Episord of Zero part5

 ー帝都 外ー


 光が収まり、次に見えたのは、帝都から反対側へ逃げていく竜の姿だった。


 とりあえず、帝都は助かったみたいだ。


「アリシア、お前のおかげで、帝都は助かったよ」


「へへ、そうかな」


 さっきの戦闘で致命傷を負ったアリシアを抱きかかえて言う。


「もう、自分が弱いせいで誰かが死ぬのは嫌だったから」


「......そうか」


「無くなる前に、聞いて貰っていいかな?」


「ああ、何でも聞くよ」


 涙や悲しみ、その全てを堪えて、話を聞く。


「やっぱり、死んだあと何もないのは寂しいし、怖いな」


「......そうだな」


「だから、創ろうよ。死んだら幸せな場所に行けるようなものを。私、聖女だから、できると思う。私を神ってことにして、聖典を広めるの。少し恥ずかしいけどね。それで、正しい人は死んだあとで救われることにしたら、いいと思う」


「わかった。必ず成し遂げて見せる」


 そう、決意を込めて言う。



「ずいぶん、人が死んだね。でも、まだ終わりじゃない。次の世代は、もっと強いかもしれない。だから、あなたがみんなをまとめてあげて。うん、軍を作ろう。一番偉い人は何て言うんだっけ?そうだ、大佐とかいいんじゃないかな。」


「俺が、作るのか......」


 その責任の重さに、少しおののく。

 でも、アリシアはもっと大変だったはずだ。

 なら、やるしかない。


「ああ、そうする」



「......私は上手くできなかったから。次に光魔法が生まれた人は、きっと私よりも強くなれると思う。だから、その聖典に、みんなの為に強くなって戦えるような教えを書こうよ。もしその人が、それを少しでも読んでくれたなら、私は嬉しいな。うん、聖女の次は、勇者にしよう。それで、これ書いてみたんだけど......」


 そう言って、小さな紙切れを取り出した。


「?」


「第四項。穢れなき魂は、死後救済の地へと導かれる」 


 そこには、聖典の本文らしきものが書かれてあった。


「伝えたいことは、もう、これで、終わり」


 そう言い、アリシアは目を虚ろにしていく。


「......待ってくれ! ......俺を置いていかないでくれ!」


 そんなみっともないことを言った俺に、最後に一言、呟いた。



「じゃあね。人類を頼んだよ、バルタザール」


 そして、アリシアは息を引き取った。


 ......ああ。その一言だけで、俺は戦える。



------------------------------------------------------------------------------------------------


 ー数十年後 大戦開始前 軍本部ー


 あれから、私は人員をかき集めて、軍を結成した。


 魔族の四天王は、生息域を固定し、今の位置に定まっていった。


 そして、アリシアの名前を借りて、聖典を作成することにした。その名を「アリシア聖典」だ。


 聖典は、色々手が加わって、アリシアが書いた原典とは違う形になったけれど、人類の為に戦わせるために都合の良いものになったはずだ。


 聖典はそれなりの数の人に広まっていった。そして、それを使って勇者を教育した。勇者が、人類を救う救世主になるために、また、どんな敵にも負けないように。




 ー必ず、人類を救ってみせる。


 私と、軍の人々と、そして、で。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る