二刀流

赤城ハル

第1話

「むっぎぃーーー!」

 戦闘後、ヒナタが頭を抱えて奇声を発している。

 ここはVRMMORPGのゲーム世界。ファンタジー路線で魔法や剣、ドラゴンのいる世界。

 私達は今、ステゴザウルス風のモンスターを倒したところ。

「どうかしたの?」

 無視したかったがパーティーリーダーとして聞く。

「このジョブ全然使えねー」

「まだジョブチェンしたばっかだから仕方ないでしょ?」

 前は一本の両手剣。それが両手に刀のという二刀流の戦闘スタイルなったのだ。慣れるのに時間がかかるだろう。

「なに、いつかは上手にこなせるだろう」

「いやいや、攻撃力は低いし、左右に振る時、片方が邪魔だし、イライラする。イメージと違いすぎる」

「二刀流にどんなイメージがあったんだよ」

「素早く立ち回り、敵に囲まれても竜巻のようにバッサバッサと斬りまくる……みたいな?」

「じゃあ、竜巻のように動けば?」

「目が回る」

「連続斬撃を編み出したら?」

「だーかーら、それが難しいの。片方の刀が邪魔なのよ。例えば……」

 ヒナタは刀二本を前に構える。そして右の刀を左から右へと横一閃するために右の刀を左側へと……。

 キン!

 右の刀が左の刀にぶつかった。

「ね。他にも……」

 次にヒナタは右の刀を袈裟懸けに振るう。そして左の刀を袈裟懸けに振るう。よくアニメとかで見るエックス斬りというやつだ。

「それが何?」

「こっからよ」

 右の刀で上を斬ろうとすると左腕が右腕の邪魔をする。

「いや、それだったら先に左の刀を使えよ」

「右、左、左、右って?」

「そうそう」

「でもつい右、左、右、左って交互にしちゃうのよねー」

「誰かに聞いてみたら?」

「誰に?」

「う〜ん。みんなは誰か心当たりない?」

 私は他のパーティーメンバーに聞く。

「フレンドに何人か二刀流経験者いるよ」

「私も」

「ウチもや」

 結構いるんだな二刀流。

「じゃあ、この中で今すぐ連絡が取れ、かつ時間があり、初心者に教えてくれる良心的プレイヤーは?」

 それに二人は顔を曇らせる。

「おっ、ウチだけか?」

 残ったのは関西人のミッチーだけだった。

「ミッチー、頼むよ」

「まかし」


  ◇ ◇ ◇


 ミッチーの紹介で現れたのは女剣士だった。

 白い装束に黒髪のポニーテール。

「私はパーティーリーダーのイオリです。それでこちらがくだんのヒナタです」

「どうも」

「私はメグミンだ。よろしく」

『よろしくお願いします』

 私達は頭を下げた。

「では刀を構えて」

 メグミンさんは剣を鞘から抜く。

「え?」

「戦闘しつつ教える」

「ええ!?」

「さあ、早く!」

「はっ、はい〜」

 ヒナタは情けない声を出し、刀を抜く。

 そして二刀流の稽古が始まった。


  ◇ ◇ ◇


 ヒナタとメグミンさんを除いた私達は少し離れた場所から稽古を見ていた。

「両方を攻撃に使うな。一つは盾に。相手の攻撃を防いだら片方の刀で反撃しろ」

「はっ、はい」

 ヒナタは言われた通りに体を動かすも、相手の攻撃が防ぎきれずタタラを踏む。

「一本で防げないなら二本で防ぐ!」

「はい!」


  ◇ ◇ ◇


「一本を体制整えるため牽制に振るえ!」

「はい!」


「斬撃ばかりでは駄目だ。突きを使え? 刀わ突き出して、相手に距離を取らせろ」

「はい!」


「片方の刀は相手の邪魔になるよう!」

「はい!」


「肩と腕が下がってる!」

「はひぃ」


「足が鈍い! 腰が弱い!」

「……は、はひぃ」


  ◇ ◇ ◇


「どうですか? うちのヒナタ、上手くなれます?」

 稽古が終わり、私はメグミンさんに聞く。

「今はなんとも。これからだな」

 まあ、流石に一朝一夕では物にできないか。

「明日も稽古だ」

「ええ!?」

 ヒナタは嫌そうな声を出す。

「まだ教えることはある」

「いや、扱い方さえ教えてくれたら……」

 あとは自分で練習すると言いたいのだろう。

 だが、気の弱いヒナタではそれが言えない。

「明日は基本的な型だ」

「型? 空手みたいな?」

「ああ」

「へえ、そんなのあるんですか」

「二刀流だからな。始めの刀の振り方で次をどう動くかを知らないといけない。そのため明日は私も二刀流で向かうから。手取り足取り教えるから、そのつもりで」

「はい。よろしくお願いします」


  ◇ ◇ ◇


「明日も私達、付き合おうか?」

 メグミンさんと別れた後、私はヒナタに聞く。

「いいよ別に」

「わかった」

 そこでメグミンが、

「でも、気ぃつけや。あの人、バイやから」

『…………』

「バイやで、バイ」

『ええー!?』

 ミッチーからの爆弾発言で私達は驚く。

 特にヒナタは口をあわわっと震えさせている。

「明日は手取り足取りかー」

 それを知ってか、ミッチーはどこか面白そうに言う。

「で、でも、ここはゲーム内だから……や、やらしいことには……ならないよね?」

 当然ゲーム内では18禁プレイはできない。

「でも後ろからぎゅっと抱きつかれて、手取り足取り……ムフフ」

「そ、そんな、どこぞの大学テニスサークルみたいな教え方するの?」

「どうだろ〜」

「イオリ! お願い。明日も稽古に付き合って。見てるだけでいいから。二人っきりにさせないで!」

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二刀流 赤城ハル @akagi-haru

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