#141 少女と愉快な捕虜生活

 アーキッドキッド・オルターが魔獣との戦いで飛空船レビテートシップから落ち、空飛ぶ大地の住人の手により囚われの身となってよりしばらく。

 彼は今日も困惑していた。


「…………えっと」


 目の前には、にこにこと笑みを浮かべる少女。ホーガラではない彼女は、キッドへと荷物を差し出していた。

 編み籠の中に入っているものは、没収されたはずだった彼の持ち物である。驚くべきことに、大きくはみ出した彼の銃杖ガンライクロッドすら含まれていた。


 以前の質問通り、銃杖があればキッドは魔法現象を行使できる。ならば変則的な形であれ空を飛ぶことも無理ではない。加えて言えば、可能になるのは当然それだけではない。

 天を仰ぎたくなった気持ちをぐっと抑えて――ここしばらくやり過ぎて飽きてきた――彼は溜め息をひとつ挟んだ。


 表情を引き締めると、籠のものには手を伸ばさずに少女を見つめる。


「俺の荷物を持ってきてくれたのか、ありがとう。……だけどこれは俺にとっては武器だ。魔法が使えるようになるし、俺はこれでも騎士なんだからさ」

「すごいね!」

「うん、いやそうじゃなくてだな……」


 どういえば伝わるのだろう、彼はいっそ頭を抱えていた。

 この少女がどのようなつもりで装備を持ってきたのかはわからない。武器を返すなど懐柔策としても危険すぎる。

 これをおこなうのがスオージロと呼ばれた巨漢であるならばまだ理解はできるのだが、目の前にいるのはエルネスティよりも小柄な少女である。まったく邪気を感じさせない笑顔で、忘れ物を渡すような気軽さで装備を差し出しているのだ。


 この上ない好機だと言えたが、だからと言ってこの害意のなさそうな少女を窮地に追い込むのはキッドの本意ではなかった。


「どうしろってんだよ……」


 そんな彼の苦悩をまるっきり無視して、少女は笑顔のままに言い放つ。


「じゃ、外に出よっか。ついてきて!」

「は?」


 装備の入った籠を床に投げると、少女は当たり前のように窓へと向かう。唖然としたままのキッドの目の前で、ひとつの異変が起こり始めていた。


 少女の後姿でまず目に入るのが、腰のあたりまで長く伸ばした髪の毛だ。前からは普通の髪の毛のように見えていたが、後ろからは大きく異なっていた。

 ようく見てみると、髪を作っているのは羽毛状の組織の集合体であった。飾りをつけているわけではない、髪の毛自体が変質しているのだ。


 異変はさらに続く。

 羽毛状の固い髪の毛が左右に分かれ、ひとりでに持ち上がってゆく。首筋から背にかけてを支点として左右に広がったそれは、完全に“翼”としての形を作っていた。

 だからこそ彼女の次の行動を予測するのは容易いものだった。キッドは危うく、窓へと踏み出した少女の背を呼び止める。


「待ってくれ! 君たちは……いや。まず君の名前を教えてくれないか」


 少女はゆっくりと振り向くと、翼を広げたまま首をかしげて。


「エージロ!」


 答えるなり、待ちきれないとばかりに窓から身を躍らせた。

 キッドは今度こそ一部始終を目撃する。少女――エージロの背にある翼が一度大きくはばたき、同時に強く風が巻き起こったのを。身軽な少女は空中へと飛び出し、一息の間に加速していった。


 キッドはたっぷりと口を開けたまま固まっていたが、しばらくして正気を取り戻す。


「……そうか。これが、空の島に住む人たちなんだな」


 目の前には装備の入った籠が残されている。このまま黙っているわけにもゆかず、銃杖を拾い握り締めた。

 ごく普通の人間であるキッドは空を飛ぶことができない。だが、鍛え上げた魔法能力があれば近いことはできる。


「“大気圧縮推進エアロスラスト!”」


 窓から飛び出しながら、魔法現象を発現させる。

 圧縮された大気の塊が弾け、反動でキッドの体を弾き飛ばした。そのまま目の前の大木へと。姿勢を変え、木を蹴り飛ばして向きを調整してから再度の加速。

 木々の間を器用にすり抜けてゆくエージロの背を追って、彼は空を駆けていった。


「けっこうでかい集落なんだな!」


 飛びながら周囲を見回せば、立ち並ぶ木々のあちこちに独特の建物があるのがわかる。

 それは柱である木自体が変形したものであり、そこへと様々な木材を組み合わせることで形作られていた。ほとんどが地面から離れた位置に作られており、翼のある者たちによる生活の様子がうかがえる。


