021 初めての公務
【プリエマ視点】
デュドナ様が戴冠してすぐ、私とウォレイブ様の結婚式が行われた。
王宮にある礼拝堂で、参列者がいっぱいいる中で、私は皆に祝福されてお嫁さんになるの。
お母様からもらったドレスは私の体格に合うように調整済みだし、準備は整ってるわ、あとはお父様に連れられて礼拝堂に行くだけ。
聖女である私の結婚式の宣言者は神官長が務めてくれるのよ、流石聖女よね。
ウェディングドレスは、『オラドの秘密』のウォレイブ様ルートで着ていたものと一緒で、いよいよエンディングなんだって実感しちゃう。
お父様の腕に手を添えて、一歩、また一歩とウォレイブ様の待つ石碑の前に進んでいく。
たくさんの招待客が私の事を見ているわ。
ふふ、ヒロインとして最高のエンディングだわ、これぞまさしく王道よね。
これからの人生は、私はウォレイブ様を支える良き大公妃となって、誰からも好かれる聖女としても生きていくんだわ。
石碑の前でお父様からウォレイブ様に私の手が渡されると、神官長が口を開く。
「新婦プリエマ様、新郎ウォレイブ様。貴方方は、神の導きによって、夫婦となろうとしています。汝ら、健やかなる時も病める時も喜びの時も悲しみの時も富める時も貧しい時もこれを愛し、敬い慰め遣え、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」
「「はい、誓います」」
神官長の言葉にそう返せば、ワッと拍手が沸き起こる。
ああ、ゲームのエンディングの通りだわ。
「では、神の御前にて、誓約書にサインをし、誓いの口づけを」
その言葉に、ウォレイブ様、私の順でサインをすると、誓いの口づけを交わした。
あ、何気に今世ではファーストキスじゃない? なんだかちょっと恥ずかしいわね。
誓いの口づけが終わると、来た時とは逆に、ウォレイブ様の腕に手をかけて、バージンロードを戻っていく。
その最中、フラワーシャワーが私達に降りかかってくるわ。
本当に夢のような結婚式。
お姉様の結婚式もすごく素敵だったけど、それに負けないぐらい、ううん、確実にそれ以上に素晴らしい結婚式だわ。
出る際に、クルリとターンをして、礼をしてから礼拝堂を出る。
「プリエマ嬢、いや、プリエマ。すごく愛らしいよ」
「ウォレイブ様もとってもかっこいいです」
そうして、披露宴用のドレスに着替える為私達はいったん別れて別々の部屋で着替えをする。
白を基調としたローブ・ア・ラ・フランセーズのドレスに着替えて、私は鏡に映る自分の姿を確認する。
うん、かわいいわ。
誰もが見惚れちゃうほど、今の私は輝いているわ。
花嫁ってそういう物でしょう?
着替えが終わった頃、部屋の扉がノックされたので、クレマリーが対応に出ると、ウォレイブ様が衣装を変えて迎えに来てくれていたわ。
さっきのタキシード姿も良かったけど、燕尾服姿のウォレイブ様も素敵。
「プリエマ、そのドレスもとてもよく似合っている」
「ありがとうございます」
「じゃあ、会場に行こうか」
「はい」
ウォレイブ様に手を引かれて、私は披露宴会場になっている広間に向かう。
招待客は既に移動しているようで、私達が入場すると割れんばかりの拍手で迎えられたわ。
すぐさまダンス用の曲が流れて、私とウォレイブ様は流れるようにダンスホールに躍り出ると、優雅にダンスを踊り始める。
そうすると、一組、また一組と、私達の周りでダンスをする人達が集まり始めて来る。
「プリエマ、ダンスが上達したね」
「ええ、淑女の嗜みとして、一生懸命練習しましたのよ」
「最初の頃よりずっと踊りやすくなっているよ」
「そう言って貰えると、練習した甲斐があります」
って、前の私のダンスがひどかったって暗に言われてる? まさかね。
三曲連続で踊ると、私はウォレイブ様に連れられて、お父様達の居る場所に行く。
お父様ってば、なんだか涙ぐんでいるわね。
やっぱり、娘を嫁に出すのって特別なのよね、お姉様はお婿を取ったからまた別だったんだわ。
「プリエマ、良い式であったぞ」
「ありがとうございます、お爺様」
「今後は、大公妃として、よくウォレイブ様をお支えするのですよ」
「はい、お婆様」
「ぐす、プリエマ、幸せになるのだぞ」
「もうっお父様ってば泣かないで下さいませ」
「仕方がありませんわよ、この人ってば昨晩から子の調子なんですもの」
「そうなのですか? お母様」
「プリエマ、とっても素晴らしい式でしたわ。今後の貴女の幸せが詰まっているような式でしたわね」
