第3章 実機製作編

#25 まず最初に作るのは

 幻晶騎士シルエットナイトを運用するライヒアラ騎操士学園・騎操士学科には当然ながら、幻晶騎士を整備するための場所がある。

 金属内格インナースケルトン外装アウタースキンといった金属部品を加工するための鍛冶場。

 結晶筋肉クリスタルティシューを接続し、全身の組み上げを行うための作業場。

 それら諸々をあわせて、幻晶騎士の製造・整備を行う施設は一般的に“工房”と呼ばれている。

 

 工房の内部は、10m級の人型を扱うだけあって、面積、高さ共に広大な空間が広がっている。

 椅子のような形の整備台に据えられた幻晶騎士の足元で、大勢の生徒が作業を行っていた。

 外装のつけられていない幻晶騎士の腕が台車に乗せて運ばれてゆき、鍛冶場では巨大な鎧の一部を作り上げるための槌の音が響く。

 あちこちで怒鳴り声が飛び交い、中にはテンションが上がりすぎたのか、本当に喧嘩を始める者すらいる。

 

 慌しく走り回る生徒たちの間をのっしのっしと進んでいく大柄な人影があった。

 いや、大柄と言うのは些か語弊があるかもしれない。

 彼は身長自体は160cmほどであり、同年代の男性の平均身長からすればむしろ小柄だ。

 しかしその体躯は常人の倍はあろうかと言うほどの太さを持ち、周囲に強烈な存在感を示していた。

 脂肪で膨らんでいるのではなく、その身を覆うのは強靭で分厚い筋肉だ。

 そして細かく編みこみ後ろに垂らした髪の毛と、それ以上の長さを誇る立派な髭が、彼の出身を示している。

 ドワーフ族、鉄鋼と鍛冶の民。

 

 彼は言い争いをしている生徒のそばに行くと、人間の脚よりも尚太い腕を振り上げ、その2人を無言で殴りつけた。

 手加減をしたとはいえ、ドワーフ族の強烈極まりない拳を受けた2名はそのままのた打ち回る破目になる。

 

「ったく、どいつもこいつも、このクソ忙しい時に余計な仕事を増やしやがって!!

 口動かす暇があったら手ぇ動かしやがれ!!」

「ゲフッ、を、親方! すまねぇ、すぐ作業に戻る!!」

 

 冗談ではなく、ドワーフ族が本気を出せば、その拳は岩をも砕く。

 これ以上“親方”と呼ばれたドワーフの機嫌を損ねてはかなわないと、言い争いをしていた2人は慌てて作業へと戻っていった。

 

「ただでさえ全身作り直しが7つもあるってぇのに、まったくよう」

 

 ここには陸皇亀ベヘモスと戦い、大破した学園の幻晶騎士の残骸が運び込まれている。

 大半の機体が中枢部と骨格が無事なだけという状況に、学園側は全会一致で修理よりも新造する事を決定していた。

 確かに整備班に所属する学生達の知識と技術があれば、機体を1から作り上げることも可能だ。

 しかしそれも一度に7機分の全身新造となると必要とされる作業量は膨大なものとなる。

 今回機体を失ったチーム以外の人員も借り出され、今整備班は総力戦の構えで作業を行っているのだった。

 新造とはいえ、比較的無事な部分の多いものから優先的に組み上げられている。

 自然、損傷の大きなものは後回しにされていく事になる。

 

「(こいつぁ一番最後だな)」

 

 親方はとある機体の前で立ち止まる。

 運び込まれた残骸はどれも酷く損壊しているが、その機体は一味違い、金属内格自体が分解している。

 大半の箇所が部品単位でバラバラになっている様は、運び込まれた残骸の中でも一際酷い状態だ。

 逆にここまで来ると、魔力転換炉エーテルリアクタ魔導演算機マギウスエンジンの再利用が可能だったのが奇跡としか言いようのない状態だった。

 

「しかし、よくよく見ると少しばかり見事すぎるほどの壊れ方だな」

 

 先ほどから残骸を睨む、彼の視線は厳しい。

 

魔力マナ切れで自壊しやがったか。骨格構造から崩れてやがる」

 

