第二章『断罪』

勇者の休息

 ーガイネス戦役 対四天王戦ー


「来たか......」


 薄明るい黄金色の長髪の女性、ローゼマリー中佐が立ち向かうのは、巨大な集合体、「魔弾」である。


 それは蛇行を繰り返し、徐々に速度を上げながら接近してきている。


「お前らを焼き尽くすのに、大袈裟な炎は必要ないぜ」


 近距離となった魔弾に向かって、炎を纏った右手を前に出す。


「火炎、縫火花(ヌイヒバナ)ッ」


 そして発現するは炎の鞭。細長く圧縮した炎を自由自在に振り回し、最終的には網状になって魔弾を封じ込めた。


「止めだ、『火鴉(ヒガラス)』」


 横一体に広がった炎は鳥のような形状となって突き進む。

 そして、灼熱の鴉は魔弾を貫いた。


「うーん、ちょっとやり過ぎたか」



(炎魔法を繊細かつ大胆に操るローゼマリー中佐か。あーあ、やってくれたな)


 勇者は遠くからその様子を、苦い顔で眺めていた。



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 戦いが終わり、帝都へと帰還する。

 

 軍本部へと戻った僕は、幼少期から使っていた訓練室に入る。

 ここは勇者の教育施設であるが、僕の自室としても使用できる。

 

 疲れていたのか、座学をしていた場所の床へと座り込んだ。


「はぁ......」


 思わず溜息をつく。

 

 状況はあまり良いとは言えない。

 今回、兵の損耗は前回よりも大きくなったが、まだ致命的じゃない。

 

 魔王討伐戦まで残るはあと三戦。その間にもっと戦力を削らなければならない。


「それでも、やるしかないんだ」


 そう自分に言い聞かせて気合を入れる。

 

 戦争から帰ってきたばかりとは言っても手は抜けない。

 

 素早くこの部屋から庭へ出て剣を持つ。

 

 そしてひたすら剣を振り続ける。


 僕には前回の経験がある。

 

 今は少佐程度の実力しかないが、前回の魔王討伐時点では中佐程の実力はあったと思う。

 

 肉体の強さは時間ごと巻き戻っていているが、技術は別だ。前回で培った戦闘経験を上手く生かせれば、より早く成長できるかもしれない。


 それに、魔法に大切なのはイメージだ。

 

 魔法には生成と放出の二つのステップがある。生成は魔法を体から生み出すことで、魔法が発現して最初にできる。

 

 そして放出は、生成した魔法を様々な用途に合わせて放つことだ。

 この放出の段階でイメージを必要とする。複雑な技を出すには、頭の中でまず思い描く必要があるからだ。

 そのために、自分で固定したイメージに名前を与え、戦闘時に口に出すことで力を扱いやすくすることもある。



 ー感覚を研ぎ澄ませ。もっと深くだ。


 深く集中して剣を振り抜く。

 前回の最盛期よりも肉体が弱く、上手くイメージ通りの技が使えない。

 

 そんなまどろっこしさを抱えながら素振りを続けていたとき、


「こんなとこで何やってんだ」


 部屋の入り口のあたりから声が聞こえた。

 

 誰かと思い振り向けば、そこにいたのはローゼマリー中佐だった。


(どうしてここに......まさか僕の画策がバレたのか。まずいな、警戒しないと)

 

「何って、もちろん特訓さ。人類のために強くなりたいんだよ」


「へえ、そいつは立派だな。ま、適当に頑張れよ」


(一応僕の計画には気づいていない? なら、少し探ってみるか)


「そっちこそ、どうしてこんなところに」


「そりゃあ、お前を探してたからだよ」


(どうして僕を探す必要なんてあるんだ。これは良くない事態かもしれない。慎重にいこう)


「いや、一体なんで僕を探すんだよ」


「だってお前、面白そうだし。そう、私は君に興味があるんだよ!」


 と、僅かに微笑んで言った。


「......そうか。まぁ、見ての通り僕は忙しいんだ。用がないなら立ち去ってくれないか」


「別に用がないってわけじゃないさ。一言労いをしに来てやったんだよ。お前、こんなところにいるんだし、誰とも会ってないんだろ」


 余計なお世話だな。誰かに同情される謂れはない。


「......別に大したことはしてないよ」


「じゃ、私はこれで。また会おうぜ」


 そう言って中佐は立ち去ろうとした。


(どうやら疑われてはいないらしいな。なら問題はない)


「あ、そうそう」


 中佐が立ち止まって振り返り、


「期待してるぜ、勇者君」


 と、最後に一つ、言い残して去って行った。


 

 ー悪いな、誰かの期待に応えてやるつもりはないんだよ。




 次の大戦まであまり日は残されていない。手を休めるわけにはいかないな。


 そうして僕はまた剣を握り直した。






 This is a short rest......

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