第104話


「本当にここなのか…?」


情報屋オレグから買った情報を信じて、俺は帝都の貧民街にやってきていた。


帝国一栄えていて華やかな帝都だが、貧民街はそんな帝都の闇の部分だ。


ここには孤児や浮浪者、流れ者など身元のよくわからないものたちが集まっている。


危険であり、帝都に暮らす人々が滅多に近づかない場所だ。


「「「…」」」


貧民街に足を踏み入れた俺は、道端に座り込んでいる子供たちにジロリと睨みをつけられる。


あからさまに俺を警戒するもの、逆に少し興味を持って眺めるものなど反応は様々だ。


油断しているとスリにあったり、襲われたりすることがあるかもしれない。


俺は十分に周囲を警戒しながら奥へと向かって進んでく。


「ここか…」


やがて俺は貧民街の廃教会へとたどり着いた。


オレグ曰く、ここに来れば知りたい情報を得られるらしい。


俺は半信半疑ながらも、廃教会の中へと足を踏み入れる。


「ん…?」


誰もいないと思っていた埃っぽい建物の中には、誰かが最近中へ入った足跡があった。


さまざまなものが散乱している中を足跡をたどって奥へ進んでく。


前方に気配。


「来たか」


「くははっ」


「釣れたな」


直後、廃材の影から3人の男が姿を現した。


俺を待ち構えていたというようにこちらに近づいてくる。


「なんだお前たちは?」


3人があからさまな殺気を放っているので、俺は警戒しながら尋ねた。


3人はこちらに向かって距離を詰めながら行った。


「俺たちは雇われた殺し屋さ」


「ここにくる人間を殺す。それが俺らの役目よ」


「悪いがお前にはここで死んでもらうぜ?」


男たちは本気のようだった。


俺を逃さないようにぐるりと囲むように陣取った。


「どういうことだ?」


何が起きているのかわからずに俺が首を傾げる中、男たちが口々にいった。


「お前は嵌められたのさ」


「情報屋オレグの情報を買ったんだろ?」


「冥土の土産に種明かしだ。俺たちの雇い主が先に手を回してめぼしい帝都内の情報屋を買収したんだよ。ジュース坊ちゃんを追う連中は全員ここみたいな人目につかない廃墟にたどり着くことになっている。そしてそこには口封じのための殺し屋が待ち構えているのさ」


どうせ殺すから問題ないと思ったのか、ご丁寧にも男たちが状況を説明してくれる。


なるほど。


どうやらすでに手が回っており、俺は嵌められたらしい。


「まずいな…」


俺は手を顎にあてがってそう呟いた。


「あぁ、不味いな」


「というより」


「おしまいだな、お前は」


男たちは俺が絶望していると思ったのか、ニヤニヤしながら近づいてくるが、俺が考えているのは別のことだった。


システィとヴィクトリア。


あの二人が俺のように罠にかかって襲われていないといいのだが。


しかし、こんな根回しをするということは相手は並大抵の組織じゃないな。


追手のためにわざわざ殺し屋を雇うということは、ターゲット……ジュースを攫ったのは少なくともそれぐらいの資金力がある連中だということだ。


そうなるとますますシスティとヴィクトリアが、心配になってくる。


「へへへ…覚悟しろ…」


「久々に血が見れそうだ…」


「くひひ…こんなことに足を突っ込んだ自分を呪うんだなぁ…」


俺が物思いに耽る中、男たちが近づいてくる。


「もう少し情報がいるな」


俺は襲いかかってきそうな3人を見据え、『生かしておく奴』を一人選ぶのだった。



「ひっ…!?ひぃいいいいい!?」


「さて…」


一仕事終えた俺は、短く吐息を吐く。


元々散らかっていた廃教会の中は、たった30秒の戦いでさらに、致命的なまでに散らかってしまった。


埃が舞い上がって周囲が白くなり、俺はゴホゴホと咳をする。


そんな中、たった一人、俺が故意に意識を残しておいた一人が俺を恐れるように地面を這いずって逃げようとする。


「待てよ」


「うがあああああああ!?」


魔法で撃ち抜いたそいつの足を、俺は踏んで引き止める。


男が気の毒なまでの悲鳴をあげた。


「ゆ、許してくれっ…命だけはっ…」


「安心しろ殺しはしない」


「…!」


男の顔に希望が灯る。


よかった。


生への執着はあるようだったな。


依頼人に律儀すぎるタイプの殺し屋だったら少し困っていたところだ。


「雇い主に関しての情報を吐け。そうすれば生かしてやる」


「…っ!?」


男が目を見開き、ガタガタと震え出す。


「どうした?」


「む、無理だ…!!情報は吐けないっ…!」


「だったら…」


俺がスッと腕を上げる。


「ひぃいいい!?待ってくれっ!!待ってくれよおおおおお!!」


「情報を吐けっ!!」


「殺されるっ!!吐いたら俺は殺されちまうよっ!!」


男は依頼主を恐れているようだった。


喋ったら俺は消される、としきりに繰り返している。


少し気の毒だが…けどシスティとヴィクトリアの命には変えられない。


「悪いがお前の命なんてどうでもいい。吐かないなら殺すまでだ」


そう言った俺はあげた腕を無造作に下ろした。


斬ッ!!


「うぎゃぁああああああ!?」


男の腕が落ちて悲鳴が上がる。


「腕がっ!?俺の腕がぁああああああ!?」


「ヒール」


鮮血がぼたぼたと垂れる中、俺は回復魔法で男の腕を治す。


「…っ!?回復魔法!?何がしたいんだてめぇはぁあああああ!?」


「情報を吐け。出ないと…」


もう一度、俺は男の腕を切り落とし、そして回復させた。


「何度でも繰り返すぞ?」


「こ、この悪魔がぁあああああ!?」


「殺し屋の吐く台詞じゃないな」


その後俺は数回にわたって男の腕を切断しては直しを繰り返した。


男の心が折れて情報を吐くまでにそう時間は掛からなかった。

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