第6話 甘い夜と苦い朝

 「モ、モリア!な、何のつもり!?」


 全裸で目の前に立つモリアにミルディアが焦りながら尋ねる。顔を背け手で前を覆っているものの、つい薄目を開けてしまう。モリアの白い肌が指の隙間から垣間見え、息が荒くなる。

 

 「出過ぎた真似とは承知いたしております。ですが恐れながら、ミルディア様は未だ女性経験がないとお見受けいたしましたので」


 「そ、それがどうしたのさ!」


 「不敬とは存じますが、私の拝見したところフローゼ様も同じく異性との経験はお持ちでないかと」


 「だ、だからそれがどうしたんだよ」


 「既成事実を作るにしても初めてではフローゼ様も不安でしょうし、ミルディア様が女性の扱いに慣れておいた方がよろしいかと思いまして」


 「も、もしかして昼間のフローゼとの話、聞いてたの!?」


 「申し訳ございません。もっと早く声をおかけするべきでしたが、フローゼ様が興奮してお話してらっしゃったものですから、タイミングを逸しました」


 「い、いやいや、あれはフローゼの暴走っていうか」


 「恐れながら申し上げます。私ごときの立場でこのようなことに口を差し挟むなど不敬の極みとは存じますが、私もフローゼ様の婿たり得るのはミルディア様のみと考えます」


 「そ、それは僕の立場じゃなんとも……」


 「確かに侯爵様の意を確認せずことに及ぶは剣呑と思いますが、ミルディア様自身もおっしゃっておられたように、この度の縁談、腑に落ちぬことが多いかと。何よりフローゼ様のお幸せを考えれば此度の話は何としても阻止すべきと愚考いたします」


 「そ、そりゃ僕だってフローゼには幸せになってほしいけど」


 「どちらにせよミルディア様もいずれ伴侶を得られます。女体に慣れておいて損はございません」


 「だ、だからってモリアがこんな……「


 「……そうですね。私ごときがミルディア様のお相手をするのはやはり分不相応というもの。出過ぎた真似をして申し訳ありません」


 「あ、ああ、いや、そういうことじゃなくて。モリアは美人だし、有能だし、僕にはもったいないくらいのメイドだけど」


 「過分なお言葉」


 「で、でもこういうのは何ていうの?職権濫用っていうかさ。主人だからってその……こういうのを強要するのは」


 「強要ではございません。私がミルディア様のお役にたちたいと思って致していることでございます」


 「……モリア、もしかして慰めようとしてくれてるの?」


 「重ね重ね差し出がましい真似を。ミルディア様が何かその……お悩みになっておられるようでしたので」


 流石は有能なメイドだ。こっちの心の中もお見通しか。


 「はは、今日はモリアに気を使わせっぱなしだね」


 「いえ、そのようなことは」


 「でもそれじゃモリアを文字通り慰み者にしちゃうじゃないか。僕はモリアを大切に思ってるし、その……」


 ミルディアはモリアの心遣いに感激し、自然に彼女へ視線を向けてしまった。途端に美しい白い肌が目に飛び込み、息を呑む。


 「ご、ご、ごめん!」


 慌ててまた目をそらすが、その姿はしっかり脳裏に焼き付けられる。


 「お気になさらないでください。私が望んでしているのでございます」


 「どうしてそこまで?」


 「ミルディア様にお仕えする身として当然のことです。私はこの一年あまりミルディア様のお世話をさせていただいて、そのお人柄、思慮深い立ち居振る舞いに心より心服いたしております。この身を捧げるにふさわしきお方と」


 「褒めすぎだよ。僕はそんな大した男じゃない」


 「いいえ、ミルディア様は私共のような配下の者にも心を配られ、民のことにもしっかりと目を向けられておいでです。すでにグランツ様や先代子爵様に劣らぬ大器をお持ちと皆も言っております」


 「あんまり持ち上げないでよ。胃が痛くなりそうだ」


 「私ごときではミルディア様のお悩みを解決することは出来ませんが、せめて何かお役に立ちたいと思っております。少しでもお気を安らげられるのであればお情けを頂戴いたしたく思います」


