狂信勇者、始動。

 時間が巻き戻ってから一日経ったころ、招集があった。


 人類軍と共に帝都の外へ赴き、魔族と交戦している。



 確かこれは、魔族が帝都へ向って攻めてきたときの戦いだ。この侵攻自体は過去何度もある。けれど、今の状況と完全に合致するのは一つだけだ。これは最後の魔族の攻勢だ。このあと、人類は魔族への攻撃を開始し、結果勝利する。



 さてと、まず今できることは......

 この防衛戦において、僕はかなりの数の魔族を殺した。

 つまり、こと、それ自体が人類にとって打撃となる。


 これが僕にとって最初の戦いとなる。

 僕は神に選ばれたんだ。

 聖典に従い、僕が正義を執行する。


「お、おい。大丈夫か」


 僕に話しかけてきたのは若い男だ。


「ああ、悪い。少し考えていた」


「そうか、気をつけろよ」


 そんな調子で、僕とこいつはしばらく一緒にいた。


 このままだと、不審な動きはできないな。

 邪魔で目障りだ。


 ー聖典第三章第十五節_正義を阻むものは、即ち悪であるー


 こいつは、僕が使命を果たすのに必要ない。


「あそこに魔族の群れが見える。そこを叩こう」


 横にいる男に向かって呼びかける。


「で、でも。数が多くないか。流石に危険過ぎるんじゃ......」


 こいつは、何を言っているんだ。


「魔族は聖典に示された害悪であり、そいつらを殺して正義を為さねばならない」


「な、どうしたんだよ」


「神の教えを代弁しているまでだ。これに背く者は全て悪だ」


「そ、そうかもしれないけど......」


「まさかお前、神に背く気じゃないだろうな」


 そう言って、男を強く睨み付けた。


「わ、わかった! 群れを叩きに行こう」


 男は声を震わせて、咄嗟に言った。


「行くぞ」


 二人で群れへと向かって走って行く。


 群れまでもう少しのところで、男が口を開いた。


「な、なあ。やっぱりやめとこうぜ」


「......なんだと」


「だってよ、この数は無茶だろ! それに、聖典なんて、そんなもの、絶対に従わなきゃいけないなんて考えねぇよ!」


 ーそうか、わかったよ。



 聖典に従い、裁きを執行する。


「なっ!?」


 僕が出した足に男は躓き、体勢を崩したまま群れへと突っ込んでいった。


「ぐわああああああああ!」


 そのまま男は魔族に殺された。


 お別れだ。穢れなき魂ならば、あの世で救済されるだろう。



 何はともあれ、とりあえず一人殺せたか。

 あれ、なんか遠くから僕を見てるやつが多いな。


 ああそうか。ったく、こいつが死ぬとき叫ぶから注目されたじゃないか。

 このままだと怪しまれて、使命を果たすのに不利になる。


 ー聖典第二章第三節_正義を為すのに、手段を選んではならないー


 仕方ない。誤魔化すか。



「うわー--! くっそおおおお、大、丈夫かぁぁああ!」


 大声で叫んで、魔族へと斬りかかる。


「くっ!」


 こんな奴ら、僕が少し光魔法を使えばすぐ消え失せるんだが、ここは粘るか。


 そうして、たった数匹の魔族に苦戦しているふりをしながら、数時間が経過した。

 そろそろ頃合いだろう。周りを見ると、明らかに魔族がかなり減っている。

 さあ、もう用済みだ。消えて無くなれ、害虫。


 僕の剣が光に輝き、魔族に触れる。

 すると、数匹の群れは一瞬で蒸発した。


 お、どうやら戦いは終わったみたいだ。

 兵たちが一斉に帝都へと帰還していく。

 その姿からは、遠くから見ても安堵と生き残った喜びを感じた。


 今だけだ。そんな感情に浸れるのは。

 僕が必ず、お前らを根絶やしにする。

 まあせいぜい、震えて眠れよ。



 さてと、帰るか。






 This is beginning of the end...................

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