025 双子出産
九月に入ってしばらくして、わたくしは予定よりも遅くに破水を致しまして、陣痛を迎えることになりました。
出産予定日を過ぎてもなかなか破水や陣痛が起きなかったので、周囲の方々が毎日心配そうになさっていたのが印象的でしたわ。
なによりも、神様に夢の中で呼び出されまして、子供は順調に育っているから、慌てることはないと言ってきた事が笑えましたわね。
そんなに心配するほど予定日から遅れたわけではございませんのに。
とにかく、わたくしは今絶賛陣痛中でございまして、いつもの私室ではなく、メイドも使用する、分娩室にあるベッドの上に仰向けになって、定期的に襲い掛かって来る痛みに耐えている所でございます。
妊娠をしたことを公表してからというもの、わたくしの元には様々な方から子供用品だと言って、色々なものが贈られてまいりまして、その度にお礼状を書くのが大変でございました。
皆様気が早いですわよね。
それに、出産予定日の二か月前から、お爺様とお婆様が領地から屋敷にお戻りになりまして、ひ孫の誕生を今か今かと待っている状態でございますのよ。
お父様が、わたくしにあまりプレッシャーを与えないようにと仰いましたので、お爺様は王宮に行って、国王陛下と謁見をしたりして時間をつぶし、お婆様はわたくしの代わりにお茶会の手配などをしてくださいました。
トロレイヴ様とハレック様は出来れば出産に立ち会いたいと仰っていたのですが、予定日から遅れてしまいましたし、いつ産まれるかわかりませんでしたので、今日も朝から仕事に向かわれました。
破水をしたのは、トロレイヴ様とハレック様をお見送りして一時間ほど経った頃ですわね。
産婆曰く、子供が産まれるのは、お二人が帰宅するぐらいの時間になるだろうという事ですので、上手くいけば出産に立ち会えるのではないでしょうか?
それにしても、この陣痛と言うのは、中々にきついものがございますわね。
痛みに力みたいのですが、それも禁止されておりますので、浅い呼吸を繰り返して、痛みをやり過ごすしかありません。
なんでしたかしら、ラマーズ法でしたかしら? それを思い出してからはその呼吸をしておりますが、痛いものは痛いのですわ。
痛みの感覚が十分おきぐらいになったら出産の準備を始めるという事なので、まだ時間はかかりそうですわ。
妊娠を発表してからというもの、わたくしは夜会にこそ招待されなくなりましたが、そのかわりお茶会には頻繁に呼ばれるようになりました。
所謂、妊婦・経婦仲間とのお茶会は色々な情報交換が出来たので有意義な物でございましたし、楽しかったのですが、トロレイヴ様とハレック様があまり頻繁に外に出ることを良く思わなかったので、途中から我が家でお茶会を行うように致しました。
まあ、馬車が大分改良されて安定期に入っているとはいえ、確かに移動中や出先で何があるかわかりませんので、トロレイヴ様とハレック様のお気持ちもわからなくはないのですが、心配しすぎのような気も致しますわね。
「くぅっ」
「グリニャック様、力んではいけませんよ」
「わかって、おりますわ。ふぅ、ふぅ……」
産婆が注意してきますので、浅い呼吸を繰り返して痛みに耐えます。
そういえば、前世では双子は基本的帝王切開だと何かで読んだことがありますが、この国では帝王切開の技術はございませんので、自然分娩になります。
お母様は難産だったと言っていましたが、わたくしとプリエマを無事に出産いたしましたし、問題はないでしょう。
難産になるかはわかりませんけれども、神様曰く、逆子であったり、へその緒が絡まったりしているわけではないので、そこの所は安心してよいとの事です。
陣痛がいったん収まり、わたくしはパンパンに膨れたお腹をさすります。
わたくしもがんばりますので、ちゃんと産まれてくるのですよ。
そういえば、ティスタン様が開発してくださった骨盤ベルトは、腹帯と併用することで、大分腰への負担を軽減することが出来ましたので、こちらも新事業として量産化を進めようと考えております。