 「き、気持ちはうれしいけど」


 「やはり私ではご不満でございますか?」


 「そ、そんなことない!」


 「では……」


 意を決して視線をモリアに戻し、その顔を見る。少し寂しげで、しかしその目は強い意志を秘めている。興奮を抑えつつ、ゆっくり視線を下ろしていく。ヴェルモットより小ぶりだが形のいい乳房。細い腰。そして……


 「ミルディア様?」


 真っ赤になって黙り込むミルディアにモリアが心配そうに声をかける。


 「ご、ごめん。見とれちゃって」


 「あ、ありがとうございます」


 礼を言いたいのはこっちの方だけどな、と思いつつ、気を落ち着かせるため深呼吸をする。


 「本当にいいの?」


 「はい。ミルディア様がお嫌でなければ……」


 嫌なわけがない。正直昨日から刺激的なことが続いて欲求が溜まっているのだ。この状況で我慢できるはずがなかった。


 「そ、それじゃお願いします」


 「はい」


 そっとミルディアのベッドに入り横たわるモリア。心臓がバクバクと高鳴り、息をするのを忘れるくらい緊張する。


 「緊張なさらずに。お好きになさってください。でもあまり焦らずゆっくりお願いします」


 「う、うん」


 モリアの肌に触れ、柔らかい感触に酔いしれながらそっと体を重ねていく。女の人って甘い匂いがするんだな、と思いつつ、ミルディアは情欲に身をゆだねていった。


 

              *



 「それでおめおめと逃げ帰ってきたわけかい」


 同じ頃、大森林の外れにひっそり立つ小屋の中で、その女は不機嫌そうに目の前の男を見つめていた。癖のあるくすんだ赤毛に紫色のルージュを塗った厚い唇が目を引く。目つきの悪さがなければ男の注目を浴びるであろう中々の美人だ。


 「す、すまねえ姉御。油断しちまって」


 女の前に座り小さくなっている男。その頬には大きな傷がある。ミルディアに蹴り倒され気絶した盗賊団の一人だ。


 「それにしてもババノスが捕まるとね。予想外だったよ」


 ババノスとはフレキに刺され病院送りになった頭目である。


 「へえ。俺が目を覚ました時、ちょうど獣人がお頭にナイフをぶっ刺していたところで」


 「上級魔法を使えるあいつが何だって獣人なんぞに」


 「よく分かりやせん。目が覚める直前に何か大きな音を聞いたような気がするんですが」


 「まあ経過はどうでもいい。問題はあたしらが依頼をこなせず、みすみす仲間を捕虜にされたってことだ。ババノスがゲロするとは思えないが、他の奴らが口を割ったら色々面倒だ。今後のに差しさわりが出る」


