020 結婚式と初夜とその翌日
いよいよ結婚式当日になりました。
ウェディングドレスの完成が間に合ってよかったですわ。
わたくしの着るウェディングドレスは、プリンセラインのもので、胸回りはビスチェスタイルとなっております。
ダンスを踊るわけではございませんので、豪奢なロングトレーンが付いておりまして、宝石もついておりますし、刺繍もたっぷり施されておりますので、全体で十キロ以上もある重量感たっぷりなドレスとなっております。
うふふ、通常の夜会用のドレスでもこんなに重量がある物はございませんのに、流石はウェディングドレスですわね……。
スカートを膨らませるためのパニエもございまして、動きにくいったらないですわ。
「グリニャック、綺麗だぞ」
「ありがとうございます、お父様」
所謂バージンロードはお父様と歩きます。
わたくしの場合、正室であるトロレイヴ様と側室であるハレック様のお二人との挙式になりますので、祭壇の前でお父様からお二人に手渡される感じですわね。
わたくしのお婿さんになるのですから、逆なのでは? とお父様に聞いたのですが、こういう物だからと言われてしまいました。
お婿になるお二人は、ドレスのデザインはもちろん知りませんし、この姿で事前に会うこともございませんので、礼拝堂でこの姿を見るのが初めてになりますわね。
わたくしはお父様の腕に自分の手を添えて、礼拝堂に向かいます。
礼拝堂からはオルガンの音が聞こえておりまして、明らかにわたくし待ちなのが分かりますわね。
わたくしとお父様が礼拝堂の扉に到着すると、厳かに礼拝堂の扉が開けられ、お父様が一歩中に進むのに合わせまして、わたくしも一歩踏み出しました。
ああ、祭壇の前にはゲームのエンディング姿そのもののトロレイヴ様とハレック様が居らっしゃいますわ!
白いお揃いのタキシードが本当によくお似合いですわね。
本日は流石にわたくしが写真機を持ち込むことは出来ませんので、リリアーヌにお二人のお姿を撮っていただくようお願いしております。
って、リリアーヌ! 写真機を向けるのはわたくしにではなくトロレイヴ様とハレック様にですわよ! 被写体を間違っておりますわよ!
わたくしはそんな事を考えながら、お父様のペースに合わせてゆっくりとバージンロードを歩きます。
祭壇の前に着きますと、トロレイヴ様とハレック様がわたくしに手を差し伸べてくださいますので、お父様の腕から手を離して、お二人の手に自分の手を重ねました。
宣言者である神官がわたくし達が祭壇の前に揃ったのを確認して口を開きます。
「新婦グリニャック様、新郎トロレイヴ様、ハレック様。貴方方は、神の導きによって、夫婦となろうとしています。汝ら、健やかなる時も病める時も喜びの時も悲しみの時も富める時も貧しい時もこれを愛し、敬い慰め遣え、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」
「「「はい、誓います」」」
神官長の言葉にそう返せば、ワっと拍手が沸き起こりました。
「では、神の御前にて、誓書にサインをし、誓いの口づけを」
その言葉に、わたくし、トロレイヴ様、ハレック様の順でサインをして、先ずはトロレイヴ様と誓いのキスをした後にハレック様と誓いのキスを致しました。
今まで散々人前でされてきましたので幾分慣れましたが、お父様やお母様方がいらっしゃるとなりますと、また恥ずかしさが違ってきますわね。
誓いのキスが終わりますと、再び拍手が沸き起こります。
誓いのキスが終わりますと、今度は来た時とは逆に、トロレイヴ様とハレック様に手を引かれてバージンロードを出口に向かって歩いて行きます。
歩く途中、フラワーシャワーが降りかかって来まして、複雑に結い上げられた髪の毛やドレスにくっついてまいります。
出る際に、クルリとターンをして礼をして礼拝堂を出ます。
「ニア、すっごく綺麗だよ」
「まったくだ。他人に見せたくないぐらいだな」
「お二人もとっても素敵ですわ」
この後は披露宴になりますので、わたくし達は披露宴用の衣装に着替えるため、すぐに別々の部屋に連れていかれました。
たったあれだけの為に作られたウェディングドレスなのですが、もう着ることもなく衣裳部屋の肥やしになると思うと、少々もったいなく感じてしまいますわね。
