魔王城最終攻略作戦②

 ー魔王城 外ー


 魔王城の外側。

 浅く草の生えた土地で、二人が対峙する。


(敵は勇者、か。これは、本気を出さないとまずいかな)


 ブリュンヒルト中佐が眼鏡を取り出す。


(眼鏡を掛けた......?どういうことだ)


「貴方が人類に害するなら、殺さなくてはなりませんね」


(裏切り者の存在は、妹を危険に晒す。許容できないね)


 先に発動したのは、氷の魔法だった。


「『愛し狂うは白雪桜(Icicle Brake)』 !」


 弾ける氷が、対象を破壊せんと放たれる。


「第三章『神罰』」


 空から光の槍が降り注ぎ、氷を弾いて消し飛ばした。


(この間合いじゃ不利だな、近づかないと)


(おそらく勇者は近づいてくるだろうね。そうなったらチャンスだ。)


 勇者は、その場から駆け出して氷の発生源へと向かう。



(ただで近寄れると思った?)


「『凍て付き穿つは粗目雪(Freeze Burst)』 !」


 氷の槍が、迫る勇者へと放たれる。


「第四章『執行』」


 光輝く横一閃が、氷の槍を二つに斬る。


(届いた......これで終わりだ......!)


 地面を蹴って跳びあがり、氷を躱して、剣に光を込める。



「第一章『救済』」


 十字の光は、氷を消し去りながら中佐の体を切断しようとした。


 だが、その光は、寸前で全て必要最低限の動きで躱された。


(全て躱した......?)


「全て見えていますよ、貴方の攻撃は」


「そうかな」


 そのとき、中佐の頭上に投げられた短刀が光った。


「第二章『断罪』」


「ッ!?『天を穿つは氷雪山(Blizzard Lost Sky)』 !」


 頭上から降り注ぐ光を、氷の山を築き防いだ。


(やられた......!こんな攻撃手段を隠し持っていたなんて)


(このまま追撃する。喰らえ)


「『第五章『審判』」


 下から光が突き上がり、中佐を突き刺す。


「くっ!?」


 身を躱したが、一歩間に合わず、左肩に刺し傷を負った。


(こんなところで、まだ......!負けられない......!)


「『天を穿つは氷雪山(Blizzard Lost Sky)』!」


(その技は氷の山か。それなら、僕の光の方が速い)


「第二章『断罪』」


 剣から光を解き放ち、中佐を消し飛ばそうと、剣を構えた。



「がっ!?」


 そのとき、勇者の腹にが突き刺さった。


(これは......技が違う!?)


(刺さった! イメージを誤魔化し、技名と違う技を発動する騙し討ちみたいな攻撃。かなり威力が落ちるけど、喰らわせられたなら上出来かな)


 腹から出血し、勇者は少しだけ驚いた。


「『咲き乱れるは雪月花(Flower of Blizzard)』 !」


 そこを狙って、咲き乱れる氷で追撃する。


 勇者はすぐに体勢を立て直し、それを弾きながら躱すが、所々を氷で刺された。


「『凍て付き穿つは粗目雪(Freeze Burst)』 」


(今度はどの技で来る......!?)


 勇者は無意識の内に凍て付いて穿つ氷の槍を警戒する。


 だが、それとは異なり、四方八方から咲き乱れる氷の花に対処できず、全身に傷を負った。


(攻撃が読めない......!だが、手がないわけじゃない)


 剣の先端に強い光を集め、舞い散る氷に反射させる。


 そして、空間を乱反射していく光をにぶつけた。


(視界を奪われたッ!?)


「残念。僕の方が、一手上だ」


 一瞬の隙を突き、攻撃を繰り出す。


「いいえ、それは勘違いですよ」


 勇者の攻撃は、上空から落ちる氷によって防がれた。


(馬鹿な......視界を失ってここまで精密に攻撃できるはずが......)


(もともと目が悪かった分、他の感覚は良いので。あなたが攻撃を繰り出すための足音で全てわかりますよ)



「『刹那に咲くは徒桜(Merveille Brunhild)』」


(ここに来てまだ新技を隠し持っていたのか......!)


 不明な攻撃に備えて四方八方を警戒する勇者に、まっすぐ氷が突き刺さる。


(いや、違う......! 技名は架空か。一瞬の隙を作るためのッ)


「さようなら、勇者さん」



 そこですかさず、中佐の足元に置いていた短刀の光魔法を発動する。


「そうだな、お別れだ」


「なっ......!?」


 足元から光が放たれ、中佐は氷で防いだが、全身に傷を負った。


(さっき、一瞬視界を奪ったときに、設置されたっ!?)


(眼鏡を掛けた状態の視界なら、足元は死角になる。思い通りだ)



「『愛し狂うは白雪桜(Icicle Brake)』!」


「第一章『救済』」


 両者ともに深い傷を負い、氷と光が衝突して弾ける。


 そして、互いに構え、最後の攻撃を開始する。




(私が必ず、あなたを守るよ)


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 「お姉ちゃん! これ見て!!」


 低い草の生い茂った所で、雪の降る中、妹が見せてきたのは、一本の白い花だった。


「綺麗じゃない?」


 そう言って、微笑んで花を掲げる。


 目が悪かったから、よく見えなかったけど、きっと綺麗だったんだろう。


 あなたの笑顔を、失ってしまわないように、私は戦う。


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「お姉ちゃん、どこに行くの?」


 勇者になる前、戦いに行く姉を見送った。


「外だよ。私がいなくなっても、いい子にしてるんだよ、ルード。いい子じゃないと、天国に行けなくなっちゃうからな」


 それっきり、姉は帰ってこなかった。


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 そして、両者が向かい合い、光と氷の最後の衝突が始まる。


(イメージするんだ! あの時、綺麗だったはずの花を!)


「『君を想うは雪の華(Memory Your Snowflakes)』!」


 白銀の花が、堂々と咲き誇る。


(力を貸して......ッ!)



「第三章......」

「第四章......」


(イメージを重複させて、技を同時に発動する......!)


「『神罰』」

「『執行』」


 二重の光が輝く中で、氷の白い花が咲く。


 周囲は、その衝撃で、白い光で包まれた。


 そして......




 先に折れたのは、氷の花だった。


(ああ、やっぱり、この技だけは、誤魔化せなかったな)


 全身を深く負傷し、倒れる。



 やがて、その場所の氷と、眼鏡のレンズが砕け散った。





 The ice flower broke............

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