第107話


「反逆者…?どういう意味だ?」


ジュースは、怖くて何も言えないのか嗚咽を漏らして体を震わせている。


ディンはジュースを冷たい瞳で見下ろす。


「こいつの父親は……帝国貴族でありながら皇帝陛下にあだなす反逆者だ。国を売り、帝国に忠誠を誓っていない。だから…皇帝陛下から暗殺命令が降ったんだ」


「あ、暗殺命令…?」


帝国魔道士団が皇族や統治機関から命令され、国内外で暗殺を請け負うことは俺も知っていた。


だからそのこと自体には驚いたりしない。


だが…


まさか帝国内の貴族の御曹司まで暗殺対象になるとは…


「ああ。速やかに殺せと、陛下はそう仰せだ」


「…」


ディンが嘘を言っているようには見えない。


どうやら本気でジュースを殺すつもりのようだ。


「ど、どういうことだ…?あんたらに降った暗殺命令と俺たちに何の関係がある?」


ジュースを殺そうとした理由はわかった。


だが、疑問はある。


その暗殺命令に、どうして俺たちを巻き込むのかということだ。


俺たちはまだ帝国魔道士団の一員ではない。


「だからテストだと言っただろう」


ディンがじっと俺を見ながら言った。


「陛下からこの命令が降った時、僕たちはこの機会を新人の入団テストに使うことに決めたんだ。君たちの情報収集能力、対人魔法戦能力、そして何よりもどんな命令でも即座に疑問の余地なく実行する命令遂行能力。それを試そうと思った。君たちはすでに第二試練までを突破している。あとは僕らの命令通りに、ジュースを殺せば、晴れて帝国魔道士団の一員だ」


「…っ…あんたらに代わって、暗殺を請け負えということか?」


「そういうことだ」


迷わずにディンが頷いた。


「…っ」


俺はごくりと唾を飲む。


わかってはいた。


帝国魔道士団が汚れしごとを請け負っていることを。


俺自身、何の覚悟もなく帝国魔道士団を目指したわけではない。


だがまさか…自国の貴族の御曹司を……それもまだこんなに幼い子供を殺せと命令されるとはつゆほども思わなかった。


「うぅ…やだぁ…殺さないで…っ…死にたくないっ…」


ジュースはすっかり恐怖に怯え、泣いてひたすら許しを乞うている。


「さあ、やれ」


ディンが俺に圧力をかけてくる。


「…」


俺は泣いているジュースを見ながら自らに自問して見る。


帝国魔道士団に入るためにまだこんなに幼い子供を殺すべきか?


「…考えるまでもないな」


答えは一瞬で出た。


俺は自らに少しも迷いが生じなかったことを、密かに誇らしく思った。


「ジュース…」


俺はジュースに近づき、手を上げた。


「…っ」


ジュースが、攻撃されると思ったか身を縮こまらせる。


そんなジュースに、俺はいった。


「目を閉じろ」


「…!!」


「システィ!ヴィクトリア!お前たちもだ……!フラッシュ!!」


システィとヴィクトリア。


二人の名前を呼び、直後、俺は光魔法を発動する。


「「「「「…っ!?」」」」」


光が室内を埋め尽くした。


目眩しのために放った魔法をモロに受けた帝国魔道士団の5人が、一瞬怯む。


「システィ、ヴィクトリア!!やるぞ!!」


その隙に俺は魔法を使い、3人の拘束を切断し、解放する。


「アリウス!!」


「アリウスくん!!」


自由になった二人が俺の元に駆け寄ってくる。


「あなたを信じてましたわ…!!」


「アリウスくんなら…絶対にこんな小さな子供を殺さないってわかってたよ!!」


「当たり前だ。それよりも今はここを離れるぞ!!」


「ええ!!」


「わかった!!」


「ジュース!!こっちだ!!」


「う、うん!!」


俺はジュースを抱え、5人が怯んでいるうちに部屋を出ようとする。


「待つんだ、アリウス・エラトール!!」


「…っ!?」


部屋の出口を目指して走り出した俺たちの背後に、そんな声がかかる。


回復が早い。


俺は攻撃に備えて背後を振り向いた。


魔力を体の中で熾し、怯みから回復しつつある5人の攻撃に備える。


…だが、ディンをはじめ、帝国魔道士団の5人はいつまで経っても攻撃をしてこなかった。


「今のうちに逃げろ…!!ここは俺に任せて」


「だから待てと言っているだろ、アリウス・エラトール!!攻撃の意思はない!!」


自分がここで5人を食い止め、3人を逃す。


そうしようとしたところで、ディンが叫び声を上げた。


先ほどまでの殺気はもう感じない。


「合格だ…!!先ほどまでの話は全て嘘だ!!種明かしをさせてくれ…!!」


「は…?種明かし…?」


ガラリと代わった室内の空気に、俺は首を傾げるのだった。






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