 「全くです。厄介なことをしてくれましたね」


 「誰だい!?」


 突然聞こえた声に女が驚き声を上げる。すると入口の戸が音もなく開いて一人の男が小屋に入ってきた。帽子を被った小柄な男だ。


 「あんたは……」


 「あなた方の仲間がどうなろうと知ったことではありませんが、あの方にご迷惑がかかることだけは何としても避けなければなりません」


 「ふん、奴隷商人ごときが偉そうに」


 「私が危惧しているのは彼の裏にいるお方ですよ」


 「裏?へえ、そうか。大方帝国の……」


 「詮索はおやめ下さい。明日も生きていたければね」


 「ああ。あたしらにゃ関係ない話だからね。でも捕まった仲間は放っておけない。ここも見つかる可能性があるしね」


 「その心配はご無用かと。彼らが口を割る心配はございませんから」


 「何?……あんたまさか」


 「全てはあのお方を守るため。恨まないでいただきたいですね」


 「くっ!」


 男を睨み、赤毛の女は忌々しそうに唾を吐いた。



              *



 翌朝、目を覚ますとベッドにモリアの姿はなかった。もう仕事に向かったのだろう。あんなことをした後でもしっかりとしている。流石だ。


 「それにしても……」


 昨夜のことを思い出してミルディアは思わず頬を緩ませた。今でも夢のようだ。普段は冷静なモリアがあんな表情をするとは……。


 「うわ」


 下半身に疼きを感じ、目をやったミルディアは思わず声を上げた。昨夜三回も果てたというのにそこは隆々と盛り上がっていた。


 「こ、これは生理現象だからな。うん、仕方ないことだ」


 誰に聞かせるでもない言い訳をしながらベッドから起き上がる。落ち着こうとするが脳裏にどうしても昨夜のモリアの姿が浮かんでしまい、胸の鼓動が収まらない。


 コンコン


 自分でしてしまおうか、と考えていたミルディアはノックの音で飛び上がった。息を落ち着かせ「はい」と返事をするが、その声は自分でも笑ってしまうくらい裏返っていた。


 「失礼します、ミルディア様」


 「モ、モリア!」


 ドアを開け、モリアが一礼して入ってくる。当の本人が目の前に現れ、ミルディアの鼓動はさらに早くなった。恥ずかしくてまともに彼女の顔が見られない。


 「お食事のご用意が整いました」


 「あ、そ、そう。うん、すぐ行く」


 「あの……」


 「な、何?」


 「昨夜は差し出がましい真似をして申し訳ございません。ミルディア様の初体験を私のようなものに」


 「な、何言ってるの。ぼ、僕はとても嬉しかったよ。モリアの方こそ本当によかったの?」


 「勿論です。少しでもミルディア様の慰めになることが出来ましたのなら嬉しく思います」


 「少しどころの話じゃないよ。今でも夢だったんじゃないかって思うくらいだ」


 「ありがたき幸せ」


 「はあ。でもやっぱりモリアはすごいね。もうしっかり着替えて仕事を始めてるもの。僕なんて今起きたところだよ」


 「私の務めでございますから、当然でございます」


 「昨夜のことも務め?」


 「それは……」


 「ごめん、意地悪な事訊いちゃったね」


 「……個人的な感情が入っていたことは事実です」


 「え?」


 「あ、いえ、男女の恋愛感情とか、そういうのではなくて……昨夜も申し上げました通り私はミルディア様のお人柄に心服しております。で、ですのでメイドの仕事の範疇ではございませんが、ミルディア様のお力になりたいと個人的に思いまして」


 「ありがとう。でもこういうのはやっぱり……意識しちゃうよね。僕もその……慣れてないし」


 「こ、これは配下の者の務めと割り切られて、あ、あまり意識していただかないようお願いします。こ、これまで通りの接し方をしていただければ……」


 「メイドの仕事の範疇じゃないって今自分で言ったじゃないか」

 

 「い、いえ、それは……」


 「でもまあそうだね。メイドに手を出したなんてあまり人聞きがよくないし、モリアにも迷惑をかけるからね」


 フローゼが言っていた、女好きで侍女に片っ端から手を出しているというハーゼン辺境伯の息子の話を思い出し、ミルディアは苦笑する。これじゃ同じ穴のムジナだ。


 「い、いえ、迷惑だなどととんでもございません」


 「とにかくありがとう。着替えてすぐ食堂に行くよ」


 「はい。……あの、失礼ですがミルディア様」


 「ん?」


 「い、いえ。その……大分お辛そうにお見受けしますが」


 モリアの視線が自分の下腹部に向けられていることに気づき、ミルディアはまた真っ赤になる。そういえばさっきから股間が痛い。


 「い、いやこれはその……生理現象ってやつだよ。朝だからね。ま、まあいつもよりもちょっと元気そうだけど」


 「さすがにお若いですね。もしよろしければその……楽にして差し上げてもよろしいですか?」


 「え?いいの?」


 「は、はい。ご迷惑でなければ」


 「迷惑だなんてとんでもない!ぜひお願いしたいよ」


 「で、では失礼します」


 モリアが少し顔を赤らめ、ミルディアの前に跪く。


 「これもメイドの仕事の範疇?」


 「意地悪をおっしゃらないでください」


 照れた顔をしながら上目遣いで自分を見るモリアがあまりにも可愛くて、ミルディアの股間の痛みはさらに激しさを増した。



 「ふう」


 夢見るような心地で朝食を終え、ミルディアは自分の部屋に戻って一息ついた。楽あれば苦あり。楽しい時間の後には憂鬱な時間が待っている。これからリミステア城に行き父グランツに行方不明になっていた時のことを報告しなければならない。