まあ、結婚式の肖像画を描くために、また着用はするのですけれども、わたくしの場合、写真機がございますので、肖像画を描いていただかなくても良いと思うのですが、これも慣例ということですので、仕方がありませんわよね。
まあ、確かに写真機で撮った写真はモノクロですし、カラーで描かれた肖像画というのも良いかもしれませんわね。
わたくしは準備された部屋で披露宴用のドレスに着替えます。
披露宴用のドレスは、薄水色を基調としたもので、先ほどのプリンセスラインの物と違って、ローブ・ア・ラ・フランセーズ型となっております。
こちらは、胸元が大胆に開いたデザインになっておりまして、着付けに来てくださったティアナさんにコルセットの胸の部分に肉を集められて、胸を強調するような感じになっております。
夏という事もあり、ヴァトー・プリーツは無しにしていただいておりますが、ドレス全体にこれも刺繍がふんだんに施されておりまして、見た目と違って着た感じはずっしりとなっております。
これでダンスを踊るのですから、花嫁と言うのは大変な労力を伴うものなのですね。
「わたくし、結婚式の衣装がこんなに重いものだとは思いませんでしたわ」
「グリニャック様の衣装が特別なんですよ。普通はもっと軽いですよ」
ティアナさんに言われて、雷に打たれたようなショックを受けました。
「まあ、幼い頃から贔屓にしてくれてますし、皆気合がつい入っちゃったんですよね」
驚愕の事実ですわ。
確かに、今回のデザインはトロレイヴ様とハレック様の発注ではなく、お父様とお母様の発注でしたけれども、それだけではなく、作り手の方々も気合が入った結果、このような重量になってしまったのですね。
ま、まあいいですわ。
これも皆様の思いだと思えば、そのまま受け止めるのもわたくしの仕事ですわよね。
「披露宴用のドレスは、リメイクして夜会用のドレスにも出来ますからね」
「そうだと嬉しいですわ。衣裳部屋の肥やしにするには美しいドレスですもの」
「そう言ってもらえると、作った甲斐があります」
わたくしの着替えが終わった頃、与えられていた部屋の扉がノックされました。
リリアーヌが応対に出ますと、いらっしゃっていたのはトロレイヴ様とハレック様でした。
「ニア、さっきのウェディングドレスも似合ってたけど、そのドレスも似合ってるね」
「ニアは白や淡い色がよく似合うな」
「ありがとうございます」
「ほら、勿体ないけど、その綺麗な姿を皆にも見てもらおう」
「わかりましたわ」
わたくしは、また差し出されたお二人の手に自分の手をそれぞれ重ねます。
二人に手を引かれて、披露宴会場になっているガーデンテラスに向かいます。
すでに招待客の皆様は会場を移動なさっているようで、開いた扉から賑やかな声が聞こえてきております。
わたくし達がガーデンテラスに入りますと、一瞬静まり返り、その後盛大なる拍手で迎えられました。
少々恥ずかしいですわね。
すぐさま曲が流れ、わたくしはそのままトロレイヴ様に手を引かれ、ガーデンテラスの中央に躍り出ます。
軽やかなリズムに合わせてダンスを踊っておりますと、だんだんと周囲に人が集まってきて、それぞれ踊り始めていらっしゃいます。
「ニアは本当にダンスが上手だね」
「これも淑女として一生懸命学んだおかげですわ」
「うん、でも体幹が良いと思うよ。踊っていてこっちも安心できる」
「そうですか? そう言っていただけると、一生懸命学んだ甲斐があるというものですわ」
「今日は主役だけど、花嫁でもあるから、他の人とダンスは踊らなくても大丈夫だと思うよ」
「だといいのですけれどもね」
ダンスの途中ですので、顔を近づけて小声で話しておりますが、端正なトロレイヴ様のお顔が近くて、思わず顔が赤くなってしまいます。
そうしているうちに一曲目が終わり、そのままハレック様に手を取られて二曲目を踊ります。
「ラヴィと何を話していた?」
「わたくしの体幹が良いと言うような話をしておりましたわ」
「ああ、なるほど。確かにその通りだな」
「一生懸命ダンスの練習をしたおかげですわね」
「ニアとダンスを踊るのは私も楽しい」
「わたくしもラヴィやレクとダンスを踊るのは大好きですわ」
またしても、顔を近づけて小声での会話ですので、ハレック様の麗しいお顔が近いですわ。
わたくしはまた顔が赤くなってしまいます。
この披露宴が終わって屋敷に帰りましたら、その、三人で閨事をするのですわよね、このぐらいで赤面してどうしますの、わたくし!
