異世界料理研究家、リュウジ短編集①〜KAC2022に参加します〜

ふぃふてぃ

揚げコカトリスのネギソースかけ

 俺は異世界料理研究家リュウジ。異世界のあらゆるモノを調理して……。


「リュウジ。何してんの。来るわよ」


「コケェーーー!」という咆哮。

「また、コイツかよ」

「今回はその子どもが討伐対象よ。そして、アンタは囮」


 鋭い嘴が襲う。手にするフライパンで防ぎながら後退。必死で逃げる。巨大な鶏の体躯が地響きを立てて荒れ狂う。


「おい、ルティ。チェックポイントはまだか」

「もうちょい。あの、おっきな木よ」


 木陰に滑るように逃げ込む。


「やるな、あんちゃん。スイッチだ」


 男性と右手でハイタッチ。後半は共闘するギルド職員が囮となって走り回る。単純明快な作戦だ。


「コッチだ。バケモノ鳥!」


 先程の男性はコカトリス目掛けて石を投げる。男は目標が変わったことを確認すると、意気揚々と走り出した。


「若いな!」

「アンタと、あまり変わんないでしょ。つべこべ言わずに次、行くわよ」

「まだ、働くのかよ?」

「当たり前でしょ。ウチはパーティーメンバー少ないんだから」


 親コカトリスの後ろを子コカトリスが走る。真鴨の和気藹々としたものではない。それは正に統率の取れた騎馬団のようにも見える。男は警戒に攻撃を避けながら逃げていた。


「最後尾、来るわよ。フィリス、用意は良い?」


 コクリと修道女が頷き眼鏡をかけ直す。フィリスは栗色の三つ編みツインテールを揺らし詠唱を始めた。


「慈悲深き光の女神アスティカの恩恵。星々の祝福。我が御霊より授かりし純潔の契りを護りに変えて」


「行くわよ。リュウジ」

「お、おう!」


「リフレクター!」


 子コカトリスの行方を阻むかのようにして、フィリスが出現させた光の壁。バスバスと音を立てて気絶する小さな鶏。


「これでも、くらえ!」


 俺も負けじとフライパンによる殴打で仕留めていく。


「やるわね!」

「まぁな。守りも攻めもコレ一つ。両方イケちゃう。正に俺は二刀流」

「バカね。両手に武器持って無くて、何が二刀流よ」

「俺の生まれた世界だと、二つのモノを使いこなせる奴を二刀流と崇めんの!」


「だったらアタシも」とルティはダガーを持ち替える。


「終わりなき凝結。刹那に散り行く水霊たちの宴。凍てつく氷は飛礫となりて、硬い飛礫は矢となりて。我が仇なす敵を射て」


 冷気が肌を刺す。水滴を散りばめて、少女はダガーを振う。


「穿て、アイスニードル!」


 ダガーから放たれる鋭利な氷の飛礫が怪鳥の皮膚をえぐる。


「ふぅ、大量、大量。どう、リュウジ。これぞ、物理と魔法の二刀流」

「は、はぁあ。おみそれしました、よ」


          ○


 新鮮な若鶏。皮側を数か所さしてから半分に切る。そして、酒としょうゆをからめ下味をつける。


「へぇ、お酒を料理に使うのですね。私も手伝います」

「サンキュー。じゃあ、フィリスはネギを微塵切りにしてくれ」


 衣を厚めにするため、鶏肉にかたくり粉を多めにまぶし、熱した油で揚げる。油をきって余熱で火を通し、更に高温の油で二度揚げ。


「美味しい匂いがしてきましたね」

「数回持ち上げて空気に触れさせるのが、美味しく仕上がる秘訣なんだ」


 油の熱気。プツプツと沸き立つ油の音色が食欲を掻き立てる。すぐ近くからは子供達の「お腹すいたー」が聞こえる


「微塵切り、終わりました」

「ヨシっ。じゃあソースを作ろう」


 フライパンに油を熱し、フィリスの刻んだネギを軽く炒める。しょうゆ、酒、リンゴ酢、砂糖を加え、混ぜながら温まったら、すぐに火を止める。


「ねぇ、できた?」子供達が顔を出す。

「もうちょい。後は仕上げだ」


 カリッカリに揚がった若鶏の油を切り、食べやすい大きさにカット。盛り付けし、更に上からネギソースをかける


「うっまそ!」「こらレオ!」


 摘み食いする少年を怒るルティ。いつもの風景になりつつある。ひと段落して皆が手を合わせる。「いただきます」を、この世界では挨拶ではなく、お祈りと言うみたいだ。


「コカトリスを食べるのは二回目だけど、コレも美味しいわね」

「このソースが、また美味しさを引き立てます」


 カリッカリの厚めの衣に絡むネギソース。薬味の辛さが味を引き締め、肉はジューシーに甘い油を滴らせる。


「商業ギルドに売ってたネギだ。この世界には、ちゃんとした食材も売ってるんだな」

「むしろ、そっちが普通。アンタぐらいよ。魔獣まで食べようとするのは……まさに二刀流ね」


「うぐッ!それ、褒めてないだろ」


「リュウジ兄ちゃん!おかわり」

「レオ、ズル〜い。私も」


 レオとエミリ。幼い少年、少女が皿を掲げる。ルティも負けじと皿を掲げた。


「アタシも……おかわり、貰おうかしら」


 腹が膨れれば、笑顔も膨れる。笑い声の中、ほのかに香るネギソース。食を囲む。皆が同じ物を食べる。肉を美味いという子もいるし、ソースが美味いという子もいる。でも、皆が美味いに共感している。孤児院でもない仮のギルドの限界にして最大の努力の賜物。


「ルティ。結局、食べるんじゃねぇか」

「だって美味しんだもん」

「クエスト頑張った甲斐がありますね」

「アタシが見つけたクエストよ」


——美味しい……か。嬉しいじゃないか。


「あぁ、分かった。わかった。おかわり、あるぞ。レオもエミリも取りに来い。ルティも、な」


 幼い少年と少女が皿を持って笑顔を振りまく。だから魔獣まで料理する。これだから、二刀流はやめられない。

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異世界料理研究家、リュウジ短編集①〜KAC2022に参加します〜 ふぃふてぃ @about50percent

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