夢見る四刀流

清水らくは

夢見る四刀流

「ついに……」

 城の最上階。どう考えてもここが最後の扉、つまりボスがいる場所だ。

 仲間たちは全て、犠牲になってしまった。たどり着けたのは俺一人だ。なんとしてでもボスを倒して、囚われの王を助け出さねばならない。

 扉を受けると、広い部屋の奥にモンスターがいた。あれが諸悪の根源か。

「おい、王は無事か!?」

「来たな、人間」

 そのモンスターは立ち上がると、数歩こちらに向かってきた。下半身は馬。上半身は人。ケンタウロスだ。伝説のモンスターで、すでにかなり昔に滅んだと聞いていた。

「お前がボスか。確かに強そう……ン?」

 何か違和感があると思ったら、ケンタウロスには腕が四本あった。上半身は人間だと習ったので、ちょっとびっくりした。まあでも、足が四本だから腕も四本でちょうどいいのか?

「なにを呆けている。ワシを倒しに来たんだろう」

「あ、ああ。そうだったな。王は必ず助ける! ……ン?」

 ケンタウロスは、両手に刀を持っていた。二刀流だ。腕力があるのだろう、二本とも大振りだが楽々と持っているように見える。

 いや、でも……

「まだ何かあるのか」

「腕が四本なのに、刀は二本?」

「なにを言っている。お前だって腕が二本で刀が一本だろう」

「確かに! いやでもあんた、下の腕余ってるやん」

 ケンタウロスは、偉そうに下側の腕を腰に当てていた。俺はちゃんと二本の腕で刀を支えている。

「細かいことを言う奴だな。じゃあこれでどうだ」

 律義にもケンタウロスは下の腕も刀の柄にそえた。ただ、右手と右手、左手と左手なのでなんか変だ。

「それ、振れる?」

「何を言っておる。こうして……」

 ケンタウロスはカ刀を振ろうとして首をかしげた。やっぱりうまくいかないようだ。

「こう、右と左で持ったら?」

「こうか……邪魔くさいのう……」

 普通の二刀流と違い、真ん中に刀二本になってしまった。あれじゃあうまく使うのは無理だろう。

「うん、余計なこと言ってすまなかった。それがあんたのスタイルだもんな」

「そ、そうだ。ずっとこれでやってきたのだ。あと、魔界広しといえども腕が四本なのはワシだけ。この意味が分かるか?」

「え、俺様珍しいだろってこと?」

「四刀流を教えてくれるものがおらんのだよ!」

 あ、そうか。俺の方が浅はかだったかもしれない。

「わかった。ならばあんたの二刀流を、打ち破らせてもらう」

「望むところよ」

 ケンタウロスは二本の刀を振り上げて、こちらに突進してきた。さすが足は馬、すごい速さだ。まさに馬力が違う。

「やべえ」

 何とか横っ飛びになってその場から逃げた。振り下ろされた二本の刀が、床をえぐっている。

 その後も、ケンタウロスの猛攻に対して逃げるばかりだった。刀が二本なことよりも、馬の足がやばい。

「どうした、そんなものか!」

「うおう、まさにボスが言いそうなセリフよ」

 間に合わない、と思って刀を構えたものの、力強い一振りに弾き飛ばされてしまった。これで二刀対無刀。絶体絶命である。

「久々に楽しめたぞ」

「こちらこそ」

 俺は背中から杖を抜いた。

「むっ」

「風よ舞い束縛せよ!」

 杖の先から、暴風が巻き起こる。ケンタウロスの周囲に強い風が吹きすさび、動きを封じる。

「きさま……」

 俺はただ逃げ回っていたのではない。魔法を強化するため、魔方陣を描いていたのだ。この時のために、ここまで一切魔法を使わなかった。仲間たちの犠牲の上に、魔力を温存してきたのである。

 刀を拾い、まっすぐケンタウロスに向けて構える。

「観念しろ」

「そちらも二刀流であったとはな……刀と杖……」

「同時に扱うほどの技量はなかったが。あんたも来世では四刀流に挑戦しな。そしたら最強になれるだろう」

「来世は、穏やかな一生を過ごしたいものだ」

「そうか」

 渾身の一尽きが、ケンタウロスの胸を貫いた。すこし、笑った気がした。

 そのままの姿勢でケンタウロスは動かなくなった。何となく気になって、下半身の胸のあたりも一太刀浴びせた。ケンタウロスの心臓ってどっちにあるんだ?

 大きな体が、その場に倒れた。終わった……

「うっ」

 何が起こったのかわからなかった。腹が痛い。腹部を茨のようなものが貫いている。ケンタウロスの下の腕から、棘のある木の枝が生えていた。

「すまんな……ワシにも魔法の師匠はいたのだ……」

「なるほど……三刀流ではあったわけだ……」

 油断した。仮にもボスなのだ、それぐらいのことは予想しておかねばならなかった。

 最後の力を振り絞ったのだろう、ケンタウロスは目を閉じて、全く動かなくなった。

 意識が遠のいていく。何はともあれ、敵は倒した。誰かが来てくれれば、王様は救い出されるだろう。

「俺も来世は……穏やかなのがいいなあ」

 目の前が真っ暗になり、静かになり、そして、何もなくなった。


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