戦士の日常①

 ーガイネス戦役 対四天王戦ー


「さてと、行きますか」



 空の色を限りなく薄めたような色の長髪の女性、ブリュンヒルト中佐が魔弾を待ち構える。


 デッドライダーが放った魔弾は速度を増しながら、一直線に中佐の方へ進んでいる。


 それを、わざわざ自分から動くまでもないという風に、この場に相応しくないほどの上品な佇まいで待ち構えていた。


 そして、巨大な球体は、ほぼ目の前まで迫っていく。


「そんなに慌てなくてもいいですよ」


 屋敷で貴族が使用人に話しかけるような口ぶりで言い、そっと地面に手をついた。


「『天を穿つは氷雪山(Blizzard Lost Sky)』」


 突如、地面から出現した先端を尖らせた氷塊が、天に突き刺すような勢いで、巨大な魔弾を真っすぐに貫いた。


(本来、氷魔法は炎魔法よりも攻撃に使いづらいはずだが、ここまでの威力を出すか。まったく、余計なことをしてくれる)


 勇者は遠くの後ろから、心底厄介そうな面持ちで眺めていた。


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【アルフレート少佐視点】

 ー軍本部ー


 先の戦争の後日、俺は軍の本部を歩いていた。

 その最中、廊下で女性とすれ違った。


「アルフレート少佐、あれって何が書いてあるんでしょう?」


 俺を呼び止めたのはブリュンヒルト中佐だ。

 壁にある張り紙を指して尋ねる。


「えっと、あれは......」


 張り紙に書いてあった文字を読み上げた。


「そうですか、ありがとうございます」


 中佐が穏やかな口振りで言う。

 でも......


「あの、目が良くないんですか」


 単純に気になって聞いてみた。


「ええ、そうですよ」


「なら、普段はどうしてるんです。何も分からないんじゃ......」


 ここから張り紙までの距離はそう遠くないし、書いてある文字も小さくはない。


「何かは見えてるんですよ。つまり、視界にある色や大きさから造形を組み立てれば問題はないんです」


 中佐は得意げに微笑んで答えた。


「いや、でも、眼鏡は掛けないんですか」


「え? だって、そんなの似合わないじゃないですか」


 中佐は当たり前のようにそう言った。


「それでは」


 中佐は穏やかに微笑んで、どこかへ行った。


(よくわからない人だったな。

 ......よし、俺も勇者に負けないように、特訓するか)


 そして少年は、剣を持つために訓練場へと向かった。



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 ーガイネス戦役 対四天王戦ー


 人類軍とデッドライダーとの最後の戦いが始まろうとしていた。

 人類軍の先陣が、デッドライダーへと向かう。


 両者の距離はいよいよ近い。共に射程圏内だ。


 先手を打ったのはデッドライダーの方だ。最後の魔弾を弾き飛ばす。

 しかして、その威力は先ほどまでとは段違いである。

 数が減って操りやすくなったのか、強力な個体を残しておいたのか、あるいはその両方か。


 魔弾はかつてない勢いで、ただ真っすぐ、直進する。


 しかして男は、それを前にして尚、迎え撃とうと待ち構えていた。

 人類最強とも謡われるバルタザール大佐である。

 その容姿は、貫禄があり、まさしく頑強。

 全身に猛り狂う暴風を身に纏い、それら全てを右腕に巻き付ける。


 嵐のような一撃と魔の砲弾が追突する。

 否、それは追突などではない。

 正確には、抉っていたのだ。


 魔弾の内部にて発生した嵐は、内側から魔族をバラバラにして弾き飛ばした。


(本来、その攻撃力の低さから補助にしか使われない風魔法で、最後の魔弾を抉り飛ばすか。そうだ、こいつが、僕が最終的に倒すべき相手だ)


 勇者は、決意に満ちた表情で、遥か後ろからその様子を眺めていた。


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 ー大戦前 公園ー


 あるとき、バルタザール大佐は公園の前を通りかかった。


 ふと公園の様子を見ると、何やら子供達が困っている風だったので、とても放ってはおけず、中へと入って行った。


「どうかしたか」


 腰を下げて、穏やかに子供たちへ尋ねる。


「あの、ボールが木にひっかかって......」


 子供は、目の前の男の風貌から多少萎縮しつつも、敵意はないことを感じて、頼ることにした。


「そうか。わかった」


 男はあっさりと答え、素早く木に登り、ボールを取ってきた。


 本当は木を思い切り殴ってボールを落とすこともできたが、公共の物を傷つけることに躊躇し、結果木に登ったのだ。


「これでいいか」


 そう確認して、男はボールを差し出す。


「は、はい。ありがとうございます!」


 子供たちの嬉しそうな顔を見て、男は満足げに去って行く。


(人を助けることは無駄ではない。大佐となったからには、人類に貢献し、守る責任がある)


 男は、一度気を引き締めて、軍本部へと向かって行った。




 ー同時期 数分前 公園横ー


(公園に子供がいるようだな。まあ、どうでもいい。何やら困っている様子だが、僕がそれに構う暇などない。崇高な使命を果たすべきこの僕が、時間を無駄にするわけにはいかないんだ。必ず人類を滅ぼしてやる)







 This is a short break time............

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