トロレイヴ様とハレック様のお部屋の準備と荷物に関しては昨日から始まっており、屋敷に帰るまでには完了している予定となっております。
わたくしの部屋の移動もございますのよ。
なんでも、若奥様と若旦那様用・お部屋様用のお部屋があって、そちらに移動するとのことです。
長年愛用した部屋を出るのは少し寂しいですが、結婚したのですものね、仕方がありませんわ。
そういえば、前世では結婚すると新婚旅行というものをするのが慣例だと聞きましたが、この国ではそう言った事はございません。
そもそも、騎士として駆け出しのトロレイヴ様とハレック様が長期休暇を取るなんて出来ませんものね。
わたくしもお母様の手伝いやお父様の手伝いがございますし、決して暇とは言えませんもの、旅行に行っている時間などございませんわよね。
そんな事を考えている間にハレック様とのダンスも終わり、わたくしは一旦ガーデンテラスの中央から離れてトロレイヴ様のいる所にハレック様と向かいます。
トロレイヴ様の傍にはお父様とお母様、お爺様とお婆様、そしてプリエマとウォレイブ様がいらっしゃいます。
「皆様、お集まりでしたのね」
「グリニャック、本日は素晴らしい式でした。今後もエヴリアル公爵家の名に恥じぬ行いをするのですよ」
「はい、お婆様」
「いや、それにしてもグリニャックのウェディングドレス姿は美しかったな。プリエマのウェディングドレス姿も愛らしかったが、グリニャックは美しいと言うのが相応しいだろう」
「ありがとうございます、お爺様」
「グリニャック、本当に美しい花嫁姿だったぞ。家を出るわけではないのに、思わず泣いてしまいそうになったほどだ」
「まあ、お父様ってば」
「お姉様、本当にお綺麗でした。私ももうすぐ結婚式を上げますけど、ますます憧れが強くなっちゃいました」
「プリエマ嬢の花嫁姿もきっと愛らしいに違いないよ」
「もう、ウォレイブ様ってば」
「儂はアロイーブの一人息子だから、嫁に出すという感覚はわからんが、領地に行った初めての夜は、こやつも泣いておったぞ」
そういってお爺様はお婆様を見ます。
「旦那様……」
御婆様はさり気なくお爺様を睨みつけてしまい、お爺様が引きつった笑みを浮かべました。
「……コホン。今後、グリニャックは屋敷で若奥様と呼ばれることになる。トロレイヴ君は正室だから若旦那様、ハレック君は側室だからお部屋様と呼ばれることになる」
「はい、お爺様」
若奥様ですか、なんだかこそばゆいですわね。
そんな会話をしていると、トロレイヴ様とハレック様のご家族がいらっしゃいました。
両家とも、息子をくれぐれも頼むと言われましたので、「もちろんですわ」と答えたのは言うまでもありませんわよね。
その後、飲み物を頂きながら、来賓客の方々の挨拶を受ける事となりました。
手に飲み物を持っていること以外、誕生日パーティーのデジャヴですわね。
結婚式や披露宴では、主役はほとんど飲み食いが出来ないとアナトマさんが言っておりましたが、本当でしたのね。
挨拶が一通り終わり、やっと解放されたわたくし達は、軽食が準備されている所に向かい、それぞれお皿に盛ると、三人で楽しく話しながら頂きました。
一皿分食事を頂きますと、再びトロレイヴ様に誘われてダンスを踊るためにガーデンテラスの中央に躍り出ます。
食後の運動にはちょうど良いですわね。
もちろん、トロレイヴ様の後はハレック様ともダンスを踊りましたわ。
その後、つつがなく披露宴は終わり、最後のお客様を送り出して、わたくし達は屋敷に帰ることになりました。
「旦那様、奥様。若奥様、若旦那様、お部屋様お帰りなさいませ」
「今帰った、執事長。留守の間変わりはなかったか?」
「はい。若奥様方のお部屋の方も準備が整いましてございます」
「そうか、リリアーヌ、ドミニエル。グリニャック達を部屋に案内してくれ」
