†ガチ狂信者降☆臨!!†~処刑されたらタイムリープしたので、人類に神の怒りをお見舞いしてやろうと思います~

知能犯クロ

第一章『救済』

勇者、始動。

 決戦の地、魔王城。

 短い純白の髪に左に赤い目、右に青い目を持った勇者ルードに魔王が問う。


「なぜお前は戦う」


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 勇者となる前のルードはよくいる少年だった。

 彼が五歳ほどのこと。




 今日もあてもなく町中を歩き回る。


「今日のご飯は何にしようかな」



 僕以外の家族はみんないなくなり、食べ物に困っているので、こうして食べるものを探して歩き回るのが日課だった。


 今日はいつもと趣を変えて遠くの飲食店のごみ箱を漁ろう。家の近くだとパンしかない。こうして日毎に漁るゴミ箱の種類を変えているわけだ。

 こうすることでバレにくくなるし、なにより味に飽きない。


 そうして、少し高価な店が立ち並ぶところにやってきた。

 ゴミ箱を探して、ボロボロの服で歩き回っていた、その時だった。


「いってぇな......」


 僕の目の前にいたのは酔っぱらった若い男だった。僕が見えなくてぶつかったのだろう。


「てめぇ何しやがる、このクソガキがぁ!」


「あー、ええと」


 僕に色々なことを教えてくれるはずだった家族は早いうちに死んだ。だからこういうときどうすればいいのかよくわからない。

 記憶を引っ張り出そうとする。

 そうだ、悪いことをすれば謝るんだったっけ?


「あー、すいません」


「舐めてんじゃねぇぞ! この貧乏者が!」


 あれ、聞こえていないのか?

 確かこうすればいいはずだから、聞こえてないので間違いないはずだ。


「ごーめーんーなーさーい!」


 今度は大きい声で言ってみた。これでどうだろう。


「てめぇ、俺はなぁ、軍の炎魔法の使い手だぞ!」


 聞いたことがある。初対面の人には自己紹介というものをするらしい。


「あ、どうも。始めまして。僕はルードといいます」


「このガキぃ! もう許さねぇ。その髪燃やしてやるよ!」


 そうして男は僕に魔法を使おうとする。

 その騒動に気づき、周囲には人が集まってきた。


「オラ! 喰らえ!」


 うーん、どうしようか。

 相手は意思疎通ができないようだ。そしておそらく敵対している。

 いや、これに似た状況を知ってる。確か、魔族と戦うときと同じだ。

 そしてその対処法は、


「なにっ!?」


 しかしどうすればいいかわからず手をかざしたら、突如手が光った。

 そして光は男を数メートル吹っ飛ばした。


「何だ今のは!?」


 周囲にいた人々がざわめきだす。


 あれ?もしかしてまずいことになった?


 僕がそう心配していると......


「君、名前は」


 貫禄のある男が僕に話しかけてきた。

 一体なんだろう?まさか捕まるとかないよね。


「ルードです」


「じゃあ、家族はいるかな」


 どういうことかはわからないが、そう尋ねてくる。


「いません」


 と、正直に答えると、


「なら、君を軍で引き取らせて貰おう」


 それ以来僕は軍で教育というものを受けることになった。


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 なんか僕には、魔族にすごい力を食らわせる魔法っていう、光魔法だっけ?というのがあるらしく、それで、それを使えるのは僕だけらしい。


 そのために、こうして軍に引き取られたわけだ。


 にしても、


「はぁあああー--」


 思わず呻き声を上げる。


 僕には、軍から僕しか使えない、というか、僕のために作られたというか、そんな感じのところがあり、そこでいつも色々と頑張っている。


 今やっているのは筋力トレーニングだ。

 腕で体を支えて上下させる、というやつだ。


 これがなかなかにしんどい。

 思わず手を休めていると、


「時間を無駄にするな。まだあと三十回残っているぞ」


 僕に指導する役目の人が急かす。


 しょうがない、やるかぁ。


 まったく、何で僕がこんなことしなくちゃならないのさ。

 軍に来ていきなり修行とか。


 そもそも僕は、人類と魔族の戦いとかよく知らないし。


 まあいいか。どうせすることもないし、何かしたいことがあるわけでもないし。そもそも僕はまともに勉強したことがないから、何が良いことなのかもわからないし。


「次は座学だ。移動しろ」


 へえ、次は座学かあ。やったことないな。

 まあ、適当にやるか。


 そうして、数年が経った。


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「それでは、アリシア聖典第一章を読み上げてみなさい」


 僕の前で聖典について教えているのは指導係である神父だ。

 勇者である僕には専用の設備が与えられており、そこで日々訓練に励んでいる。

 訓練は主に勉学と戦闘訓練に分けられ、勉学で主に学習するのは聖典についてである。 



「第一節。何人たりとも神に背いてはならず、神の教えは絶対の正義である」


 僕は全て暗記している聖典の語句を読み上げる。聖典は偉大なる神、救世主アリシア様が人類のためにもたらされた教えであり、当然その内容を忘れることなどありえない。

「第二節。魔族は人類にとっての敵であり、神に背く害悪である」

「第三節。人に生まれたならば必ず正義を為すべきである」

「第四節。穢れなき魂は、死後救済の地へと導かれる」 


 僕は聖典の内容を一通り読み上げ、座学を終える。


 軍では僕に、かなり多くの時間聖典の学習をさせた。

 恐らくまだ子供だった僕に正しい感性を植え付けるために行ったのだろう。


 軍に来たばかりの僕は本当に無知だった。人類を導いて下さる聖典すら碌に知らなかったのだから。生きる目的すらなく、ただ茫然と日々を過ごしていた。だが今は違う。僕はもう、神を知っている。それだけで十分だ。



 そして戦闘訓練、つまり神に背く害虫である魔族を直接殺すための訓練が始まるのだ。僕は部屋を出て訓練場へと向かう。


 訓練場、といっても座学をしていた部屋の庭のような場所で、木刀を取って振りかざし、風を切りながらひたすら素振りを続ける。


 僕には魔族に対して威力を発揮する光魔法を扱え、さらにはそれを使えるのは僕ただ一人だけだ。


 そうしている内に数時間は経過しただろうか。

 だが、まだまだ手を休めるわけにはいかない。

 僕には使命がある。聖典が示す正義の為に人類に栄光に導かねばならない。

 光魔法を扱える僕にしかできないことだ。

 無駄な時間など存在させず、疲労だって意に返さず、常に最善を尽くす。


 ーもっと強くなるんだ。神に背く害虫共を蹴散らす、その時まで。



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 魔王が問う、なぜ戦うのかと。


 そんなもの、答えは決まっている。

 記憶を引っ張り出すまでもないことだ。


「そりゃあ、だって......」



「聖典に書いてあるからだよ」



 そう、少年はさも当然のように答えた。

 それから戦いが始まり、魔王は討伐された。


「勝った、のか」


 神に背く害虫共の頭である魔王を倒したことで少し気が緩んだのか、体が重くなる。

 きっと疲れが溜まっていたのだろう。

 そのまま僕は気を失った。




 次に僕が目覚めたのは断頭台の上だった。






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