「ありがとうございますお姉様。私、必ず幸せになって見せます」
そうよ、私はヒロインなんだから、幸せな未来が約束されているのよ。
淑女としてウォレイブ様を良く支えて生きていけば、幸せは付いて来るに違いないわ。
その後、色々な人に挨拶をされたり、ダンスに誘われたりして、あっという間に披露宴は終わったわ。
ウォレイブ様が他の令嬢とダンスを踊るのは気に入らないけど、ここは我慢して淑女らしく振舞うべきよね。
披露宴が終わり、最後のお客様を見送って、私は新しく用意された離宮に移動したわ。
これからはここが私とウォレイブ様の愛の巣になるのね。
クレマリーの手を借りて、入念に体や髪を洗ってもらって、香油をたっぷりと髪につけてもらって、準備万端と言った感じに私は寝室に行くと、来ていたガウンを脱いで、ベッドに腰かけてウォレイブ様が来るのを待ったわ。
しばらくして、ガウンを羽織って小箱を持ったウォレイブ様がやって来た。
小箱の中身は媚薬か何かね。
初夜の娘でも痛みを感じずに気持ちよくなれる媚薬がこの国にはあるのよ。
「ウォレイブ様、私、覚悟は出来ています」
「もう旦那様だよ、プリエマ。なるべく優しくするからね」
「はい」
目くるめく夜が終わって、私はウォレイブ様の腕の中で目を覚ましたわ。
ウォレイブ様は先に起きていたみたいで、寝顔をずっと見られていたみたい。
なんだか恥ずかしいわ。
「プリエマ、腰は大丈夫?」
「……少しだるいですけど、大丈夫です」
「そう、ならよかった」
少し腰はだるいけど、歩けないって程じゃないし、問題はないわ。
それにしても、初夜だからか、ウォレイブ様ってば慎重すぎだったわね。
私としてはもっとこう、がつがつ責められた方が好みなんだけど、今後のウォレイブ様に期待することにするわ。
それにしても、この国の媚薬ってすごいわ、初めては痛いものだって思ってたけど、全く痛くなかったんだもの、すごいわ。
それとも、慎重だっただけにウォレイブ様がうまかったのかしら?
まあ、どっちでもいいわ。
「プリエマ、早速の公務で悪いんだけど、このリストにある令嬢をお誘いしてお茶会を開いてほしいんだ」
「お茶会ですか?」
「うん、ボクも側妃を決めなくちゃいけないからね。ダラダラしてたら彼女たちが嫁き遅れちゃうし、早く決めないと」
「それが初の公務ですか!?」
「うん」
「……わかりました」
側妃を迎えることは仕方がないものね、嫌だけどここは正妃として立派に勤め上げなくちゃ。
舐められないように、キャメリア様のように凛とした立派な淑女でいなくっちゃ。
私はぐっと心の中で気合を入れると、ウォレイブ様から渡されたリストを見て思わず眉間にしわを寄せてしまう。
なによこれ、学園でウォレイブ様の周りをうろちょろしてた令嬢ばっかりじゃない、あんな人たちと仲良くお茶会をしなくちゃいけないわけ?
正妃としての公務だからって、最初から貧乏くじを引いた気分だわ。
「実家の実力とか派閥とか、そういうのを見極めて側妃にしないといけないし、子供がきちんと産めそうな令嬢を側妃にする必要もあるから、プリエマにはきちんと見極めて欲しいんだ。あ、もちろんボクも参加するから」
「え! 旦那様も参加するんですか?」
「そりゃあ、ボクの側妃を選ぶお茶会だからね。国王陛下からも、このお茶会で決めなかったら、今期は諦めて次の世代の若い子をあてがうなんて言ってきているし、腹をくくらなくちゃ」
「そうですか、わかりました」
はあ、なんだか思ってた結婚生活と違うなあ。
でも、私がしっかりしなくっちゃ。
一週間後、令嬢達を集めてのお茶会が開催された。
開催の挨拶が終わると、令嬢たちはあっという間にウォレイブ様に群がってキャイキャイと自己アピールをしてる。
そんなに自己アピールしなくたって、この三年間ずっとしてきたんだから今更してもかわらないわよ。
……なによ、ウォレイブ様もまんざらじゃないって顔して、正妃である私が横にいるっていうのに、なによその顔は!
「プリエマ様、少しよろしくて?」
「なんでしょう?」
いきなり話しかけられて驚いたけど、淑女らしく微笑みを浮かべて対応する。
「以前からプリエマ様とじっくりお話したいと思っていたんですよ。なんといっても我が国が誇る聖女様でいらっしゃいますもの、皆の憧れの存在ですわ」
「あら」
いちゃもんでも付けられるのかと思ったけど、そうでもないのね、案外いい子なのかしら?
