第28話 裏切りと謀略

 聖竜公国とアーシア教主国の北方にある険峻にして広大なデラース山脈のさらに北側、ブロイア大陸の最北端は人類がほとんど立ち入ったことのない未踏の地である。


 その理由は夏でも厚い雪を頂く険しい山々を越えることが困難なこともあるが、何より大気中に漂う濃密な「魔素」の影響だった。


 「魔素」とは魔法を発動させるのに必要な微粒子で、精霊は魔素が凝縮した存在だ。地水火風の四つの要素を持つ魔素に干渉することで魔法は発動する。四大国があるデラース山脈の南側に比べ、その北方は人間が生存するのが困難なほど濃い魔素が存在していた。


 そこは当然普通の動物も生きられず、「魔の坩堝るつぼ」と呼ばれるブロイア大陸の北端には魔族のみが生息していた。強き者が弱きものを支配し、生きるためには戦い続けるしかない弱肉強食の世界。現世に現れた魔界とも呼ぶべき場所が「魔の坩堝」だった。


 「姉御、配置完了しました」


 全身を鱗に覆われた半魚人のような魔族の男が長い舌を出し入れしながら言う。ソファに寝そべった姉御と呼ばれた女がじろりとその男を睨んで手に持った紫色の羽扇を向ける。切れ長の目に艶のある長髪、深いスリットの入ったワンピースから伸びるすらりとした美脚。体の作りだけを見れば絶世の美女と呼べるが、その青い肌の色と額にある真紅のルビーのような「第三の目」の存在が彼女が人間でないことを物語っている。


 「姉御と呼ぶなと言ったろう。本当に物覚えが悪いね、お前たちは」


 「す、すいやせん、姉……参謀」


 暗褐色の瞳を細めて言う女に魔族の男が恐縮して頭を下げる。


 「分かりゃいいんだよ。で、向こうの動きは予測通りかい?」


 「へえ。姉御の読み通りで」


 わざとやっているのかと思い、一瞬殺気だった女だったが、男の間の抜けた顔を見てはあ、とため息を吐く。本当に頭が足りないのだ。中級に毛の生えた程度の魔族ではこんなものだろう。


 「とにかく指示通りにやりな。グラオザーム様は?」


 「へえ。奥の殿でんで敵の動きを確認しておりやす」


 「ふん、いつも前に出たがるあのご仁が珍しくおとなしいね。こっちとしちゃありがたいが」

 

 羽扇をぱたぱたと振りながら呟く彼女の名はリスト。「魔の坩堝」に棲息する魔族の中で最大の力を持つ「六魔星」の一人グラオザームの腹心にして、魔族随一の策略家である。六魔星は大陸北端の地において勢力争いをしており、特にグラオザームはもう一人の六魔星、ゾイマーと事あるごとに対立していた。そして今、ゾイマーは配下の魔族数千を率い、グラオザームの本拠地へ攻め込もうとしていた。


 「各隊の配置を確認して待機。『火の谷』に敵が入るまでは動くんじゃないよ」


 「へえ」


 男が頭を下げて歩み去る。ここはグラオザームの本拠地である「バルド渓谷」に聳える「狂骨要塞きょうこつようさい」の中。リストが指揮を執る作戦会議室だ。グラオザームがいる「奥の殿」は要塞の最深部にある。


 「結界に問題は?」


 半魚人もどきが下がった後、リストは地面から湧いたように現れた鳥の骸骨のような頭をした魔族に尋ねる。


 「今のところ綻びはございません。それに今のところ攻め手の中に上級魔族の姿は確認出来ません」


 「ふん、あからさまな陽動だね。少数精鋭で本丸を急襲するつもりだろう」


 「この『狂骨要塞』には三重の結界が張ってあります。ゾイマー自身が乗り込んででも来ぬ限り、突破は不可能かと」


 「魔の坩堝」は魔族の本拠地だけあって強大な魔法が当たり前のように使われている。人間では使えるものの少ない転移魔法も中級以上の魔族はほぼ全員が使える。だから戦略的に重要な場所には外部からの転移魔法による侵入を阻止する結界が張られているのが普通であった。


