027 産後のあれこれ

 子供を産んでから一ヶ月、わたくしは体力もすっかり戻りまして、健康に過ごす日々を送っております。

 たまに胸が張りますので、子供に授乳することもあるのですが、子供達は基本的には乳母に授乳して頂いております。

 まあ、たまに子供が傍に居なくても胸が張る時がございまして、そんな時は専用の容器にお乳を搾りまして、子供達の所に届けていただいているのですが、その、夜に胸が張りますと、トロレイヴ様とハレック様が絞るのを手伝ってくださると言うか、美味しいと言ってくださると言うか……、まあ、そういう事をなさるわけです。

 まだ性行為は再開しておりませんが、典医はそろそろ再開しても構わないと仰ってくださっております。

 妊婦・経婦仲間に聞きますと、やはり旦那様がお乳を飲むという行為をなさる方が多いらしく、思わず貴族は全員変態ですか!? と叫んでみたくなってしまいましたわ。

 お爺様とお婆様はまだ王都にいらっしゃいまして、お爺様は王宮に頻繁に通っておりますし、お婆様は相変わらずわたくしの代わりにお茶会の手はずなどと整えてくださいます。

 せっかくお爺様がいらっしゃいますので、わたくしはお爺様に領地経営やそのほかの事を習いながら、毎日のように子供の様子を見に行っている日々が続いております。

 トロレイヴ様とハレック様の写真ももちろん撮りますが、最近では子供達を撮るのに写真機は活躍しております。

 赤のカラーインクの開発には成功したらしいので、残りの青と緑のインクの開発ももうすぐかもしれませんわね。

 二人の子供、長男の名前がジェレール=カエルム=エヴリアル、長女の名前がシャメル=ウェヌス=エヴリアルとなっております。

 子供達の目が開いて、どちらがトロレイヴ様、ハレック様の血を引いているかわかるようになりました。

 ジェレールは目の色が炎を照らしだしたような金色の目ですのでトロレイヴ様の遺伝子を受け継いでおりまして、シャメルは炎を照らしだしたような銀色の目をしておりますのでハレック様の遺伝子を受け継いでおりますわね。

 髪の毛の色はどちらとも黒系統で、わたくしの遺伝子はどこに行ってしまったのでしょうか?

 わたくしは先週ぐらいから激しい運動こそしておりませんが、ストレッチを重点的に行って、お腹のたるんだ肉を引き締めることをしております。

 と言っても、本当に簡単なストレッチや、庭を歩いたりするだけなのですけれどもね。

 コレットに日傘をさしてもらいながらの散歩になりますので、本当にゆっくりとしたものなのですよ?

 けれども、妊娠中もストレッチはしておりましたが、産後は控えておりましたので、約四週間ぶりにストレッチを致しましたら、体中がパキパキなりまして、運動不足を実感いたしましたわ。

 そして、本日は出産後二回目の妊婦・経婦仲間を集めてのお茶会になります。

 同じ世代の子供を産む(産んだ)高位貴族の正室・側室(側妃)を集めて行うものなのですが、色々と勉強になることが多いのですわ。

 手配の方は、お婆様がしてくださっておりますので、わたくしは参加するだけと言う感じでございます。

 大分お腹の大きくなった国王陛下の側妃様も参加なさっておいでですし、ウォレイブ様の側妃様もいらっしゃっております。

 国王陛下の側妃様は女の子であれば、是非ジェレールの嫁にしたいと仰っておいでですが、ブライシー王国の事もございますし、どうなるかはわかりませんわね。

 気軽に側妃様が王宮を出てもいいのかと言う意見もございますが、出かける先がわたくしの屋敷という事もあって、特別に許可が下りている状態でございます。

 万が一のことが無いように警備の者が沢山ついて来ておりまして、物々しい雰囲気で毎回参加なさいますのよね。

 まあ、男児でしたら第三王子になるわけですし、物々しい警備にもなるのでしょうけれども、わたくしは知っておりますわ、側妃様が妊娠なさっているのが女児だという事を。

 側妃様は正妃様や他の側妃様が子供を産む中、中々子が出来ずに悩んでいたのだそうですけれども、やっと子が授かり、今までしていた濃い目の派手な化粧をお止めになって、薄化粧で日々を過ごされているようでございます。