「ちくしょう、速いな!」


 油断するとエージロを見失ってしまいそうになり、キッドは気を引き締めなおした。

 軟禁状態から脱出したのだからついてゆく必要もないのかもしれないが、この異郷の地において友好的(?)な者というのは貴重だ。追わないわけにはいかなかった。


 そうして必死に木々から木々へと跳ねまわり追ってくるキッドの様子を、エージロは無遠慮に観察していたのである。


 やがて二人は森を抜け、開けた場所へと出る。

 柔らかな羽ばたきと共に地面へと降りたエージロに続き、キッドも“大気衝撃吸収エアサスペンション”の魔法を駆使して着地、急停止した。


 警戒もあらわに周りを見回すキッドの視界に、小柄な影がぴょこぴょこと跳ねる。


「羽根毛を広げずに飛ぶんだ? 地の趾ちのしって面白いんだね! こんなの初めて見たよっ! あはは、外に出てよかった!!」

「俺も羽根の生えた子なんて初めて見るよ。なぁ、ここに居るのは皆そうなのか?」

「ここまで来たのに知らなかったんだ? うん、僕たち“ハルピュイア”は皆こうして飛ぶんだよ!」


 当然とばかりに胸を張られ、キッドにはもはや言葉もない。

 空飛ぶ大地だけでも手に余るほど大きな話だというのに、加えて有翼の人――ハルピュイアの存在である。彼は半ば現実逃避気味に、これはまたどでかい土産話ができたものだとぼんやり考えていた。


「よーし、じゃあとっておきを始めよっか!」


 エージロが彼に頓着しないのも今更のこと。彼女の後について、とぼとぼと歩き出す。


「しかしこれ、絶対大事になるだろうなぁ」


 真っ先に、きつく睨みつけてくるホーガラの姿が脳裏をよぎったが、まぁいいかと思いなおした。

 特に彼女に恩があるわけでもないし、どちらかというと捕虜の身の上で出歩いたことにより攻撃を受けるかもしれないことのほうが心配だ。

 鼻歌混じりに歩く少女は、果たして助けになるのだろうか。今更ながら不安を抑えきれない。


「あーもう、なるようになれってんだ」


 とはいえ既に部屋から出てしまったのだ、何食わぬ顔で戻ったところで元通りとはいくまい。ならば悩むだけ損である。

 追ってきてはいないだろうかと、ふと恐ろしくなって思わず背後を見回した。幸いにして怒り狂った少女の姿は見えない。その代わりにエージロが機嫌よく歩き進む。


 すでに森は終わり、周りには下草ばかりの開けた場所になっていた。

 こんなところに何があるのだろうか。これまで少女を追うのに必死だったキッドは改めて疑問を覚えていた。彼女曰くとっておき。このような何もない場所に?


 そこまで考えたところで彼は気づく。空飛ぶ大地において出会った、ハルピュイアと対を為すもうひとつの要素を。


 慌てて空を振り仰ぐもすでに手遅れだった。荒々しい羽音と共に強い風が降り注ぐ。

 見上げた視界に飛び込んでくる獣の姿。

 巨大な翼、力強い四肢。鋭いくちばしを備えた顔が、キッドを捉えている。


 ――鷲頭獣グリフォンだ。

 ハルピュイアと共に飛空船を襲った、空飛ぶ決闘級魔獣。


「……冗談きついぜ」


 幼いエージロを相手にして油断があったなどとは言っていられない。キッドは生身で、決闘級魔獣の前に立たされる羽目になったのである。これなら部屋に軟禁されていたほうがマシだったか。