 「油断は禁物だよ。敵の本丸へは転移は不可能。そいつがここじゃ常識だけどね。そいつを覆す手を打ってくることを警戒するのさ」


 「ゾイマー自身が乗り込んでくると?」


 「可能性はあるだろう。とにかく警戒を怠るんじゃないよ」


 「はっ!」


 骸骨魔族がそう言って頭を下げたとき通信用の水晶球が光り、慌てふためいた部下の声が聞こえてくる。


 「た、大変です!奥の殿の前庭に上級魔族が複数出現しました!」


 「何だと!?」


 骸骨魔族が驚愕の声を上げる。リストは舌打ちをして立ち上がった。


 「迎撃隊を出しな。奥の殿には一歩も入れるんじゃないよ。あたしもすぐに行く」


 魔法球をソファに置きリストが羽扇を振る。と、つむじ風が彼女の体を包み、あっという間にその姿が掻き消えた。



 「さて、あたしの予想通りなら……」


 作戦室から転移したリストが辺りを見渡して呟く。目の前には華美な装飾が施された宮殿のような建物が見える。


 「くっ、くっ、まんまとかかったねえ」


 いきなり声が響き、虚空からいくつもの影が姿を現す。様々な容姿をした異形の者たち。ゾイマー配下の魔族だ。


 「わざわざ案内してくれて感謝するよ。リスト」


 嘲笑を浮かべながら燃えるような赤い髪をゆらゆらと動かす口の裂けた女の魔族が言う。下半身は蛇になっており、手の爪が異様に長い。


 「このナール様の策略にまんまとかかってくれたねえ」


 半身蛇のナールと名乗った魔族が奥に見える宮殿を指して勝ち誇ったように笑う。


 「ふん、あたしの転移魔法の軌道を辿るとはなかなかやるじゃないか。まあ結界内に入れたのはゾイマーの力だろうけどね」


 リストがナールを見下ろして言う。彼女が立っている場所はナールたちが出現した所より一段高くなっていた。


 「要塞の結界内に入ったものの、グラオザーム様がいる奥の殿の正確な位置は分からない。だからあたしの部下を装って魔法球で通信を送り、あたしに転移魔法を使わせてその魔素の流れを辿ったってわけだね」


 「さすがグラオザームの頭脳と言われるリストだ。理解が早いじゃないか」


 「ああ。間抜けなあんたよりはね」


 「何だと!?」


 ナールが気色ばむ。


 「分からないのかい?ここにあんたらが現れてもあたしは顔色一つ変えずにあんたがしたことを解説してやってるんだよ?つまりあんたらがここに現れるのはあたしの予測通りだってことだ」


 「な!」


 リストがにやりと笑って手を振る。と、目の前に見えていた宮殿が煙のように消え失せた。


 「これは!?」


 ナールが周囲を見回して叫ぶ。さっきまでただの荒れ地に見えた自分たちの立っている場所が高い壁に囲まれたすり鉢状の地面の底になっている。一段高くなっていると見えたリストの立っている場所はその壁の上だった。


 「まんまとかかったのはあんたらの方さ。さっきの通信が虚偽だと気づかないとでも思ったのかい?あたしの転移魔法の軌跡を追ってくると踏んでたからここに誘い出したのさ」


 「バカな!だからといってこんな図ったように全員がすり鉢の底へ誘い出されるなど」


 「勿論偶然じゃないさ。あらかじめあたし以外の者が転移魔法を使えばそこに跳ばされるよう結界に細工をしておいたんだよ。正面から攻めてきてる連中が陽動なのは見え見えだったし、要塞内に奇襲してくる方が上級魔族なのも簡単に想像がつく。厄介な連中をまとめて始末するのに丁度いいからね」