 そちらの方が生来の愛らしさが感じられてよろしいのではないかと申しましたら、国王陛下も同じ事を仰っていたと言われてしまいました。

 側妃様、童顔なことを気になさっておいででしたのね。

 童顔のせいで国王陛下の足が遠のいでしまっているのでは、と一時期悩み、厚化粧に至ってしまったのだと仰っておりましたが、子供を授かった今はその厚化粧も意味がないのでもうしないとのことですわ。

 後宮も、国王陛下の寵愛を受けるためにやはり色々ございますのね。

 今は王妃様がうまくまとめておりますので、暗殺のような物騒な事こそ起きては居りませんが、側妃同士での言い争いはたまに起きていると仰っておりました。

 やはり王宮は後宮を含めて伏魔殿ですわ。

 お爺様は王宮に足繁く通っていらっしゃいますが、何をなさっているのでしょうか?

 以前聞いたところによりますと、アドバイザーのような物をなさっているとの事でしたが、いったいどのようなものなのでしょうね。


「グリニャック様はご自身でお乳を与えることがございますのね。わたくしなんて全く胸が張らず母乳が出ませんのよ」

「私も少ししか出ませんので、ほぼ乳母に任せきりになっております」

「わたくしは、逆に、よくお乳が出ますので、乳母に変わって、授乳することが多い、ですわ」


 アンジット様、カトリエル様、ロリゼット様がそれぞれ仰います。

 結婚した時期がほぼ同じでございますので、三人ともわたくしよりも少し先に出産をなさっておいでですのよ。


「わたくしも、それほど頻繁に胸が張って出ると言うわけではございませんが、それでも子供の泣き声を聞いたりすると、胸が張ることがございますので、授乳することはございますわね」

「我が子に乳を与えると言う感覚、一度は味わってみたいものですわね」

「アンジット様、胸のマッサージをすると出が良くなると聞いたことがございますわよ?」

「もちろんやっているのですが、わたくしのお母様も母乳がほとんど出ない体質だったようですので、わたくしもそうなのかもしれませんわね」


 そういう物なのでしょうか? お母様は母乳が良く出たので、わたくしとプリエマによく授乳していたと仰っておりましたわよね。

 母乳の出方はやはり人それぞれのようです。


「それにしても、わたくしの旦那様はもう一人は子供が欲しいと言っているのですが、あのような痛みに耐えるのはもうこりごりですわね。子供が欲しいのでしたら側室をお持ちになって下さいと申し上げましたわ」

「そう、ですか? わたくしは、まだ、子供が欲しい、ですわ」

「ロリゼット様、あの痛みにまた耐えられるのですか。私も出来ればもう経験したくはありませんね」

「カトリエル様もそう思われるのですね。わたくしは、トロレイヴ様とハレック様がお望みであれば、また子を産んでも良いと思いますし、子は授かり物でございましょう? いつ産まれるかはわかりませんもの」

「まあ、グリニャック様の場合、お婿を迎えていらっしゃいますし、そう思われるのかもしれませんわね」

「陣痛と言うのはそんなにひどいものなのですか? なんだか今から不安になってきてしまいましたわ」

「側妃様、大丈夫ですわよ。女の体は意外と丈夫に出来ておりますもの」

「そうですわね、わたくし達も乗り越えられたのですし、側妃様もきっと乗り越えられますわ」

「そうでしょうか? けれども、国王陛下の伴侶でわたくしだけ子が居りませんので、このお腹に宿った子供は何が何でも産まなくては、わたくしの実家の立場が弱くなってしまいますものね、頑張らなくてはいけませんわ」


 後宮、重いですわね……。

 日常的に正妃・側妃様方の権力争いが勃発しているのでしょうか?

