ギレイス攻城戦③


 ーギレイス宮殿 2Fー


 長く鋭い爪が、ブリュンヒルト中佐を追い込む。


 両手の爪を同時に繰り出し、仕留めに掛かった。


 隙がほとんどない広範囲攻撃。



 仕方ないかぁ。ほんとはやりたくなかったけど。

 ここで負けたら仕方ない。


 この前買った、度が合っている眼鏡を取り出し、身に着ける。


 一瞬にして、視界が澄み渡った。


「全て見えていますよ。あなたの攻撃は」


 僅かな隙間を付いて、爪を躱した。


 追い詰められて角まで来たけど、移動しようかな。



 今いた部屋を飛び出し、廊下に出る。



 そして、爪と氷がぶつかり合った。

 だが、爪は一向に当たらない。


「遅いですね。止まって見えますよ」


 部屋、そして階層をいくつも跨ぎながら、交戦を続ける。


 そのとき。


 地面のそこら中に穴が開いていた。


 別の人が戦った跡らしいね。


 その穴に狼狽える私を見て、ゴルゴーンが隙と言わんばかりに攻めてくる。


「まったく、甘いですよ」


 すかさず地面を氷で張り直し、体勢を整える。



 攻撃を躱され、さらに地面の氷で滑り、敵はバランスを崩した。


 今だ......!



「『凍て付き穿つは粗目雪(Freeze Burst)』 」



 氷の槍を生成し、敵へ放つ。



 だが、ゴルゴーンは一瞬で目の前から消えていた。


 速い......!



 下半身を大蛇に変え、地面を滑って素早く移動してきた。

 そして、背後に回り、奇襲を仕掛けようとする。

 完全に、死角だった。


「『咲き乱れるは雪月花(Flower of Blizzard)』ッ!」



 それを、氷の花弁で防ぎきる。



 なんで見えたのかって?


 眼鏡のレンズでピントを合わせ、その先にある氷で反射させ、後ろを見たから。


 これによって、私は全方位を掌握したも同然ってことだね。



 ゴルゴーンは、その巨体を最大限生かして暴れまわる。


 蛇の体は縦横無尽に駆け回り、四方八方に爪が振り回される。



 攻撃が激しい。押されそうだ。


 目の前には穴の開いた地面。


 すかさず氷を張って、その上を素早く進む。


 私を追って、ゴルゴーンはその巨体を引きずり、追ってきた。


 前は行き止まりだ。


 ゴルゴーンは氷の上に乗り、素早く突き進む。


 でも......


「あんまり急いだら駄目ですよ」


 ゴルゴーンはすぐ目の前に迫る。



「落ちますから」



 薄く張った氷が砕け、ゴルゴーンは氷に挟まった。



 獲った......!



「『愛し狂うは白雪桜(Icicle Brake)』! 」



 氷は、ゴルゴーンの首を跳ね飛ばした。


 ふう。とりあえず一体、仕留めた。


 転移した人数から考えて、敵は複数いると考えて良さそう。



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 ーギレイス宮殿 入口付近ー


 ガーディアンと、バルタザール大佐含む人類軍が交戦する。



 私の風は、奴の肌には合わないらしいな。


 穿つ風も、ガーディアンの材質は受け流す。


 やや手詰まりか。


 長い間、そんな攻防を繰り返していた。


「大佐! 風で奴を落としてください!」


 奴は地底から、下方向に、機関から闇魔法を噴射させて飛んできた。


 飛行能力があるから、落ちはしないはずだ。

 多用しないのは、力の損耗が激しいのだろう。


 確かに、落ちないかもしれない。


 だが、作戦の理由を尋ねている場合ではないな。

 それに、ここまで一緒に戦ってくれた、軍の奴等が言うことだ。


 信じるより、他はない。


 そして、拳を60度右に捻り、ガーディアンを殴りつけた。


 こいつの材質は風を受け流す。

 だが、直に風圧で飛ばせば、さすがに吹っ飛ぶだろ。


 読みは当たりだ。

 ガーディアンは飛ばされて転落した。


 しかし、落ちはしない。

 下に闇魔法を噴射させ、舞い戻ろうとする。


「させるか、よっ!」


 噴射機関が、氷魔法で固められる。


「そのまま、落としてやれぇ!」


 炎魔法が、ガーディアンの上に放たれ、ぶつけられる。


「これでも、喰らえぇ!」


 風魔法が炎の上から放たれ、風圧によって炎が爆発した。


 爆発の勢いで、かなりの速度でガーディアンは地底に落下した。



「これで、もう上がっては来ないだろ」



 人類軍は、総力を結して、ガーディアンに勝利した。



 ーなあ、アリシア。人類は、強くなっただろ。



 そして、扉を開け、メインホールへと入っていく。


 そこに、立っていたのは......



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 ーギレイス宮殿 1F メインホールー


 ゴルゴーンとアルフレート少佐が、メインホールで対決する。


 無数の白い蛇が、折れ曲がって襲い掛かる。



 剣で捌ききれない......!


