第13話 修羅

 「勝ち目がねえだと?俺たちを舐めるな!」


 放たれた矢のようにフレキが一直線にジュラに突っ込む。


 「舐めちゃいねえよ」


 フレキが地を蹴りジャンプする。手にした短剣がジュラの喉元を掻き切るかと思えた瞬間、


 ガキッ!


 「何!?」


 ジュラの前に魔法陣が浮かび上がり、短剣はそこで止まってしまう。


 「防御魔法だと?」


 ゲリが驚きの声を上げる。


 「そんな!ジュラは詠唱などしていなかったはず」


 ミレイも驚愕の表情を浮かべる。


 「くく、そうさ。俺は魔法は苦手でね。だが」


 笑いながらジュラが後ろをちらりと見やる。


 「オルバ!?」


 「そういうこった。俺はこの通りの見かけなんで筋肉バカのファイターだと思われがちだが、本当は魔法が本職なんだよ。隊長さんも知らなかったろ?ずっと隠してたからな。。能ある鷹は何とやらってやつさ」


 オルバが得意げに話す。が、すぐに真顔になり何かを呟き始める。詠唱をしているのだ。


 「自分の周囲以外に防御魔法を展開させるとは確かに大したもんだ。な!」


 フレキが体勢を立て直し、もう一度突進する。


 「半獣人ハーフビーストのガキでもやって見せたぜ!」


 フレキが横に跳び、そのままジュラの側面に回り込んで飛び込む。が、振るった短剣はジュラの剣に止められ、はじき返された。


 「さっきお友達が言ってたろ?騎兵は歩兵に対して圧倒的優位があるんだよ。まして俺は並みの腕じゃないぜ。お前が獣人族ワービーストだという優位点を差し引いてもまだその差は埋められねえ」


