第118話


「ぐっ!?」


俺がロッペルに放った魔法が、ロッペルの脇腹を捉えた。


じわりと服に血が滲む。


ロッペルは驚愕に顔を歪めながら、膝をついた。


「あ、アリウス!?お前何やってんだ!?」


アンジェラが驚いて俺とロッペルの間に入る。


「退いてくれ。アンジェラ。邪魔だ」


「いやいや、待て待て!?穏便に取引は成立したろ!?なんでロッペルを攻撃するんだ!?」


「こいつは嘘をついている。どうやら俺たちは先回りされていたみたいだ」


「はぁ…?」


何のことかわからずにポカンとするアンジェラ。

俺はロッペルを見下ろして、尋ねる。


「そうだろ?」


「…何のことだかさっぱりだな」


「そうか」


俺は二発目の魔法を使う。


「ぐぁああああああ!?!?」


ロッペルの右足に切り込みが入り、鮮血が飛び散る。


ロッペルが痛みに叫び声をあげ、床に転がった。


「あ、アリウス…!!やめろ…!!ロッペルが死んじまう!?」


あたふたとしているアンジェラに俺は首を振った。


「大丈夫だ。殺しはしない。必要なのは本当の情報だ。喋れば傷は治療する」


「…っ…にしてもこんな手荒な真似…」


「アンジェラ。お前には先に説明しておいたはずだぞ?邪魔をするなら今すぐ…」


「わかったっ!!わかったよっ!!お前のやり方にケチつけないからっ!!」


「よし」


アンジェラを半ば無理やり納得させて、俺はロッペルに向き直る。


「ロッペル。正しい情報を吐け。お前は俺たちが探している男……ドグマの居場所を知っているな?さあ、吐くんだ」


「やなこったっ…」


「意地を張っても苦しいだけだぞ?」


俺はロッペルの傷口を踏みつける。


「ぐぁああああああ!?!?」


ロッペルが悲鳴をあげる。


「〜〜〜っ」


アンジェラは俺がロッペルを拷問する様子を唇を噛みながら眺めている。


あらかじめこの可能性があると伝えていたのに、どうやら覚悟ができていなかったようだ。


「さあ、吐け。俺の前に誰がここにきた?まさかドグマ本人か?俺たちがきたら、嘘の情報を教えるように買収されたんだろ?違うか?」


「ぐぅううう…」


「答えないと、痛みは続くぞ」


「ぐぉおおおおおお…」


俺は血の染まったロッペルの足に体重をかけていく。


ロッペルは低い唸り声をあげ、必死に痛みに耐えているようだった。


「ロッペル。どうしてお前が意地を張る必要がある?お前が情報を話せば俺はお前を殺さないし、情報料はきっちり払う。傷もすぐに治療する」


「…ぐぅうう」


「本当だぞ?俺は嘘はつかない」


「…っ」


ロッペルの表情に迷いが生まれる。


依頼人への義理と、自分の生き死にの間で揺れているようだった。


この分ならあと一押しすれば…


「ロッペル…!!アリウスは本気だぞ!?あたしたちに嘘をついているんなら早く本当の情報を教えてくれ…!!死にたいのか!?」


「…っ」


「情報を吐けばアリウスはあんたを殺さない…!!それはあたしが保証する!!アリウスは約束を守る男だ!!」


「…っ」 


ロッペルが俺を見た。


信用しろ。


そんな意味を込めて俺はロッペルを見つめ返し、頷いた。


ロッペルが掠れるような声で言った。


「ほ、本当だな…?」


「ああ」


「情報を吐けば…お、俺の命は助かるんだな…?」


「約束する」


「………傷を治してくれ」


ロッペルが堪忍したようにそういった。


「よし」


俺はそれを取引成立の合図だと捉えて、ロッペルの傷を魔法で癒した。


「す、すげぇ…一瞬で直っちまいやがった…」


ロッペルは一瞬で自らの傷が完治したことが驚きだったようだ。


避けた服の上から、脇腹と足の傷口を信じられないと言った表情で撫でている。


「さあ、約束だロッペル。情報を吐け」


ロッペルに手をかし、立ち上がらせながら俺はそう言った。


「ああ…わかったよ…全てはなす」


ロッペルが力無い声でそう言った。


「嘘を教えて悪かったな…本当のことを言うと……あんたがくる前に一人の男が俺の元にきた…お察しの通り、あんたが追っている男、ドグマだ」


「「…!」」


「ドグマは大金と共にこんな依頼を残した。もし俺を追うものがここにきたなら、今から伝える情報をそいつに教えろと…」


どうやら俺の勘は当たっていたらしい。


俺のターゲットである敵国スパイのドグマは、情報屋ロッペルの元に先回りし、偽の情報を残していったようだった。



「すごいな、アリウス……一体どうやってドグマが嘘をついたって見抜いたんだ?」


ロッペルから本当の情報を教えてもらった俺は、アンジェラと共に武具店を後にした。


街の中心街に向かって歩きながら、アンジェラがそんなことを聞いてくる。


「全くの初見だったら俺も無理だったろうな。けど…前に似たような状況に遭遇してもしかしたらって思ったんだ…」


「へぇ…そうか…」


アンジェラが感心したように頷いた。


「それにしても驚いたぜ…アリウス。あんたが急にロッペルを拷問するとか言い出すから……てっきりイカれちまったのかと…そう言う理由があったんだな」


「…はぁ…正直言ってアンジェラ。お前は今の所、かなり足手纏だ。まだ俺についてくるつもりか?」


「あっ、酷いな!!ロッペルの情報を手に入れてやったのはあたしだろ!?」


「時間をかければ俺だって同じ情報を入手できたさ。なぁ、アンジェラ。これからは俺がやることにいちいちああやってケチをつけないでくれよ?任務に支障が出る」


「わかったって…」


何度も念を押す俺に、アンジェラが不貞腐れたように返事をした。

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