 しかし彼の緊張などどこ吹く風と、エージロは嬉しそうに手を振った。


「ワト~ こっちこっち!」


 エージロがぱたぱたと腕を振ると、“ワトー”と呼ばれた若い鷲頭獣はすっと降りてきた。

 巨体の割に静かな様子で着地すると、小走りに少女へと駆け寄る。そのままじゃれるように、彼女に嘴を押し付けていた。力加減はわかっているようで、エージロも嬉しそうに抱き着いている。


 キッドは本日何回目か、あんぐりと口を開けて目の前の光景に見入っていた。


「決闘級魔獣が、人に馴れるのかよ……」


 思わず漏れ出たつぶやきを聞きとがめ、魔獣の瞳が彼を睨みつけた。


「(なるほど、エージロがいるから動かないんだな。まるで幻晶騎士シルエットナイトみたいに、空飛ぶ大地の戦力ってわけか)」


 フレメヴィーラ王国において魔獣とは基本、敵対する存在であった。それは巨大であるほど顕著になり決闘級以上ともなればまず相いれることはない。さもなくば幻晶騎士など生み出されなかったことだろう。


 若い鷲頭獣の側も、キッドをしきりに警戒しているようであった。お互いに落ち着かないことこの上ないが、そんな空気をまったく読んでくれない者がここにいる。


「よし、じゃあねキッド。ワトーに乗ってみてよ!」

「……………………えっ。乗る? 何を言ってるんだ」


 間抜けな声をあげた彼を責めるのは酷というものだ。およそ人生で一度として聞いたことのない言葉を言われたのだから。

 “魔獣に乗る”

 上から攻撃するならばともかく、馬のように乗るなどと想像したことすらない。いったいどんな理由があって――そこまで考えたところで、彼はようやく少女の目的に思い至った。


「くそ、試されてるってことかよ! 油断しちまった。そりゃあただで外に出すわけはないか……」


 無力な捕虜一人を相手にこれほど手間のかかることをするとは予想だにしなかった。

 思わずエージロを睨みつけるが、まったく悪気のなさそうな顔で小首をかしげられて言葉に詰まる。本当に試されているのだろうか? 自信が揺らぐが、ひとまず余計な考えを頭から追い出した。

 低い唸りを上げて鷲頭獣が頭を上げる。どことなく胡乱気な様子でキッドを睨むが、それだけだ。


 キッドは意を決すると、素直に鷲頭獣に近寄ってみた。だがこの若い個体は協力するつもりなどさらさらないようで、身体を下げることはおろか、キッドを近寄らせまいと威嚇してくる有様だった。


 その間にエージロは近くの木陰に移動して、すっかりと見物を決め込んでいる。

 乗ってみろとは言ったものの何かしら手伝うつもりはないらしい。つまり、まずこの魔獣に乗り込むところから始めないといけないわけだ。


「へっ。いいぜ、そっちがその気ならやってやるさ! お前たちが得意とする魔獣、乗りこなしてやる!」


 魔獣相手の“戦い”となれば、騎士にとっては得意分野だ。少々毛色の違う目的を達成せねばならないが些末事である。

 それに有利な点もある。エージロの手前、鷲頭獣はいきなり襲ってくることはしなかった。キッドは間合いを取りながらゆっくりと魔獣を観察できるのだ。


 決闘級の中でも上位に入るであろう巨体。ただでさえ凶悪な四肢を備えた躯体に加えて巨大な翼までも有する。考えれば考えるほどに難物だった。


「小細工を仕掛ける余裕はないな」


 キッドの武器は手持ちの物しかない。幻晶騎士はおろか、幻晶甲冑シルエットギアすらないのだ。そのうえで決闘級魔獣へと乗り込む手段などひとつしかない。

 意を決して“大気圧縮推進”の魔法を放つと空中へと躍り出た。連続で魔法を放ち、一気に魔獣の頭上へ。そこで彼は思い通りのものを見つけてほくそ笑む。


「ハルピュイアを背中に乗せてたもんな!」


 鷲頭獣の背には、鞍のようなものが取り付けられている。鷲頭獣と戦った時に、背に誰かがいたことを覚えていた。ならば乗せるための器具があるはずだという彼の予想は的中していた。