 「くっ!そう思い通りになると思わないことだね!」


 ナールが大きく口を開け、炎をリストに向けて吐く。だがその炎は壁の淵辺りで止まり、虚空に霧散する。


 「何!?」


 「わざわざ呼び込んだんだよ。何の工夫もしてないわけがないだろう。その中で放った魔法は外へは出られない。転移魔法で出ることも出来ないよ」


 「くっ!」


 ナールの周りの魔族も壁に穴を開けようとしたり地面を溶かそうとしたり様々な魔法を繰り出すが、一向に効果がなかった。そうこうしているうちにナールたちがいるすり鉢の円形の壁が徐々に狭まって来る。


 「何!?」


 「ここで消えてもらおう。あんたらを始末すればゾイマーの戦力は著しく低下するだろうからね」


 「くそっ!リスト!!」


 憤怒に満ちた目でナールがリストを睨む。が転移魔法も発動せず、すり鉢の底に閉じ込められた魔族たちは迫りくる壁に押しつぶされていく。


 「そうさ、冥府まで覚えておきな。あんたらを殺した魔族の名をね」


 冷笑し羽扇を向けるリストに怨嗟の言葉を吐きながら、ナールたちはすり鉢の底で圧壊する。後には平らな地面だけが残った。


 「さて、いくら『六魔星』といえどここの三重結界を破るには相当の魔力を消費したはず。ゾイマーに痛手を食らわせる好機だね」


 リストが虚空に手を伸ばすと、その先に先ほどとは違う魔法球が現れる。それを手に取り、リストは要塞の敷地の各所に配置した部下に連絡を取る。


 「お前たち、どうだい?」


 「姉御。巨大な魔力を感知しました!」


 部下の一人が興奮した声で返答をする。


 「だから姉御と……まあいい場所は?」


 「渓谷の西、『嘆きの谷』の辺りでさ」


 「要塞のすぐ外か。分かった」


 リストは一度通信を切り、魔法球に魔力を込めて別のところに通信を飛ばす。


 「グラオザーム様、ゾイマーの居場所の目途が付きました。今奴は消耗しているはず。叩くチャンスです」


 「分かった。上級を何体か連れてありったけの馳走をしてやれ。それから行く」


 魔法球から野太いグラオザームの声が響く。要はさらに魔力を削るための捨て石になれということだ。リストは顔をしかめたが、ボスの命令には逆らえない。


 「動けるものは『嘆きの谷』に集合。ゾイマーを確認次第ありったけの攻撃魔法をプレゼントしてやんな。まだ術式は残ってるから転移魔法は使うんじゃないよ」


 再び通信を切り替え部下たちに指示を出すと、リスト自身も転移魔法で「嘆きの谷」へ向かう。空中に浮かんで気配を探ると、確かに谷底に巨大な魔力を感じる。


 「あそこか」


 ナールたちを罠に嵌めた仕掛けのせいで部下たちは転移魔法を使えずここに来るには少し時間がかかるだろう。少しでも回復される前にダメージを与えておくべきか。リストは静かに谷底へ向かって下降していき、ゾイマーの姿を視界に捉える。


 「漆黒の魔炎ダーク・フレイム!」


 リストが巨大な黒い炎の球を谷底へ撃ち出す。ゾイマーに向かって落下した火球は谷底に着く前に見えない壁にぶつかったように弾け飛んだ。


 「防御魔法か。さすが腐っても『六魔星』。消耗した状態であれを防ぐとはね」


 だが上級魔法を立て続けに放てばいかに六魔星のゾイマーとはいえダメ―ジは与えられるはず。そう考えてリストが再度呪文の詠唱をしようとしたその時、


 「懲罰の獄牢パニッシュ・パーガトリー!」


 空中に声が響き、リストの周囲の空間が歪んで天から何本もの巨大な格子のようなものが下りてくる。状況に対応しようとする前にリストの体はその格子に囲まれ、気が付くと鳥籠のようなものの中に閉じ込められてしまう。