 第一王子、第一王女こそ正妃様が産んでおりますので、正妃様の地位は安泰として、側妃様方は熾烈な権力争いをしているのかもしれませんわね。

 前国王なんて、王妃様が元第三王子のウォレイブ様しかお産みになりませんでしたから、前王妃様が上手く後宮をコントロール出来ていなかったと、お母様から聞いたことがありますわ。

 やはり、第一王子を産んだ方が、後宮で最も権力を握る物なのでしょうか? 今代は王妃様が第一王子をお産みになっていらっしゃってよかったですわ。

 そんな話をしておりますと、お茶会がお開きになる時間になりましたので、わたくしはいらっしゃったお客様を玄関でお見送りしてから、ドレスを着替えるために私室に戻りました。

 そうそう、妊娠している間に、パズルの方は無事完成いたしまして、崩れないように水糊を上からかけまして、今は額縁に入れて寝室に飾っておりますのよ。


「コレット、今日は冷えますし、部屋着は厚手の生地の物にしようと思いますわ。鼠色のエンパイアスタイルのドレスがございましたでしょう? 胸の所に小さく薔薇の刺繍が施されている物ですわ、それにいたします」

「かしこまりました」


 衣裳部屋に入って、コレットがドレスを探し出している間、わたくしは大鏡でエンパイアスタイルのドレス姿の自分を見ます。

 妊娠している間にそれほど太ったというわけではありませんが、やはり、妊娠前と比べて幾分肉付きが良くなった感じがいたしますわね。

 ドレスのサイズもございますし、早めに元の体形に戻したいのですので、ストレッチや散歩を積極的にすることにいたしましょう。


「若奥様、こちらとこちら、どちらのドレスでございますか?」


 コレットが、鼠色で胸元に小さく薔薇の刺繍のあるエンパイアスタイルのドレスを二種類持って困った顔をしております。


「右のですわ。左の方はもう少し寒くなった時期に着る用ですわよ」

「かしこまりました」


 左側に持っていたドレスを仕舞うと、コレットは今私が来ているエンパイアドレスを脱がせてくれまして、すぐに指定したドレスに着替えさせてくれます。

 寒い時期や暑い時期の衣裳部屋での着替えは、ある意味試練ですわよね、なんと言っても密閉された室内での着替えとなっておりますので、冬は寒く、夏は暑いのですわ。

 まあ、暑いのはどうしようもございませんが、流石に衣裳部屋に暖炉を用意するわけにもいきませんし、寒い時も耐えるしかありませんわよね。

 着替えを終えて部屋に戻りますと、ドミニエルがホットミルクを差し出してくれましたので、それを一口飲みます。

 出産が終わり、食事の嗜好も以前のように戻りました。

 ホットミルクを飲み終わり、時間を確認いたしますと、トロレイヴ様とハレック様がお戻りになるまで少々時間がございますので、子供の様子を見に行くためにベビールームに向かいます。


「若奥様、ようこそおいで下さいました。お二人とも今は起きておりますよ」

「そうですか」


 わたくしはリリアーヌに促されて、ベビーベッドの中に揃って仰向けになっているジェレールとシャメルを見ます。

 うん、我が子ながらいつ見ても可愛らしいですわね。

 わたくしは写真機を構えると、二人の姿を写真に収めます。

 こういった時期はあっという間に過ぎてしまいますので、出来る限り記録に残しておきたくなってしまいますのよね。


「おや、グリニャック。来ていたのか」

「まあお爺様。本日は王宮にお出かけではございませんでしたか?」

「今しがた帰ってきたところだ」

「然様でございますか」


 お爺様はそう言いながらベビーベッドに近づいてきます。


「本当にこの頃の子供と言うのは成長が早いな」

「そうでございますわね」

「グリニャックよ、その写真機で撮った写真を、何枚か儂にくれないか? この歳では肖像画を描くのも難しいだろう?」

「ええ、かまいませんわよ。後でアルバムをお見せしますので、お好きなものをお持ちくださいませ」

「ありがたいな。もうすぐ儂等も領地に帰る予定だし、その写真があれば領地でもひ孫たちの姿をいつでも見ることが出来るな」

「流石に、この年齢の子供に肖像画を描いている間じっとしていろとは言えませんものね」


 お爺様は頷くと、ベビーベッドにいるジェレールとシャメルの手にご自分の指を握らせたりして遊んでいらっしゃいます。


「それにしても、グリニャックは物の覚えが早いな」

「と、言いますと?」

「気が付いていないのか? 最近儂がお前に伝授しているのは、公爵の公務と言うよりも、宰相の仕事内容だぞ」

「まあ……」


 何か変だとは思っておりましたが、まさか宰相の仕事を伝授されているとは思ってもみませんでしたわ。

 国王陛下に何か言われているのでしょうか?


