032 それぞれの今と未来

【プリエマ視点】


 お姉様が三人目の子供を出産間近と聞いて、私はさっそく出産祝いを選んでいた。

 出産予定日は一か月後。

 双子の時はピンクのおくるみだったけど、今度は何にしようかしら?

 私は、お姉様のお茶会の後、ウォレイブ様とじっくりと話し合った、私自身の事、どうしてウォレイブ様と結婚したのかという事も含めて、全部話して、もしそれで私の事を見限るんだったら、それでもいいという覚悟で話をしたわ。

 結果、ウォレイブ様は私を許してくれた。

 その上で、愛してくれていると言ってくれたの。

 その前の時点でお姉様とのお茶会で泣いたせいで赤くなってた目がさらに赤くなっちゃったわ。

 子供が出来ないっていう悩みも話したわ、ウォレイブ様は最初に私に子供を産ませてあげられなくてごめん、って言ってくれたわ。

 それで、私こそ子供を産めなくてごめんなさいって言ったの。

 それから、私とウォレイブ様の関係は少しだけ変わったわ、なんていうのかな、本当に心から信じあえる仲になったっていうのかしら? ああ、こう言うのを愛って言うんだなって思えるようになったわ。

 その後、エルヴィヒ様とケーリーネ様が女の子を産んだけど、私は心の底から祝福出来たわ。

 私の子供じゃないけど、ウォレイブ様の子供だもの、可愛くないわけがないわ。

 ちょっとしたことで、世界がこんなにも変わって見えるなんて思わなかった、神様にも出来なかったことを、お姉様がしてくれたのよ。

 今では、私にとってお姉様は神様以上の存在。


「ねえ、旦那様、ふわもこのブランケットなんてどうでしょうか?」

「いいね、きっと喜んでくれるよ」

「お姉様の三番目の子供の体を優しく包み込んでくれるようなものがいいと思うんですよね」

「そうだね。プリエマの言う通りだとおもうよ。でも残念だな、公務があるから、ボク達がその子に会えるのは三ヶ月後だね」

「そうですね、でもレーベン王国に外交に行くのも大切な公務ですし、文句は言えませんよ。大丈夫です、レーベン王国語もちゃんとお勉強しましたもの」

「うん、プリエマは綺麗にレーベン王国語を発音できるようになったよね」


 明日から、私達は外交官と一緒に隣国のレーベン王国に向かう。

 その間、この離宮の事はエルヴィヒ様にお任せする事になっているのよ、エルヴィヒ様は喜んで引き受けてくれたわ。


「レーベン王国の守護神は安産の神様なんだっけ? ついでにプリエマの子宝祈願もしておこうか?」

「ふふ、そうですね。他国の人間の私達に加護をくれるかわかりませんけど、しないよりはましかもしれませんね」


 前は、子供が出来ない事にあんなに焦っていたのに、今は子供が居なくてもそれが運命なんだって思えるようになった。

 それに、私の子供じゃないけど、ウォレイブ様の子供はもう三人もいるんだもの、私に子供が出来なくても、その子達を可愛がればいいのよね。

 聖女だって祀り上げられちゃってるけど、神様からのコンタクトは、アーティファクトを正式起動するための文言の確認以来ないし、自分でも聖女ってなんだろうって思っちゃうぐらいよ。