 「これは!?」


 「ふふ、今度こそかかったねえ」


 ゆらりと空間が揺れ、何者かの姿が虚空より現れる。それを見たリストが思わず驚愕の表情を浮かべた。現れたのは黒い翼をもつ魔族の女だった。だがその大きさが尋常ではない。リストが囚われた鳥籠のようなものを片手でぶら下げているのだ。人型の魔族でこれほど巨大な者がいるとは信じられなかった。


 「違う、これは!」


 「気づいたようだねえ。私が大きいんじゃない。あんたが縮んだのさ」


 魔族の女が笑いながら鳥かごのようなものを揺らす。リストは実際に小鳥のような大きさになり、中に閉じ込められていたのだ。


 「拘束魔法か。しかもこれほどの……。あたしに発動の気配を感じさせないとは信じられないよ。あんたよほどの力を持っているらしいね。ゾイマーの部下にそれほどの奴がいるとは聞いてなかったよ」


 「いや、これは私の魔法じゃない。あんたを捕らえたのはゾイマー様さ」


 「バカな。ここの三重結界を破ったうえでこれほどの魔法を使うなどいくら六魔星でも……」


 「わしが結界を破ったと誰が言った?」


 突然しわがれた声が聞こえ、リストははっとして振り向いた。目の前に巨大な体躯の岩のような魔族が座っている。六魔星の一人、ゾイマーだ。いつの間にかリストと彼女を閉じ込めた籠を持つ魔族の女は彼がいる谷底に来ていた。いつ移動したのか分からなかった。


 「確かにこの『狂骨要塞』の三重結界は厄介な代物よ。だが我が魔力を使わずとも破る方法がないわけではない。のう、カルト」


 「はい。多少の犠牲は出ましたが、この通り成功いたしました」


 カルトと呼ばれた魔族の女がリストが囚われた籠を揺らしながら微笑む。


 「犠牲?まさかあんたら仲間の命を引き換えにして禁呪を……」


 リストが格子を掴みながら焦った表情を受かべる。


 「その通りさ。それもあんたが発動させてくれたんだよ。礼を言わなきゃね」


 「あたしが?まさかさっきのナールとかいう連中……」


 「ああ、本人たちは自分が禁呪のにえにされたなんて知らなかっただろうがね」


 「そんな馬鹿な。ならあいつらは三重結界が破られる前に要塞内に侵入したっていうのか?転移魔法もなしであたしらに気づかずそんなことが出来るはずが……」


 「それが出来るのさ。最上級の隠密魔法。あんたもその存在くらいは聞いたことがあるだろう?」


 「姿は勿論、魔力や気配までを完璧に消すというあれか。あんなもの、それこそ六魔星レベルの魔族でなければ……」


 「だから私が使ったんですよ」

 

 いきなり声がして、ゾイマーの傍らに一人の男が現れた。その姿を見てリストが目を見張る。


 「ヴァイスハイト!」

 

 「お見知りおきとは嬉しいね。お初にお目にかかる。そしてこれが最後になる」


 六魔星の一人、ヴァイスハイトは丁寧に頭を下げてうすら笑いを浮かべる。

 