「いや、それにしてもあのように小さかったデュドナ様も、今では立派な国王陛下におなりあそばしだ。子宝にも恵まれ、ご長男のバンジール第一王子は多少シスコンの傾向も見えるが、教育の方は順調に進んでいるという。いや、本当に素晴らしい事だ。……ああ。そういえば国王陛下は、グリニャックにもぜひ今まで以上に国政に関与して欲しいと願っておいでだ」

「ほほほ、わたくしなど、役者不足でございましょう」


 国王陛下、お爺様を巻き込んで何が何でもわたくしを宰相に仕立て上げるおつもりですわね!

 絶対になってなんかやりませんわよ!


「その為に、儂が王都に長く滞在して、グリニャックに伝授しているのではないか」

「まあ、わたくしの産んだ子供可愛さではございませんでしたの?」

「それもあるがな。今度領地に帰ったら、年齢の事もあるし、もう王都には来られないだろうからな」

「そんな寂しい事を仰って」

「いや、事実だろう。儂の父親もそうであった」

「ひいお爺様も……」

「ああ、グリニャックとプリエマが産まれるとなった時などは、大きな荷物を持ってこの屋敷に領地からやって来たのだぞ。覚えていないだろうがな」

「そうですわね。ひいお爺様の記憶はございませんわね」


 お葬式も、わたくしが三歳位の時に行われたと聞きますし、記憶に残っていないのですよね。


「まあ、そんなわけだから。グリニャックに伝授できることはしていきたいと思っておるのだ」

「然様でございましたか」


 その後もお爺様はジェレールとシャメルと遊んだ後、わたくしを連れてベビールームを出て行きました。

 わたくしはお爺様に連れられて、お父様の執務室に参ります。

 扉をノックして、わたくし達が来たことを告げると、中からお父様付きの侍従が扉を開けてくださいました。


「父上、グリニャック。何か急な用事ですかな?」

「いや、そろそろ儂も領地に帰るつもりなのでな、その前にアロイーブの仕事ぶりを確認しながら、グリニャックに手ほどきをしようと思っての」

「然様ですか、何やら怖いですな」

「なに、お前はいつも通りに仕事をしておればよい。儂がそれについてグリニャックに説明をしよう」


 その後、わたくしはお爺様の手ほどきを受けながら、お父様のお仕事のお手伝いをいたしました。


「そう言えばグリニャック」

「はい、何でございましょうか、お父様」

「三日後に王妃様が主催なさるお茶会に参加するのであったな」

「ええ、お母様と一緒に参加する予定でございますわ」

「くれぐれも粗相のないようにな」

「わかっておりますわ」


 お父様ってば、心配性ですわね。

 そんな会話を時折挟みつつ、トロレイヴ様とハレック様がお帰りになる時間まで、わたくしはお父様の執務室で過ごしました。



 三日後、わたくしはお母様と一緒に王妃様のお茶会に参加致します。

 外でお茶会をするには少々寒い時期になっておりますので、本日は王宮にある温室の中の一つで行われることになりました。

 高位貴族の貴婦人ばかりが集められておりまして、中にはアンジット様やカトリエル様、ロリゼット様もご参加なさっていらっしゃるようです。

 それと、今回国王陛下の側妃の方々もご参加なさっているようですし、プリエマや他のウォレイブの側妃様方、テオドニ様の正妃様や側妃様方も参加なさっておいでです。

 王妃様に挨拶を終えますと、わたくしとお母様は用意されたテーブル席の中でも上座の席に座ります。

 しばらくして全員が揃ったのか、王妃様がお茶会開催の挨拶をなさいました。


「皆様、本日はよくお越しくださいました。本日は、側妃達も参加しての少々大規模なお茶会になりましたが、そのような事は気にせず、どうぞ楽しんでいってくださいませ」


 拍手が沸き起こり、各々、テーブルに用意されたケーキスタンドから菓子を皿に盛って貰ったり、紅茶を淹れて貰ったりして楽しみ始めます。

 参加なさっている側妃様の中には、妊娠なさっている側妃様もいらっしゃいますが、これはあれですわね、意地で参加なさっているのでしょうね。

 参加しなければ王妃様に思うところがあるなどと、勝手な噂を流されかねませんものね。

 わたくしはお茶友達とお話をするために席を移動したりして、楽しく時間を過ごしておりましたら、お母様の座っている席に、側妃様と王妃様がお座りになったのが見えました。

