第120話
「アリウス…お前、いくらなんでも酷すぎるだろ!?あたしを囮に使ったのか?」
「まぁな」
「あのなぁ…!あたしはあんたに認められたくて…」
ドグマを誘き出すためにドグマの部屋に突入させたアンジェラが二階から飛び降りてくる。
それからドグマを拘束している俺の元にやってきて不満げにそんなことを言ってくる。
「協力には感謝してるぞ。アンジェラ。お前のおかげでこいつを早く捕まえることができた」
俺は地面に押さえつけているドグマを指差した。
「ぐぅ…離せぇっ…」
ドグマはジタバタともがくが、俺を振り払うような力はない。
魔力の気配も感じないので、魔法使いでもないのだ
ろう。
情報通りドグマの戦闘能力はほぼ皆無に等しかった。
「本当か…あたしはあんたの役に立てたのか…?」
何を気にしているのかアンジェラが不安げに聞いてくる。
「ああ。役に立ったよ。礼をいう。ありがとう」
「そ、そうか…それならいいんだ…」
アンジェラが満足げに頬を緩める。
「…?」
「そ、そんな不思議そうな顔をするなよ…!!お前に足手纏いって言われて結構傷ついたんだからな!!」
アンジェラの不可解な反応に首を傾げていると慌てたようにアンジェラがそう言った。
「そんなこと気にしてたのか?」
「そんなことって…あ、あたしにだって長年冒険者を続けてきたプライドがあるんだ…!!それを挽回したいと思ったって不思議じゃないだろ?」
「そういうものか」
「そういうもんだ」
俺にはよくわからない感覚だが、しかしアンジェラが満足したのならいいだろう。
俺は二人で捕らえたドグマを宿の部屋へと担ぎ込んだ。
そしてその体を椅子に縛り付け、逃げられないように拘束する。
「さて…」
捕らえたドグマと俺は向かい合う。
「最初に確認なんだが……お前はドグマで間違いないな?」
「…」
「どうなんだ?答えろ」
「…」
「何も喋らないつもりか?」
「…」
「よし、それなら…アンジェラ。ドグマの右手を解
放してやれ」
「…?右だけでいいのか?」
「ああ」
アンジェラがドグマの右手の拘束をとく。
「ほい」
斬ッ!!
「…っ!?!?」
俺は躊躇なく魔法でドグマの右手の親指を切断した。
ドグマが無言の悲鳴をあげる。
「ま、またこれか…」
ロッペルの時にすでに俺のやり口を学んでいるアンジェラは、呆れたようにため息を吐いた。
「…っ…何しやがる…クソ野郎…」
ドグマが震える声で毒を吐く。
「聞かれた質問に正直に答えろ。出ないと指を全部失うことになるぞ。じゃあ第一の質問だ。お前は帝国から逃げ出したドグマか?」
「くたばれクソ野郎」
「そうか」
斬ッ!!
「ぐぉおおおおおお!?!?」
乾いた切断音と共にドグマの人差し指が地面に落ち
た。
ボトボトと鮮血が垂れて、ドグマが低い悲鳴をあげる。
「答えろ。お前はドグマだな?」
「〜〜〜っ」
「答えないなら…」
「待てっ…そ、そうだ…俺がドグマだ…」
俺がさらにドグマの指を切り落とそうとしたところで、ドグマが答えた。
額には脂汗が浮かび、痛みに耐えて食いしばっているせいか口からは血が滲んでいる。
「よし…えらいぞ。ご褒美だ。ヒール」
俺はドグマに回復魔法を使った。
「…ぉおおお!?ゆ、指が生え変わって…!?」
回復魔法によって自分の指が新たに生えてきたこと
に驚くドグマ。
俺はそんなドグマに、二問目の質問をぶつける。
「では二つ目の質問だ。お前はなんの目的でこの安全地帯を訪れた?お前が抱えて逃げようとしたこの鞄…この中に何が入っている?」
俺がドグマの側にある鞄を指差した。
それはドグマがアンジェラから逃げようとした時に、抱えていたものだった。
俺の予想では、その中にドグマがここ安全地帯の街
で売り捌こうとした情報が入っている。
「さぁな…知るかよ…」
惚けるドグマ。
俺が魔法攻撃の合図として手をあげる。
「…っ!?」
それに反応してドグマの体がビクッと揺れた。
「吐かないのなら…繰り返しになるだけだぞ?」
俺は地面に落ちたドグマの指を顎でしゃくって見せる。
「くぅう…」
ドグマがぐっと唇を噛む。
指を切断された瞬間の痛みを思い出しているのかもしれない。
「くそ…俺もここまでか…はは…」
やがてドグマは全てを諦めたような表情になり、乾いた笑いを漏らした。
「わかった…俺の負けだ…洗いざらい全てを話すよ…」
「よし」
ドグマは自分が情報を吐くしかないと気づいたらしく、観念したように俺に聞かれるがままに情報を喋るのだった。
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