028 勧誘断固拒否!

 子供を産んで半年がたち、ジェレールとシャメルは離乳食を開始いたしました。

 妊娠中それほど太らなかったこともあり、わたくしの体型もすっかり元通りになりまして、以前着ていたドレスが着られるようになったのが嬉しいですわね。

 夜会への誘いも再開し始めましたので、丁度よかったですわ。

 お父様はわたくしに公爵位を継がせる準備に入っておりまして、最近では引継ぎなどで忙しくしております。

 お茶会や夜会の誘いも、お父様やお母様経由ではなく、招待状が届いたら直接わたくしの元に届くようになりました、自分で判断しろという事なのでしょうね。

 実際、直接届くようになって、その量の多さに驚きました。

 いままではお母様やお父様が篩にかけていて下さったのでしょうね。

 派閥や、日にちが重なったものや、爵位の問題などを考慮して夜会やお茶会に参加しなければいけませんので、参加するものを選ぶのも結構大変ですわね。

 そんな中、王妃様からまたお茶会の招待状が届きました。

 正直見なかったことにしたいのですが、そういうわけにもいかず、わたくしは参加致しますと言う返事を出して、お父様の執務の手伝いに参ります。

 執務の手伝いも慣れて来たもので、お父様はこれならいつ公爵位を譲っても構わないと仰ってくださいました。


「そういえば、明日はトロレイヴ君とハレック君が久しぶりに休日を貰える日だったな」

「ええ、久しぶりに家族水入らずで過ごそうと思いますわ。トロレイヴ様とハレック様の休日が重なるという事は、騎士団に務める年数が多くなれば多くなるほど少なくなってきますでしょうし、今のうちに堪能したいと思いますの」

「そうか」


 お母様の仰った通り断乳をしても、胸は張りますので、その度に専用の容器に絞ったり、トロレイヴ様とハレック様が飲んだりなさっております。

 トロレイヴ様とハレック様の方が断乳出来ていないのではないでしょうか?


「そういえば、先日国王陛下にご機嫌伺に行ったとき、グリニャックを宰相補佐として雇いたいと言う打診を受けたぞ」

「まあ、そうなのですか」


 ついにお爺様だけでなくお父様も巻き込むつもりですか? 国王陛下。

 今度出席を決めたお茶会御前会議でも宰相補佐位になって欲しいと要求されそうで怖いですわね。

 なんだかだんだん逃げ道を塞がれているような気がいたしますわ。

 領地にお戻りになったお爺様とお婆様は、わたくしになら宰相の座を引き継がせても問題ないと言う、意味不明の太鼓判を押してくださいましたし、わたくし、どうなってしまうのでしょうか?

 ……いいえ、ここは断固として拒否しなければなりませんわね。

 わたくしは普通の女公爵を全うするつもりなのですから!



 そうして、トロレイヴ様とハレック様が休日の日、わたくし達はジェメールとシャメルと一緒に家族五人で過ごしました。

 もちろんわたくしは写真機での撮影係に徹したり、子供二人をあやすことに夢中になったりして、楽しい時間を過ごしました。

 ジェレールは絵本の中に出てくる猫が大層気に入ったようで、その猫の出てくる絵本シリーズを買いそろえたほどでございます。

 逆に、シャメルは犬の出てくる絵本が気に入っておりまして、こちらもそのシリーズを全て買い揃えました。

 まあ、我が家では動物を飼っておりませんので、憧れを持ってしまっているのかもしれませんわね。

 お茶会友達の中には、猫や犬を飼っていらっしゃる方もいるのですが、毎回可愛くてたまらないと自慢されてしまいますのよ。

 けれども、実際に飼うとなりますと面倒を見るのはメイドや侍従になりますでしょうし、そこの所をよく考えてから飼うかどうかを考えなくてはいけませんわよね。

 ただ可愛がっているだけでは、犬や猫がわがままに育ってしまうかもしれませんもの。

 それに犬はともかく猫は奔放な生き物と聞きますし、お茶会友達の中でも、気が付いたらいなくなっていたことがあるという事も聞きましたわ。

 犬は犬で、トイレのしつけなどに苦労すると聞きますし、ジェレールとシャメルにはそこの所をよく説明して、本当に飼いたいのか確認しなければなりませんが、今は言ってもまだわかりませんわよね。

 大きくなれば、飼いたいという衝動も収まるかもしれませんし、要経過観察と言ったところでしょうか?