 「それはどうかな?」


 フレキは一度距離を取り、そこから変則的なステップで跳躍しつつジュラに迫る。その速さに目が追い付かない。


 「これならどこから攻撃するか読み切れまい!」


 「そうだな。だが忘れてないか?さっきの女と俺たちは通じてるんだぜ?」


 そう言って馬を走らせフレキから距離を取ったジュラが懐から何かを取り出す。

ジュラとオルバ以外の三人の駐屯兵と睨みあっていたゲリがそれに気づいて大声で叫んだ。


 「いかん!離れろフレキ!」


 「もう遅え!」


 ジュラが取り出したものを地面に叩きつけると、強烈な臭いが広がる。赤毛の女が使った匂い玉だ。


 「ぐあっ!」


 鼻を押さえてよろめくフレキ。その足元にオルバの詠唱した魔法が放たれる。


 「爆炎破バースト・フレア!」


 「ぐわっ!」


 足元が爆裂し、足にやけどを負うフレキ。倒れ掛かったところにジュラの剣が迫る。


 「ちいっ!」


 右腕を斬りつけられ、フレキが思わず膝をつく。出血は大したことがないが、鼻が痺れてまともに動くことが出来ない。


 「どうだ?オルバの魔法に俺の剣。そしてお前らの自慢の鼻を潰す匂い玉だ。万に一つも勝ち目がないって言葉の意味が分かったろ?」


 「フレキ!」


 ゲリはフレキを助けようとするが、駐屯兵三人を相手にしている上にフレキほどではないが匂い玉の影響を受けているため思うように動くことが出来ずにいた。


 「フレキさん!」


 ミレイが駐屯兵を突っ切りフレキの元に行こうとするが、二人がかりで行く手を阻まれ近づくことも出来なかった。


 「ふん、女だてらに中隊長を務めてるっていうからどれほどのもんかと思ったが、大したことはないな」


 無精ひげを生やした兵が黄色い歯を見せてあざ笑う。


 「大方団長に色仕掛けでもしたんじゃねえか?そのでかい胸を使ってよぉ」


 二重顎の太った兵が剣を振り回しながら嘲笑する。その言葉にミレイは頭に血が上ってしまう。


 「取り消せ!!その無礼な言葉を!!」


 怒りに任せ太った兵に剣を繰り出すミレイ。だが冷静さを欠いたその攻撃はあっさり躱され、逆に背後に回った無精ひげの剣が振り下ろされる。


 「避けろ!」


 残った隻眼の兵を相手にしていたゲリが叫ぶ。とっさに身をひねったミレイだったが、切っ先が左腕をかすめ、脇腹にも傷をつけた。


 「くうっ!」


 無理に避けたためバランスを崩し、ミレイは落馬してしまう。怪我のため上手く受け身が取れず、体に激痛が走る。


 「ミレイ!」


 隻眼に攻撃を仕掛けミレイに駆け寄ろうとするゲリだったが、隻眼はそれを躱し、行く手を阻む。


 「ちっ、こいつできる!」


 匂い玉で弱まっているとはいえ、一対一で互角以上に自分と渡り合う隻眼の兵にゲリは舌打ちをした。正直こいつらを舐めていた。悪意を感じた時点で手を打っておくべきだった。


 「おやおや大丈夫ですか中隊長殿?きれいなお顔が歪んでますよ。どこか痛いんでちゅか~」


 何とか体を起こそうともがくミレイを見下ろしながら二重顎がからかうように言う。無精ひげはゲラゲラ笑いながら馬上から彼女の体に剣を向ける。


 「降参するなら命だけは助けてもいいぜ。その立派な胸でしてくれるってんならなあ」


 「ふざけるな!貴様らのようなクズにそんな真似をする位なら死んだ方が遥かにマシだ!」


 「そうかい。いつまで意地を張ってられるかな?」


 にやつきながら無精ひげが剣をミレイの右肩に当て、ずぶりと力を込める。


 「ぐああああっ!」


 肩を刺され、ミレイが悲鳴を上げる。


 「貴様ら!」


 ゲリがミレイの元に向かおうとするが、隻眼に加えて二重顎までが行く手に立ちはだかり、逆に攻撃で手傷を負ってしまう。


 「いつまでも遊んでるな!死にかけの女は放っておいて三人で一気にケダモノ野郎を仕留めろ!」


 ジュラが叫ぶ。フレキはふらつきながらも何とかオルバの攻撃魔法を躱しているが、段々と動きがおぼつかなくなっている。匂い玉の影響が中々抜けてくれない上、やけどと傷の痛みが徐々に体を蝕んでいた。


 「こっちもそろそろとどめといこうかい」


 よろめいたフレキに剣を向け、ジュラがそれを振り下ろそうとする。


 「烈風刃ワインド・エッジ!!」


 その時詠唱が響き、真空の刃がジュラの剣を弾き飛ばした。突然の出来事に、全員の動きが止まる。


 「何!?」


 驚いて見ると、馬に乗ったイアンがこちらに迫ってきていた。すぐ後ろにミルディアと駐屯兵の姿もある。


 「間一髪だったみたいだね。ありがとう、イアン」


 ミルディアがイアンに並走しながら礼を言う。


 「いえ、間に合ってよかったです。しかしこの状況……ミルディア様のご懸念通り隊長とフレキ殿たち以外は全て敵のようですね」


 「信じたくはなかったけど。とにかくみんなを助けよう」


 「はい。しかし敵は五人です。ご無理はなさらぬよう」


 「ちっ!何で戻ってきやがった!?お前ら、イアンとミルディアをやれ!俺とオルバでケダモノにとどめを刺す!」


 ジュラが叫び、改めてフレキに剣を向ける。


 「させるか!」


 ミルディアが叫び、フレキの下に走る。イアンは呪文を詠唱しつつ無精ひげたち三人に向かっていった。


 「坊ちゃんは引っ込んでな!爆炎破バースト・フレア!」


 オルバが放った攻撃魔法がミルディアの足元に炸裂する。乗っていた馬が驚き前足を上げて止まる。


 「ミルディア様!」


 駐屯兵三人に攻撃魔法を放ったイアンが馬首を返し、ミルディアの方へ向かう。足を止められたミルディアは何を思ったか馬から飛び降りると、その尻を思いきり叩いた。


 ヒヒーッ!


