魔王城最終攻略作戦③

 ー魔王城ー


 魔王と、アルフレート少佐とバルタザール大佐が交戦する。


 「中佐と勇者、少し遅すぎないか」


 二人が戻るのが遅く、大佐が疑念の声を上げる。


 「確かにそうですね。少なくともどちらかが戻ってくるはずですけど...」


 「まさか.....!」


 「どうしたんですか、大佐!」


 「時間がない......! 私は先に戻る。悪い、魔王は、お前が倒せ」


 そう言って、大佐は魔王城から出ていった。


 (俺が、魔王を......? いや、やってやる。俺は、英雄になりに来たんだ)



 「『秘剣抜刀、零阿修羅(ゼロアシュラ)』 !」


 一歩踏み込んで、剣を振るう。


 「がっ!?」


 だが、歪みを一発受けるだけで精一杯だった。


 そのとき、魔王城の扉が勢いよく開いた。


 「悪い! 遅くなった!」


 「助太刀するぜ?」


 そこへ来たのは、十人の人類軍の生き残りだった。


「ありがとう! 感謝する!」


(敵は魔王。これまで以上に強敵だ。短期決戦。勝つにはそれしかない......!)


(さっきの風魔法の奴との戦いでかなり消耗した。でも、負けるわけにはいかない。きっとメルシゲェテはここに帰ってくる。だから、ここを守らないと。なら、を使うタイミングが重要だ。

 

 闇魔法には属性がある。草原の黒い騎士なら『使役』、渓谷の蛇なら『破壊』、雪原の竜なら『嵐』、宮殿の奴等なら『分裂』、メルシゲェテなら『混沌』、私なら『歪曲』といったようにだ。

 

 私は昔から歪みを蓄えて準備してきた。一つが心臓に設置してある、時空を歪ませて時を遡る装置。そして、純粋に空間を穿つ、必殺の歪み、封印の歪力。これを使うタイミングで、全てが決まるっ......!)



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 ー‘‘前‘‘世界 魔王城ー


 決戦の地、魔王城。

 魔王の前に立つのは、勇者とアルフレート少佐。

 短い純白の髪に左に赤い目、右に青い目を持った勇者ルードに魔王が問う。


「なぜお前は戦う」


「聖典に書いてあるからだよ」


 勇者が、当然のように答える。


「......みんなを、守るためだ」


 横にいる、誰よりも魔族を殺してきた勇者に怯んで、少佐が言った。


 そして、最後の戦いが始まった。


「来るか、人類」


 魔王が言い、闇魔法の歪みを放つ。


「第二章『断罪』」


 だが、その歪みは光によって消し飛んだ。


「私の魔法を消し飛ばすか......!」


 魔王が驚嘆の声を発すると同時に、を準備する。


 そして、勇者と少佐が一列に並んだタイミングで、封印の歪力は放たれた。



「ッ!?」


 勇者は、咄嗟に光魔法で身を守りつつ躱し、負傷しながらなんとか致命傷を避けた。


 だが、その後ろにいたアルフレート少佐の心臓に、それは命中した。


 そのまま心臓が歪みに飲み込まれ、息を絶った。


「第一章『救済』」


 十字の光、人類の希望の光によって、魔王は討伐された。


 そのまま、疲れが溜まっていたのか、体が重くなり、勇者は地面に倒れた。


 後に、勇者は処刑され、少佐は人類の偽りの英雄となった。



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 ー魔王城ー


「なぜお前は戦う」


 魔王と対峙するアルフレート少佐に問われる。


 少佐は周りにいる仲間を見渡し、そして、あの勇者に一度、僅かでも攻撃が通ったことを思い出す。


「英雄になるためだ」


 覚悟を持って、そう答える。


 問答は終わり、人類と魔族の最後の戦いが始まった。


「......いくぞ!」


 アルフレート少佐が掛け声を発し、人類軍は魔王へと突き進んでいく。


(離れていたら闇魔法に有利だ。近づかないと、僅かな勝ち目も生まれない......!)


(真っすぐ向かって来るか。近づかれる前に、一人でも多く潰すッ!)


 歪みが放たれる中、人類軍は突き進む。


(俺は弱いから、一人じゃ敵わないかもしれない。

 でも、皆となら勝てる。いや、勝ってみせる!)



 歪みを喰らいながら進み、そして、人類軍は残り四人になっていた。


(一番早いやつを仕留める......!)


 少佐に向かって歪みが放たれる。


(躱しきれないッ......!)



「させるかぁ!」


 少佐の前に氷が築かれ、その魔法の発動者は歪みに潰された。


「ッ!」


 残りは三人。

 魔王までの距離は残り十数メートル。



 そのとき、少佐の左腕が歪みを喰らって吹き飛んだ。


「がっ!?」


 前に出されていた左腕が、前方へ吹き飛ぶ。



「飛ばせ!」


 少佐が叫ぶ。

 風魔法によって、勢いづいて魔王の方へ飛んでいく。


「なんだ......!?」


 魔王が歪みを放ち、風魔法を放った兵は死んだ。

 残り二人。


「いっけぇぇぇ!」


 炎魔法が放たれると同時に歪みが放たれ、炎を放った兵は潰れた。


 炎は魔王のすぐ前にあった左腕を燃やし、その場で


(いざという時のために、火薬を手に持っていたんだ)


 魔王は爆発で負傷し、その上視界が爆発の煙で染まった。


(前が見えないっ......! だが、敵はあと一人。封印の歪力を、近づいたときに確実に当てる!)




 ここへ来た、仲間のことを思い出す。


 ーなら俺も負けてはいられないな。勝負だ!


 ーお前が負けたら、次は俺だ。


「それじゃあ、まとめてかかって来たらどうだ」


 ー後悔するなよ! いくぜ!


 仲間と剣を交え、修行していた。




(たとえ、俺一人じゃ勝てなくても......!)


「来るッ......!」


 少佐が魔王の眼前に辿り着き、封印の歪力は心臓目掛けて放たれる。


「『神威絶空、堕天(ソラオトシ)』 !」


(仲間となら、お前に勝てるッ!)


 封印の歪力が心臓を穿つ瞬間、少佐の剣は魔王の心臓を貫いた。


 魔法を切り裂くその一刀は、時限装置ごと魔王の息の根を止めた。




 疲れが溜まっていたのか、体が重くなり、アルフレートは地面に倒れた。


「魔王を倒したのは......俺達だ......」



 そして、英雄譚は静かに幕を下ろした。




 The heroic tale came to an end............

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