勇者、処刑。


 あれ......ここはどこだ。

 目が覚めると少し高い場所にいた。

 目の前には僕を見上げる民衆が見える。

 ここは、帝都の中心あたりか。


「これより、大逆人ルードの処刑を執り行う」


 僕の隣に立つ処刑人らしき人物がそう言った。


「処刑? 僕が? 一体なんでだよ」


 その問いに答えるかのように処刑人が口を開く。


「この者は、我らが仇敵魔王を倒した英雄アルフレートを殺し、魔王討伐の手柄を奪おうとしたのだ!」

 民衆は驚嘆の声を上げ、口々に僕へ罵声を浴びせる。

 僕の目線の下には、間抜けた顔をした者、怒りを見せる者、無関心そうな顔が立ち並ぶ。



「は......僕が?」


 一体これはどういうことだ。今僕を処刑する必要がどこにある。


 なんで、僕が殺されるんだ。いや、そもそも何で。

 

 

 処刑の通知は全人類が住む帝都、その全員に行き渡るはずだろ。


 『聖典第一章第二節ー魔族は人類にとっての敵であり、神に背く害悪である』


 そうだ。僕はずっと人類に貢献してきたはずだ。

 僕は正義を為してきた。一切の陰り無く。


 『聖典第一章第三節ー人に生まれたならば必ず正義を為すべきである』


 正義を為すなら、なんで誰も助けようとしないんだよ。

 僕は人類の為に立ち上がったじゃないか。


 『聖典第一章第一節。何人たりとも神に背いてはならず、神の教えは絶対の正義である』



 まさかお前ら、




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 ー数年前 大戦開始前 公園ー


「よし、いっけぇええ!」


 数人の子供たちが、ボールを使い遊んでいた。


 その中の一人の少女が、思い切りボールを蹴り上げた。


 ボールは空高く舞い上がり、そして近くの木に目掛けて落下した。


 その木は葉が生い茂っており、ボールはその中で引っ掛かった。


「あーあ......」


「どうしよう。あんなに高いと取れないよ」


 ボールを失い、少年たちは途方に暮れていた。


「どうした」


 その横を、一人の少年、ルードが通りかかり、声を掛けた。


「えっと、ボールが木に引っかかって......」


 少年は何も言わずにその木をちらと見た。


 そして、およそ常人ではない身のこなしで木を駆け上っていった。


「すっげぇぇ......」


 そのままスッと地面に飛び降り、ボールを持ってその少年たちの元へ向かう。


「......ほら」


 そして、そっと手を差し出してその少女にボールを手渡した。


「ありがと、お兄ちゃん!」


 礼を言って少年たちは笑顔で駆け出していく。


 その様子を僅かだけ眺めて、ルードは去って行った。



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 ー大戦初期 戦場ー


「クソ、敵の数が多い!」


 かつて行われた魔族との大戦、その最中、苦戦を強いられる場面もあった。


「だめだ、このままだと押し切られる!」


 部隊の一つが、魔族相手に劣勢となり押されていた。



「あなたたちは下がっていてください。僕がすべて片づける」


 颯爽と現れたその少年、勇者ルードは、周囲の魔族を一瞬で蹴散らした。


「あ、ありがとうございます!」


「恩に着ます!」


 危機を助けられた人たちは、口々に礼を述べた。


「そんなんじゃない。僕は聖典に従って行動したまでです」


 その少年は、表情一つ変えずに去って行った。


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 ー大戦中期 戦場ー


「ここを突破しねぇと......」


 部隊の前に立ち塞がったのは魔族の大群だった。


「数が多いな......厳しいか」


「いや、やるしかないだろ」


 この人数で敵を突破することは難しいとは思いつつ、立ち向かうことを決める。


「いいや、その必要はありません」


 突如として現れたのは勇者だった。


「僕が一体残らず殺してきます」


 淡々と少年は言い放つ。


「さすがに一人じゃ無理だ!」


 一人が勇者の身を案じる。


「......あなた方はここに残っていてください」


 静止も聞かずに少年は敵の中へ走って行った。

 魔族が集団で襲い掛かるが、少年は攻撃を許さず、まさしく一網打尽にした。


 助けた部隊には一瞥も与えず、少年はひたすら魔族を殺し続けた。


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 ー大戦後期 戦場ー


「ここは僕一人で叩き潰します」


 大戦も終わりに近づいてきたころ、その頃には人類が優勢であったのにも関わらず、少年は一人で戦っていた。


「無茶だ、いくら勇者でも、この相手じゃ......」


 目の前にいるのは魔族の中でも強力な個体だった。


「そうだ。ここは協力して......」


「いえ、その必要はありません」


 その申し出を、勇者はあっさりと断る。


「どうして......」


「僕は、聖典が示す正義を実行するだけです」


 その言葉に一切の偽りは感じられなかった。


「でも、今回は敵が強すぎる。負けるかもしれないだろ!」


「......勝手に僕の能力を推し量るな。魔族は僕が皆殺しにする」


 勇者は一人、敵へ走って行った。

 勇者と魔族の戦い、それは一瞬だった。

 たった一撃、それだけで魔族だったものは消し飛んだ。


「こんなところか......」


 足元を見つめて勇者が一人呟く。


「・・・・・・」


 辺りは静寂に包まれる。

 表情一つ変えず敵を殲滅した勇者の姿を見て、言葉を発する者はいなくなった。



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 ー魔王討伐後 軍本部ー


「アレはやり過ぎた。人類への忠誠心を植え付けるために聖典を利用したはいいが、度が過ぎている。このままでは、何かの拍子で人類に牙を剝いてもおかしくはない。それに、使い終わった兵器は処分しなくては」と、誰かが言った。


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 目の前に広がるのは、僕が不当に処刑されようとしているのをただ呆然と見つめる、神に背く民衆どもの姿だ。



 正義を為すのが人だ。なら、それをしないお前らはただの処罰の対象だ。



 だったら......


 

 皆殺しにしてやるよ、愚民共。



 まもなくして、ルードの首は斬り落とされた。




 The story is the end......?

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