 掴まればいける、キッドは魔獣が動き出す前に終わらせようとして。


 突然、鷲頭獣が翼を振り回し始めた。決闘級魔獣の翼だ。頑丈で重く、人間など蠅のように叩き潰せる。

 キッドは銃杖を振る。演算された魔法術式スクリプトが現象に転じ、圧縮された大気が解き放たれる、直前。


「ワトー! ダメだよ!」


 エージロの声が飛び、ワトーはびくりと動きを止めた。

 空中で魔法を空振りしたキッドも危うく姿勢を崩したが、無理やりに立て直していた。鷲頭獣がまごついている今が好機である。強引に魔法を連続行使し、一気に鞍へと飛びつく。


「よし、思った通りだ。操る必要があるんだからな」


 ごわついた体毛に隠れて見えなかったが、鷲頭獣には手綱のようなものが取り付けられていた。ハルピュイアたちは鞍に腰かけ、手綱を使って操っているようである。


「さて来たはいいが……問題はここからどうやって操るかってことだ」


 エージロに咎められ直接の攻撃こそ取りやめたものの、背に異物が乗り込んだことで鷲頭獣は急速に不機嫌さを増していった。翼は羽ばたきに備えて折り曲げられ、四肢をたわめて力を溜める。

 この後に何が起こるのかに気づき、キッドの表情が引き攣った。




 ハルピュイア、次列風切カザキリであるホーガラは眦を上げて飛んでいた。次列の称号に恥じぬ速度で一直線に目的地を目指す。


 彼女が捕虜の逃亡に気付いたのは、食事を運んでいった時のことだった。彼女にとっては煩わしいだけの役割だが、初列風切に命じられたからには疎かにするわけにもいかない。

 そうして渋々向かえば、部屋の中はものの見事に空だった。地の趾がそのままでは飛べないことは知っている。自力での脱出は困難であるはずだ。

 そこで悪い予感を覚えた彼女は村で聞き込みをおこない、予感が的中したことを知ったのだった。


「エージロ……本当にあの子はっ!! いくら初列の雛だからって限度がある!!」


 あらん限りの罵声を吐き出しながら飛翔する。エージロの向かいそうな場所には心当たりがあったし、村人たちの証言もそれを裏付けている。

 そうして鷲頭獣の住処にたどり着いた彼女は、異様な光景を目撃することになる――。



 鷲頭獣は翼を羽ばたかせるや、猛然と空へと飛びあがった。翼を中心として強烈な風が荒れ狂い、巨体を支えている。

 これは魔獣、魔法を操る獣なのだ。翼だけでは到底飛べないであろう巨体も、魔法の力を用いればかくのごとし。


 しかし悲しいかな魔法の恩恵を受けられるのは鷲頭獣だけである。猛烈な慣性が背に跨るキッドを引きはがしにかかる。


「くっ……!! 俺は、翼を、持ってないんだぞ……!」


 自らも飛べるハルピュイアであればなんとかなるのかもしれないが、彼には関係ない話。頼るべきは鍛え上げた己のみである。


「“身体強化フィジカルブースト”! 全力だ!」


 体内の魔力マナが力へと転じる。上級魔法ハイ・スペルが彼の体組織を強化し、荒れ狂う魔獣に抗う原動力となる。


「へっ、魔獣よう。ここからは根競べだぜ!」


 鷲頭獣は錐揉み飛行を披露し、何度も体をひねり、さらに急降下までしてみせた。だがいっこうに背の異物がはがれる様子はない。がむしゃらに暴れるだけでは駄目だと気付いた鷲頭獣は、一直線に上昇を始めた。