妊婦仲間に聞きますと、やはり腰痛が悩みのようでして、骨盤ベルトのことを話しましたら、ぜひ使ってみたいと言われましたもの。
そういえば、妊婦仲間には、国王陛下の側妃様もいらっしゃるのですが、わたくしの方が出産日が早いとはいえ、同世代の子が生まれることになりますわね。
側妃様本人は女の子が欲しいと仰っておりましたわ。
下手に王子を産んで、継承権争いに巻き込まれては可哀そうだからだそうです。
姫君を産んでも、結婚の自由などは難しいのではないかと思うのですけれども、そこの所が王族の難しい所ですわよね。
「グリニャック、様子はどうですか?」
「お母様、お婆様。陣痛の間隔がまだ長いので、産む準備に取り掛かるにはもう少し時間がかかるとのことですわ」
「そうですか、出産は体力勝負です、何か食べられるようでしたら、食べておいた方がよいですよ」
「コーンポタージュでも持ってこさせましょうか?」
「お二人ともありがとうございます。そうですわね、スープぐらいでしたら頂けそうですわ」
典医と産婆曰く、双子を宿しているにもかかわらず、わたくしがあまり太らないので、もしかしたら子供は未熟児で生まれてくるかもしれないと言われましたが、神様には健やかに育っていると言われましたので、未熟児ということはないでしょう。
まあ、体重を計りましても、順調に体重は増えていたのですが、この国の妊婦は必要以上に食事を取るので、わたくしの体重の増え方では物足りないと感じてしまったのかもしれませんわね。
わたくしはコレットが早速持ってきてくれたコーンポタージュを飲みながらそんな事を考えます。
と、言いますか、何か考えていませんと、ただ陣痛の痛みを待っている、耐えているだけになってしまいますので、思わず余計なことを色々考えてしまうのですよね。
はあ、それにしても陣痛が起きると腰がメリメリと痛みますわね、これが陣痛ですか。
これに耐えて出産をした全ての母親という存在を尊敬いたしますわ。
二、三日前から少しお腹が張ったり、痛んだりしていましたが、これほどの痛みは感じませんでしたわね。
わたくしはスープを飲むためにベッドから起き上がっていたので、そのままベッドをおりますと、軽い運動を兼ねて分娩室の中をうろつき始めました。
「グリニャック、落ち着かないのですか?」
「いえ、こうしていると気が紛れますので」
「あまり激しく動いてはいけませんよ」
「わかっておりますわ」
お腹が重くて、激しく動こうにも動けませんのでご安心くださいませ、お母様、お婆様。
陣痛が始まってからお父様とお爺様の姿を見ませんが、夫でもないのに女性の出産に男性が立ち会うなどもってのほかと、お母様とお婆様に追い出されているのだそうで、今はお父様の執務室でやきもきしていらっしゃるのだそうですわ。
一応、陣痛が始まったことはトロレイヴ様とハレック様に急使を出してお知らせしておりますが、産まれるのにはまだまだ時間がかかりそうなので、いつも通り真面目にお仕事と訓練に取り組んでいただくようお願いいたしました。
「はふっ」
また陣痛がやって来ました。
産婆が腰をさすってくれますと、少し痛みが和らぐ気がいたしますわね。
そんな感じで数時間過ごしておりますと、トロレイヴ様とハレック様がご帰宅なさいました。
お二人は騎士服のまま分娩室に来ようとなさったそうなのですが、お母様とお婆様に清潔な衣服に着替えてから分娩室に入るよう叱られて、清潔な室内着に着替えてから分娩室にやっていらっしゃいました。
「ニア、大丈夫かい?」
「ええ、大丈夫ですわよ、ラヴィ」
「だが陣痛と言うのは痛みがすごいと子供がいる先輩に聞いた。ニアのこの細い体でそれに耐えられるものなのか?」
「女というのは案外丈夫に出来ておりますのよ、レク」
心配してくださるのはありがたいのですが、心配のされすぎもどうかと思いますのよね。
出産前からこのような状態では、いざ出産が始まったら、わたくしよりも先にトロレイヴ様とハレック様の方が参ってしまうのではないでしょうか?