 「逃げてはいられないからな」


 ヴェルモットのことを切り出せるかは分からないが、少なくとも獣人族ワービーストを狙った奴隷商人と盗賊団のことは報告しなければならない。今回は助け出せたが、断固とした措置を取らなければ犠牲者が出てしまうだろう。いや、すでに出てしまっていると考えた方が自然だ。フレキたちが警戒していたということはこれまでに被害があった証拠だろう。


 「ミルディア様、馬車の用意が整いました」


 モリアではなく執事が部屋をノックして告げる。ミルディアは気合を入れ、屋敷を出て馬車に乗り込んだ。



 リミステア城は町の中心からやや南西よりの場所にあった。城の前には東から流れるミクス川があり、両岸は高い土手が築かれている。正門に続く石造りの橋を通らなければ城には行けないため、ここを封鎖すれば敵の侵入は防げるようになっていた。


 「ミルディア様、ご無事で何よりです」


 橋を渡り正門をくぐった馬車から降りたミルディアに、精悍な顔立ちの男が駆け寄り敬礼する。騎士団長のアッシュだ。


 「心配をかけてごめんねアッシュ。捜索隊とか出たんだろうね?」


 「はい。市内を始め、近隣の街道にも捜索の手を」


 「こりゃあ大目玉だな。参加した兵には礼を言っておいて。王国軍の兵も加わってくれたの?」


 「いえ、騎士団のみです」


 「そう、それなら少しはよかった」


 国境にあるリミステアには帝国の動きに備えて常に二千超の兵が常駐している。その大半は王都に本部がある王国軍であり、リミステアの駐屯地には王都から派遣された指揮官がいる。それに対しアッシュが率いる約二百の兵は子爵家直属のリミステア騎士団だ。有事の際は王国軍の指揮下に入るが、普段は子爵の命で独自に動いている。ミルディアが運ばれた森の村に駐屯しているのもリミステア騎士団であった。


 「それじゃ父上に叱られてくるか。どちらに?」


 「執務室だと思いますが、執事長にご確認ください」


 「そうするよ。じゃ」

 

 アッシュに手を振り城内に入る。広い玄関ホールを進むと執事服を一分の隙もなくぴっしりと身に着けた初老の男性が近づいてきて恭しく頭を下げる。執事長のカーライルだ。


 「お帰りなさいませミルディア様。ご無事で何よりです」


 「心配をかけて申し訳なかったね、カーライル。父上は?」


 「執務室でございます」


 「分かった」


 ミルディアは階段を上り、父グランツの執務室へ向かう。ドアの前に立つと大きく深呼吸をし、緊張しながらノックをした。


 「父上、ミルディアです」


 「入れ」


 ドアを開け室内に入ったミルディアは背筋を伸ばし、深々と頭を下げる。


 「父上、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした!」


 「座れ」


 奥の大きな窓の前に置かれたがっしりとした机に向かい書類に目を通していたグランツがちらりと視線を上げ、野太い声で言う。ミルディアは机の前、部屋の中央に向かい合って置かれた長ソファの下手に腰を掛ける。


 「とりあえず無事で何よりだ」


 椅子から立ち上がり、息子に目をやりながらミルディアの向かいのソファに座るグランツ。腕や足の筋肉は太く盛り上がり、堂々としたオーラと鋭い眼光が見るものを威圧する。息子であるミルディアでさえ対面するたびに緊張してしまうほどだ。


 「大森林にいたそうだな」


 「はい」


 ミルディアはあらかじめ考えていた通り、まず転移魔法が無意識に発動したことを正直に述べた。グランツの顔が険しくなり、整えられた顎髭を撫でる。考え事をするときのグランツの癖だ。