 決闘級魔獣の持つ魔法能力は強大だ。さらに魔獣は得意とする魔法の種類を絞る反面、威力が高くなる傾向がある。故にこそ決闘級の巨体をもって矢のごとく飛翔できるのだ。


 風圧と慣性がひっきりなしにのしかかってくる。キッドはそれに歯を食いしばって耐えていた。

 苦境にあって魔法演算を維持することは、騎士の基礎にして神髄である。なにより彼に魔法を教えたのは、この世の無理無茶無謀の権化エルネスティなのだ。


「この程度でやられてちゃ、師匠にどやされるぜ……!!」


 永遠とも思える時間は過ぎ、唐突に速度が緩んだ。叩きつけるようだった風がおさまり、姿勢の維持が一気に楽になる。一息つくが油断はできない。上ったからには、次は下りるのだろうから。


 そうして身構えていたキッドは、いつまで経っても魔獣が動く様子がないことに不審を覚えていた。集中を切らさないように鷲頭獣の様子を窺う。魔獣はキッドのことなどそっちのけで、はるか地平を見つめていた。


「なんだ? そちらに何が?」


 慎重に魔獣の視線を追ったキッドはすぐに気づいた。山に霞むような遠くに幾筋もの線が引かれていることに。

 灰と黒の混じる線。それはつまり、煙であった。


「もしかしてあの煙が上っているあたりには、仲間がいるのか?」


 鷲頭獣は短く嘶いた。背中の異物よりも重要な問題などそう多くはない。この光景の中に突然心変わりするだけの意味合いがあることだけははっきりと理解していた。


「……よし。なぁ、戻ろうぜ。このことはハルピュイアにも伝えておかないといけないんだろ」


 手綱をくいくいと引く。果たして鷲頭獣はわずかに逡巡したが、さして抵抗することなく鷲頭をめぐらせていた。

 奇妙な素直さでもって、振り落とすほどではない落ち着いた速度で降下を始める。


「今までの苦労は何だったんだよ。これじゃあ到底、乗りこなしたとはいえねーな」


 釈然としないものは残ったが、ともかくキッドは鷲頭獣に乗ることができたのである。

 地上へと戻ると、そこではエージロが文字通り飛び上がって喜んでいた。


「あはは、すごいよキッド! 初めて乗ったのに、ワトーに振り落とされずに戻ってくるなんて! 地の趾って思ってたよりずっとすごいすごい!」


 鷲頭獣が着地したところでキッドも鞍の上から飛び降りる。

 そうして彼は首を傾げた。そこにはエージロだけではなく、なぜかホーガラの姿もあったからだ。


「あー。ともかく話があるんだ。向こうで……」

「お前、自分が何をしているのかわかっているのか」


 勢い込んで話し出したキッドを、ホーガラが遮る。

 元から厳しげだった表情はさらに吊り上がり、キッドなどこのまま魔獣に変身するのではないかと心配したくらいである。


「この鷲頭獣に乗れって言ったのはエージロだ。俺を試したかったんじゃないのか。成功したぜ?」

「お前を試す必要など、どこにある!」


 視線を横にずらし、小さな少女を見やる。ニコニコと笑っていた。もしやここまでの行動はまったくエージロの勝手であったのか。がっくりと肩を落とさずにはいられなかった。

 だだ下がってゆく熱意を気力で踏みとどまらせる。


「……その話はあとだ。上を飛んでいるときに変なものが見えた」

「後回しだと!? お前が決めるな……なに?」


 掴みかからんばかりの勢いだったホーガラが怪訝な表情を浮かべる。


「幾筋もの煙が上がってた。単なる薪にしては妙だ、森のどこかで大規模な火事が起こってるみたいなんだ」


 若い鷲頭獣ものしのしと歩いてきて、顔を近づけて唸る。いちおうキッドに同意しているということなのか。なかなか現金な奴である。

 ホーガラは打って変わって真剣な様子で考え込んでいたが、すぐに決意する。


「急いで村に戻るぞ。この話には初列が乗る」

「ね、ね! けっこういい感じでしょ?」

「あなたはなぜそういつもいつも! 何も考えずに動くのだ!! 初列にしっかり叱ってもらうからな!!」


 やはりエージロはこれがいつものことらしい。キッドは何度目になるものか、天を仰がずにはいられなかった。

 それから三人は急いで村へと引き返していったのだった。

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