第103話


「ぎゃはははは…!!」


「うおおおおお…!!」


「なんだこの料理…!!うめぇえぞおおお!!!」


「馬鹿!!それは俺がはいたゲロだよ!!」


「うげぇえええええ!?!?」


両開きの扉から中へ足を踏み入れると、途端に昼間から酒を飲んで騒ぐむくつけき男たちの声が聞こえてきた。


「相変わらずすごいな…」


俺はあいも変わらずの酒に入り浸る冒険者たちに、呆れながらもカウンターへと歩いて腰を下ろした。


ここは冒険者御用達の酒場。


ここにはありとあらゆる情報が集まる。


冒険者たちは帝都内の情報に非常に敏感だ。


酒を奢れば軽くなった口で、なんでもしゃべってくれる。


帝都の生活で得た知識だ。


なので俺はここにこれば、攫われた貴族の子供に関しても情報が得られるのではないかと踏んだのだ。


「二人は……きていないみたいだな」


酒場の中を見渡すと、システィやヴィクトリアの姿は見受けられない。


あいつらはきっと俺とは違う手法で情報を集めていることだろう。


「さて…情報を探るか…」


俺は酒を注文し、ちびちびと飲みながら冒険者たちの話に耳を傾ける。


酒に酔った赤ら顔の冒険者のしゃべっていることは、たいていが自らの自慢話や武勇伝なのだが、時々そこに帝都を騒がすような情報が混じっていることがある。


一時間俺は酒を飲みつつ聞き耳を立てたが、なかなか面白い情報を聞こえてきたものの、攫われた貴族の子供に関しての情報は聞こえてこなかった。


「仕方ない…誰かに話しかけて聞き出すか…」


俺は手近な冒険者に酒でも奢って話を聞こうと周囲を見渡す。


「お?兄ちゃん見ない顔だな。冒険者か?」


「…?」


たった今酒場へと現れた一人の男が、俺の隣に腰を下ろした。


赤い顔、酒臭い息。


すでに酔っているようだった。


ちょうどいいと俺は酒を奢って話を聞き出すことにした。


「くははっ!!兄ちゃん気前がいいなぁ!!」


男はすぐに機嫌を良くして色々と喋ってくれた。


だが、やはり攫われた貴族の子供については知らないようだった。


「んー…そんな情報は聞かねぇなぁ…」


「本当か?似たような話はないか?貴族が攫われたっていう…」


「貴族の子供が攫われるのはしょっちゅうだぜ?けどここ最近の話は聞かないなぁ…」


「そうか…」


「まぁそういう情報なら、ほら…オレグに聞けよ」


「オレグ…?」


「知らないのか?情報オレグだよ。ほら…あの隅っこに座っている男さ…」


そう言って男が、酒場の隅っこに座っている男を指差した。


帽子で顔を隠し、ここからは素顔が見れない。


目の前のテーブルに半分ほど酒が入ったグラスを置いたまま微動だにしない。


「あいつはここを根城にしている情報やだよ。金で情報を売るのさ。帝都のことならなんだって知ってるぜ」


「それは本当か?」


「ああ…!ただし情報には相当な金がかかるぜ…新参者は特にな。誰かの紹介があれば、半分の値段になるが」


「紹介?誰に頼めばいいんだ?ん…?」


俺がいるだろ?というように自分を指差す冒険者の男。


「紹介してくれるのか?あんたが?」


「おうよ。これでも俺は冒険者歴が相当長いからな。オレグとももちろん知り合いさ。俺の紹介があれば、情報料は半額だ」


「それなら紹介を頼む」


「んー…?それが人にものを頼む態度かぁ?」


「…わかった。マスター。もういっぱい酒をくれ」


「くははっ!!話がわかるじゃねぇか!!」


俺は冒険者に酒をさらにもういっぱい奢り、情報屋だというオレグを紹介してもらった。


 

「あぁ…その件か…もちろん知ってるぜ」


俺がディンたちに渡された似顔絵を見ると、オレグはニヤリと笑った。


これだけ近づいても、オレグは顔を見せようとはしない。


口元だけが、笑う形に歪んでいる。


「居場所は知っているか?」


「もちろん」


オレグは頷いた。


「教えてくれ」


「情報料…はらえるんだろうな?」


「いくらだ」


「…そうだな。これくらいだな」


オレグが提示した額は、俺がディンたちにもらった資金でギリギリ払える額だった。


危なかった。


あの冒険者の紹介がなかったら、情報料を払うことが出来なかったかもしれない。


「よし…ちゃんとあるな」


俺が払った金を数え終わったオレグは、満足そうに頷いて金を懐に忍ばせる。


「貧民街の廃教会を目指せ。全てはそこに行けばわかる」


「貧民街?」


貧民街とは帝都にある闇の部分だ。


身元のはっきりしないもの、孤児などが溜まり場となる、栄えた帝都の影の部分。


そこに…攫われたターゲットがいるのか?


「そこに…この子は絶対にいるんだな?」


「さぁ、わからない。だが、そこに行けば全てがわかる」


「…?どういうことだ?いないのか?」


「俺が提供できる情報はこれだけだ」


「…」


オレグは話は終わりだというように黙ってしまった。


俺はしばらくオレグを見つめる。


この男は本当に信用できるのだろうか。


「嘘じゃないだろうな。情報は本当か?」


「…確かめてこればいい。俺は明日も、その次の日もここにいる」


「…」


これ以上問い詰めても何も情報を喋りそうにない。


そう判断した俺は、酒場を後にしてオレグに言われた通りに貧民街を目指してみることにした。

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