 横でその呟きを聞いていた生徒が首をかしげる。

 彼は親方が何に驚いているのか、理解できていなかった。

 

「はぁ? そんなの珍しくもないじゃないっスか。魔力転換炉が潰れちゃあ仕方ねぇって……あれ?」

 

 言った生徒がふと自身の言葉を訝しむように残骸をしげしげと眺め始めた。

 そうだ、この残骸は魔力転換炉は無事なのだ。

 にも拘らず魔力の供給が切れて骨格構造が自壊した形跡がある。

 そこまで考えその生徒は漸く親方の疑問に合点がいったが、同時に別の疑問に首をかしげることになる。

 

「あー……銀線神経シルバーナーヴでもきれやしたかね? 珍しいやられ方するもんっスねぇ」

「おお、そうだな……全く珍しい、やられ方だ」

 

 親方はじっと、残骸のうち脚部にあたる部分を見つめる。

 装甲が外された脚部の露になった結晶筋肉には縦横に罅が入り、途中から断裂していた。

 何度も機体の修理を担当してきた彼らにとってはおなじみの症状、耐久性を超えて使用し疲労断裂を起こした跡だ。

 幻晶騎士は生物ではない、結晶筋肉は使用と共に疲労し、いつかは疲労断裂を発生する。

 それ自体は珍しい話ではない。しかし―…

 

「こいつらは出発前に全身オーバーホールしたばかりだ。なんでいきなり疲労断裂なんてしてやがる?

 おかしい、こいつのやられ方は何かがおかしい」

 

 髭に埋もれた顔を顰め、親方は唸っている。

 彼の直感とも言うべき部分が目の前の残骸から違和感を伝えていた。

 この機体の壊れ方は明らかに、彼らが知るどの場合とも違っている。

 整備班の仕事とは何も機体の修理を行うだけではない。

 使用者のミスで機体が壊れたのならともかく、構造的に改善できる部分があれば対策を行うのも彼らなのだ。

 そのため機体に起こりうるトラブルの原因はできる限り把握しておく必要がある。

 

「機体名はグゥエール。騎操士ナイトランナーはディーの野郎か……あいつ一体何をしやがった?」

 

 ぶつぶつと呟きながら、親方は目の前の残骸の騎操士である、ディートリヒを呼びつけるのだった。

 

 

 

 フレメヴィーラの王都カンカネンには、貴族街と呼ばれる区画がある。

 基本的に国内の貴族はそれぞれ領地を持っており、普段は領地内の屋敷で過ごしている。

 それとは別に、行事や国政への参加など王都で行われる活動に参加しやすいように、王都内に別邸を構えるのが常であった。

 それらの別邸が集まる区画が貴族街と呼ばれる場所だ。

 屋敷の主たる貴族自身がいない場合が多いため、1年のうち大半はひっそりと静まり返っている場所である。

 

 その貴族街にある一軒の屋敷に、アーキッド、アデルトルートの双子がいた。

 そこは彼らの父親であるセラーティ侯爵が使用している別邸だ。

 庶子である彼らは、本妻の意向もありセラーティ家の活動とは全くと言っても良いほど関わっていない。

 この別邸に来るのも何年ぶりか、そして今彼らの前の前にいるヨアキム・セラーティ侯爵と顔を合わせる事自体、数年ぶりのことだった。

 双子が別邸を訪れると、そのままヨアキムの書斎へと案内される。

 書斎にはけばけばしくならない程度に品のいい調度品が並んでおり、持ち主の性格を反映してかどこか堅い雰囲気が漂っていた。

 

 数年ぶりに父親と顔をあわせる双子には、明らかに緊張の色が見て取れた。

 彼らを呼び出した本人であるヨアキムはしばらく軽く書類を確認していたが、ややあって口を開く。

 

「二人とも久しぶりだな」

「「……お久しぶりです、父上」」

「元気そうだな。イルマも息災か」

「はい。母さんも病気一つすることなく、元気にしております」

 