 馬がわななき、ジュラの方へ向かって走り出す。虚を突かれ、フレキに繰り出した剣が空を切る。


 「この!」


 ジュラが空馬をやり過ごす間にミルディアはフレキに駆け寄った。剣を抜いてジュラをけん制しつつ、フレキに声をかける。


 「大丈夫!?フレキ」


 「すまん油断した。気を付けろ。こいつらは手練れだ」


 「はあっ!」


 フレキとミルディアに剣を向けようとしたジュラに、後ろからイアンが斬りかかる。その後ろからは駐屯兵三人が迫ってきていた。


 「邪魔をするな優男!今からでも俺たちに付かんか?」


 「ふざけるな!誰が貴様らのようなゲス野郎どもの仲間に」


 「なら死ね!」


 斬りあうと思いきや、ジュラはにやりと笑って馬を動かした。そしてイアンの視線の先には……


 「避けて!イアン」


 ミルディアが叫ぶ。同時にオルバが魔法を放った。


 「烈風刃ワインド・エッジ!」


 先ほどイアンが放った風の魔法が今度はイアン自身を襲う。間一髪で直撃は避けたが、頬が切り裂かれ血が飛び散った。体勢を立て直そうとするが、追い付いてきた無精ひげたちが交互に剣を振りかざし、防戦一方になってしまう。


 「もう一人の駐屯兵は何をしてるんだ!?応援を……」


 振り返り、付いてきたもう一人の兵を探すミルディア。するとその兵はゲリとミレイが倒れている方へ向かっていた。


 「何を……」


 ミルディアの見ている前で兵が剣を抜き、ゲリに斬りかかる。何とか躱すゲリだが、動きに精彩がない。


 「何してる!敵はそっちじゃない!」


 「いいや、間違ってないぜ。の敵は奴らさ」


 不敵に笑いながらジュラが言う。さーっとミルディアの顔から血の気が引いた。


 「そんな……まさか」


 「俺が指名した護衛が?ミルディア様。くく、しょせん苦労知らずのボンボンですねえ」


 迂闊だった。イアンが味方と分かったから残りの二名もそうだと短絡的に信じてしまっていた。まさかイアン以外が全員敵だったとは。


 「ミルディア様とミレイ隊長、それにイアンと獣人族ワービースト二人は森で敵と遭遇し勇敢に戦ったが、敵の力があまりにも強く、俺に増援を呼ぶように指示。オルバたちを連れて戻った時にはすでに……ってな具合で城には報告しときますよ。今いる村の駐屯兵も半分近くはこっちの仲間ですからね。いくらでも口裏は合わせられます」


 「お前たち……」


 ミルディアは怒りに燃える目でジュラを睨んだ。自分の未熟さでフレキやミレイたちを危険に晒してしまったことに腸が煮えくり返る思いがする。


 「ジュラ、隊長だけはすぐに殺すなよ。あれだけの体だ。楽しんでからじゃなきゃもったいないぜ」


 オルバが笑って言う。その笑みの邪悪さに背筋が凍る思いがした。


 「ミレイ!」


 逃げろ、と言いかけてミルディアは絶句した。ミレイは必死に立ち上がろうとしていたが、あちこち血が滲み、まともに動くことが出来ないように見えた。


 ドクン!


 その時、ミルディアの中で何かが弾けた。今までにないすさまじい怒りの感情が体を駆け巡り、意識が一瞬真っ白になる。


 「さて、どこを切り刻んでほしいですか?ミルディア様」


 ジュラの剣の切っ先がミルディアの頬を滑り、血が流れ落ちる。


 それが起爆点だった。


 「てめえら……」


 ドスの利いた低い声がミルディアの口から洩れ、その髪が漆黒に変わっていく。


 「俺の女に何しやがったぁっ!!!」


 目にも止まらぬ速さで飛び上がると、ジュラの剣を自分の剣で振り払い、猛スピードでゲリと戦う駐屯兵に突っ込んでいく。兵が振り向く間もなく、その胴体をミルディアの剣が両断していた。


