第44話


「どうだ…?」


確かな手応えを感じだ。


込めた魔力も十分だったはずだ。


あたりに立ち込めた埃が収まるのを俺は待つ。


やがて…


「よし!!」


埃が晴れてその先に、完全に破壊された状態で地面に倒れているアダマンタイトの的が姿を現した。


挑戦一回目で成功したことが嬉しくて、俺はガッツポーズをとる。


「なぁ…あ…あぁ…」


「やりましたよ、セシル。どうですか?」


これで試験はクリア。


俺は晴れて魔術学院の生徒となったはずだった。


…だが、おかしい。


セシルがポカンと口を変えて俺を見ている。


なんだ?


まだダメなのか?


もっと完膚なきまでに的を破壊しなくては行けなかったのだろうか。


「セシルさん?」


俺がセシルの肩を叩くと、セシルがびくりと体を痙攣させた。


それから俺をぎろりと睨んで怒鳴りつけてくる。


「ななな、何をしているんだ貴様は!!」


「えっ?」


「誰が的を破壊しろといった!?何を考えているんだ!?」


「えっ」


まさか怒られるとは思わず、俺は呆気に取られてしまう。


俺は何かまずいことをしただろうか。


「的を破壊する試験じゃなかったんですか?」


「そんなわけあるか…!!」


「じゃあ試験内容は?」


「魔法を的に当てることだろうが!!」


「え…それだけ?」 


なんだそれ。


簡単すぎないか?


この距離から魔法を放ってあんな大きな的に当てるだけが試験?


外す方が逆に難しくないか?


そんなのが帝国一の魔法学校と言われた帝国魔術学院の試験なのか?


いや、簡易的な試験ではあるのだろうけど。


「な、なんなんだよお前は…?なんだあの威力の魔法は…信じられない…アダマンタイトを破壊する魔法だと…何者なんだよ貴様は…?」


「いや、そんなこと言われても…」


まるで化物を見るような目をセシルに向けられる。


あ…この視線は覚えがある。


エラトールの屋敷で生活していた時に、かなりの頻度で周囲の人間に向けられる目だ。


「ええと…なんかすみません…」


そうか。


的にただ魔法を当てるだけでよかったのか。


「やばいな…」


俺はセシルの驚く様を見て、だんだん自分のしたことのデカさを認識し始める。


「お、おい…見たか今の…」


「信じられん…アダマンタイトの的を破壊した

ぞ…?」


「だ、誰なんだあいつ…!?帝国魔道士団の人なのか!?」


「でもうちの学校の制服を身につけているぞ…?」


「もしかして噂の編入生か?」


「いやいや、なわけあるか。あんな魔法の実力者にうちで学ぶことなんて何もないだろ…」


見物していた生徒たちがこちらを見て、ざわざわと噂話をしている。


まずい。


とてもまずい。


学院の備品を破壊して、授業の妨害までしてしまった…


ひょっとしてこれ、編入初日で追い出されるんじゃ…


「ま、まぁいい…ともかく試験は合格としよう…いや、もう合格とかいう次元じゃないな…アリウス…お前はもう、うちじゃなくて帝国魔道士団にでも入った方がいいんじゃないか?」


「ははは…面白い冗談ですね」


「…」


「…すみません」


俺は大袈裟なセシルのジョークを笑い飛ばそうとしたが、セシルの真剣な表情を見て慌てて謝ったのだった。




その翌日。


「じゃあ、アリウスくん。自己紹介をして」


「はい……ええと、エラトール領からきた、アリウス・エラトールです。今日からこのクラスでお世話になることになりました。よろしくお願いします」


昨日あんなことがあったので、俺の編入は取りやめになるのではないかとヒヤヒヤしたが結果としてそうはならず、俺は帝国魔術学院のクラスに一生徒として配属された。


早朝。


授業が始まる前に、同年代のクラスメイトたちの前で自己紹介をさせられる。


俺が貴族の作法に倣って挨拶をするとパチパチと拍手が起きた。


「すげぇ…本当にきた…」


「あれが噂の編入生…」


「ちょっとカッコ良くない…?」


「私タイプかも…」


「エラトールって…あの『挟み返し』を考えた家だよな…?」


生徒たちのそんな噂話が聞こえてくる。


どうやら昨日俺がしでかしたことは、すでに生徒たちの間に広まっているらしかった。


「はい。自己紹介ありがとう。じゃあ、アリウスくんの席は…あっちの空いてるところだね」


「はい」


温和そうな担任に指示され、俺は後ろの方の空いている席に座る。


「それじゃあ、皆、しばしの休憩。最初の授業の準備をするように」


俺が自己紹介を終えた後、授業までにちょっとした小休憩があった。


担任がクラスを出ていった途端に…


「アリウスくん…!!ようこそうちのクラスへ!!」


「アリウスくん…!アダマンタイトの的を破壊したって本当かい!?」


「ねぇ、アリウスくん!!エラトール家って、あの『挟み返し』を考え出した家だよな!?もしかしてあのゲームは君が考えたのかい!?」


「アリウスくん!!どうしてこの時期に魔術学院に編入を!?」


「アリウスくん!!君はあのクラウス王子と繋がりがあるって噂があるんだけど、本当かな!?」


「アリウスくん!!彼女とかいるの!?教えてほしいな!」


「アリウスくん!!」


「アリウスくん、アリウスくん!!」


「ええと…じゅ、順番にお願いできるかな…?ははは…」


俺は生徒たちの質問攻めに会うのだった。









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