 親子というには硬さの残る雰囲気が漂う。

 双子も実家からはやや疎まれる立場にあるとは言え、父親から直接そういったことを言われたことはない。

 単純に接触時間の短さとヨアキムの纏う雰囲気が場の空気を支配しているのだ。

 

「ティファから聞いた話だが」

 

 ティファ――双子の異母姉ステファニアのことだ――の名前が出たことで、双子の緊張が高まる。

 数ヶ月前のバルトサールとの諍いについて、結局あの後彼らには何の連絡もなかった。

 これだけの時間を空けてまさかその話を続けるのかと訝しむ隙を突くように、ヨアキムの口から双子にとって予想外の名前が飛び出す。

 

「お前達の知り合いに、エルネスティ・エチェバルリアという者がいるな?」

「!? ……はい」

「どのような人物だ? 話せ」

 

 有無を言わさぬ父親の言葉に、困惑を押し殺しつつも彼らは自身の印象を述べる。

 幼馴染で魔法の師匠、魔法だけなら国内でも随一と思われる能力に、幻晶騎士への多大な興味。

 話を聞くだけなら非常に奇妙に思える内容だが、ヨアキムは途中否定するでもなくじっと耳を傾けていた。

 

「そうか、そういえばお前達も正騎士に匹敵する力を持っているのだったな。

 それもティファから聞いた話だが」

「父上、兄様は……」

「アレについては、今は良い。騎士団の者に性根を叩きなおさせている」

 

 もしかして呼び出された目的は本当にエルについてたずねるためだけなのだろうか? だとしたら何故?

 疑問が表情に出ていたのだろう、ヨアキムは少し考えた後説明を続けた。

 

「ベヘモスとの戦いにおける功労者として名前が挙がっていた。

 歳に見合わぬ能力を持っているようだが……今後の働き次第では何らかの褒賞を出すことになっている」

「え、では、エルもちゃんと評価されるのですね!?」

「早まるな。今後次第、だ」

 

 あの時、危険を冒したにも拘らずエルへの褒賞や評価はなされていない。

 それについてエル本人は納得してあっさりと引き下がったが、双子にとっては十分に納得のいく話ではなかった。

 

「(やっぱ見てる奴はちゃんと見てんじゃねぇか)」

 

 今まで父親のことを多少苦手に思っていたキッドも、その話だけでもこれまでに比べ随分と打ち解けた感じを持っていた。

 厳しい人物ではあるが、ヨアキムは話のわからない人間ではない。

 

「ひとまず、今後彼が何かしらの成果を出したならば、まず私に伝えて欲しい。いいな?」

「わかりました、父上」

 

 彼らの師匠たるエルならば、きっとそのうち何らかの成果を打ち立てるだろう。

 エルがそれをどうするかはわからないが、それを父親に伝えればいずれエルのためになる。

 それはこれまで魔法を教わった彼らにとって、一種の恩返しのように思えた。

 そしてここを訪れた時の緊張した雰囲気が和らぎ、明らかに嬉しそうな表情を浮かべている双子を、ヨアキムは表情を変えないまま見つめていたのだった。

 

 

 

 

「(一つ書いては俺のため、二つ書いてはロボのため……)」

 

 騎士学科の生徒達がライヒアラ学園街へと帰り着いてから1週間ほど、学園は休校になっている。

 怪我をした生徒がおり、また子供達の安否を心配した親がその無事を確認したり、面会に来るための時間を作るためである。

 無事な生徒も思い思いに過ごしているであろうが、ここに出来た時間をフルに活用する人物がいた。

 彼――エルネスティは今、一心不乱に机へと向かいひたすらに何かを紙へと書き付けている。

 先日の国王への謁見の場において、彼は自身の知識を反映した幻晶騎士を作り上げると宣言した。

 彼としては、すぐさま機体を製作して持ち込みたいところではあるのだが……。

 

「(まぁぶっちゃけ幻晶騎士を作る当てなぞ全くない訳で)」

 

 結局のところ、今彼に出来る事はいずれ役に立つ事を考えてアイデアを書き溜めておくことくらいだった。

 

「(国王陛下に啖呵切った以上はそれなりの事やってのけなあかんしなぁ)」

 

