第3話
領主の子供である俺が洗礼の儀を受けるという噂を聞きつけたのか、エラトール家の領内に一つしかない教会には、たくさんの見物人たちが詰めかけていた。
「来た…!領主様だ…!」
「シルヴィア様もいるぞ…!」
「あれが時期領主のアリウス様か…」
「母親似だな…とても整った顔立ちだ」
俺が両親と共に教会内に入ると、領民たちがヒソヒソを噂話をした。
「お待ちしておりました、アイギス様…。シルヴィア様、それにアリウス様も」
祭壇から壮年の神父が降りてくる。
領主であるアイギスに対して恭しく礼をした後、シルヴィア、そして俺にもお辞儀をしてきた。
「神父様、今日はアリウスがお世話になります」
シルヴィアがにっこりと微笑んだ。
俺も神父様に対して軽く会釈をする。
「神父。早速息子を頼む…息子にはきっと魔法の素養があるはずだ…とびきりの洗礼を頼んだぞ」
「あなた」
「…う。すまん」
またしても俺にプレッシャーをかけ出したアイギスに、シルヴィアがピシャリといった。
シルヴィアに弱いアイギスは、しゅんとして項垂れる。
「お母様。お父様を叱らないでください。お父様の言うようにきっと俺には魔法の素養があります。自信があるんです。神父様。洗礼の儀をよろしくお願いします」
「おぉ…!息子よ…!」
俺の強がりに、アイギスが感動している。
「アリウス…立派になって…」
シルヴィアも何やら涙ぐんでいる。
自分達が天塩にかけて育てた息子が、力強く育っていく様は、親にとって嬉しいことなのだろう。
まぁ、そもそも俺の精神年齢はとっくに大人なので縁起ではあるのだが。
「ではアリウス様。こちらへ」
「はい」
そしていよいよ洗礼の儀式だ。
神父が俺を導いて祭壇に上がる。
俺は事前に教わっていた通りに、祭壇の奥にある女神像の前に膝をついた。
「そうそう、そうです…アリウス様。そうして跪いて目を閉じて手を合わせ……女神様に祈りを捧げるのです」
「はい…」
俺は神父に言われた通り、女神像の前で手を合わせて祈りまくった。
これはこの世界に伝わる伝統的な儀式だ。
これをやれば魔法の素養が上がるとかそう言うことではないが、しかし、しきたりとして必ず行うことになっている。
どうか、魔力が足りてますように…
いずれかの属性に適性が現れますように…
俺は効果があるかはわからないが、ひたすら女神像の前でそう祈りまくった。
「それくらいでいいでしょう。さあ、ではいよいよ洗礼の儀を執り行いますよ」
神父が俺の手を取って祭壇の中心に立たせた。
そして懐から透明の玉を取り出した。
「まずは、アリウス様。あなたの体内魔力の量を測ります。この透明な水晶が紫色に染まれば……あなたには魔法の素養があることになります。もし何の変化もなければ…」
「ええ、わかっています」
言いづらそうにしている神父に俺が助け舟を出す。
この魔力測定の水晶に何の反応もなければ……それは俺の魔力が足りておらず、その場で魔法使いになる素養はないと断定される。
…覚悟はできている。
俺はごくりと唾を飲んで、水晶に手を翳した。
「そうです…そうやって手を翳して…あとはしばらく待てば…」
通常、魔力測定にかかる時間は五分。
こうして魔力測定推奨に手をかざすことで、その者に魔法の才覚がある場合、少しずつその透明な球が紫に染まっていくらしい。
だが、今回に限っては五分も待つ必要がなかった。
五秒ほど経った頃、水晶が紫色に染まり始めたからだ。
「「「「おおおお!!!」」」」
人々からどよめきが上がる。
「息子よ!」
「アリウスちゃん!!」
背後ではアイギスとシルヴィアも興奮した声をあげている。
「すごい…!こんなにすぐに水晶が染まったのは初めてだ…!アリウス様…あなたの魔力量は相当ですぞ…!」
神父までもが、目を見張ってそんなことを言った。
俺はひとまず第一の関門を突破したことに安堵する。
「それじゃあ、そろそろ手を翳すのをやめても…?」
「ええ、もう十分です、アリウス様」
許可が出たので俺が水晶から手を離そうとする。
その時だった。
ビキビキ…!
パリン…!!