 トロレイヴ様もハレック様も、子供の事がかわいくて仕方がないのか、すっかり父親の顔になっておりまして、子供をあやしていらっしゃいます。

 もちろんその姿は写真に収めましたわ。

 色気暴力のお二人が稚児と戯れている姿というのも、またおつでございますわね。


「若奥様、写真機をお貸しいただければ、ご家族の写真をお撮りいたしますよ」

「そうですか? ではお願いいたしますわ、リリアーヌ」

「かしこまりました」


 トロレイヴ様とハレック様がそれぞれ子供を抱いて、わたくしの左右に座ります。

 リリアーヌがシャッターを押して撮影が終わりますと、写真機を返して貰ったので、出来上がった写真を確認いたします。

 少しして画像が浮かび上がって来て、白黒ではありますが、幸せそうな写真が撮れましたので、大変満足ですわ。

 たまにはこういう写真もいいですわね。

 返って来た写真機で、わたくしはトロレイヴ様とハレック様の笑顔をこっそりと撮り続けます。

 もちろん、子供の写真も撮っておりますわよ?

 季節は三月に入りましたので、天気のいい日などは乳母が日傘をさしながら、子供達を中庭などで散歩させているのをよく見ます。

 わたくしも参加したいのですが、タイミングが合わずになかなか一緒に散歩することが出来ないのですよね。

 そのままベビールームで夕食まで過ごしまして、夕食を頂くためにわたくし達は子供達を残しまして食堂に移動いたしました。

 お父様とお母様を待って、いらっしゃいましたら夕食が開始されました。


「トロレイヴ君、ハレック君、久しぶりの休暇は楽しめたかい?」

「はい、とても有意義に過ごすことが出来ました」

「普段はなかなか子供と接することが出来ませんので、良い休日を過ごすことが出来ました」

「そうか、それは良かった。グリニャックとの仲も相変わらず良いようで、このままでは三人目の子供が産まれるのも時間の問題かもしれぬな」

「お父様ってば……」


 これは、三人目を期待されているという事でしょうか? うーん、子供は授かりものですし、こればかりは天に委ねるしかございませんわね。

 そもそもまだ性行為を再開しておりませんし。

 わたくしは食後の紅茶を頂きながら、まったりとそう考えておりました。

 まだ生理も再開しておりませんし、子供が出来るのもまだ先なのではないでしょうか?

 夕食を食べ終わった後、わたくしは私室に帰り、湯あみをして寝着に着替えると、寝室に一人で入りまして、それぞれのアルバムに本日撮った写真を張り付けていきます。

 はあ、子供とトロレイヴ様の組み合わせがこうも色っぽいとは思いませんでしたわ。

 もちろん、ハレック様も負けてはおりませんが、ホスト系の色気を持つ方が子供と戯れる様は、ギャップがございましていいですわね。

 ハレック様は儚い系美形ですので、ギャップと言うよりも、馴染んでいると言った感じでしょうか?

 それに、わたくしの遺伝子が本当に入っているのかわからないほどお二人に似ておりますので、お二人がそれぞれ子供を抱っこした写真なんて、まるでお二人の子供の様で(いえ、実際にお二人の子供なのですが)、妄想が止まりませんわ。

 って、いけませんわね。

 あまり長い時間こうしてアルバムを見ていては、トロレイヴ様とハレック様が居らっしゃる時間になってしまいますわね。

 わたくしはアルバムをドレッサーの一番上の引き出しにしまいますと、鍵をかけました。

 そろそろ引き出しの中もいっぱいになってきましたし、鍵付きの宝箱でも用意していただいたほうがよろしいでしょうか?

 そんな事を考えていますと、扉がノックされまして、トロレイヴ様とハレック様がやってまいりました。

 ぎりぎりセーフですわね。

 お二人を招き入れまして、本日も三人仲良く過ごしました。

 翌朝、トロレイヴ様とハレック様を見送りまして、わたくしは午前中はお父様のお仕事のお手伝いをするために執務室に参りました。

 午後はお母様の仕事の手伝いをする予定になっておりますわ。



 数日後、わたくしは王妃様主催のお茶会と言う名の御前会議に出席しておりました。

 今回は騎士団長がいらっしゃいません。


「本日の議題は、医療体制についてとなっている、高位貴族こそ、典医の診察を受ける事が可能だが、下位貴族にはそれも儘ならない者もいる。平民に至っては、典医など高価で全く手が出ないと言う家も多数存在している。薬師が典医の代わりをしている場合もあるが、産婆の増加に加え我が国の今後の課題であり……………………」


 ここ数年、下位貴族・平民の出生率が下がっているという事もあり、典医と産婆を増やすという事と、その育成機関をどうするかなどについて話し合いが行われました。

 この五十年の統計を見ますと、緩やかではありますが、高位貴族の出生率も下がっているのですよね。

 一つの家に二人以上の子供が理想なのですけれども、平民の中には子供を育てられず、孤児院に預ける者も多く、出生率もそうですが、保育環境を整備することも重要なのではないでしょうか?