 「転移魔法か。儂もこの目で見たのは一度だけだ。このリミステアで使えるものはほとんどおらんだろうな」


 「やはりそうですか」


 「これで目の前でお前が消えたというメルタの証言は裏付けられたがな」


 メルタとはミルディアに魔法を教えている子爵家お抱えの魔導士だ。


 「もしかしてメルタ先生が疑われたりしたんじゃ……」


 「まあな。まさか転移魔法などという稀有な事象が起きたなどとは思わんし、メルタがお前を隠したと考える者もいた」


 「申し訳ありません。先生にもご迷惑を」


 「それは本人に言え。まあ無自覚で発動したのならお前に非があるとは言えん。それで大森林に飛ばされたというわけか」


 「はい」


 「獣人族ワービーストに保護されたそうだな」


 「は、はい」


 「それで半獣人ハーフビースト誘拐の件に巻き込まれたわけか」


 「放ってはおけませんでしたので」


 「盗賊を殺したらしいな」


 「そこまでご存じでしたか」


 「正直意外だった。お前は責任感はあるが、人を殺す度胸はないと思っていたのでな」


 「自分でも信じられないです。今でも」


 あの変貌のことを言うべきかミルディアは迷った。しかし転移魔法の発動だけでも異常な事態なのに、これ以上憂慮すべき事柄を伝えるのは正直気が引けた。


 「責めはせん。むしろよくやったと言うべきだろう。その場で情報が得られればもっとよかったがな」 

 

 「捕らえたものから何か聞き出せなかったのですか?頭目は重傷と聞いていますが、残りの二人は……」


 「病院に運ばれた男は頭目であったか。ミルディア、それについて悪い話がある」


 厳しい顔でそう言うグランツにミルディアはドキリとした。普段から滅多なことでは顔色を変えない父が、明らかに憂慮している。


 「お前たちが捕らえた盗賊団の三人だが、全員死んだ」


 「え!?」


 「殺されたのだ。昨夜遅くにな」


 「だ、誰にですか!?」


 「分からん。その頭目の男は重傷であったため病院に運ばれ、治癒魔法を受けた後監視付きの病室に移された。お前も知っていると思うが、ここにいる魔法医では治癒能力に限界がある」


 この世界において魔法は大きく二つの体系に分けられる。地水火風の四大精霊の力を借りて発動する精霊魔法と、人間が持つ魔力そのものに働きかけて効果を生み出す反応魔法だ。治癒魔法はその人間が持つ魔力を使って治癒能力を高める反応魔法で、治癒される人間が高い魔力を持っていたり、魔法を使う者が効率的に魔力を治癒に転換出来る高い技量の持ち主である場合、高い効果を発揮する。治癒魔法に長けたものは「魔法医」と呼ばれ重宝されるが、その能力はピンキリであり有能な魔法医はほとんど王都か中央の大都市に集中していた。


 「監視付きの病室にいるのに殺されたのですか?」


 「見張りの交代の僅かな隙を突かれたらしい。男が動けないので油断があったのだろうな。胸をえぐられた跡があってな。風を使った攻撃魔法の可能性が高いようだ」


 「残りの二人は?」


 「収監所の中で殺された。こっちは巡回の合間を狙われている」


 「同じ攻撃魔法ですか?」


 「いや、こちらは毒だ」


 「毒?」


 「太い針のようなものが刺さっていてな。その先に毒が塗ってあったようだ。おそらく吹き矢のようなものが使われたのだろう」


 「変わった殺し方ですね」


 「独房の中にいたからな。格子の間から狙うためだろう」

 

 「それにしても何で……情報の漏洩を防ぐため、でしょうか?」

 

 「おそらくな。盗賊団を雇ったという奴隷商人の手の者だろう」


 「頭目が殺されたのは痛いですね」


 「情報という点ではそうだが、深刻な問題は残りの二人の方だ」


 「え?」


 「監視付きの部屋だったとはいえ、病院は一般市民も出入りする。だが……」


 「あっ!」


 「収監所はそうはいかん。決められた人間しか内部には入れん。監守と職員しかな。つまり……」


 「収監所の中に奴らの仲間がいる……」


 ミルディアは事態の深刻さに気付き、背筋に冷たいものを感じた。

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