伝熱ライデンシャフト
【アルフレート視点】
俺は昔から、英雄になりたかった。
だが、そんな俺に魔法は発現しなかった。
弱い。しかも、体術や剣術の才能があるわけでもない。
普通の家庭で生まれ、育ってきた。
誰も弱い俺を否定せず、それなりに仲のいい奴らもいた。
それでも、俺は......
「どうしたんだ。そんなに思い詰めて」
ここは軍の訓練場で、横にいる知り合いが話しかけてきた。
俺はよくここに顔を出しており、知り合いは多い。
「そうか? 少し張り切り過ぎたかもな」
「お前は良いやつだな。人類のためにそこまで努力できるなんて」
それは、少し違うと思った。
確かに、みんなを助けられることは嬉しい。
けれど。俺は、強くなって認められたいだけだ。
そんな立派なものじゃない。
誰もが一度は思い描く、英雄になりたいという、ただそれだけの、ありきたりなことを願っているだけなんだ。
でも、そんなことを言えばきっと笑われる。
だから、みんなを助けたい、なんて願いを取って付けただけだ。
「なら俺も負けてはいられないな。勝負だ!」
「お前が負けたら、次は俺だ」
と、勝手に決められていった。
「それじゃあ、まとめてかかって来たらどうだ?」
思わず調子に乗ってしまい、そんなことを言う。
「後悔するなよ、いくぜ!」
ったく、しょうがねぇな。
仲間達と剣を交えながら考える。
勇者の噂だ。
光魔法を使える、世界にただ一人だけの存在。
そんな奴が、一人籠って訓練に励んでいる。
才能に恵まれた奴がそこまで努力しているなら、何もない俺がやらない訳にはいかない。最初からそんな奴相手に勝ち目はないけど、まだ負けると決まったわけじゃない。
仲間と剣を交えながら、決意する。
俺は勇者に負けたくない。英雄になるのは俺だ。
だから、せめて剣だけでも、極め抜いてあいつに勝ってやる。
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【勇者視点】
ルガーデ殲滅戦が終わり、帰還するとすぐに訓練を始める。
体の疲労なんて気にしている場合じゃない。
一縷の無駄無く、最良の効率を心掛けて、常に集中して剣を振る。
一人、剣を振っていると、声が聞こえた。
「いい腕だな」
急に話しかけられ、何かと思って見ると、そこにいたのはローゼマリー中佐だった。
この前といい、何のためにここへ来るのだろう。
「......ありがとうございます。それで、何の用ですか?」
「そうだな、お前に会いに来たんだ」
そう言って、僕が剣を振る様子をじっと眺めていた。
「あの、気が散るんですけど」
「ああ、悪い。なら、一試合するか?」
「そうですね」
ここで中佐の近接戦闘能力を計っておくのは悪くない。
「......かかってこい。受け止めてやる」
そう言って剣を構えている。
踏む込み、剣を打ち合うが、正直そんなに強くはなかった。
やはり魔法に特化していたのだろう。
そのまま続けていても仕方ないので、中佐の剣を弾き飛ばした。
「おっと、やられた。流石だな」
「どうして、僕に構うんですか」
何故そんなことを聞いたのかはわからない。知る必要性など無いはずだった。だけど、どうしても、気になったような気がしたから。
「......それは、お前が一人で戦っているからだよ。頑張ったとき、何か上手くいったときに褒めてくれる人間がいないのは寂しいからな」
「僕に同情は要りません。そんなものは不要です」
「同情なんかじゃない。気に掛けているんだ。なんせ、私がそんなのだったから」
......一緒にするなよ。僕は聖典に従っているだけだ。
「私は幼い頃からずっと一人だった。だから、誰かを守れるくらい、誰かから頼られるくらい強くなれば、何か変えられるかもしれない。そう思って、魔法に打ち込んできた」
......それが何だって言うんだ。僕には、神の使命が......
「だからさ、そんな寂しそうな顔するなよ」
優しい声色で、そんなことを言った。
「何か困ったら、いつでも来いよ。これは同情じゃなくて、共鳴ってやつだ」
ーローゼマリー中佐、前回‘‘死亡‘‘
「じゃ、頑張れよ。応援してるぜ」
そう笑って言い、中佐は帰った。
僕は、心を落ち着けるために、訓練を再開した。
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