「「かしこまりました」」
「ああそうだ、トロレイヴ君とハレック君付きの侍従とメイドは実家から連れてこないという事だったので、こちらで見繕ったがよかったのか?」
「はい、彼らもそろそろ引退の年齢でしたので、丁度いい機会だと思いまして」
「そうか。新しいお付きの侍従とメイドは明日の夕食の時間に紹介しよう」
「「わかりました」」
「ではな」
「グリニャック、もう後の事はトロレイヴ様とハレック様にお任せしてしまいなさい」
「わ、わかりましたわ。お母様」
お母様の言葉に咄嗟に顔が赤くなってしまいます。
結局、閨の勉強については及第点止まりでしたものね……。
リリアーヌ達に案内されて部屋に参りますと、以前使っていた部屋よりもより広い部屋になっておりました。
トロレイヴ様のお部屋はわたくしの隣の部屋、ハレック様のお部屋はそのさらに隣の部屋となっておりますが、ベランダで繋がっておりますのよ。
部屋に入ると、まず目に入ったのが結婚式の祝いの品々でした。
リリアーヌの話によりますと、招待していない方々からも祝いの品が届いているとの事でしたので、これは本当にお礼状を書くのが大変になりそうですわね。
「湯あみを致しますわ」
「はい、既に準備は出来てございます」
流石はリリアーヌですわね。
わたくしはリリアーヌと一緒に浴室に入りました。
浴室も以前使っていた部屋の物よりも大きくなっておりますわね。
「なんだか湯船も大きくなっていませんか?」
「お一人用ではございませんので」
「……そ、そうですか」
そうですわね、この大きさなら三人は余裕で入れそうですわね。
って、お風呂場でそのような事をするという事ですの!? そんなの破廉恥すぎますわ!
「し、しばらくは一人で使うのではないかしら?」
「然様でございますか? 抱きつぶされた日などは三人で入るのかと思い、大き目の浴槽をご準備したのですが」
「抱きつぶっ……。そ、そうですか」
リリアーヌ、その言葉はわたくしには少し刺激が強いですわ。
わたくしはとりあえずリリアーヌの手を借りてドレスを脱ぐと、髪を解いてもらいお湯の張られた浴槽にゆっくりと浸りました。
入ってみて思いますが、本当に今までとは段違いで大きな浴槽ですわね。
リリアーヌに髪を洗ってもらい、いつもよりも丹念に体を洗われました。
湯あみを終えて寝着の上にガウンを羽織って部屋に戻りますと、ドミニエルがホットミルクを渡してくれました。
それを飲んでいると、緊張している心がほぐされるような気がいたしますわね。
「若奥様、寝室で若旦那様とお部屋様をお待ちください」
「っこほ」
飲んでいる最中に言われてしまい、思わずむせてしまいました。
「こほ……ま、まだ早いのではなくて?」
「若奥様、女は度胸でございますよ」
「うう……」
「本日は初夜でございますので、私共がこの部屋で待機しておりますので、何かございましたらお呼びください」
「そ、そう」
三人で仲良くお茶を飲むだけで済むというわけにはいきませんわよね。
やはり、そういった行為をするのですわよね。
わたくしはホットミルクを飲み終えると、覚悟を決めて寝室に入ります。
まず確認したのはドレッサーです。
わたくしが元々使っていたものがちゃんと運び込まれたようですわね。
一番上のカギのかかった引き出しを確認しますが、鍵が開けられた形跡もございませんし、中を見られることが無かったようで何よりですわ。
次に確認したのがベッドです。
なんと言いますか、今までのと比べて大きいと言いますか、キングサイズのベッドになっておりました。
と、とりあえずガウンは脱いでおいたほうが良いのですわよね。
わたくしはそう思ってガウンを脱ぐと、ドレッサーの椅子に掛けて、どうしたものかと考えて、とりあえずベッドに座りました。
(お、落ち着かない!)