 例えば、正妃・側妃様方に支払われるような出産したら報奨金を出すなどしなければ、子供を産んでも生活がままならない家もございますでしょう。

 すでに、エヴリアル公爵領で行っている政策でもございますので、わたくしがそのようなことを申し上げましたら、国王陛下は、保険体制の見直しが先かもしれない、とご自分でお作りになった資料を再度見直していらっしゃいました。

 国王陛下って大変ですわねえ。

 それにしても、前世の記憶がございますので、わたくしは保険体制と言う言葉の意味は分かりますが、他の方はわからないのではないでしょうか?

 幸いな事に、軍事費を削っているおかげで、現在の国庫は潤沢にあるという事ですので、確かに保険制度は実行できるかもしれませんが、貴族はともかく、平民にその理解を得られるかは厳しい所ですわね。

 何かあった場合に備えて積立金をするという発想自体がこの国にはございませんし、それを浸透させるには少々時間がかかるのではないでしょうか?

 お茶会御前会議の内容もだんだんと難しいものになってきておりますわねえ。

 わたくしはそんな事を考えながら、紅茶を一口飲みました。


「グリニャックは、保険体制ついて何か意見はあるか?」

「……わたくしですか? そうですわね、国王陛下の仰った、典医にかかる場合までの事前積み立てという感覚が特に平民に理解を得られるかは微妙なところなのではないでしょうか? 貴族でしたら、国王の勅命という事で可能かもしれませんが、それでも下位貴族の中には生活をするだけで精いっぱいという家もございますでしょう? そんな家に事前積み立てを強いるのは酷なのではないでしょうか? 下位貴族の生活の苦しい家、つまり領地経営がうまくいっていない家のサポートも視野に入れるべきだと思いますわ」

「そうか……」


 国王陛下はまた何かを考え始めたようです。

 わたくしは紅茶をもう一口いただきます。

 王室御用達と言うだけあって、美味しゅうございますので、これだけがお茶会御前会議に出る楽しみでございますわね。

 その後国王陛下がもう一度再考をすると仰って、お茶会御前会議は終了となりました。


「グリニャック」

「はい、陛下」

「今回も素晴らしい意見だった。本気でまずは宰相補佐になってみないか? なに、難しいことはない」

「ほほほ、わたくしにはそのような大役務まりませんわよ」

「そんなことはない、前エヴリアル公爵もグリニャックにならできると胸を張って言っていたぞ」


 お爺様ー!


「買い被りにございましょう」

「どうしてもだめか?」

「わたくしよりも優れた宰相補佐もいらっしゃいますし、テオドニ様も宰相を狙っていると聞きますもの、わたくしが出しゃばることはございませんでしょう」


 わたくしはにっこりと微笑みます。

 まあ、出仕しなくてもこういったお茶会御前会議はあるのでしょうし呼び出されることに変わりはないのではないでしょうか?

 はあ、億劫ですわね。

 その後家に帰り、わたくしはジェレールとシャメルと一緒に遊びました。


「若奥様、なんだかお顔が曇っていらっしゃいますが、王宮で何かございましたか?」

「そうですわね、あったと言えばありましたわね。まあ、いつもの事ですわ」


 まあ、お父様が引退なさるのはジェレールとシャメルが乳母離れする三歳以降になりますので、それまでに次の宰相が決まりましたらわたくしの呼び出し回数も減るかもしれませんわね。

 乳母の仕事を終えましたら、リリアーヌはわたくし付きのメイドに復帰いたしますし、そこは安心なのですけれどもね。

 そういえば、最近は子供達が夜泣きをすることもあるとか……、リリアーヌとアリアナには負担をかけてしまいますわね。

 ただでさえ自分の子供の養育がございますのに、わたくしの子供の世話をしなければいけませんもの。

 まあ、夜の間は別の者が付くのですけれどもね。


「あふ……」


 いけませんわ、お茶会御前会議で疲れてしまったのか眠気がでて、つい欠伸をしてしまいましたわ、はしたないですわね。


「若奥様、眠いようでしたら、若旦那様とお部屋様がお戻りになるまで寝室で少し眠っては如何ですか?」

「そうですわね、そうしようかしら」


 こんな疲れた顔をトロレイヴ様とハレック様にお見せするわけにもいきませんものね。

 わたくしはリリアーヌに言われたように、私室に戻ると、コレットに手伝ってもらい寝着に着替えると、仮眠をとると言って寝室に入りました。

 わたくしは今撮って来たジェレールとシャメルの写真をアルバムに張り付けまして、トロレイヴ様とハレック様のアルバムを取り出しますと、一枚一枚めくって写真を堪能していきます。

 ふう、やはりお二人のお姿は素晴らしいものがございますわね。

 先日の休暇の際に撮ったこの写真など、トロレイヴ様とハレック様のお顔の距離が近くて最高ですわ。

 騎士になって、ますます色気が増したのではないでしょうか?