 「まさか六魔星が手を結ぶとはね。ゾイマー、あんたこんな新参者に頼って情けないとは思わないのかい?」


 「新参者だからよいのだ。余計な確執もしがらみもない。こちらの利になるのなら手を結んだとて一向に構わぬわ」


 ゾイマーが不敵な笑みを浮かべリストを冷ややかな目で見る。


 「利だって?大体あんたら禁呪を使うってことがどういうことか分かってるんだろうね。下手をすればこの辺り一帯の魔素の流れがおかしくなって……」


 「構わんさ。惰弱な魔族がいくら死のうと問題ではない。間もなくこの世界は我らが支配するようになるのだからな」


 「はっ、バカだとは聞いていたがここまでとはね。誇大妄想も大概にしな」


 「妄想などではないのですよ、リスト。間もなく世界は一度滅び、造り替えられるのです。さて、これで分かったでしょう?出てきたらどうです?」


 ヴァイスハイトがリストの背後に目をやって叫ぶ。と、空間が歪み、巨大な魔力が流れ込んでくる。


 「この魔力はまさか!?」


 振り返ったリストが信じられないといった顔をする。そして歪みの中から赤鬼のような姿の巨大な魔族が姿を現した。


 「グ、グラオザーム様!?」


 「いかがです?言った通り、私とゾイマー両名が直接結界を破ることなく、あなたの参謀リストを捕らえましたよ。私の話に乗る気になりましたかな?」


 ヴァイスハイトが渋面を作るグラオザームに笑いながら言う。


 「だが我が要塞内に部下を侵入させたのはお前の魔法であるし、まして結界を破るのに禁呪を使うとは聞いておらんぞ」


 「些細な事です。我らが協力すればこの世界を魔族の支配する魔界へと変えることが出来るのですよ?」


 「どういうことですグラオザーム様!まさか最初からゾイマーたちと!」


 リストが格子を握り締め、怒りの声を上げる。


 「リスト。お主の知恵は大いに役に立った。だが戦略においてはヴァイスハイトの方が上だったようだな。それにお主に心酔しておる部下も多い。俺の寝首を掻こうとしているという噂も聞こえておる」


 「そんな讒言をお信じになるのですか!?これまであなたの勢力拡大に尽くしてきたあたしより敵であったゾイマーや新参者のヴァイスハイトを信じると!?」


 「ヴァイスハイトの話には興味がある。停滞した、いや崩壊しつつあるこの「魔の坩堝」を抜け出し、我らが世界に覇を唱えるという話にはな。俺が出した条件をまがりなりにもクリアしてみせたこやつの力は認めねばなるまい。まあゾイマーと手を結ぶなど腸が煮えくり返る思いだが、大願の前にはやむを得ぬ」


 「それはこちらのセリフだ、グラオザーム」


 ゾイマーが渋い顔で言う。


 「だからと言って何故あたしを!」


 グラオザームの言葉通りならリストを捕えるという条件は自分から言い出したことになる。


 「仕方あるまい。ヴァイスハイトが手を結ぶ条件にお主の処断を要求してきたのだ。理由は知らんがな。謀反の恐れのある部下を一人始末するだけで世界を手にできるとあれば迷う必要もなかろう」


 「グラオザーム!!」


 リストが激怒してグラオザームを睨みつける。


 「だがここまで働いてくれたお主をこの手で始末するのは流石に気が引ける。どうだ、ヴァイスハイト。リストを拘束したままデラース山脈の向こうへ放逐するというのは?魔素が薄い山脈の南側なら放っておいてもそのうち力尽きよう」


 人間や動物が魔素の濃い「魔の坩堝」で生きていけないように、魔族もまた魔素の薄いデラース山脈の南側では長時間活動することが出来ない。人間が酸素の薄い高山にいるようなもので、酸欠ならぬ魔欠ともいうべき状態になるのである。


 「その方が生殺しになってより残酷だと思いますがね。まあ人間が近寄らないような深山の中であればよろしいでしょう」


 ヴァイスハイトが渋々と言った様子で頷く。


 「では人間どもが『死霊の谷』と呼んで恐れるザクド山の奥に転移させよう。悪く思うなリスト。世界を支配した暁にはお主の名を冠した城を建ててやろうぞ」


 勝手なことを、とリストはグラオザームを睨む。だがゾイマーの発動させたこの拘束魔法は今のリストでは破ることは出来そうになかった。


 「時間が経てば拘束が解けるなどと期待せぬことだ、リスト。お前の魔力が感知されている間はその籠から出ることは出来ぬ」


 ゾイマーが嘲笑しながら言う。


 「くそったれどもが!」


 「ではさらばだ、リスト。今まで大儀であった」


 グラオザームがカルトから籠を受け取り、魔力を込める。空間が歪み、リストを捕らえている籠が虚空に消えた。


 「死んでたまるものか。必ず復讐してやる」


 亜空間を漂いながらリストはそう言ってぎりっ、と唇を噛んだ。


 

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