第102話
「まさかこんな内容の試験だとはな…」
それから一時間後。
俺は一枚の紙を手に、帝都の歩いていた。
紙にデカデカと描かれているのは、小さな金髪の男の子の似顔絵だった。
俺は今日から三日以内に、帝都のどこかにいるこの子を探し、同じ帝国ホテルの部屋で待っている彼らの元へ届けなくてはならない。
「人探しか…帝国魔道士団の入団試験にしては拍子抜けというかなんというか…」
もっと魔法の実力を測るようなテストをされるのかと思っていた俺にとってはかなり拍子抜けだった。
…俺はつい一時間前の帝国ホテルでの会話を思い出す。
「君たちにはこの子供を探してもらいたい」
俺、ヴィクトリア、システィの3人の顔を見渡しながらディンが言った。
「誰だ…?」
「誰ですの…?」
「誰だろう?」
ディンの手元の紙には、見知らぬ子供の似顔絵が描かれていた。
「これはとある貴族家の御曹司だ。一週間前に帝都の貴族街付近で攫われた。今もこの帝都のどこかにとらわれているはずだ」
それからディンは、帝都に住んでいれば誰もが一度は聞いたことのあるはずの有名貴族の名前を出した。
「ご両親は最初、自分の私兵を使って捜索させたそうだ。だが見つからなかった。そこで、大金と共に我が帝国魔道士団に依頼を持ち込んだんだ」
帝国魔道士団は、帝国皇族の命令によって動くのみならず、帝国貴族たちの依頼を金で受けることもあるらしい。
今回もその一環ということだった。
「期限は三日以内。お前たちの攫われたこの子を探し出してもらう。その際に3人で共に行動することは許さない。これはあくまで個々人の能力を試すテストだ。3人、別々のルートからこの子にたどり着け。いいな?」
「「「…っ」」」
わかってはいたが、まぁそうなるよな。
3人別行動と聞いて、俺は一瞬システィとヴィクトリアの心配をした。
器用な二人のことだ。
三日もあれば、攫われた子供にたどり着くことなんかわけないだろう。
だが、さらった人間たちの背後にどんな組織が潜んでいるかわからない。
単に数人の身代金目的の賊の仕業なら話が早いが、なんらかの組織や権力者……例えば、敵対する貴族家などがその背後にいる場合は非常に面倒なことになる。
「二人とも、大丈夫か?」
俺は緊張した面持ちのシスティとヴィクトリアに確認する。
「だ、大丈夫ですわ…!」
「やってみせるよ、アリウスくん!」
二人は若干不安げな表情ながらも、自らを鼓舞するようにそう誓ってみせる。
「そうか…」
命の危険があればすぐに降りてくれ。
そう二人に言おうとしたが、覚悟を決めたような二人の表情に軽々しく口にできないと慌てて引っ込めた。
「ここへきて他人の心配か…アリウス・エラトール。相変わらず君は自信過剰で気に食わないやつだ。自分が失敗することは考えないのか?」
「…」
考えていない。
あまり舐めないでほしい。
そう言おうとしたが、プライドの高いディンを刺激するかなと思ってやめておいた。
「最後に、くれぐれも忘れてほしくないのは、この依頼には帝国魔道士団の名前がかかっていることを忘れるな。君たちの失敗は、我々帝国魔道士団の失敗となり、依頼任務失敗の情報が出回れば、その権威は失墜することになる。そうなれば……我々は君たちを始末せざるを得なくなるかもしれない」
「「「…っ」」」
ごくりと俺たちは唾を飲む。
失敗の許されない入団テスト。
そのことを今はっきりと自覚する。
「では行ってこい。あぁ、あと、そこにある資金を忘れるな。情報集めには、時には金がかかることもある。最初にこちらからある程度の資金を提供するから、なんとしてでも攫われた子供を見つけ出せ。いいな」
「おぉ…」
「こんなに…?」
「驚きましたわ…」
その後、俺たちはディンたちから多額の資金を受け取って攫われた子供の似顔絵を手に、帝国ホテルを後にしたのだった。
「あいつら…大丈夫かな?」
帝都をぶらぶらと歩きながら、俺はシスティとヴィクトリアの心配をする。
最悪二人がこの入団テストに落ちてしまっても構わない。
命を落とすことだけはどうにか回避してほしい。
「3人一緒ならな…」
3人一組で行動できれば、俺が彼女たちを守ることも出来たのだが…
「まぁ信じるしかないな」
今は彼女たちのことを考えていても仕方がない。
二人だって、れっきとした魔法の実力者だ。
間も鋭いし、頭脳は俺より明晰。
そう簡単に危機に陥ったりはしないだろう。
「あの二人よりも先に、この子供にたどり着く。そうすれば…先回りして危険を排除することも出来るんじゃないのか…?」
考えてみればそうだ。
となるとますますさっさとこの子供の居場所を突き止めなくてはいけない。
「さて…」
俺は足を止めて当たりを見渡す。
広い帝都をあてどなく歩いていても、ターゲットを見つけることは出来ないだろう。
どこか情報が集まるところを絞って、重点的に探っていく必要がある。
…となれば。
「まぁ、あそこしかないよな」
俺は帝都の情報が集まる場所に一つ心当たりがあった。
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