Episord of Zero part3
ー帝都 外ー
急に魔族が攻め込んできて、俺たちは防衛に向かった。
「はぁ......やるかぁ.....」
攻め込んでくる魔族を見つめ、アリシアが溜息をつく。
帝都を取り囲む防壁の外側に、人類の戦力が立ち並んでいる。
「まあ、そんな心配するなよ。いざとなったら俺が......」
「お前は後方支援だ。風魔法で無茶すんな」
「またあんた達と一緒かぁ......」
なんやかんやで、俺達三人は昔からよく一緒にいた。
「おいおい、俺は人類最強の男だぜ?」
「氷パンチ野郎が何言ってんだよ」
「だっせえなぁ! もっとあるだろ!」
と、そんな風に話していると、いよいよ時が迫ってきた。
「さて、そろそろだな」
人類は、向かってくる魔族に向かって突き進んでいった。
「敵が見えたぞ。レック、氷魔法だ!」
「へいへい、わかってるよ」
レックが氷魔法を発動し、数体の魔族の進行を阻む。
「今だアリシアー。あ、ミスってもいいように氷二重にしてるぜ」
「いちいち! 煽ってくるなぁ!」
アリシアが光魔法を発動し、魔族のいる辺りへと光が行くが、少しズレていた。
「あー、やっちゃったなぁ......」
「いや、任せろ!」
風魔法で進路を正し、更に勢いを加速させ、魔族にぶつける。
そこにいた数体は、見事消え去った。
「よしっ、まずは一勝!」
そう言ったすぐ後のことだった。
体躯が大きく、雰囲気の違う魔族が近寄ってきたのである。
「あいつ強いんじゃないか?」
「さあね、どの道、避けては通れないよ」
「は、はは。やっぱり強そうじゃないかな......」
アリシアが光魔法を使おうとした瞬間、そいつは凄い速さで接近した。
「危ない!」
そう叫んだも間に合わず、アリシアは攻撃を喰らって吹っ飛んだ。
「アリシア!」
「案ずるな、大した怪我はしていないはずだ」
見ると、レックが寸前に氷で守ってくれたらしい。
「......ありがとう」
「いや、なんでお前が感謝するんだよ」
アリシアはどうやら動けなくなっているらしい。
ここは俺達二人で何とかするしかなさそうだ。
「よし、二人で攻めるぞ!」
「......いや、お前は後方支援だ」
「は? なんでだよ。お前一人で戦う気か」
「風魔法じゃ攻撃できないだろ。いいから任せておけよ」
「でも......」
「そう心配するなよ。いざとなったら俺が凍り付かせてやる、なんせ、俺は人類最強だからな」
「......死ぬなよ、レック」
「......ああ」
敵の前に立ち、拳を氷で固める。
「俺がこいつを叩き潰す。お前は俺の拳を風で加速させろ」
「ああ、わかった」
魔族とレックはほぼ同時に走りだした。
そして、両者共に攻撃が届く範囲へと迫る。
「喰らえぇぇ!」
勢いよく、レックが氷の拳を突き出す。
それをすかさず、風で加速させていく。
「・・・」
接近したまま、両者は動きを止めた。
氷は、確かに魔族に届いている。
そして、片方が倒れた。
立っているのは、僅かに氷の残った右手を下ろし、その場に佇むレックだった。
「倒した......?」
後ろでアリシアが起き上がって呟く。
「ああ、俺の、勝ちだ」
そう言って、レックはその場に倒れた。
「レック!?」
二人同時に駆け寄る。
見ると、レックの腹は斜めに裂かれていて、血が流れ続けていた。
「大丈夫か!?」
焦って、そんなことを口にする。
「おいおい、これが大丈夫だって? ばーか」
掠れた声で、少し笑ってそんなことを言った。
「何とかして、助けられない?」
アリシアが震えた声で言う。
「悪い、俺はもう駄目だ」
「そん、な............」
色々な気持ちが押し寄せてくる。
でも、こいつと話すのは、これで最後になるんだろ。
なら、最後に、こいつの思いを聞いて、意思を受け継ぎたい。
「......そうか。じゃあ、何か言い残したいことはあるか」
できるだけ明るい表情で尋ねる。
「......俺の故郷はセルコー雪原ってところだった。そこに白い竜が居座ってる。だから、取り戻してくれよ。もし、できるなら、な」
最後に付け加えたのは、無理強いしないためなのか。
「......ああ、必ず、取り戻すよ」
そして、レックは独り言のように語り出した。
「なあ、人は、死んだらどこに行くと思う」
「......さあな」
「何も無くなるんじゃ寂しいよな。だから俺は、死んだら幸福な場所に行くって考えることにするよ」
そして、目を閉ざしながら、小さな声で、呟いた。
「......だって、救いがあった方が、いいだろ」
そう言い残して、レックは息を引き取った。
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