 会場も広いので、何を話しているのかまでは聞こえませんけれども、楽し気に話していらっしゃるようです。


「はあ、こんなことをしている時間があったら、ウォレイブ様との間に子供を作りたいのですけれども」

「プリエマ、王妃様主催のお茶会に参加しておきながらそう言うのはどうかと思いますわよ」

「だってお姉様、私夢で見たんです、たまのようにかわいい男の子を産む夢を」

「そうなのですか」

「早く正夢にしなくっちゃ」


 プリエマ、子供が出来ないことに相当悩んでいるみたいですわね。

 けれどもわたくしには何も出来ませんし、困ったものですわね。

 お茶会の途中、王妃様の提案で、騎士を夫に持つ貴婦人が特別に騎士団の訓練風景を見学できるようになりました。

 写真機を肌身離さず持つ癖があってよかったですわ!

 王妃様の案内で、わたくしは他の貴婦人方と一緒に、騎士の訓練場に向かいました。

 到着いたしますと、わたくしは早速トロレイヴ様とハレック様を発見致します。

 騎士服に身を包んで、剣を交えているお姿はまさに至福と言っても過言ではございません。

 訓練の邪魔をしないようにと、少し距離はありますが、わたくしは当然の如く写真機でトロレイヴ様とハレック様の訓練風景を写真に収めていきます。

 ふう、騎士服のお二人は毎朝毎晩見ておりますが、こうして訓練なさっている姿は格別に素晴らしゅうございますわね。

 ふと、視線に気が付いたのか、トロレイヴ様とハレック様がこちらを見ましたので、わたくしは写真機のシャッターを押しながら、軽く手を振りますと、手を振り返してくださいました。

 そうしますと、恐らく先輩騎士の方なのでしょう、その方に小突かれているというか、雰囲気的にからかわれていらっしゃるようです。

 他の騎士を夫に持つ貴婦人も思い思いに夫の訓練風景を堪能致しまして、また王妃様の案内で温室に戻りました。


「グリニャック、トロレイヴ様とハレック様の様子はどうでした?」

「素晴らしかったですわ」

「そう? 他の方々に迷惑をかけてはいませんか?」

「大丈夫ですわよ、お母様」


 ちょっといつもより多く写真を撮ってしまったぐらいですわ。

 その後もお茶会が続き、最近流行している物の話や、我が家で開発した商品の宣伝などをして楽しく過ごすことが出来ました。


「そういえば、ブライシー王国から、友好の証として、婚約の打診がございましたのよ。もちろん、この国の王女の誰かを、という話なので、まだ誰にするか未定なのですけれどもね。側妃の中には妊娠して間もなく出産する者もおりますし、その子が産まれてから、正式に考えると国王陛下は言っていらっしゃいました」

「まあ、そうなのですか」


 早っ! エドワルド様、行動が早すぎませんか!?


「もちろん、相手方の王子もまだ幼くていらっしゃいますので、この話はあくまでも打診止まりなのですが」


 うーん、側妃様がお産みになるのが姫君なので、国王陛下には四人の姫君がおりますわね。

 ……王子もお二人いらっしゃいますし、すっかり子沢山ですわねえ。

 第一王子に万が一の事がございましても、第二王子もいらっしゃいますし、四人も姫君がいれば、政略結婚を考えていても困ることはないでしょうね。

 現在女大公になっていらっしゃる国王陛下の妹君お二人も、三年以内には降嫁なさる予定になっておりますし、物事はすべからく順調と言った感じなのでしょうか?


「もうすぐ前エヴリアル公爵も領地にお戻りになるとかで、国王陛下も寂しく感じていらっしゃるようです」

「そう言っていただけますと、お爺様も喜びますわ」

「本当に、前エヴリアル公爵は素晴らしい実力をお持ちですのね。国王陛下が考えている政策の穴をまるでグリニャック様のように、的確についてくれると仰っておりましたわ」

「わたくしのように、ですか? お爺様はともかく、わたくしは大したことを進言した覚えはないのですけれども」

「まあ、ご謙遜を」


 王妃様はコロコロと笑います。

 いえ、謙遜ではなく本気なのですけれどもね。

 まったく、わたくしを宰相にしたいとか、国王陛下は何を考えているのでしょうか? 歴史を紐解きましても、女宰相が台頭したことはございませんのに。

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