「…っ!?」
唐突に魔力測定の水晶にヒビが入り、粉々に砕け散った。
突然のことに、俺は驚いて少し飛び上がってしまう。
「ななな…なんと…!」
神父が愕然と俺をみた。
「す、すみません…!壊すつもりは…!」
何もしていないのにどうして壊れのだろう。
そう疑問に思いながらも、俺は魔力測定水晶が効果な道具であることを知っていたため、破壊してしまったことを神父に詫びる。
すると神父様がぶんぶんと首を振った。
「違います、アリウス様…!せめているのではありません…!あなたは…あなたさまには…とんでもない魔法の素養がある…!」
「へ…?」
神父様が突然感極まった声で言った。
「魔力測定水晶が破壊された……それはつまり、あなたさまの魔力量が、この水晶で測定できる範囲にとどまらなかったと言うことです…!アリウス様に、とんでもない魔法の才覚がおありだと言うことです…!」
「ええと…どう言うこと…?」
よく意味がわからなかったが、その後、深呼吸をして落ち着いた神父に詳しく話を聞いたところ、魔力測定水晶には測定限界値というものがあり、その限界値を超える魔力の持ち主が手を翳すと、水晶が壊れてしまうと言うことだった。
つまり早い話が、俺の体内魔力が、測定不能なほどに多かったと言うことである。
「「「おおおお!!すごい…!!」」」
「さすが領主様の息子だ…!」
「測定不能の魔力量だと…!?」
「とんでもない才覚じゃないか…!」
話を理解した領民たちがどよめきをあげ、中には俺に拍手を送る者もいる。
「ふふん…私の息子なのだから、当然だな」
アイギスは誇らしげにそういい、シルヴィアは…
「よかったわね、アリウスちゃん」
自分のことのように嬉しげにしている。
そんな中神父が言った。
「では次に、適属性を調べたいと思います」
その一言で一気に場が緊張した。
俺も少し浮かれ気味だった気分を引き締める。
いくら魔力量が多くとも、何らかの属性に適性がなければ魔法を使うことは出来ない。
「大丈夫…俺ならいける…きっと適性はあるさ…」
俺が自分自身をそう鼓舞する中、神父が懐から五つの水晶を取り出した。
それぞれ、赤、青、黄、緑、茶の色をしている。
「アリウス様、これらはそれぞれ、火属性の水晶、水属性の水晶、光属性の水晶、風属性の水晶、そして土属性の水晶です。今から順番に、この五つの水晶に手を翳して適性を調べます。五つの属性の水晶いずれかに反応があれば、アリウス様は晴れて魔法使いとなることが出来ます」
「はい」
もともと知っていた話なので、俺は頷いた。
要は魔力測定の時と同じだ。
今からあの五つの水晶に手をかざす。
すると適性のある属性の水晶が光だす。
五回やって、一回でも水晶を光らせれば、俺は魔法を使うことが出来るのだ。
「いずれかの属性に適性があることをお祈りしています。では、始めましょう…」
神父様が、まず火属性の水晶を俺の方へ持ってきた。
「さあ、まずは火属性から調べましょう…手を翳してください、アリウス様」
「…はい」
俺は覚悟を決めて火属性の水晶に手を翳す。
「息子よ…」
「アリウスちゃん…」
「「「「アリウス様……」」」」
その場にいる人々全員に固唾を飲んで見守られる中、俺は火属性の水晶に反応が現れるのを待った。
次の瞬間…
「「「「おおおおお!!!」」」」
またしても人々の間にどよめきが上がった。
俺が手を翳した火属性の水晶が眩い光を上げ出したからだ。
「うおおおお!!息子よぉおおおおお!!!」
俺が歓喜の声を上げようとした次の瞬間、背後からアイギスが迫ってきて俺に抱きついてきた。
そして俺の体を持ち上げて振り回してくる。
「よくやった!本当によくやったぞおお!!お前は私と同じ、火属性の魔法使いだ…!」
「うおっ!?お父様!?」
興奮し、俺を高々と持ち上げて喜んでいる。
どうやら俺に魔法の素養があったこと、そして自分と同じ火属性が適正だったことが嬉しかったようだ。
「きゃあああ!!アリウスちゃん!!よかったわぁああ!!」
見ればシルヴィアも黄色い感性をあげている。
シルヴィアの場合は、魔法の適性があったこと自体よりも、俺自信がガッカリせずに済んで安心していると言ったところだろうか。
「素晴らしい!」
「さすが領主様の息子だ…!」
「あなたこそ時期領主にふさわしいお方だ…!」
「アリウス様!アリウス様!!」