 様々な方向に折れ曲がる蛇に、為す術なく立ち竦んでいた。


 体中に掠り傷を負う。


 目の前にいるゴルゴーンは、そんな俺を見て、微かに笑みを浮かべている気がした。



 負けたくない。

 もっと強く。


 強くなって認められたい。

 勝って称賛されたい。


 別に、人類を救いたいだとか、そんな大層な思いは持ち合わせていない。


 ただ、人並みには、みんなを守りたいと思っている。



 己を、奮い立たせろ......!


 こんな、力を持って生まれただけの奴に負けるな......!



 白蛇は、蛇行を繰り返して肉を噛み千切らんと進む。



 目の前にいるのは俺とは比較にならない強敵。

 万に一つの勝ち筋を、この手で掴み取る......!



 想像しろ。俺が、あいつに勝つ瞬間を。


 大佐のように力強く。


 勇者のように洗練して。


 魔法の真似事だって構わない。


 蛇を一刀のもとに断ち切るイメージを、脳内で加速させる。



「『秘剣抜刀、零阿修羅(ゼロアシュラ)』 」



 夢想した剣技で、無数の蛇を両断する。


 全身の筋肉が痛む。

 ここまでの大技、さすがに負担が大きい......


 それでも、今、勝たなきゃいけないんだ......


 限界を、超えろ......!



 蛇はすぐに再生し、再び襲い掛かる。


「『一刀踏破、改狂薙(カラクレナイ)』 」


 その蛇を、剣で薙ぎ払うように切り裂いた。


 このまま接近しろ。

 剣の間合いまで持っていけ......!


 蛇は、剣に斬られながらも、何度も再生する。



 再生するよりも早く、全て切り裂け!



「『因果切断、紅月舞(アガツマイ)』」


 空へ舞うように切り裂く。



 残りあと数メートル。


 だが、敵の攻撃は一層激しくなる。


 蛇は数を倍以上に増やし、速度も段違いだ。



 押されるな。怯むな。折れるな。諦めるな。

 英雄は負けない。目の前の敵を、打倒しろ!


 我が身が裂けても。

 全て、切り裂け!



「『風雷一閃、刹那残影(セツナザンエイ)』 」



 数多の蛇を切り裂き、更に前へ進む。



 至近距離。

 敵はすぐ目の前だ。


 そのとき、ゴルゴーンの眼が赤く光った。


 何か発射する気か。

 躱す余裕はもうない。


 この一刀に、己の全てを賭けろ。

 一撃で敵を切り裂け。

 これまでの人生の価値を、証明しろ!


 そして、眼から赤い光線が放たれた。

 その密度は絶級。喰らえば即死。



「『終極奥義、暁闇(アカトキヤミ)』 」



 振り抜かれるは究極の必殺剣。


 それは、赤い光線よりも速く。


 敵を一刀のもとに両断した。




 力が入らなくなり、剣を手から落とす。


 やった......のか。


 扉が開き、大佐たちが入って来た。


 そして、敵の屍の傍に立ち、一言呟く。


「俺の......勝ちだ」



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 ーギレイス宮殿 2Fー


 ローゼマリー中佐の周囲で、小型のゴルゴーンが空間を飛び回る。


「『火炎、縫火花(ヌイヒバナ)』」


 空間を縫うように、火花が飛び散る。


 だが、瞬間的に移動するゴルゴーンには当たらない。


 あらゆる場所から、斬撃が繰り出される。



「『桜嵐(サクラアラシ)』!」



 周囲に炎の花弁を舞い散らせる。


 それによって、敵が一時的に近づけなくなった。


 だが、花弁はいずれ舞い落ちる。


 全て散った後、再び斬撃は繰り出された。



「『炎天、流星火」 !」


 正面に向かって、炎の流星を放ち、牽制する。


 どうやら敵は、空間を移動する闇魔法を、空間に設置して発動しているようだ。


 そして敵は、空間から出現し、斬撃を繰り出そうとした。



 空間に設置しているなら、出てくる場所に想像はつく......!



「『火鴉(ヒガラス)』」


 焔の鳥が、燃え盛り飛ぶ。


 空間に設置する、その微妙な動作をした位置を記憶した。


 だが、その炎は虚空に消えた。


 炎の鳥が羽ばたくよりも、空間を瞬時に移動する方が早かった。


 別の空間から、出現しようとした、その時。


「焼き焦がれろ」


 途端、全ての空間の切れ目に火が着いた。



「何も考えずに炎を撒いていたと思ったか」


 全ての炎は導線となる。

 繊細な炎は、空間の切れ目を繋いだ。



「『火炎、縫火花(ヌイヒバナ)、鮮烈』 !」



 空間の切れ目は全て爆発し、大きな火柱を立て、敵を焼却した。






 ー設置完了。


 僕が壊しておいた床に、予定通り氷が張られていた。


 透明な氷の上から、ローゼマリー中佐を見下ろして位置を確認する。


 持ってきた樽型爆弾を、氷の上に置いた。


 そして、大きな火柱が上がったタイミングで、剣を振り下ろして氷を砕く。




 大きな爆発音と共に、その場所は爆発し、消え去った。



 ー今までありがとうございました、中佐。あなたには、お世話になりました。





 I will never forget you............

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