第101話


「…」


俺は大柄の男をじっと見つめる。


筋肉質で、身長は二メートル近い。


周囲を威圧するような迫力があり、魔法使いというよりも戦士に見える。


「お前か…?」


「ち、違いますわ」


「じゃあお前か?」


「ち、違いますっ」


「それじゃあ…」


「これだよ、これ」


ヴィクトリア、それからシスティに順番に確認していった大男にディンが俺を指差して言った。


「そうか…お前か」


大男が俺を見下ろす。


「ええと……初めまして。アリウス・エラトールです」


俺は大男に向かってそんな挨拶をした。


「アリウス…か。俺はジーク。よろしくな」


差し出されたジークの手を俺は握る。


ジークが腕をぶんぶんと振った。


「強いやつは好きだ。特に若くて強いやつは…。お前の年齢でディンを倒したと言うことは、才能を持ちかつ努力を怠らなかったのだろう。尊敬に値する」


「は、はぁ…」


いきなり褒められて俺は戸惑ってしまう。


「だが…実戦で役に立つかどうかは別問題だ。帝国魔道士団の魔法使いには、単純な魔法戦の強さ以外にさまざまな能力が求められるからな。お前が俺たちと共に仕事をするのにふさわしい人間であることを入団テストで示せ。いいな?」


「…頑張りますけど」


「よし」


ジークは俺を見据えて何度か頷いた。


それから俺の後ろの二人に目を写していった。


「ところでそこの二人はなんだ?お前の女か?」


「「なっ!?」」


二人が目を見開き、怒り出す。


「い、いきなりなんの話ですの!?」


「ち、違いますから…!!私たちはアリウスくんの女じゃないですから…い、今はまだ(ボソッ)」


「なんだ、見せびらかすために連れてきたわけではないのか」


ジークがあっけらかんと言った。


どうやら二人を単なる俺の取り巻きと見做しているらしい。


「この二人は俺の同級生で、一緒に帝国魔道士団に入ることを誓った仲間です」


「ふむ…」


ジークは二人を見てアゴを撫でる。


「お前に比べ、この二人は弱い…とても入団テストを突破できるとは思えないがな」


「「…っ」」


ジークの舐めた物言いに、二人は目を見開き、抗議の声を上げようとする。


だが、その前にディンが口を挟んだ。


「ジーク。この二人もそれなりの実力者だよ。戦った僕が保証する」


「ほう…?そうなのか?」


ジークが二人を繁々と眺める。


「「…!」」


システィとヴィクトリアは負けじとジークを睨み返す。


「…へぇ。プライドの高いディンにそこまで言わせるとはね」


「一人はディンを凌駕して、二人はディンに認められているわけね…見かけによらず今年のは結構有望?」


「て、帝国魔術学院のトップの生徒たちなのですから、すごいに決まってますよぉ…!!みなさんの感覚の方がおかしいんですぅ…」


ディンの言葉で、他の3人もシスティとヴィクトリアに一目置いたようだった。


その後俺たちは互いに自己紹介を済ませた。


こちらは俺とシスティとヴィクトリア。


それぞれの簡単な素性と、適性のある属性、使える魔法について話した。


一方で、ディンたちは単に名前を言っただけだった。


まだ俺たちが入団するかは決まっていないため、それ以上の情報を明かすわけにはいかないと言うことだろう。


「それじゃあ、自己紹介も済んだんだしいい加減次のステップにいきましょうよ」


自己紹介が終わるや否やそう言い出したのは、スタイルのいい緑髪の女性。


名前はファウマというらしい。


エレナほどじゃないが、背がすらりと高く、スタイルが抜群の美人だ。


「そうだぜ。そいつらが入団に足る魔法使いなのか、さっさと見極めよう。俺はまだそいつがディンを倒したってのも半信半疑だぜ」


俺を指差しながらそう言ったのは、不自然なほどに痩せこけた細身の男、グリルだ。


ここへきてからずっと終始、俺たちを小馬鹿にするような笑みを浮かべ続けている。


「が、頑張ってくださいね、3人とも…!私はディンさんを倒した話は信じますし応援していますから…!」


そして終始おどおどしながら、俺たちの味方をしてくれている低身長の女性は、ネフィアだ。


こちら側の3人の中で1番身長の低いシスティよりも、頭ひとつ背丈が低い。


まるで十歳ぐらいの幼子のような容姿だが、それにしては胸があまりにもふくよかだ。


体は小さいのに、女性の部分だけが自己主張が激しく、非常に見るものにアンバランスな印象を与える。


「そうだね。じゃあ、そろそろ入団テストの内容を伝えようか。ここにきたってことは、3人とも覚悟は出来ているだろうね?」


3人の意見をまとめるようにして、ディンが言った。


意思を確認するかのように俺たちを見てくる。


「「「…!」」」


俺たちは互いに顔を見合わせあって頷いた。


「もちろんだ」


「もちろんですわ」


「もちろんです!」


覚悟は出来ている。


帝国魔道士団に入団するためのテスト。


なんとしてでも突破して、俺たちは帝国最高の魔法使いが集まる帝国魔道士団に入団する。


そして俺は更なる魔法使いの高みを目指す。


そのために今日ここにきたんだ。


「よし…よろしい。じゃあ、今から入団テストの細かく説明する。と言ってもそんなに難しくはない。

まず大枠から言うと……君たち3人に、誘拐された貴族の息子を救い出して欲しいんだ」


そうしてディンは、入団テストの内容を語りだしたのだった。


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