第43話


「信じられない…!と、トリプルなど…歴史上数人しか存在しなかった逸材だぞ…!!そんな魔法使いが…帝国魔術学院に…?」


「ええと…俺のことは誰からも何も聞いていないのですか?」


「へ、辺境の領地から貴族家の息子が編入してくるとしか……り、理事長はなぜお教えくださらなかったのか…」


「ははは…驚かせてしまいましたか?」


「ああ…本当に驚いた…心臓が止まるかと思ったぞ」


「大袈裟ですね」


「大袈裟なんかじゃない…!!」


はぁ、はぁ、と肩で息をするセシル。


俺がトリプルだったことがよほどの驚きだったようだ。


深呼吸を繰り返し、荒くなった息を整えている。


「大丈夫ですか?」


少し心配になったので声をかけると、セシルは大丈夫だというように頷いた。


「すまない…もう大丈夫だ。では…残りの属性鑑定をさっさとすませてしまおう」


そういってセシルは次に、緑色の水晶……風属性の水晶を俺の前に出してくる。


「さあ…あと風属性に土属性だけだ。手早くすませてしまおう」


「わかりました」


俺は何も考えずに風属性の水晶に手を翳そうとして……慌てて引っ込めた。


「も、もう必要ないでしょう?俺はトリプルです。残りの属性は鑑定する必要がないのでは?」


危なかった。


もし今風属性の水晶に手を翳していたら、風属性にも適性があることがバレてしまうところだった。


四つ以上の属性に適性がある人間なんて歴史上に一人も存在しない。


もし俺が火、水、光に加えて風属性の魔法まで使えるなんてバレたら間違いなく大騒ぎになり、学院生活どころではなくなってしまうだろう。


「そうはいってもな…一応手続きとして五つの属性全ての確認を…」


「ゆ、融通を聞かせてくださいよ…四つ以上の属性に適性なんてあるはずがないじゃないですか…省略しましょう…ね?」


「むぅ…まぁ、そうか」


セシルは若干納得がいっていないような表情ながらも、引き下がってくれた。


「ふぅ…」


俺はほっと胸を撫で下ろす。


「よし…では次だ。ついてこい」


水晶を下の場所に戻したセシルが、倉庫を出て歩き出す。


「え…まだあるんですか?」


「次が最後だ。ほら、早く」


「は、はい…」


つかつかと歩き出すセシルに、俺は慌ててついていく。




「ここは…?」


「魔法訓練場だ」


魔道具の倉庫で魔法測定を終えた俺たちが次にやってきたのは、魔術学院の本校舎に併設された巨大な施設だった。


「魔法訓練場?」


「ああ。互いを高めるために模擬戦を行なったり、魔法の実技の授業に使われたりする場所だ。見ろ」


そういったセシルが指差した場所には、制服に身を包んだ数十名の生徒が整列していた。


「あれは?」


「学院の生徒だ。これから実技の授業を行うのだろう」


「へぇ…」


エレナとの修行のように、互いに戦ったりするのだろうか。


少し面白そうだ。


「あれ…?でもなんで俺をここに?まさか…」


セシルとタイマンで戦うことになるのだろうか。


そう思ってセシルを見たが、俺の意図を察したセシルは首を振った。


「違う違う。別に魔法戦をしにきたわけではない。あれが見えるか?」


セシルが前方を指差した。


「的、ですか?」


そこには、円の描かれた四角い的が存在した。


距離にして三十メートルといったところだろうか。


「そうだ。オリハルコンという金属でできている」

「オリハルコン…」


知っている。


昔読み漁った書物に書かれてあった。


この世界で1番硬い金属のことだ。


「これが最後の試験だ。アリウス。お前になら出来ると信じている。挑戦は三回までだ」


セシルがポンと俺の方を叩いた。


「なるほど…わかりました」


いいながら、俺はちょっとセシルに腹を立てる。

ったく。


何が簡易的な試験だ。


この世界で1番硬い金属、オリハルコン製の的を壊す。


それが最後の試験内容ときた。


なるほど。


さすが帝国魔術学院。


これくらいを簡単に出来る生徒でなくては、入る資格はないということか。 


いいだろう。


やってやる。


チャンスは三回あるんだ。


つまり三発の魔法を打ち込んであの的を破壊すれば合格だ。


…全力でやれば決して不可能ではないのだろう。


「緊張しているのか?だが、これくらい出来なければ、学院の授業にはついていけないぞ?」


表情を強ばらせる俺にセシルがそんなことを言ってくる。


「だ、大丈夫です…必ずやってみせます」


俺は自らを叱咤するようにそういって、的に向かって腕を構えた。


「おい見ろよあれ…」


「噂の編入生じゃないか?」


「何してるんだ?」


「さあ…編入試験とかじゃないか?」


俺が集中して魔力を練り上げていると、何やら授業中の生徒たちがこちらに注目し出した。


「なんか見られてません…?」


「構うな。集中しろ。チャンスは三回こっきりだぞ」


「…はい」


俺は極力こちらを見てくる生徒たちを視界に入れないようにしながら、魔法を練り上げる。


「強く、速く、鋭い魔法を…」


頭の中の想像を魔力を使って具現化させる。


「これだ…!!」


掴んだ。


これならいける、とそう思わせるようなイメージが頭の中で浮かび上がった。


俺は莫大な体内魔力を惜しみなく使って、頭の中のイメージを形にする。


「炎の矢よ…」


生成されたのは炎の矢。


火属性上級魔法のフレイム・アローだ。


「これを…回転させて…」


ただ炎矢を飛ばしただけでは、オリハルコンの的は破壊できない。


なので俺はさらにここからアレンジを加える。


「回れ…回れ回れ回れ…」


空中に浮かんだ炎の矢が回転し出す。


イメージするのは弾丸。


銃身から放たれた弾丸は回転しながら飛び、中空でさらに速度を増すという。


「もっと…もっと魔力を込めるんだ…」


「おいおいおいおい!?何をしている!?」


炎の矢の回転スピードがどんどん上がっていく。


近くで見守っていたセシルが悲鳴のような声をあげる。


「魔力を込めすぎだ…!!一体何をする気なんだ、アリウス…!!」


「うるさいです!!黙っていてください!!」


集中を書いては的を破壊できない。 


俺は少し語気を荒げながらそういって、魔法発動の最後の工程を完了させる。


「行けっ…!!スピニング・フレイム・アロー!!」


爆発的な魔力の放出。


アレンジされた炎矢が、豪速の回転と共にオリハルコンの的目掛けて直進していった。


…その直後。


ドガァアアアアアアアアアン!!


凄まじい衝撃音が周囲を蹂躙した。

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