 ホント、私って子供だったのよね。

 まあ、今も大人かって言われると返事に悩んじゃうけど、昔よりは大人になったつもり。

 お姉様宛てに贈り物を届けてもらうように手配して、私とウォレイブ様はレーベン王国に向かうための荷造りに取り掛かる。

 三ヶ月もこの国を離れるから、荷物も多くなっちゃうのよね。

 まあ、そのうち一か月間は往復の旅程なんだけどね。

 二か月間レーベン王国に滞在して、今後の作物なんかの輸出入の話なんかをする予定になっているわ。

 いままではウォレイブ様は国内の公務しか任されてなかったけど、私との話し合いの後から、ウォレイブ様も変わったわ。

 周囲に目を向けられるようになったって言うか、とにかく国王陛下曰く、私達はいい意味で成長したんだって。

 外交官が一緒に行くとはいえ、国の代表として隣国に行くことを許されるぐらいには、私達も認められるようになったって事よね。


「ねえ旦那様」

「なんだい、プリエマ」

「愛してます」

「どうしたんだい、急に」

「なんだか言いたくなっちゃって」

「ボクもプリエマを愛しているよ。これからもずっと」

「嬉しいです」


 荷造りを眺めながら、私とウォレイブ様はキスをした。

 なにやってんだっていう目でウォレイブ様の侍従が見て来るけど、いいじゃない、夫婦の愛を確かめ合っているだけなんだもの。

 荷造りが終わったのを確認して、私達は三ヶ月留守にする離宮での夜を一緒に過ごす。

 相変わらずウォレイブ様はスローセックスを好むけど、今はそれでもいいかなって思っちゃう。

 まあ、たまにお酒に飲まれたウォレイブ様にガンガン攻められるのも悪くないんだけどね。

 愛し合って一緒に寝て、朝目が覚めた時に愛する人が隣にいるって、本当に幸せなんだって最近実感しちゃうの。

 これって私にしたら随分と成長したと思わない?