一部始終を見ていた領民たちも次々に賞賛の声を送ってきて、一部ではアリウス様コールが始まっていた。
「うおっほん!みなさん、まだ洗礼の儀式の途中ですよ!」
どんちゃん騒ぎの中、神父が咳払いをした。
「皆様。アリウス様に魔法の素養があって嬉しいのはわかりますが、まだ洗礼の儀式の最中です。全ての属性に適性があるかどうかを確認するまでが儀式ですので。ご理解を」
「そ、そうだった…!すまん、神父」
アイギスが慌てて謝って俺を下ろした。
「ごめんなさい、私も興奮しすぎたわ」
シルヴィアも反省して、祭壇から離れた。
俺はひとまず自分が魔法使いになれることがわかって安堵しながら、神父と向かい合った。
「おめでとうとざいます、アリウス様。ですが、まだ洗礼の儀は終わってはいないのでご理解を」
「はい…すみません」
「いえ、いいのです。嬉しい気持ちもわかります。ですが、アリウス様。もしかしたらあんたには、2属性以上の適性があるかもしれません」
「ダブル…と言うことですか?」
「ええ。何せ、あなたには水晶を砕くほどの魔力があるのですから」
そう言って神父が次の水晶を取り出した。
「次は水属性の水晶です。では手を翳してください」
「はい」
俺は言われた通りに水属性の青水晶に手を翳した。
まぁ、神父はそう言ったがダブルなんて本当に一握りの魔法使いだけだ。
水属性の水晶に反応は現れないだろう。
そう思った俺は、次の瞬間自身の目を疑うことになる。
「は…?」
思わずそんな声が漏れた。
俺が手を翳してすぐに、水属性の水晶が眩く輝いたからだ。
「「「「おおおおお!!!」」」」
領民たちからどよめきが上がった。
さっきよりも数倍大きなどよめきだ。
そりゃそうだろう。
火属性と水属性。
二種類の属性の水晶を光らせた俺は、いわゆる『ダブル』であることが確定したのだから。
「うおおおお!!息子よ…!お前ってやつはぁあああああああ!!」
「きゃぁああああ!!アリウスちゃん!ダブルだなんてすごいわ…!!」
そしてまたしても俺に飛びついてくるアイギスと黄色い歓声を上げるシルヴィア。
さっき神父に注意されたばかりなのに、またしてもどんちゃん騒ぎが始まってしまった。
数分後、案の定神父の咳払いによって嗜められる。
「うおっほん!!みなさん、ご静粛に…!」
神父の一言で全員が静かになる。
「アリウス様がダブルだとわかって興奮するのもわかります!ですが先ほども申し上げた通り、まだ洗礼の儀は終わっていません…!全ての属性の適性を調べ終えるまでが儀式なのです!!」
先ほどよりも語気を荒げる神父に、全員が一斉に口を閉ざした。
アイギスもシルヴィアも、反省した面持ちで祭壇から離れていく。
「な、なんかすみません…俺のせいで…」
俺は内心喜びを噛み締めながらも、神父にそう謝った。
「いえ…いいのです。実を言うと、私も久しぶりに選ばれた才覚を目にして少し興奮しました。では儀式を続けますぞ」
そう言って神父が黄色の水晶を手に取った。
シルヴィアの適属性である光の水晶だ。
「次に光属性の適性を調べます。さあ、アリウス様。手を翳してください」
「はい」
言われた通りに、俺は手を翳す。
すでに俺にとってここから先は消化試合だった。
だって、当初は魔法使いになれるかどうかも怪しかったのだ。
それが、魔力測定水晶を壊すほどの魔力、そして、火と水の二つの属性に適性が出た。
これは俺に取って十分すぎる結果だった。
ふふふ…
ここから俺の魔法を駆使したワクワクファンタジー生活が幕を開ける…
俺は目の前の水晶に集中せず、上の空でそんなことを考えていた。
だから…
俺が手を翳した光の水晶が輝いていることにすぎには気が付かなかった。
「さあ、神父様…そろそろ次の水晶を…え?」
異変に気づく。
神父様があんぐりと口を開けて固まっていたからだ。
「あれ…みんな…?」
神父様だけじゃない。
周囲の人間たちも、目を丸くして口を開き、時が止まったように固まっている。
全員の視線が、俺の手の中に集まっていた。
「あ…」
そして俺はようやく気づく。
自分が手を翳している光の水晶が輝きを放っていることに。
「え…嘘だろ…と、トリプル…?」
俺の呟きが、教会の空気に溶けて消えていった。
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