誠実 二〇二一年 二月二十二日 ①
二〇二一年二月二十二日
東京都感染者数一七八人
去年、ルームメイト以外の寮生の部屋に行くことを控えるようにというルールができて以来、互いの部屋に集まって何かをすることは減った。だが、用事などの必要な場合は、入ることが禁止されているわけではない。ルールを完璧に守ろうとすると、体調を崩す前に精神衛生が悪化することは、寮生全員が経験していた。
「大樹、これ借りてた教材返しに来たわ」
拓実が部屋に遊びに行っていたのもあり、四人で麻雀でもやろうかと思っていたが――、
「うわ~なにこれ。足の踏み場ねーじゃん」
大樹たちの部屋に入ると、入り口から先の床には色とりどりのカードや麻雀牌が散らばっていた。
「お節介がお節介を焼いた結果、さらに部屋を汚くしたってやつだ」
大きな袋を持った大樹が、盛大に呆れながら説明する。
「ごめんて~。机に脚引っかけて寄っかかった先がボドゲの山なんて偶然、そうそうないやん」
「掃除しに来た奴が、来る前より汚くするところは初めて見たわ」
「まあまあ、ちゃんと綺麗に片付けますから~。で、これはどこのゲーム箱に入ってるの?」
見たところ、掃除は思ったより難航しているようだ。億劫だが俺も少しは手伝ってやろうと、部品の小分けを始める。カラフルな紙幣が、散らばった部品の大部分を占めていることに気づき、大樹に尋ねる。
「それは人生ゲームだな」
「人生ゲーム?やったことないわ」
「ないの⁉まじか!」
元基が宇宙人でも見てるかのように驚く。
「他のボードゲームに比べると頭使わないから、一度ルールを聞けばすぐ遊べるよ」
大樹が元々入っていた箱を持ってくる。一段と大きい箱を広げると、中央には指で回すルーレットや、山のような地形が模倣されているオブジェクトがあった。
「拓実はやったことあんの?」
「もちろんあるけどー……人生ゲームだけはどうしても勝てへんのよ。リアルが充実し過ぎてるせいやな~」
「ただ運がないだけろ。投げ飛ばすぞ」
「じゃあ人生ゲームで最下位になった奴が、罰ゲームでボードゲームの整理をするってことで」
「ええよ。負けても知らんからな」
その瞬間、自分で運がないと言っていた拓実が片付けをする未来が、頭をよぎった。
「なんでもいいけど、とりあえずゲームを広げられるだけの踏み場を確保してからな」
と、一連のやり取りを半眼で見ていた大樹が、大きなゴミ袋を拓実に投げつけた。
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