 ねえ、神様、私をこの世界に転生させてくれてありがとうございます。

 でも、もっと早くにこの世界が現実なんだって目を覚まさせてくれれば、今よりももっといい人生が送れていたかもしれないから、ちょっぴり恨んじゃってる。

 それでも、ウォレイブ様と出会わせてくれたことには感謝してるわ。

 私のことをここまで愛してくれるのは、ウォレイブ様以外に居ないって、ちゃんとわかってるから、私もウォレイブ様を愛し抜くって決めたの。

 出立の準備をしてると、離宮からエルヴィヒ様達が見送りに来てくれた。


「行ってらっしゃいませ、旦那様方」

「いってくるよ、留守の間離宮をよろしく」

「エルヴィヒ様、私達が留守の間は、離宮の事は任せましたよ」

「え、ええ……」


 変わった私にエルヴィヒ様達はまだ慣れないみたいだけど、そんな反応も楽しめちゃうぐらいには今の私には余裕があるの。

 これも全部、お姉様のおかげね。

 レーベン王国に着いたら、お姉様の安産祈願をしなくっちゃね。



【グリニャック視点】


 昨日熱を出していたカロリーヌは、今日は熱も下がったようで、機嫌もよさそうですわね。

 カロリーヌが病弱だからか、ジェレールとシャメルは第二イヤイヤ期がほとんど無く、むしろカロリーヌの面倒を見ようと、必死に兄姉らしく振舞っております。

 ドミニエルの子供の真似の様で、なんだか可愛らしいのですよね。

 わたくしはコレットが抱いているカロリーヌの様子を見ます。

 額に手を当てて熱を測りますが、すっかり熱は下がったようですわね。


「にゃー」


 カロリーナの泣き声は弱々しく、とても心配になってしまいますが、流石に三人目になりますと、泣き声で何を求めているのかわかるようになってきましたわ。


「コレット、授乳をしますので、カロリーヌをこちらへ」

「はい、若奥様」


 わたくしは授乳の為にリリアーヌに手伝ってもらいドレスの前をくつろげると、コレットからカロリーヌを受け取ってお乳を吸わせます。

 最初はほとんど飲んでくれませんでしたが、最近は少しずつですが飲む量も増えて来たので安心しております。

 それでも、同じ時期のジェレールとシャメルが飲んでいた量よりも少ないのですけれどもね。

 予定日よりも早く生まれたせいか、体が小さい事や軽く病弱であることもあり、カロリーヌには既にお付きの侍従とメイドを付けております。

 昼はコレットが見てくれていますが、夜に何かあっては大変なので、夜番ではなく、侍従とメイドをあてがうことにしたのです。

 授乳が終わりますと、わたくしはカロリーヌをコレットに渡してげっぷをさせてもらいます。

 その間にわたくしはドレスの前をリリアーヌに直してもらいました。


「にゅー」

「あら、お腹がいっぱいになったから眠くなってしまったのでしょうか? コレット、カロリーヌをベビーベッドに寝かせてくださいませ」

「かしこまりました」


 ベビーベッドに横たわらせると、カロリーヌは案の定すぐに目を閉じて眠ってしまいました。

 わたくしは寝顔を写真に収めると、優しくカロリーヌの頬を撫でます。

 どうかこの子が健やかに育ってくれますように。

 完全にカロリーヌが眠ったのを確認して、わたくしは執務の続きをするためにベビールームを出てお父様の執務室に行きました。

 もう執務室で仕事をしているお父様の姿を見ることはほとんど無く、もう間もなく名実ともにこの執務室が自分の物になるのだと言う実感がじんわりと湧いてまいります。

 執務机の椅子に座りますと、残っていた書類に目を通していきます。

 領地からの報告書だけでなく、系列の貴族の家からの陳述書などもございますので、日々の仕事が減ることはありません。

 特に、代替わりしたばかりのエルヴィエ侯爵家からは、様々な相談が持ち掛けられてまいります。

 幸い、新しいエルヴィエ侯爵は優秀な方ですので、公務の呑み込みも早く、このような陳述書もそのうち無くなっていくかもしれませんわね。

 その他にも、我が家が支援している孤児院の状況の報告書や、商会からの新しい商品の推薦状など、書類は山積みになっております。

 本来、公爵の仕事と女主人がする仕事をいっぺんにしておりますので、仕事量が増えてしまうのは仕方がない事ですわね。

 執務をしていると、そろそろトロレイヴ様とハレック様が返って来る時間だとドミニエルが教えてくれたので、待機室で待つために移動いたしました。

 待機室でホットミルクを飲みながら待っていると、門の所に馬車が停まり、トロレイヴ様とハレック様が下りてくるのが見えましたので、待機部屋を出て、玄関までお迎えに参ります。

 少し待っていると、玄関の扉が開き、お二人が入ってきました。


「まあ! お二人とも本日は随分衣装が乱れておりますのね。なにかございましたの?」

「ああ、今日は実力テストの試合があってね、レクとはグループが違ったから戦わなかったけど、勝ち抜き戦でね、結構激しい運動をしたから、騎士服も乱れちゃったんだ」

「まあ、そうなのですか。それで、結果はどうでしたの?」

「もちろん、私もラヴィも勝ち残ったぞ。第三部隊から第二部隊に昇格することに決まった」

「まあ! おめでとうございます」

「目指すところは、国王陛下の近衛騎士だから、まだまだ頑張らないといけないんだけどな」

「ラヴィとレクならきっとなれますわよ」

「うん、がんばるよ」


 それにしても、乱れた騎士服のお二人、こんなにも色気が増し増しだとは思いませんでしたわ!

