勇者、復活。

ー目が覚めた。

 確かに僕はさっき殺されたのに。それははっきりと覚えている。


 どういうことだ。


 ー聖典第二章第七節_何時如何なる時も、冷静さを欠いてはならないー


 混乱していたところ、我が神の御言葉を思い出した。


 そうだ。冷静になれ。


 とりあえず周囲の状況を把握しよう。


 恐らくここは帝都の中だ。そして僕が今いるのは道の真ん中。


 何が起こったのかわからないな。少し整理しよう。


 とにかく僕は、死んだはずなのに、何故か今ここにいる。


 一体どうしてだ?そんなのは決まっている。


 これは神がして下さったことだ。それで間違いない。


 我が神が、僕にもう一度チャンスを与えて下さったのだ。


 そうなると、時間が巻き戻った、もしくは蘇ったかのどちらかだろう。


 でも、蘇ったとしても、僕は大罪人となっているから、動きづらいだろう。


 なら決まりだ。我が神は時間を巻き戻したんだ。当然、僕以外に前回の記憶を持つ者などいるはずもない。


 時間が巻き戻ったなら、次はどうするべきだろうか。


 聖典に従い、冷静に行こう。

 そうだな、今がいつか確認するか。

 冷静に考えて、僕が動き出す直前、大戦が始まる前だろう。

 人類の反撃が始まるとき、僕は裁きを下せやすいからな。

 一応、確認しておこう。


 道を歩いていた通行人に話しかける。


「あの、僕が誰だかご存じですか」


「は、はぁ......知りませんが」


 どうやら勇者である僕を知らないらしい。つまり、僕が勇者として活動する前、大戦が始まる前で間違いないらしい。




 全てを理解したとき、僕は鮮明に思い出した。

 そう、処刑されたときの記憶を。


 そうだ。あの時誓ったはずだ。人類も魔族も、皆殺しにすると。

 神に背く奴らは看過できない。

 

 そして、僕は時間を巻き戻った。

 これは僕の使命といって差し支えないだろう。


 そのために、僕がするべきことを考えるとするか。

 

 まず、どっちの数を優先的に減らすかだよな。

 魔王城決戦のときの主力は僕だ。その他の主戦力は温存されていた。

 つまり、まずは人類の数を減らしてやるとするか。

 

 幸い、これから人類の反撃が始まる。

 僕なしで、いいや、どれだけやれるかな。


 これから僕がやるべきことは、人類を優先的に滅ぼし、そして魔族も滅ぼす。

 ただ、僕の光魔法に掛かれば、少なくとも魔族なんかに負けることはない。滅ぼすのは簡単だ。せいぜい、人類を滅ぼすのに利用するとしよう。


 一人残さず、僕が裁きを下す。



 いや待てよ。僕が処刑されるときにはすでに死亡していた奴もいるんじゃないか。どうしよう。いや、でも大多数の人類が神に背く愚民であることは間違いない。そして、そんなのが多数を占めているこの世界はまさに地獄だ。その魂が穢れる前に、僕が救ってやらなくちゃ。


 そうだ、これは僕にしかできないことだ。なら、絶対に成し遂げなくちゃならない。


 状況は理解した。なら、次にするべきことは......


 とりあえず、軍本部に行くべきだろう。僕はほとんどそこにいたからな。


 僅かだって時間は無駄にできない。最善を尽くして、『敵』を滅ぼす。


 覚悟を決めて、少年は歩き出す。






「あーあ......」


「どうしよう。あんなに高いと取れないよ」


 そのすぐ横の公園で、ボールが木に引っ掛かっていた。


 少年は、その公園を気にも留めずに通り過ぎ、落ちる陽に向かって進んで行った。







 This is beginning of the end..................

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