 「何だと!?」


 突然の出来事にジュラが驚愕の叫びをあげる。イアンを追い詰めていた無精ひげたち三人とオルバも一瞬、動きを止めた。


 「ミレイ」


 ミルディアが声をかけると、虚ろな瞳でミレイが顔を上げる。


 「ミルディア……様?」


 その傷だらけの姿を見た瞬間、ミルディアの理性は完全に失われた。


 「皆殺しだ……」


 そう呟いた次の瞬間、目にも止まらぬ速さでミルディアは駆け出し、あっという間に無精ひげたちのところへやってくる。


 「な、何だ!?こいつ!」


 目つきや髪の色が変化したミルディアを見て三人が戸惑いの声を上げる。そんな中でも隻眼の兵はいち早く冷静さを取り戻し、馬上から剣をミルディアに振るった。


 「しゃらくせえ!」


 だが渾身の力を込めて振りぬいたはずの隻眼兵の剣はミルディアの剣にあっさりはじき返されてしまう。予想外の出来事に流石の隻眼兵も動揺し、隙が生まれた。


 「がっ!」


 その隙を見逃さず、地を蹴ったミルディアの剣が隻眼兵の喉元に突き刺さった。噴水のように血を噴き出しながら隻眼兵は馬から落ちて絶命する。


 「ひいいっ!!」


 自分たちの中で一番腕の立つ隻眼兵がやられたことで無精ひげと二重顎はパニックになり、馬首を返して逃げようとする。だがミルディアはそれを許さず、神速ともいうべきスピードでまず二人の乗る馬の足を斬りつけた。


 ヒヒーッ!!


 パニックになって暴れだした馬から無精ひげたちは振り落とされる。そこに鬼のような形相をしてミルディアが剣を振りかざした。


 「ひいっ!」


 「た、助け……」


 悲鳴を上げ助けを乞う無精ひげと二重顎にミルディアは無言で剣を振り下ろした。体を何度も突き刺し、最後には首を斬り落とす。あまりにも残虐な殺りくに、ジュラとオルバはしばし言葉を失い、対応することが出来なかった。


 「おい、あれ、ほんとにあのミルディアなのかよ」


 ジュラが呆然と呟く。そのジュラをミルディアがぎろりと睨みつける。女子供なら見ただけで失神、気の弱いものならショック死しかねないほどの恐ろしい目つきだ。


 「オルバ!防御魔法だ!」


 ジュラが叫ぶ。同時にミルディアがジュラに向かって突進した。青色に輝く魔法陣が体の前に浮かび、ジュラは安堵して剣を構える。いくら速くても防御魔法が間に合えば問題ない。相手の剣を止めてそれから反撃を……


 するはずだった。


 パキイィ!


 一瞬何が起きたのか分からなかった。確かに展開したはずの魔法陣がミルディアの剣が当たった瞬間、ガラスのように砕け散ったのだ。そのことを理解する間もなく、防御魔法を突き破ったミルディアの剣はそのままジュラの左腕を斬り落としていた。


 「ぎゃあああああっ!!」


 肘から先が地面に落ち、大量の血を流しながらジュラは絶叫して地面に落ちた。燃えるような熱さと激痛にのたうち回り、脂汗を吹きだしながら体を痙攣させる。


 「ひっ!」


 信じられない事態にオルバもパニックになり、息を呑む。ミルディアがそんなオルバに目をやり、剣を振る。刃についたジュラの血が飛び散り、土に吸われていく。


 「ひいいいっ!!」


 オルバが慌てて呪文を詠唱する。同時にミルディアがそのオルバへ突進した。


 「二重防御バイ・プロテクション!!」


 オルバの前に二つの魔法陣が僅かな距離を隔てて重なるように浮かび上がる。神話級の魔法でもない限り、二重の防御結界を破ることは出来ない。まして斬撃など全く歯が立たない……


 はずだった。


 「ぶぐうっ!!」


 跳躍したミルディアが真っ直ぐ突き出した剣は二枚の魔法陣をまるで紙を貫くようにたやすく突き破り、そのままオルバの胸に突き刺さった。勢いよくオルバの体を貫いた剣は背中まで貫通し、オルバは口から吐血して落馬する。