 ちょっとジャケットの襟元が乱れているのがポイントですわね。

 グループが違うので、お二人は対戦しなかったと言っておりましたが、もし同じグループでしたら、くんずほぐれつの絡みを実践したに違いありませんわね。

 ああ、その場面を見てあわよくば写真に収めたいですわ。

 お二人が騎士団に就職してからというもの、休日や夕食までのわずかな時間しか写真を撮ることが出来ずに、少々欲求不満ですわね。


「ニア、カロリーヌの様子はどうだ?」

「今日は熱も下がりまして機嫌も良かったですわ」

「そうかならよかった。カロリーヌの調子が悪いと、ジェレールとシャメルもしょんぼりしちゃってるからね」

「そうですわね。良き兄と姉でわたくしは嬉しゅうございますわ」

「そうだな」

「うん、家族仲は良いほうが良いよね」

「そうですわね」


 トロレイヴ様とハレック様は着替えついでに湯あみをなさると言って、それぞれのお部屋に参りましたので、わたくしも私室に戻りました。


「そうですわ、そろそろ例のお茶会の時期ですわね。招待状を書かなくては」

「若奥様、またあの方々とお茶会をなさるのですか?」

「ええ、あの方々とのお茶会を定期的に開きませんと、今では落ち着かなくなってしまっておりますもの」

「然様でございますか。ご趣味もほどほどになさいませんと、若旦那様とお部屋様に呆れられてしまいますよ?」

「だ、大丈夫ですわ。お二人ともわたくしの嗜好はご存知ですもの」

「まったく、わたくしは若奥様の育て方を間違ってしまったのでしょうか?」

「まあ、リリアーヌ。そんな事はございませんわよ。これは神様が与えてくれたものなのでございます」

「……然様ですか?」

「ええ」


 前世の腐女子の魂を持って異世界転生したのですもの、神様のせいですわよね。

 わたくしは、薔薇世界について語り合う為、同志の方々にお茶会の招待状をしたためる作業に没頭致しました。

 そうそう、同志の証として、ヴィリアンさんに頼みまして、銀細工で薔薇のブローチを作っていただきましたの、今度のお茶会で皆様にプレゼントするつもりですのよ。

 招待状を書き終わった頃、丁度夕食の時刻になりましたので、招待状を明日出すようにドミニエルに頼んでから、わたくしは食堂に向かいました。

 食堂にはまだ若干髪の濡れたトロレイヴ様とハレック様がいらっしゃって、濡れ髪が色気を増していらっしゃいます。

 わたくしの寝室に来るときは、いつも完全に髪を乾かしてからいらっしゃいますので、何気に髪が濡れているお二人を見るのは初めてですわね。

 いえ、正確には朝に一緒にお風呂に入る時に見ているのですが、まじまじと見ることが出来ずにいると言うか、全裸のお二人を見るのが恥ずかしくて思わず視線をそらしてしまいますので、着衣姿でいらっしゃる今は見放題状態でございます。

 はあ、眼福ですわ。

 こんな方々が旦那様だなんて、改めて自分が恵まれていると実感してしまいますわね。

 さて、プリエマ達は今頃レーベン王国に居ますのよね、元気にしていますでしょうか?

 ルトラウト様には、二人をよろしくしていただくようにお手紙は出しましたけれども、どうでしょう?

 あのお茶会以降、プリエマは心に余裕を持てるようになったようで、ウォレイブ様の子供を、例え側妃の子供といっても可愛いと言っていました。

 あのプリエマが成長したものですわねえ。

 しみじみと考えながら、私室に戻ってストレッチをしていつものように湯あみをしてトロレイヴ様とハレック様が居らっしゃるのを待って、いらっしゃってから一緒に寝ました。



『グリニャック、起きるがよい』

「まあ、神様。何かございましたの?」

『うむ、あの、だな。その、いや、うむ』

「なんです?」

『カロリーヌの事なのだが』

「あの子に何かありますの!? まさか儚くなってしまうなんておっしゃいませんわよね!」

『いや、それはない。病弱ではあるが、私の未来視が効く範囲ではちゃんと成長している』

「そうですか、安心しましたわ。それで、カロリーヌがどうかしましたの?」

『いや、それが……その、まだうまく言えないのだが、グリニャックの前世の世界の乙女ゲームの登場人物になっているようなのだ』

「は?」


 思わず声が低くなってしまいます。

 病弱なあの子が乙女ゲームの登場人物? まさか。


『グリニャックが前世で死んだあと、『オラドの秘密』の続編で『ラクリマの後で』という乙女ゲームが発売されてな、カロリーヌはその中で悪役令嬢として』

「はあ?」

『わ、私にガンつけられても、私も戸惑っているのだ。ゲームの中のカロリーヌは病弱ではないからな、既にシナリオが崩壊している』

「神様、運命線を変えるには、神様を殴れば変わりますかしら?」

『い、いや、拳を握って近づいて来るな。……コホン、私だって、カロリーヌの事は目にかけている、なんといってもグリニャックの子供だからな。しかし、運命というものが存在してだな』

「その運命とやらに、わたくしの可愛い妹であるプリエマは散々振り回されましたわよね?」

『だ、だから拳を収めてくれ』

「……で?」

『それでだな、カロリーヌはこの国にやって来る各国の王子の婚約者の地位を狙う悪役令嬢で、ヒロインの邪魔をしていく役でなっげふ』

「わたくしの娘を悪役令嬢に仕立て上げるなんて、神様ってば意地が悪いですわね。もう一発お見舞いして差し上げましょうか?」

『お、落ち着いて話し合おう、話し合いは大事だろう?』

「……時と場合によると思いますの」


 わたくしは拳を握ってにっこりと微笑みます。

 まったく、病弱ですぐ熱を出してしまうようなあの子に悪役令嬢なんて出来るわけがございませんのに、運命だからとか言って悪役令嬢なんて呼ぶなんて、神様ってば余程殴られたいのでしょうか?