 インク壷にペンを突っ込み、エルは一心不乱にアイデアを書き連ねる。

 これまでに学んだ座学による構造論、他者が動かしているときに観察した結果、そして何よりも彼自身が動かしたときの経験を元にして多くのアイデアの実現性を検討してゆく。

 緩やかな午後の日差しが差し込む空間に、ペンの奏でる微かな音だけが満ちていた。

 

「(ああそうや、ついでに双子の特訓方法も考えんと)」

 

 長時間机に向かっていたせいで凝りに凝った肩をほぐし、大きく伸びをした。

 そのまま背もたれに体重をかけ、漠然と天井を見つめながらつらつらと考えを連ねている。

 

「(実機は使えないから、仮想操縦装置シミュレーターみたいなのが作れたらいいんやけど、さすがにむずいなぁ。

 幻晶騎士の操縦特訓に役立って、それでいて個人で扱えるもの……。

 幻晶騎士はあのサイズだから、駆動に膨大な魔力マナを必要とする。

 ならば規模を縮小すれば必要な魔力を少なくして……やってみる価値はあるかなぁ)」

 

 うっすらとまとまったアイデアをさらにノートに書き足してゆく。

 

「(……しかし)」

 

 ひとまずの部分まで書き終えて、ふと気を緩めた瞬間に忍び寄る誘惑。

 頭の片隅から染み出したそれは、まるで真水に墨を流したように、急速にエルの思考を蝕んでゆく。

 手に持つペンを握り締め、まるでそのまま黙っていてはそのまま思考を乗っ取られるといわんばかりに、彼はついにそれを言葉として吐き出した。

 

「幻晶騎士に……乗りたい……」

 

 なまじ関係のあることを考えていたのが仇になった。

 考えまいとすればするほど、それはこびりついた様に脳裏から離れなくなる。

 これが前世であれば、幾らロボットのことを考えていようともそれは所詮妄想の域を出ず、精々が漫画を読むなり、アニメを見たくなる程度だろう。

 しかし、一度幻晶騎士に乗ってしまったのが運の尽きだった。

 

 目を閉じれば今でもはっきりと思い出せる。

 エルの思考に応じ、力強く踏み出す鋼鉄の足、数mはある巨大な剣を振り回す腕、前進を命じるたびに襲い掛かる慣性、破壊的な巨獣との戦闘。

 それら、実際に体験してしまった全ての記憶が幻のようにエルを襲っていた。

 

「また……動かしたい……」

 

 エルの心中に、新作ゲームを買った直後にやめるときにも似た、強烈な渇望感が沸き起こる。

 居ても立っても居られなくなった彼はうろうろと部屋の中を往復し始めた。

 

「(あああかんマジヤバイこれヤバイメカ乗りたい動かしたい眺めたい頬ずりしたいバラしたい)」

 

 意味もなくスクワットを始めたかと思えば突如ブリッジ。

 腹筋で体を跳ね上げ四つん這いになり、またのけぞりブリッジに。

 バタンバタンバタンバタンビタン

 それを繰り返して部屋の壁に衝突したところでエルの動きが止まる。

 

「(ああさすがに緊急事態じゃないから幻晶騎士借りれもせんやろうしなぁ。

 なんか代わりになるもんがあれば……)」

 

 代わりになるもの、前世ではこういうときにどうやって過ごしていたか。

 そこまで考えた時に、彼の脳裏に天啓が走った。

 

「(そうや、プラモや)」

 

 倒れたままのエルの瞳に熱意と言う名の炎が灯る。

 

「(全高10m? なら1/60サイズが一般的……ってあかん、熱可塑性樹脂プラスチックがない!!

 金属か!? 金属加工か!? ドワーフ族に頼んで伝統工芸(?)幻晶騎士一刀彫を……!!

