第117話


ロッペルが営んでいるという武具店はアンジェラが冒険者たちから聞き出した情報通り、安全地帯の街の端っこにあった。


「あれか…」


「みたいだな」


こじんまりした、狭い店だった。


外から見える店の陳列棚には、申し訳程度の武具が並べられている。


ロッペルはあくまで情報屋という正体を表向き隠すために店を営んでいるので、武具で生計を立てる気はないのだろう。


「人気は…ないな。ちょうどいい」


俺は周囲を見渡す。


街の端っこということもあって、周囲に人気はほとんどないといってよかった。

 

今の俺にとっては都合がいい。


「な、なぁ…アリウス?」


俺がロッペルの店に入ろうとしたところで、アンジェラが俺の袖を引いた。


「本当にやるのかよ?」


「やる?何が?」


「だから…さっき言ってたこと…ロッペルを拷問するって…」


「それは最悪の場合だ。もしロッペルが素直に俺の望んだ通りの情報を売るならそんなことしない」


「だ、大丈夫なのかよ?そんな手荒な真似をして?一体何のために…?」


「情報屋から買う情報を鵜呑みにしてはいけない。以前痛い目にあったからその時に得た教訓だ」


「いや…一体何があったんだよ…」


アンジェラが心配そうな目で俺を見てくる。


「ともかく……中へ入るぞ。アンジェラ。俺がロッペルに手荒な真似をするのが嫌だっていうなら、お前とはここでお別れだ。付いてこなくていい」


「そんなわけにいくか。ここまでついてきたんだ。一緒に行くよ」


「そうか」


覚悟は決めてあるらしいアンジェラと共に、俺はロッペルの営む武具店の中にはいる。


「こんにちはー」


「じゃ、邪魔するぜ…」


扉から入ると、ドアにつけてある鈴がチリンとなった。


せいぜい10人くらいが入るのがやっとなくらいのスペースの店内の奥にはカウンターが設けられており、そこに一人の男が座っていた。


「…」


店主ととぼしきその男は、入ってきた俺とアンジェラをじぃっと見つめている。


俺はその男に迷わず近づいていった。


「何かようか?」


目の下にクマのある男が、近づいてくる俺に気だるそうに言った。


「あんたがロッペルか?」


俺は男に尋ねる。


「そうだが?」


ロッペルが頷いた。


「情報屋だと聞いた。ほしい情報がある」


「何に関する情報だ?俺が知っているのはこの安全地帯の街のことだけだぜ。地上のことはさっぱりだ。もう三年は地上に上がってない」


「聞きたいのはこの街のことだ」


「そうか。ならお前のほしい情報は俺が持っているかもな。この街は俺に庭みたいなもんだ。ここで起きる大抵のことは知っている」


ロッペルは自信げだった。


「俺がほしい情報は、この街に逃げ込んだある男についてだ」


「逃げ込んだ男……なるほど。それならあれか…もしくはあいつか…最近この街に逃げ込んだ余所者は数が限られている…詳しく聞かせてみろ」


ロッペルはすでにいくつかの心当たりがあるようだった。


俺は追っているターゲットの特徴をさらにロッペルに伝える。


するとロッペルの表情がニヤリと歪んだ。


「あぁ…そいつか…知ってる知ってる」


「知っているのか」


どうやらロッペルは俺のほしい情報を持っているらしい。


俺は前のめりになってロッペルを問い詰める。


「教えてくれ。その男に関する情報をくれ」


「待て待て焦るな。値段交渉といこう」


「…そうだな」


それから十分ぐらいにわたって俺はロッペルと値段の交渉をした。


結果的に、今回支給された費用の半分程度の値段で、俺はロッペルから情報を買うことが出来た。


「…お前の追っている男が今どこにいるかはわから

ない。だが、三日後に、とある場所で情報の取引が行われる。その場所は…」


ロッペルから得られた情報は、俺の追っているターゲットが、三日後に酒場で何者かと情報取引のために落ち合うことになっているという情報だった。


「俺が持っている情報はこれだけだ。満足か?」


「ああ。助かった。これだけわかれば十分だ」


ターゲットが情報を取引する日時を抑えられたことに俺は満足していた。


うまくすれば、帝国から逃げ出したスパイだけでなく、情報をターゲットから買おうとした相手の身柄も抑えられるかもしれない。


ロッペルからもたらされた情報は俺の期待以上のものだった。


「ありがとう、ロッペル。あんたは優秀な情報屋だ」


「そりゃどうも。この街のことが知りたかったらまた来いよ」


「ああ」


俺たちは笑顔で頷き合って握手を交わす。


…そのまま俺が踵を返して店を出ていたら全ては平穏に住んだかもしれない。


だが、俺が念の為に放った一言が、店内の空気をガラリと変えた。


「ちなみに、これはちょっとした確認で深く捉えてほしくはないんだが…」


「なんだ?」


「ロッペル。疑うわけじゃないが、この情報は確かなんだな?俺より先に今回の件でここにきたやつがいて……そいつがあんたに先に手を回していた…なんてことはないよな?」


「…あぁ、ないぜ。そんなことは。あるわけないだろ」


一瞬…本当にほんの一瞬だったが、ロッペルの表情がかたまった。


「あ、アリウス…?」


空気の変化を感じたアンジェラが俺の名前を呼ぶ。


「悪いアンジェラ」


そんな彼女に俺はいった。


「プランBだ」


俺はロッペルに対して迷わず魔法を放った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る