『と、とにかくだ。少なくとも乙女ゲームの中ではカロリーヌは第二のグリニャックと言われるほどの美貌で各国の王子を垂らしこぅっげぼぅっ』

「誰が、誰を垂らしこむ、ですって?」

『い、いや。なんでもないです。はい』

「まったく。いいですか、いくら乙女ゲームに舞台が似ているとはいえ、ここは現実の世界なのですから、神様がそれに惑わされてどうしますの! だいたい、神様がむやみやたらに転生者を呼び寄せるからややこしい事になったのではございませんか? ええ、そうですとも、悪いのは神様ですわよね、反論は受け付けませんわ」

『え、ええ!? 私は良かれと思ってだな』

「はあ?」

『ひっ……。と、とにかく、少なくとも悪役令嬢として活躍する予定のカロリーヌはっげほっ』

「誰が、悪役令嬢ですって?」

『……お、乙女ゲーム『ラクリマの後で』に登場するカロリーヌは重要キャラクターだから、少なくともそれまでに命を落とすようなことは、運命としてないだろう』

「そうですか。……で?」

『いや、その……えっとだな、と、とりあえず拳を下げてくれないか?』

「ふふふ」

『……お願いします、拳を下げてください』

「仕方がありませんわね。次は蹴ることにいたしますわ」

『そういう問題じゃない!』

「それで、カロリーヌの将来はどうなりますの? わたくしはその『ラクリマの後で』という乙女ゲームを知りませんの。内容を洗いざらい吐いていただけますか?」

『こ、この国の学園が舞台で、各国の王子が留学してきたり、この国の高位貴族子息が登場したりして、男爵令嬢のヒロインがその登場人物たちと恋に落ちていくのだが、カロ、んん、悪役令嬢がそれを快く思わず、邪魔をしていくと言うストーリーだ』

「王道と言えば王道ですが、男爵令嬢が王子と恋に落ちるとか、現実問題として、無いでしょう。まあ、レーベン王国の王妃様は元男爵令嬢ですけれども」

『そう! ヒロインはまさにそのサクセスストーリーを自然に狙っていくと言うストーリーなのだ! それでだな、これは隠された設定なのだが、その男爵令嬢は子なのだが、その亡くなった祖母が、亡国の姫君でな、ストーリーの後半でそれが判明して、それまでヒロインを虐めていたカロ、ではなく悪役令嬢が鉄槌をくらわされると言うものなのだ』

「そうですか。では、カロリーヌを学園に通わせなければ問題は解決ですわね」

『……グ、グリニャックよ』

「なんでしょうか? あ、蹴られたいですか?」

『落ち着こう。とりあえず落ち着いて話し合おう。よかったじゃないか、とりあえずカロリーヌは十五歳までは無事に成長するのだから。病弱なのはどうなるかはわからぬが……というか、見えた未来では病弱のままだが……』

「そうですか、神様の未来視は信用できませんが、カロリーヌは成長しても病弱なままなのですね。……で、そんなわたくしの可愛いカロリーヌにどうやって悪役令嬢をしろと? 冤罪でもぶっかけやがる気ですか?」

『踏んでる! 思いっきり足で踏んでる! ま、まあ、運命などいくらでも変わるものだ。カロリーヌが病弱なのも、『ラクリマの後で』と設定が違うし、悪役令嬢は他の者がその役割を担ってくれるかもしれぬ。だからお願いします、足を踏まないで下さい』

「……それで、結局何が仰りたいのですか?」

『いや、その……あの、だな、カロリーヌを大事に育ててくれと』

「当たり前ではないですか。わたくしの愛する娘ですのよ」

『が、学園に通えるように体力も付けさせて』

「まあ、自然に体力が付けば通わせますが、病弱のままでしたら家で家庭教師を付けさせますわ」

『そ、それだと運命線がだな』

「神様」

『な、なんだ?』

「な に か も ん く で も ?」

『なにもございません!』

「ご理解いただけて何よりですわ。では、用事は済みましたわよね? サッサとわたくしを戻していただけますか? この空間にいると、とても疲れてしまいますの」

『う、うむ……』


 唸る神様の声が聞こえましたが、気にせずにいますと、視界が霞がかっていき、意識がホワイトアウトいたしました。



 目覚めると、いつものように両側にトロレイヴ様とハレック様が眠っていらっしゃいます。

 カーテン越しに差し込む光もありませんし、まだ夜が明けてないようですわね。

 よし、二度寝しましょう。

 そう考えて、わたくしはもう一度、目を閉じて夢の世界に旅立って行きました。

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