お二人が来るのを待つと言うのがこんなに長いとは思いませんでしたわ。
いえ、本当はそんなに時間が経っているわけではないのですけれども、体感時間で長く感じてしまうのですわ。
ドキドキとしながら待っていると、寝室の扉がノックされました。
「ニア、入ってもいいかい?」
「は、はい。どうぞ」
思わず声が上ずってしまいましたわ。
「お邪魔するよ」
「ニア、大丈夫か?」
「だ、大丈夫ですわ」
トロレイヴ様とハレック様はそれぞれ小箱を持って入っていらっしゃいました。
「お二人とも、その手にしている小箱はなんですの?」
「んっと、ニアの痛みを和らげて気持ちよくなれるようにするお薬だよ」
つまり媚薬ですね、わかります。
「エヴリアル公爵からの差し入れだ」
お父様―! 何を渡しているんですか!
「まあ、ニアは僕達に任せてくれればいいから」
「そうだな、何だったら目を閉じていてもいいぞ?」
言われなくても目を閉じたい気分ですわ!
わたくしがテンパっている間に、お二人はガウンと寝着を脱いで肌色全開に……。
あ、駄目ですわ。もう気絶してしまいそうですわ。
「ニア、とりえあえず、深呼吸しようか?」
「え、ええ」
「そんなに緊張しなくても、酷くしたりしないぞ」
「それは、わかっておりますけれども、恥ずかしいのですもの」
「大丈夫だよ、恥ずかしいのは僕達も一緒だから。ほら、ニア寝着を脱がすから手をどかして?」
「そ、そんな、まだ覚悟がっ」
「そう言っていてはいつまでも終わらないぞ。ほら、目をつぶっていていいから」
そう言ってトロレイヴ様とハレック様に挟まれてしまい、わたくしは本気で身動きが取れなくなってしまい、思わず目を閉じてしまいました。
そして、寝着のリボンが外される感覚に、本気で気絶してしまいそうになりました。
翌朝、起きると左右に肌色全開のトロレイヴ様とハレック様が肌掛けをかけた状態で寝ていらっしゃいます。
い、致してしまいましたわ。
薬のおかげで確かに痛みも少なく、気持ちがよかったですが、ダンスとはまた違った全身運動のせいで、若干筋肉痛が、と言いますか、腰が痛いですわ。
「ん、ニア。起きたの?」
「……先にニアが起きるとは思わなかったな。体は大丈夫か?」
「あ、その……こ、腰が痛いと申しますか、全身がだるいと申しますか……」
「無理させちゃったね。ごめんね、僕達も初めてで加減がわからなくって」
「い、いえ。構いませんわ」
もうそれ以上言わないで下さいませっ! わたくしのライフがゼロになってしまいますわ。
その時、寝室の扉がノックされました。
「若奥様方、起きていらっしゃいますか?」
「起きておりますわ。は、入ってくるのは待っていてちょうだい」
「かしこまりました」
寝着は? わたくしの寝着はどこですの!?
「ニア、立てる?」
「え、えっと…………む、無理みたいですわ」
四つん這いにはなれますけれども、腰が立ちませんわ。
「ニア、寝着を着せてやるからとりあえず四つん這いはやめてくれ。朝から刺激が強い」
「え?」
って! 寝着を探すのに必死でお二人にお尻を見せる格好になっているじゃありませんか、わたくし! なんて破廉恥な!
「ほら、寝着を着ようね」
「はい」
トロレイヴ様が寝着をベッドの下から取り出して、わたくしに着せてくださいますと、ハレック様が器用に寝着のリボンを結んでいきます。
(なんていう羞恥プレイ!? いや、昨夜のよりましだけど! 朝からナニしてるの!?)
わたくしの顔は朝から真っ赤になってしまいます。
「湯あみが必要だけど、立てないんだよね」
「え、ええ」
「じゃあ」
「え、きゃっ」
トロレイヴ様が軽々とわたくしをお姫様抱っこしてきました。
くぅっ、寝着越しに伝わる厚い胸筋が色気の暴力ですわね! って、それよりもなぜお姫様抱っこですの!?