 ってそれ結構いけるんとちゃう?)」

 

 両腕を支点にくるりと回転して起立。

 何の意味もなく右腕を左上方へ伸ばし、左腕を曲げて脇を占めるポーズで決め。

 

「(ちょうど友人に手先の器用な人間がいる! ここは頼まねばなるまい!)」

 

 エルは机に戻り、そのまま意気揚々と図面を引き始めた。

 

 

 

 

「と言うわけで時代はプラモデルだと思うのですよ」

「すまんがいきなり何の話だ? と言うかプラモデルってなんだ?」

 

 所変わってここはテンドーニ家が所有する鍛冶工房。

 相も変わらず突然やってくるエルをバトソンが出迎えたところである。

 多量の紙の束を抱えたエルの様子を見て、バトソンは諦めたように溜息をついた。

 

「前置きがさっぱりだがどうせまたぞろ怪しいものを作るのだろう。話してみろ。」

「え? 怪しいことは前提なのですか? そんなに変なものを持ち込んではいないと思うのですが……」

 

 半目になりつつもエルは紙の束を広げ説明を始める。

 幻晶騎士を1/60サイズで再現した置物。一個原型を作った後、鋳造で複製量産できないか――等。

 一通り話を聞いたバトソンは考え込んでいた。

 

「お前にしては随分とまともな話だな。なるほど、幻晶騎士の置物……悪くないな。

 それなりに手軽な値段に出来れば、カンカネンやライヒアラ、大都市ではそこそこ売れる余地はある。

 よし、これは親父達に掛け合ってみよう」

「ありがとうございます。後、試作が出来たらすぐに教えてくださいね。真っ先に欲しいので」

「もしかしてこれはお前が欲しいものなのか」

「はい、勿論毎日眺めたり頬ずりしながら過ごしますとも」

 

 言いたいことは色々とあったがバトソンは敢えて飲み込み、目の前の図面と説明を読み直す。

 一通り見て頷いた後、確信を持ってエルに問いかけた。

 

「で? お前のことだ、これだけって事はないんだろう」

 

 エルはにこやかに頷くと紙の束のうち別の図面を開いて解説を始める。

 そこに書かれていたのは先ほどのような商品とは違う、かつての銃杖ガンライクロッドのように異様な発想で作られた道具。

 

「やっぱり来たか……こいつはまた、銃杖に輪をかけて複雑な代物だな」

「どこまで実用的に出来るかも難しいところですけど。使えるならかなり面白い事になると思いますよ」

 

 髭に覆われたバトソンの顔が笑みの形に歪む。

 

「そして随分繊細だ。また職人として腕が鳴るところだな。

 まぁ、幻晶騎士の置物の話も貰ったことだしな、こっちも何とか仕上げて見せようじゃねぇか」

「よろしくお願いしますね」

 

 製作を依頼してしまえば、どちらも後は完成待ちである。

 

「完成が待ち遠しいですね。暫くは何も手につかないかもしれないです」

「そんなにか。どの道すぐできるようなものじゃないぞ」

「それでも、気分転換に必要なものですから。このままだとどこかで暴走します」

 

 バトソンにはエルが暴走している時としていない時の差が今一わからなかったが、ふと思いついたことを勧めてみた。

 

「そんなに気分転換が必要だったら、騎操士学科の工房にでも行ったらどうだ?」

「工房に?」

「ああ、ベヘモスとの戦いで、多くの幻晶騎士が壊れたんだろ?

 だったら今修理の真っ最中じゃないのか」

 

 バトソンとしてはほとんどただの世間話のノリだったのだが、それはエルにとっては恐るべき重要性を持つ情報だった。

 エルは一瞬ぽかん、とした表情を見せたがすぐに満面の笑みへと移行する。

 

「そうです……その通り、今修理の真っ最中なんですよね!

 だったらきっと、むしろもっと幻晶騎士のことを調べるチャンス。ならばいっそ加えてもらう勢いで……!」

「(うわしまった、これは余計なこと口走ったんじゃないか?)」

「ありがとうございます、早速見てきますね!」

「ああ、うん。あんまり暴走して邪魔しないように……な……」

 

 バトソンの言葉が終わりきる前に、そこからは小柄な少年の姿が掻き消えていた。

 彼はしばらく複雑な表情を浮かべていたが、すぐに割り切る。

 そう、彼も伊達にエルと武器製作を行ってきたわけではない。時に諦めが肝心なのだ。

 

「……ま、いいか。こっちはこっちで作業に入らないとな」

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