第108話
「脅かして悪かった。アリウス。君たちは合格だっ…全く…予想外の展開だなこれは…」
「合格…?どういうことだ?」
俺はまだ警戒をとかない。
だが、5人からはすでに殺気が消えていた。
「素晴らしい。諸君ら3人を俺は歓迎するぞ」
と、ジーク。
「悔しいが、認めてやるよ。アリウス・エラトール。お前は実力に加えて正義の心を持っている男だぜ」
と、グリル。
「よろしく新人ちゃんたち。あんたたちは正しい選択をしたわ」
と、ファウマ。
「うぅ…すみません…騙すようなことをして本当にすませんっ」
と、ネフィア。
先ほどまでの一触即発のそれから、ガラリと空気が変わった5人に俺は戸惑ってしまう。
「どういうこと…?」
「あ、アリウスくん…逃げなくていいの?」
システィとヴィクトリアも混乱し、俺を見てくる。
「説明してくれ、ディン。何が何だがさっぱりだ」
俺はディンに一体どういうことなのか、説明を求める。
…と、そんな時近くから声がした。
「お兄ちゃんお姉ちゃんおめでとう。騙してごめんなさい。全部、入団テストのための演技だったんだ」
「え…?」
先ほどまで泣き顔だったジュースが、すっかり落ち着いた様子で俺たちに向かってそう言ったのだった。
「はぁ…なんだかどっと疲れましたわね…」
それから一時間後。
帝国魔道士団の入団テストを正式にクリアした俺たちは、帝国ホテルを出て疲れ顔でトボトボと帰路を歩いていた。
「なんだか回りくどい試験だったね…」
「全くだ。果たしてこんなことをする必要があったのか?」
俺はそうぼやきながら、今日の入団テストの内容を振り返ってみる。
俺たちに出された指令は、攫われた貴族の息子、ジュースを探すこと。
俺、システィ、ヴィクトリアの3人はそれぞれ別々に行動し、全く違った情報筋からジュースの居場所を掴んだ。
だが、つかまされた情報はあらかじめディンたちが流しておいた偽情報であり、向かった先には殺し屋が待ち構えていた。
殺し屋たちには俺たちを殺さないように痛みつけろ、という指令が出ており、ディンたちは俺たちが殺し屋を返り討ちに出来るかを試した。
結果として俺もシスティもヴィクトリアも、3人とも難なく数人の魔法使いの殺し屋を返り討ちにして彼らから情報を聞き出した。
そして実は帝国魔道士団こそが黒幕だったとの情報を得る。
ディンたち曰く、ここまでで俺たちは試練の第二関門を突破していたらいい。
そして俺たちはシスティ、ヴィクトリア、俺の順番で帝国ホテルに戻ってきた。
ディンたちは、戻ってきた俺たち3人それぞれに、ターゲットのジュースを殺すように命令した。
ジュースの父親が帝国に逆らう反逆者であるという真っ赤な嘘をついて。
『こんなに回りくどいことをして申し訳ないと思っている。でも僕たちは君たちの正義の心を試さなくてはならなかったんだ』
ディンたちの真の目的は、命令された俺たちが何の疑いもなく『ジュースを殺さないかどうか』を試すことだった。
彼ら曰く、帝国魔道士団の基本理念は、帝国民全ての安寧を守るための正義の集団であり、命令されたからといって何の疑いもなくジュースのような幼い子供を殺すような奴は帝国魔道士団には要らないということだった。
ジュースはあの歳ながら演技に秀でているということでディンたちに協力を要請されただけのただの子供であり、俺たちの入団テストのために一役買っただけだったのだ。
「まぁ、でも…結果オーライですわ。3人とも合格したんですもの」
「そ、そうだよね!!バッジももらっちゃったし…!」
システィがそう言ってポケットから金色のバッジを取り出す。
剣と盾の紋様が掘られたそのバッジは、帝国魔道士団の団員であることを示すものであり、絶対に無くしたり売ったりしてはならないとディンたちから厳命されている。
「なんか実感がないな」
3人での合格。
俺たちは当初望んでいたように、帝国最高の魔法機関である帝国魔道士団の団員となったのだ。
いまだに現実感がない。
ディンたちからは近々、任務の命令が下ることになっている。
「頑張りましょう、3人で。もう後戻りなんてできないですわ」
「う、うん…!そうだね…!!色々あったけど、二人と同じ職場で働けることになってすごく嬉しい…!!」
「二人とも、俺なんかについてきてくれてありがとう。これから3人で頑張ろう。帝国魔道士団の団員として」
俺たちは互いに握手を交わし、入団テストクリアを祝福しあったのだった。
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