「あ、歩きますわ。自分で歩きますのでおろしてくださいませ」
「んー、しばらく歩けないと思うよ?」
「そうだぞ、諦めてラヴィに抱っこされて浴室に行こうか」
「レクも来ますの!?」
「当たり前だろう? 私も湯あみがしたい」
リリアーヌの言った事が早速当たってしまうなんて、なんていう事でしょう!
「若奥様方、入ってよろしいですか?」
「まっ」
「いいよ」
「ちょっ!?」
「失礼いたします。……ガウンは浴室にお持ちいたしますね。お湯の準備は出来ておりますので」
「助かるよ」
わたくしはそのままトロレイヴ様に浴室に連れ込まれて、また寝着を脱がされてお湯の張った浴槽に抱っこされたまま入ることになってしまいました。
は、破廉恥ですわ!
あ、朝からなんでこんな精神的疲労を伴うことになってしまったのでしょうか?
お二人に体の隅々まで洗っていただきまして、丁寧に水分もふき取っていただきまして、ガウンを着せられてリリアーヌに渡されました。
そしてわたくしは立てない状態でございますので、椅子に座ったままでも簡単に着用できるシュミーズ・ドレスを着用して、今度はドミニエルにお姫様抱っこされて朝食を頂くため、食堂に参りました。
ドミニエルによるお姫様抱っこはいいのですわよ。
子供の頃からの付き合いですし、こうして抱っこされることもございましたので慣れておりますもの。
「トロレイヴ様やハレック様にお姫様抱っこをされるのは、いつか慣れるでしょうか?」
「慣れなければなりませんね」
「そうですか」
ドミニエルの言葉に思わずしゅんとしてしまいます。
食堂に着きますと、すでにトロレイヴ様とハレック様、お父様とお母様がいらっしゃって、わたくし待ちだったようです。
「グリニャック、昨晩はつつがなく済んだようで何よりだ」
「本当に、グリニャックが途中で逃げ出してしまうのではないかと心配しておりましたのよ」
「さ、流石にそんな事は致しませんわよ?」
わたくしはドミニエルに椅子に座らせてもらいながらお母様に答えます。
「まあ、今日一日は休んでいらっしゃい。その様子では満足に動くこともできないのでしょう?」
「はい、そうさせて頂きます」
「トロレイヴ君とハレック君は今日も騎士団に行くのだったな」
「はい、本当ならニアに付き添っていたのですが、仕事がありますので」
「それならば仕方があるまい。それに、グリニャックも少し心を落ち着かせる時間が必要のようだしな」
「そのようですね」
くぅ……、家族内に情事がバレバレってこんなに恥ずかしいのですね。
まあ、お父様が媚薬を用意なさった時点でこうなることは予想なさっていたのかもしれませんけれども。
わたくしは運ばれてきた朝食を複雑な思いで頂いた後、ドミニエルにお姫様抱っこをされたままトロレイヴ様とハレック様をお見送りして、私室に戻りました。
「若奥様、シーツと肌掛けの方は取り替えましたので、お休みになることも可能ですよ」
「そ、そう。だったら、そうさせて頂こうかしら」
そうですわよね、あのままのシーツと肌掛けでは眠ろうにも眠れませんものね。
リリアーヌ、流石ですわ。
わたくしはドミニエルにお姫様抱っこをしてもらい寝室のベッドに座りました。
「若奥様。昨日撮った写真をお渡ししておきますね。写真機はドレッサーの上に置いておきました」
「ありがとう、あとでじっくり見させてもらいますわ」
「ではおやすみなさいませ」
あ、シュミーズドレスのままですけれども、良かったのでしょうか? まあ、リリアーヌが何も言わないので良いのでしょうね。
さて、写真を堪能致しますか。
わたくしはトロレイヴ様とハレック様の麗しい姿を期待して写真を見ていきます。
けれども、最初の四枚こそお二人のツーショットと個別の写真でございましたが、残りはわたくし単体を写したものや、スリーショットの物ばかりでした。
リリアーヌ、あれほどトロレイヴ様とハレック様を撮って下さいと申しましたのにっ!
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