 お若い頃ももちろん魅力的ですが、日々魅力的になっていくお二人に、わたくしはもうメロメロですわ。

 お茶会御前会議の疲労が消えていくような気さえしてしまいます。

 ああ、この騎士服での訓練の様子など、本当に涎が出てしまいそうなほど凛々しくて、麗しくて、お美しくて素晴らしいですわ。

 やはり、トロレイヴ様とハレック様は一対の存在なのですわね。

 お揃いの騎士服に、お揃いのカフス、ああっ、たまりませんわ、また王妃様のご意向で訓練の見学などさせてはいただけないでしょうか?

 ああ、でもそろそろ街中の警備の任務に就くかもしれないと仰っておりましたが、もちろんトロレイヴ様とハレック様はご一緒に行動しますわよね?

 離れ離れなんてそんなの悲しすぎますわ。

 ああでも、離れている時間がお二人の絆をより深めるのかもしれませんし、悩ましい所ですわね。

 それにしても、お二人の写真を眺めていると、眠気も吹き飛んでしまいますわ。

 わたくしは一冊目のアルバムから改めて丁寧に一枚ずつめくっていき、トロレイヴ様とハレック様の成長ぶりを確認いたします。

 やはり、成長するにつれ、色気が暴力的にアップしていっておりますわね。

 けれども、お二人とも夜には別の顔をお見せになって、トロレイヴ様はいうなれば夜の帝王、ハレック様はいうなれば夜の化身のようなのでございます。

 お二人は、わたくしの事をよく月の化身や月の女神のようだと仰ってくださいますが、お二人の方こそ神様に匹敵する麗しさですわ。

 そんな感じにアルバムを見て過ごしていますと、寝室の扉がノックされました。


「若奥様、そろそろ若旦那様とお部屋様がご帰宅なさる時間になりますので、起きてくだいませ」


 いけない、眠るつもりでしたのにアルバムを見ているうちにすっかり時間が経ってしまったようですわね。


「起きておりますわ、コレット。今参りますので衣裳部屋で待っていてください」

「かしこまりました」


 わたくしはアルバムをドレッサーの一番上の引き出しにしまうと、きちんと鍵をかけました。

 寝室を出て衣裳部屋に行きますと、コレットに「よく眠れたみたいですね」と言われましたが、一睡もしておりませんのよね。

 そのように見えますのは、やはりトロレイヴ様とハレック様の写真の効果なのでしょうか。

 コレットがドレスを選んでいる間、わたくしは椅子に座って思いっきり背中を伸ばしますと、パキパキと腰が音を立てました。

 ストレッチはしておりますが、もう少し柔軟性を上げるストレッチを増やすべきでしょうか?

 着替えを終えて、トロレイヴ様とハレック様のお出迎えに行きまして、空いた時間を利用してわたくしは私室に戻りまして、ドレス姿のままではありますが、軽く体を伸ばしたりしてストレッチを行いました。

 典医にはそろそろ性行為を再開しても構わないと言われておりますし、トロレイヴ様とハレック様にいつ夜の営みを再開しても大丈夫だと言うか、悩みどころですわね。

 いつまでもお二人に我慢していただくのもなんですし……。

 そういえば、あれほど二人目を産むのは遠慮したいと仰っていたアンジット様なのですが、なんと先月二人目を妊娠したかもしれないと仰っておりました。

 やはり、子供は授かり物でございますわね。

 夕食の時間になりまして、わたくしは食堂に向かいます。

 すでにわたくし以外の四人が揃っておりましたので、わたくしが席に着きますと、夕食が運び込まれてまいります。

 夕食を頂きながら、お父様とお母様が引退して領地に行ってしまった場合の事について話し合いが行われ、女主人としての仕事に関しては、メイド長に新しく就任しました者と連携して行っていく事が決まりました。

 丁度先代のメイド長が辞めたばかりなのですよね。

 リリアーヌをメイド長にするという案もあったのですが、乳母をしておりますので、別のものがメイド長に就任いたしました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る