 「ごぶっ!」


 大量の吐血をした後、ひゅーという空気が抜けるような音を漏らし、オルバはその生命活動を止めた。


 「あ、あ……」


 あまりにも凄惨な光景にさしものフレキも言葉を失う。オルバの体から剣を引き抜いたミルディアは幽鬼のような顔でゆらりと歩き出し、未だ激痛に悶絶するジュラに剣を向ける。とどめをさす気のようだ。


 「お待ちください!」


 その時、イアンが叫び、よろよろとミルディアに歩み寄った。三人の駐屯兵を相手にしていたイアンの体も他の者と同じようにあちこち傷つき、流血している。


 「やりすぎです!それ以上はいけません、ミルディア様!」


 「邪魔をするな」


 殺意のこもった目でイアンを睨むミルディア。しかしイアンはひるむことなく倒れたジュラの前に跪くと、真っ直ぐミルディアを見上げる。


 「正気にお戻りください。我々の敬愛するミルディア様はこのような無道をなさる方ではございません」


 「イアン……」


 真剣に自分を見つめるイアンを見るうち、ミルディアの中の破壊衝動がすうっと薄れる。気が付くと髪の色が元に戻り、ミルディアは我に返った。


 「ぼ、僕……またこんな恐ろしい……」


 カラン、と血まみれの剣が地面に落ちる。呆然と立ち尽くすミルディアの肩をようやく立ち上がったフレキがポン、と叩く。


 「元に戻ったな。そっちの方がお前さんらしいぜ」


 「フレキ……僕、なんて恐ろしいことを……」


 辺りを見渡し、ミルディアの頬に涙が流れる。その震える体をフレキが抱きしめた。


 「向こうもこっちを殺す気だったんだ、気にするな。まあちっとやりすぎな感じはあるが」


 「ああ……」


 「しっかりしろ!全員負傷している。これからのことをしっかり考えろ」

 

 「あ、ああ。イアンやフレキもひどい怪我だね。ゲリとミレイは!?」


 「俺は大丈夫だ。だがミレイはまずい。おそらくあばらが折れてるな」


 「ミレイ!」


 ゲリがミレイを抱えて歩いてくる。大丈夫といいながらその足元はおぼつかない。ダメージは結構あるようだ。


 「ミルディア……様」


 苦しそうな顔でミレイがミルディアを見る。


 「申し訳……ありません。私の不覚で……このような」


 「しゃべっちゃダメだ!この中に治癒魔法の使える者は!?」


 ミルディアの焦った言葉に沈黙が返る。


 「申し訳ございません。私は反応魔法は門外漢でして」


 イアンが悲痛な表情で言う。フレキとゲリは言わずもがな。ミレイは万一使えたとしてもとても発動できる状態ではない。


 「可能性があったとすればオルバくらいか。しかし……」

 

 「ごめん、僕が……」


 ゲリの呟きにミルディアが唇を噛んで謝罪する。


 「気にするな。どちらにしろ奴が俺たちに治癒魔法をかけてくれるとは思えないからな」


 「くそっ……たれが」


 脂汗を流しながら倒れるジュラがミルディアを睨んで足をばたつかせる。イアンは服の袖を剣で切ると、斬られた腕の上を縛って止血する。


 「暴れるな。それ以上失血すれば本当に死ぬぞ」


 「ぶっ殺してやる!」


 「やれるもんならやってみな。そのザマで出来るんならな」


 ジュラの頭を足で踏みつけ、フレキが憎らしげに吐き捨てる。


 「とにかく助けを呼んでこないと。村へ急いで」


 「しかし駐屯兵は……」


 「ジュラは半分近くが仲間だと言っていた。全員じゃない。少なくとも城へ伝令を出すことくらいは出来るはずだろう」


 「だがどうやって見分ける?ラドックみたいに敵の内通者が虚偽の報告をしようもんなら目も当てられないぜ」


 イアンの言葉にフレキがいらいらした様子で言う。


 「なら城まで一気に走るか。その方が確実ではある。時間はかかるかもしれんが」


 「僕が行くよ。みんな怪我しているし……」


 ミルディアがそう言った瞬間、


 「おい!気を付けろ!この臭いは!」


 ゲリが突然叫んだ。それとほぼ同時に


 「ぐああっ!」


 というミルディアの悲鳴が響き渡った。

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