宵闇アンダーワールド

【魔王視点】


 私は一体何者なのだろうか。

 生きている意味はあるのだろうか。

 終わらない問いを繰り返す。


 突然この地に生まれ、自我を持った。

 感情はあるのか。この自我は本物か。


 まあ、そんなことを考えていても仕方ない。

 今日も情報集めとするかぁ。


 いつも通り、城を出て付近を探索する。


 そのとき、いつもと違うものが目に入った。


 人間の少女に似た、それとは異なる者が、地面に倒れ込んでいた。


「君は、誰だ」


 習得した人類の言語を用いて話しかける。


「..................」


 反応はない。やはり人間ではないのだろうか。

 しかし、こんな形の魔族は見たことがない。


 いや、一つだけ、ある。


 私と同じだ。同じく人間の形に似た魔族。

 つまり、こいつは、新しく生まれた上位個体か。


 何かに使えるかもしれないな。とりあえず持ち帰るか。



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 ー魔王城 玉座ー


「.....................」


 とりあえず持って帰ってきたはいいが、このままだと使えないよなぁ。


 うーん、じゃあ、言語でも教えてみるか。

 同じ上位個体なら、それなりに知能が高いかもしれない。


 そう思い立ち、人類が残した書物を掻き集める。


 さてと、まず、わかりやすいのはっと......


 絵に文章が付いている本を取り出し、見せる。


 これなら、感覚的にわかりやすいんじゃないか......?



 それから、私は、そいつに言語を教え始めた。



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「おはようございます!」


 そう、元気よく微笑んで挨拶する。


「今日は何を教えてくれるんですか」


 そして、期待に満ちた眼差しで私を見る。


 色々と教え始めてからしばらく経った。

 随分と上達が早い。流石最新の個体といったところか。


 しかし、ここで私は直感した。


 さっきのやり取りから感じ取れたのは、期待と好奇心。

 こいつには、明確に、私の持ちえない、‘‘感情‘‘がある。


「そうだな、じゃあ......」


 そういえば、ずっと名前を決めていなかったな。

 色々と不便だろう。


「お前に、名前を与えよう」


「名前......?」


「自分を表す言葉のことだよ」


 人間の名前を付けるのは微妙だな。


 ここは、語感で決めるか。


「メルシゲェテ、とか、どう?」


「ありがとうございます!」


 そう、無邪気に喜んだ。

 それから、学習速度はさらに加速した。



 じきに、私が教える必要も無くなってきた。

 そして、自分から知識を獲得し始めた。



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 いつからか、もう何を考えているのかわからなくなった。


 次にどう動くか想像できない。それでも、どうやら懐いてくれているらしい。


「ねえ! これ、どう!?」


 急に大声を出したから、何かと思って見れば、いつもと雰囲気が違う。


 なぜか、黒を基調とした、高級そうな衣装に身を包んでいた。

 どこかから取ってきたのだろうか。


「似合いますか!?」


 期待を込めた眼差しで聞いてくる。

 もう、こいつの知能は計り知れない。

 制御しきれないかもしれない。なら、せめてこの懐いている状態を維持するべきだろう。


「うん、すごく似合ってると思うよ」


「やったっ!」


 そう、無邪気に喜ぶ。


 もしかしたら、いつか人類が攻めてくるかもしれない。

 こんな日々が、いつまで続くだろうか。


 ......ん?


 自分の思考に、違和感を覚える。

 今、この生活を惜しいと思ったのか?



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 そんな生活が、長い間続いた。


 窓を見つめて、呟く。


「まあ、奴は魔族上位種の中でも最弱だしな」


 どうやら、人類が上位個体を一体打倒したらしい。


「ん? 急にどうしたんですか」


「いいや、何でもないよ」


「えー? 何でもないわけないですよー」


 そんな会話が繰り返される。


 わかっている。こんなのは、人間の真似事なんじゃないかって。


「あっ、そうだ。これ、取ってきました!」


 おもむろに、何かを取り出した。


 これは......服?


「着てみてください!」


 そうか、私のために、わざわざ取ってきたのか。


 その時、私は、今までの日々を思い出した。

 そして、初めて実感した。



 そうだ、私は、二人で過ごして、ずっと楽しかったんだ。

 思えば、一言、声を聞いたときから、私は始まっていたんだ。


 たった二人、手探りで、過ごしてきた毎日。

 なら、これは人間の真似事なんかじゃない。

 二人だけの、何にも代えられない日々だ。


「うん、ありがと」


 貰った服を着てみる。

 色合いは黒を基調としているが、メルシゲェテのものとは柄が異なっていた。


 どんなものか、自分を見る。

 自分の身は、メルシゲェテから貰った服に包まれていた。


「うんっ、やっぱり、似合ってますね!」


 ああ、そうか。

 やっと、わかったよ。


 生きている意味なら、目の前にある。

 感情も、自我も、本物だ。


 そして、私は何者か。


「なぁ、名前、考えたんだけどさ」


「え、何ですか」


 語感だけで決める。人間の真似事じゃない。


「アリシデェタ。私は、今日からそう名乗るよ」


「はい、わかりました、アリシデェタ様!」


 私は、この命に、誇りを持っている。

 誰にも、奪わせはしない。



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「アリシデェタ様。只今、帰還しました!」


 人類と白竜の戦いが終わり、戻ってきた。


「ああ、よく帰ったな」


「そうだ、少し、変わったものを見つけました」


「何かあったか」


「そう、あれは、まさに光魔法とでも言うべきか、とにかく、魔族と闇魔法に対して普通じゃない威力を放ちました」


「そうか、ありがとう」


 光魔法?そんな魔法、知らないな。

 聞いていた限り、かなり厄介かもしれない。

 もしかしたら、この前完成した奥の手が通用しないかもしれない。


 そう、闇魔法の「歪み」を利用し、長い月日を掛けて作ったもの。


 私の心臓に埋め込まれており、命が失われればという代物だ。

 当然、使用者のみ記憶は保持される。


 まあ、流石に危険だと思って試したことはないけど。


 だが、その光魔法に、闇魔法を潰す効果があったなら、時空装置は崩壊するかもしれない。

 それだけならまだしも、力そのものが奪われて、、なんてこともあり得る。


「なあ、その光魔法の使い手、何か変わったことはなかったか」


「いえ、ただの魔族と戦っていました」


 なるほど。記憶を保持しているなら、そんなところで油を売っていることはないだろう。効率良く、白竜を討伐するはずだ。


 しかし、そんな奴を野放しにはしておけないな。


「次の戦いで、そいつを始末してきてくれないか」


「はい、わかりました!」


 ああ、でも......


「危なくなったら、帰って来いよ」


 きっと本心から、そう言った。




 This is the beginning of the darkness............

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