ギレイス攻城戦②

 ーギレイス宮殿 屋上ー


 暗い夜の下で、光と闇が対峙する。


「追い詰められたね。終わりだよ」


 夜の闇の下で、黒い少女は微笑んだ。


「アリシデェタ様の命により、貴方を処断します」


 誰のことだ。

 誰かの下で動いているのは明確。

 なら、それは今の状況から考えて魔王しかあり得ない。


「アリシデェタってのは、王城に居座っているあいつのことか」


「へえ、よく知ってるね」


 ......別に、僕が今ここで争う必要はないな。


「僕は人類を全て殺すつもりだ。争う気は無い。手を組もう」


 交渉してみるか。効果は知らないが。


「そんなの、信じるとお思いで?」


「本当さ。僕が信じてるのは聖典だけなんだ。それに則って、人類を滅ぼす必要があるんだよ」


「なにそれ? 聖典? 何か知らないけど、そんな胡散臭いゴミ信じるなんて、馬鹿じゃないの?」




「......そうかな? そっちこそ、お前が慕ってる奴なんて、僕の足元にも及ばないんだけどな」


「......許さない。よくも、侮辱したな!」


 そう言って、激昂する。


 どうやら、話し合いで解決するのは不可能らしい。

 仕方ないな、こいつはここで消すのが最善だろう。

 幸い、ここなら誰にも見られることはない。


 それに、これは神の名を賭けただ。




「『封印開放(アビス・バレット)』!」


 黒い砲撃が、空から無数に墜ちる。


 これは、どうやら手加減できないな。


 ーそうだな、本気を出そうか。




 イメージしろ。


 敵を、際限なく消し飛ばす、そんなイメージを。


 精神を、肉体を、極限まで研ぎ澄ます。


 今まで、剣を振り続けてきたのはこの時の為だ。


 一縷の無駄もなく、光を剣に充填する。




「聖典......第二章......」


 ー第三節_正義を為すのに、手段を選んではならないー

 ー第七節_何時如何なる時も、冷静さを欠いてはならないー

 ー第十五節_正義を阻むものは、即ち悪であるー



「『断罪』」



 際限なく解き放たれる光が、敵へと収束する。



「なっ!?」



 黒の雨は一秒で崩壊し、「悪魔」の右頬を傷付けた。



「ふざ、けるな......! お前なんかに、負けない!」



「『処刑執行(パニッシュメント・エンド)』! 」


 純黒の闇が、空間の境界を抉るように放たれる。



「聖典......第三章......」



「『神罰』」


 天から光の如く、突き落とされる光の槍。



 光と闇が衝突し、その境界で崩壊した。



 これを相殺するか。


 なら......


 そちらが攻撃を出す前に、より速い速度で撃ち落とす。


「第四章......」


「『執行』」


 次元ごと切り裂くような、横への一閃。



「『拘束崩壊(バーサーク・レストレイント)』!」


 体の内部から吹き出るような闇で防ごうとするが、無駄だ。


 僕の方が早い。


「ぐあぁあああぁぁあぁぁあ!」


 閃光が、「悪魔」の腹を裂いた。



「ぐっ......!」



 魔族に対しての威力は絶大のはずだが、まだ死なないな。

 少し浅かったか。


「まだ、だ......!!!」


「......?」



「アリシデェタ様のために、お前には、負けられないッ......!」



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 何もなく、何もわからないまま彷徨っていた。


 そんなとき、アリシデェタ様は私を拾ってくれた。


 そして、言葉を、他にも色々なことを教えてもらった。


「メルシゲェテ、とか、どう?」


 名前をくれた。私という存在を実感できた気がして、嬉しかった。



「ねえ! これ、どう!?」


 人が住んでいたところから、一生懸命選んで取って来た服を見せる。


「うん、すごく似合ってると思うよ」


 そう言って、笑って褒めてくれた。

 それが、いつも堪らなく嬉しかった。


 そんな毎日が、楽しくて、ずっと続けばいいと思った。



 でも、


 最近、悩んでいることが増えた。


 きっと、あの光魔法の使い手のせいだ。


 そして、決意する。


 アリシデェタ様が笑って暮らせるように、必ず始末すると。


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「また、アリシデェタ様が笑えるように、お前は、殺さなくちゃっ!」


 そう言って、漆黒に身を包んだ少女は、そっと右目を開く。


「『邪眼開闢(レディキュール・ブラッドカードリング)』!」


 放たれたるは宵闇の眼光。


 凝縮された闇の波動は、凄まじく空間で破裂する。


「第五章......」



「『審判』」



 剣先に光を集め、地面に突き刺す。


 そして突き刺した地面から突き上がる光で闇を防ぐ。


 光魔法は自分に込める自己強化、そして、その他の物質、例えば剣などに込めて放つこともできる。


 闇の波動が消え去る前に、懐から短刀を数本取り出す。


 そして、それらを敵へと投げつけた。


(投擲!? いや、それにしては精度が悪すぎる......!)


「第二章......」


 短刀に込めた光を、敵の斜め上の位置で開放する。


「『断罪』」


 そして、複数の短刀から、光が突き刺さる。



「ッ!『封印開放(アビス・バレット)』!」


 咄嗟に、闇魔法を真下に撃った反動で身を躱した。


 そして、そのまま遥か上空へと飛翔する。


 双方が、高低差を挟んで睨み会う。


 このタイミング......

 この一撃で、決着が決まる......!


「アリシデェタ様のために!」


「神の名の下に」



「「お前を殺すッ!」」




 下方に見える光の使い手を見る。


 ここで、この一撃で、決まる。


 落下しながら、ありったけの闇を蓄える。



 ーアリシデェタ様! 只今、帰還しました!


 ーああ、よく帰ったな。



 また、あの場所に帰るために。


 また、笑って出迎えてくれるように。


 負けられない。こんなところで、死ねない......!


 体内の細胞、その全てを、闇魔法にあてがう。


 両目を開眼し、体中に闇の瘴気を纏い、


 そして、その全てを右手に収束させる。


 撃ち砕く......!私の、全てで......!



「『絶対終焉(エンド・オブ・メルシゲェテ)』」


 この世全ての混沌を、その身で浴びろ......!




 夜空より降り注ぎ、万物を穿つ、夜闇より暗く黒い宵闇へ向かって、剣を構える。

 もう二度と、踏み止まることはしない。

 を尽くすだけだ......!



「聖典......第一章......」



 ー第一節_何人たりとも神に背いてはならず、神の教えは絶対の正義であるー

 ー第二節_魔族は人類にとっての敵であり、神に背く害悪であるー

 ー第三節_人に生まれたならば必ず正義を為すべきであるー

 ー第四節_穢れなき魂は、死後救済の地へと導かれるー



「『救済』」



 放たれたるは、極限まで洗練された、光の絶対収束。


 聖者の光と悪魔の暗闇が互いに抉り合い、空間が破裂を繰り返す。



 そして、救済の光は、闇の全てを飲み込んだ。



 ー危なくなったら、帰って来いよ。


 ごめんなさい。アリシデェタ様。


 約束、守れませんでした。



「消え失せろ」


 十字に輝く光は、宵闇の全てを消失させた。





 Good bye,my dear............

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