指示を終えたノーラがやってきて律儀に一礼した。

 彼らの姿を見たエムリスは機嫌を直す。調査と偵察こそ藍鷹騎士団の本分、複雑怪奇な空飛ぶ大地においては待望される能力だ。


 その時、船底が開いて巨大な人型が降ってきた。外套マントを翻して地響きと共に着地したそれは幻晶騎士としては妙に小さく、エムリスは違和感を覚える。


「銀の長、またずいぶんと新型を持ち込んだのだな」

「いいえ、新型はありません。客人と改造カスタム機だけですよ?」

「あん?」


 噛み合わない会話を繰り広げる二人の横をすり抜けて、ぱたぱたと走ってきたアディがキッドの元へ向かう。


「キッドー! ひーさしぶり、元気してた……誰その子?」

「あっ。えーといやそのなんというか」


 手を振り返していたキッドは、自分が何を肩車しているのかを思い出してさっと顔をひきつらせた。最近すっかりとこの状態に慣れてしまい、しかも周りも止めないものだからと油断していた。

 説明に困って動きを止めたキッドにさらなる追い打ちがやってくる。


「……おい、キッド。そいつはお前の何だ?」


 ホーガラは鋭いまなざしで彼を睨み据えてくる。気のせいか先程よりさらに眉の角度がきつい。このままでは眉が垂直になるのではないか、キッドは場違いな心配を覚えていた。


「まぁちょっと落ち着いてくれ」


 ここまで不機嫌になる理由はさておき、納得できる部分もある。

 ハルピュイアが人間を受け入れ始めたのはつい最近のこと、いかに同盟を結んだとはいえ大勢で押しかけてくれば思うところはあるだろう。

 いやそれとは別の意味合いもありそうだったが。


「こちらはアデルトルート。俺の双子の妹なんだけど、多分俺たちを追ってきた」

「む。同じ巣で育ったものか」

「へー!」


 ホーガラの表情から険が取れ、エージロが興味深げに身を乗り出す。

 そんな彼らをアディはほうほうと眺めていた。ふいにその表情がふんわりと笑顔に転じて、キッドの中の警鐘が強くなってゆく。こんな時のアディは大抵ロクでもないことを考えていると、よく知っていたからだ。


「ほほーん。ほほーん。みんななかなか可愛い。やるわね、キッド! それで帰ってこなかったのね?」

「ちょっと待て。ちょっと待ってくれアディ。違うぞ、何か大きな勘違いを感じるぞ!?」

「ずっと肩車しながら言われても説得力ないなー」

「……エージロ、ちょっと降りてくれ」

「やだ」

「ほっほーん。ずいぶんと懐かれてるんだー。ほーん」

「その言い方止めろ!?」

「大丈夫、わかるわ。皆可愛いし! 私はいいと思うの、キッドにだって選ぶ自由があるものね。……でもエレオノーラヘレナちゃんがなんていうかな?」

「ちょっ。いや。これと女王陛下は関係なくてございますですよ!?」

「うんうん。でも私はヘレナちゃんからキッドを連れ帰ってくれって頼まれてるから、ありのままを報告しないとね、うん。ほら騎士として」

「とってつけたように真面目ぶってんじゃねーよ!?」


 まずい。何かは分からないが確実にまずい方向に進んでいる。キッドには謎の確信があった。

 しかし暴走を始めたアディを止めるのは難しい。焦ったキッドは周囲を見回し、傍らに長身の女性を見つけた。


「違うんですよ。ノーラさんならわかってくれますよね!?」

「はい、アーキッドさん。クシェペルカへの報告書は私にお任せください。抜かりなく仕上げてごらんに入れます」

「ちくしょう! さては味方じゃないなアンタ!?」


 女性陣を頼るのは絶望的な予感がする、ならば頼るべきは彼の小さな親友だ。


「何とかいってやってくれよエル。皆ちょっと勘違いしてるって!」

「わかっていますよキッド。ですから、女王陛下にお話しするときには僕も一緒についていってあげますね」

「お前もかエルネスティ……ッ!!」


 この世に味方はいないのか。頭を抱えようにもエージロが座っていて、彼は途方に暮れるのだった。


「はっはっは!! キッドだけ持って帰りたいのならかまわんぞ。何しろあんまりヘレナの機嫌を損ねるのも良くないしな!」


 そうしてエムリスが腹を抱えて笑っていると、エルの笑みがそちらを向いた。


「ときに。若旦那にはクシェペルカ王国ではなくフレメヴィーラ本国でお待ちの方がいらっしゃいますので、お願いしますね」

「おぅっ!? そ、そんくらいへっちゃらへーだ。だぜ……!?」


 迂闊であった。一気に腰の引けた様子のエムリスだったが、さらにエルは“黄金の鬣号”の船員たちを見回して。


「それに皆様にも、女王陛下より言伝が」


 船員たち は逃げ出した。

 船員たち は場からいなくなった!

 エムリス は逃げ出した。

 しかし マントの裾を掴まれてしまった!


「若旦那はダメですよ?」

「ぐっ、岩でも乗っているのか!? さては強化魔法を使ってやがるな!」


 マントを全力で引っ張ってもびくともしない。ほわほわと笑顔を浮かべながら小揺るぎすらしないエルネスティは率直に言ってかなり不気味である。

 彼ほど見かけと中身が一致しないものも珍しい。ちっさいからと侮ってかかるとでたらめに高い勉強代を支払う羽目になる。

 それをよく知るエムリスとしては迂闊に敵に回したくない。焦る頭を叱咤し思考を回す。


「ふっ……まぁ待て、落ち着け銀の長。確かに俺は勝手に飛び出してきたように見えるかもしれない。だがこれは俺なりの考えに基づいてのことなのだ」

「なるほど。では国許へと報告するためにも、その考えというものをじっくりとお聞かせいただけますでしょうか」


 早まったかもしれない。額を一筋の冷や汗が流れてゆく。

 エムリスの決死の戦いは、今始まったばかりであった。

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