確か伯爵家の娘よね。
「アーティファクトが起動した際にも私も末席とはいえ立ち会っておりましたが、あまりの素晴らしさに感動したしましたもの。プリエマ様は、私どもとはあまりお話をしてくださらないから、こういう機会が出来るのを楽しみにしていたんですよ」
「まあ、そうなんですか?」
「ええ」
その後、その令嬢と楽しく話していて、ふと横を見るとウォレイブ様の姿が無くなっていて、思わず目だけでキョロキョロと中庭を探すけど、見える範囲には居ない。
「プリエマ様、どうかなさいましたか?」
「いえ、なんでも」
「それで、先ほど仰っていた成人の儀式とはどのような物だったのですか?」
「それがですね」
また話を戻されて、この令嬢が聞き上手な事もあって、ペラペラとお喋りをしていると、中庭の奥からウォレイブ様と腕を組んだ令嬢が出て来て、思わず手にしていた扇子をギリっと握りしめてしまった。
令嬢の口紅がかすれてる。
つまり、キスをしたっていう事? 私が主催するお茶会で!?
私の隣に戻って来たウォレイブ様の横には、当たり前のようにウォレイブ様と一緒に戻って来た侯爵令嬢が座る。
「プリエマ、知っているかもしれないけど紹介するね。彼女はエルヴィヒ=ケーテ=ザースロー侯爵令嬢。ボクのはとこに当たる令嬢だよ」
「ええ、知っておりますわ」
ウォレイブ様に侍っている令嬢の中でも特に馴れ馴れしかったもの、覚えたくなくても覚えちゃったわよ。
「ふふ、プリエマ様。今後ともよろしくお願いいたしますわね」
「と、言いますと?」
「先ほど、ウォレイブ様がわたくしを側妃にするとお約束してくださいましたの。誓いのキスもしてくださいましたわ」
「っ!」
「まあ! おめでとうございます、エルヴィヒ様」
今まで私と話していた伯爵令嬢が、手のひらを返したようにエルヴィヒ様にニコニコと笑顔を向けている。
……やられた! この人たちグルだったんだわ。
「ケーリーネ様の事もお願いしましたら、ケーリーネ様も側妃にしてくださるそうですわ」
「まあ、私が? 嬉しいですわ、ウォレイブ様。ありがとうございます」
「うん、派閥とか、実家の事も問題ないし、なによりもエルヴィヒの紹介だしね」
「プリエマ様、今後ともよろしくお願いします」
「え、ええ」
なにが今後とも、よ! 最初から仕組んでたくせに!
「あと一人、側妃を決めなくちゃいけないけど、プリエマはこれだっていう令嬢はいた?」
「えっと……」
ケーリーネ様と話しているばっかりで他の令嬢なんて見てなかったなんて言えないわ。
私は大人しそうな令嬢に狙いを定めると、ウォレイブ様に視線でその令嬢を誘導する。
「彼女はいかがでしょう? この中にいる令嬢の中では控えめですし」
私がその令嬢をウォレイブ様に紹介した瞬間、令嬢達がざわり、とした。
な、なによ。
「ああ、イザベルタ嬢か。まさかプリエマが彼女を選ぶとは思わなかったけど、まあ、実家の実力も確かだし、プリエマが気に入ったんなら、最後の一人は彼女にしようか」
「え、ええ」
なに? 何か悪い所でもあるの?
ウォレイブ様は羊皮紙を取り出して婚約者にすると言う契約を三人の令嬢と結んでいく。
それが終わると、ウォレイブ様は国王陛下に契約書を届けに行くと言って離宮を出て行ってしまった。
「驚きましたわ、イザベルタ様をお選びになるなんて」
「何か問題でも?」
「あら、ご存じなくてお選びになりましたの? 彼女は侯爵家の令嬢とはいえ庶子の子ですのよ。メイドとの間に産まれた子供なんですって」
「え」
「確かに美しい容姿ですし、大人しい方ですけれども、母親がメイドではねえ」
「そんな事を仰ってはいけませんよエルヴィヒ様、同じ側妃になったのではありませんか。それに、ああいう方がいらっしゃった方が何かと便利かもしれませんわ」
「それもそうですわね」
な、なによ、やな感じ。
「あの、プリエマ様」
「なんでしょう、イザベルタ様」
「今後とも、よろしくお願いいたします」
「ええ、こちらこそ」
なーんか影があるわね。
所詮メイドの子供ってところかしら? まあ、私に逆らうような感じはないし、いいんじゃない?
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