第121話


「なんでも聞いてくれ…その代わり…約束を忘れるな…」


「ああ…わかった。知っていることを離せば命は取らない。ではまず第一の質問だ。お前はなんの目的でここにきた?」


「ある情報をとある連中に売り捌くためだ」


「とある連中、とは?」


「わからない…彼らの正体は俺も知らない」


「なんだと?」


俺はドグマを睨みつける。


だが、ドグマは落ち着いた様子で言った。


「本当だ。奴らは決して俺に正体を明かさなかった」


「…本当か?」


「本当だ。この後に及んで嘘はつかない」


「…」


ドグマは何かを隠そうとしているわけではなさそうだった。


俺は一旦ドグマを信用し、話を進める。


「売ろうとしていた情報はなんの情報だ?」


「帝国図書館の…地下施設の情報だ」


「…?帝国図書館の地下施設?」


意味がわからず首を傾げる。


帝国図書館。


それは帝国が管理する、さまざまな文献や古書が収められた図書館のことだ。


立ち入りには、それなりの立場と許可が必要であり、普段は警備員によって厳重に守られ管理されている。


「帝国図書館の地下施設?どういうことだ?帝国図書館に地下が存在するのか?」


「ある」


ドグマがはっきりと頷いた。


「知る人ぞ知る機密情報だがな。俺がその情報を知ったのは本当に偶然だった」


「帝国図書館のちかにはなにがあるんだ?」


「わからない。だが、そこには帝国にとって非常に重要な何かが保管され守られている」


「…その情報を、お前は知っているのか?」


「わからない」


ドグマが首を振った。


「俺が売ろうとした情報は、帝国図書館の地下施設の構造と、入り方だな。時間をかけて少しずつ情報を集め、地下施設の警備と構造を調べ上げたんだ」


「…その情報を…誰に売ろうとしたんだ?帝国の敵対組織か?」


「さっきも言ったが、本当に知らないんだ。連中が俺に接触してきたのは三年前。金と共に帝国内で調べてほしい情報を送ってきた」


「…なるほど。お前は金をもらい、誰ともわからない連中の手先として帝国内で動いていたんだな?」


「…そういうことになる」


項垂れるドグマ。


「ふむ…」


思ったよりも複雑な状況に俺は思わず考え込む。


「な、なぁ…アリウス?あたしはまだここにいていのか?なんだかとんでもない話になってきてないか?」


隣でドグマの話を聞いていたアンジェラは若干怖気付いている。


「いうまでもないが、アンジェラ。ここで聞いた情報は」


「言わない!!絶対に言わねーから!!」


アンジェラが食い気味にそういった、


下手をすれば帝国魔道士団に葬り去られるとでも思っているのだろうか。


まぁその認識は、あながち間違ってはいないのだろうが。


「これでいいか?まだ何か聞きたいことが?」


「ある。相手の正体がわからないという話は理解した。ドグマ。俺はあんたを信用する。じゃあ、こういうことか?ここへきたのは、その三年前からお前に金を指示を出していた連中に頼まれたから、か?」


「そうだ…今まで俺が受け取ってきた金額を全て合わせたよりも多い金がいっぺんに送られてきた。そして、今まで集めてきたすべての情報をまとめて買いたい、と。そのためにここへこいと」


「…なるほど。そいつらとはいつどこで会うんだ?」


「街の闘技場だ」


「闘技場?」


「知らないのか?」


「…アンジェラ?」


この街に闘技場があるなんて話は俺は知らない。


俺は説明を求めてアンジェラを見る。


「あるぜ。結構な規模のが。週に一回、そこでテイムされたモンスター同士の戦いが行われるんだ。どちらかが死ぬまでのバトルだ。この街の名物だな。賭けをする連中も多いらしい」


「へぇ。そういうことをしているのか」


「次に闘技場が開くのは二日後だ。俺はそこで情報を売るつもりだった」


「…そうか」


二日後の闘技場。


そこへ行けば、ドグマから情報を買おうとしていた連中を突き止めることができる。


「…もういいだろ?知ってることは全部喋った。これ以上の秘密はない」


「…そのようだな。ありがとう」


聞きたい情報を全て聞き終えた俺は、ドグマの拘束を完全に解いてやる。


「…はぁ…ありがとよ…」


あざになった手首をさすり、ドグマが立ち上がった。


「それで?俺をどうするんだ?帝国に連行か?」


「条件によっては解放してもいいと思っている」


「へぇ?結構優しいんだな」


「別に俺の目的は帝国機密の流出の阻止であって、お前の始末ではないからな」


「それでも…殺しておいた方がいいんじゃないのか?お前がやらなくとも誰かにやられる可能性はあるだろ?」


「そこまで俺が面倒を見てやるつもりはないな」


少なくとも俺にはドグマを殺すつもりはなかった。


「…そうかよ」


ドグマが不貞腐れたようにそう言って、自らの鞄に手をかけた。


「おい待て。なにをするつもりだ?」


俺は警戒しながら、ドグマを制止する。


「中の情報資料を取り出して返すだけだ。あんたも見たいだろ?」


「…なぜ急に情報を返す気になった?」


「そうすればあんたがたに……帝国魔道士団に狙われる確率も下がるんじゃないかってな」


「…」


「…待ってろ。今見せてやるから。この鞄は鍵がかかってて、俺しか開けられないんだ」


ドグマが鞄のダイヤルを回す。 


カチ…


鍵が外れた。


「くひひ…」


一瞬、ドグマがこちらをチラリと見て、不気味な笑いを漏らした。


「アンジェラ!!」


「うおっ!?」


俺は反射的にアンジェラを自分の元に抱き寄せ、周囲に魔法のシールドを展開する。


「ホーリー・シールド!!」


「…じゃーな。全部終わりだ」


ドグマが鞄を完全に開く。


ドガァアアアアアアアアアアン!!!!


直後、仕掛けられていた爆弾が爆発した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る