EX ホープレスキングダムにて

 はじめに破壊があった。

 その破壊から一匹の悪夢ナイトメアが生まれた。ナイトメアは本能の赴くままに自分の周りを全て破壊した。

 そして、その破壊から新たなナイトメアが生まれた。

 これが、ホープレスキングダムの始まりである。



(ホープレスキングダム書庫 「創世記」1ページより引用)



◇◇◇



 岩山に囲まれた静かな国、ホープレスキングダム。その中央に王宮はあった。

 闇に溶けたような漆黒の玉座の間。豪奢な装飾はなく、玉座のみという至ってシンプルな作りの部屋だ。

 だが、そこに座る主は、ここにはいなかった。

 明かりは壁にかけられたロウソクのみ。静かな灯がチラチラと揺れていた。

 その中に、漆黒のローブを頭から纏った影が4つ。一見すると闇と同化しているように見えるが、手に持った燭台がそれらの存在を明るみにしていた。


「ミラクルピンクが復活したようですね」


 影の一つが、静かな声で呟いた。どこか相手に淡々と絶望を与えるような冷え切った声音だ。


「……ミラクルピンク」

「チッ、気に入らねェ。ナイトメアのヤロウはなにやってたんだ」

「しょうがないよ、あにぃ。アタイらと違ってアイツらは知能がないじゃないか」


 あるものは自身のツメを見ながら、またあるものはその場で吐き捨てるように、そしてあるものはローブの下で妖艶に微笑みながら。

 反応は様々だった。


 最初に口火を切ったローブ姿の人物が、ツメの手入れをしていた人物に歩み寄る。燭台の火が揺れ、ぼんやりとその姿を映し出していた。


「デストロイさん、我らが王、ホープレス様からの指令です」

「……ああ」

「これから作戦は第二フェーズに入ります。この夢奪球むだつだまを使って、絶望を集めるのです」


 デストロイと呼ばれた人物は、フードを取った。炎のようにギラつく深紅の瞳、短めの少し癖のある白銀の髪。その中でも一番目を惹くのは、彼の手元の鉤爪だ。手につけた手甲鉤は、ロウソクの明りを受けて不気味に輝いていた。

 長い鉤爪で器用に夢奪球を手に取り、デストロイはにやりと口角を上げる。


「…すべてを破壊してやる」


 地を這うような声で言い放ち、彼は姿を消した。


「期待していますよ、デストロイさん」


 そう言って、燭台のロウソクを吹き消す。すると辺りの燭台の火もすべて掻き消え、王宮は静かな闇に包まれた。

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