「ラヴィ、レク。出産までまだ時間がかかりそうですし、夕食を先に召し上がっていらして?」
「そんな、ニアがこんな状態なのに、食事なんて!」
「そうだぞ、ニアこそ何か食べたほうが良いんじゃないか?」
「わたくしは時折スープやカナッペなどの軽食を頂いておりますので大丈夫ですわ。そんなに心配なさっていたのでは、いざ出産した際に、産まれてくる子供に疲弊した顔を見せることになってしまいますわよ?」
わたくしがそう言いますと、トロレイヴ様とハレック様は顔を見合わせてから、渋々といった感じに分娩室を出て行きました。
初めての子供ですし、わたくしもそうですが、トロレイヴ様とハレック様も勝手がわかりませんものね。
「若奥様、スープのお代わりは如何ですか?」
「いえ、結構ですわ」
「かしこまりました」
ドミニエルがそう言ってスープの入った器を持って分娩室を出ていきます。
夫以外の男性が出産に立ち会うのはどうだとかお母様とお婆様は言っていらっしゃいましたが、長年仕えてくれているドミニエルは例外のようでございます。
「はぁ、はぁ……」
陣痛の間隔がだんだん近くなってきましたので、産婆が間隔の時間を計っているようでございます。
「そろそろよろしいでしょう。グリニャック様、ベッドの上に仰向けになって寝てください」
「わかりましたわ」
大体十分間に一回ぐらいの間隔で陣痛が来るようになったので、いよいよ出産の準備が始まります。
ベッドに仰向けになり、陣痛の痛みに耐えながら、四時間ほど必死に呼吸をしておりますと、産婆が「力んでください」と言ってまいりましたので、必死にお腹に力を込めました。
「グリニャック様、頭が見えてきました、もう少しですよ」
「くぅっ!」
ラマーズ法って、いざとなると上手くいきませんのね、こんなことなら事前にもっと練習しておくべきでしたわ。
その後も産婆の声に合わせて力んだり、力を抜いたりすること一時間、一人目の子供が産まれました。
分娩室に元気な声が響き渡ります。
「男の子でございます、グリニャック様」
「そう、ですか」
「もう一人居りますからね。もうひと頑張りでございますよ」
「ええ」
と言っても、先ほどより痛みを感じませんので、少し落ち着いた気分になってしまっております。
今産まれた子は、すぐさまお湯で血を洗い流されて、おくるみに包まれました。
すぐさま顔を見せてくれましたが、くしゃくしゃの顔がぶちゃ可愛く感じてしまうのは、我が子だからでしょうか?
一人目が産まれてから五時間経ちましたが、二人目の子供がなかなか出て来ないようです。
陣痛も軽いものが来る程度で、先ほどのように腰がメリメリとするような痛みは感じませんし、どういたしましょうか?
なんて考えていますと、急にお腹が張ったような感じがいたしまして、陣痛が襲ってきました。
「くっは……」
「グリニャック様、力んでください」
「ぐぅっ」
「頭が見えてきましたよ、もう少しです、力んでください!」
「はっ!くっ」
二人目は頭が見えているのだそうですが、そこから中々出て来ないようで、産婆が力んだり力を抜いたりと大きな声で指示を出して来ます。
二人目は難産となりまして、頭が見えてから三時間ほど経ってやっと体全体がわたくしの体から出てきました。
一瞬、子供が泣かなかったので、産婆が逆さまにして子供の背中を叩きやっと大きな泣き声を出してくれました。
「グリニャック様、今度は女の子でございます」
「そう、ですか」
もう、返事をする力なんてほとんど残っておりませんわ。
二人目の子もすぐさまお湯で血を洗い流されて、おくるみで包まれます。
おくるみに包まれたまま、二人目の子もわたくしに見せてきます。
一人目と同じようにくしゃくしゃな顔で、ぶちゃ可愛いですわね。
子供達はすぐさま乳母となるドミニエルの奥さん、アリアナとリリアーヌの元に運ばれて行きました。
わたくしは後産というものをして、そのままぐったりとしていると、産婆がわたくしの体に付いた血をぬぐってくれてから、ドミニエルにお姫様抱っこをされて私室の寝室に運ばれました。
「若奥様、ご苦労様でした」
「ありがとう、ドミニエル。これからは、我が子ともどもよろしくお願いしますわね」
「もちろんでございます」
「若奥様、お子様のお誕生、おめでとうございます」
「ありがとう、コレット。貴女もこれからもよろしくお願いしますわね」
「はい」
寝室のベッドに慎重に寝かされると、すぐさまトロレイヴ様とハレック様が寝室に入ってきました。
「ニア、ご苦労様。僕達の子供を産んでくれてありがとう」
「ニア、大変だったな。無事に子供が産まれて嬉しいぞ、よくやってくれた」
「お二人が喜んでくれて何よりでございます」
結局、お二人は苦しんでいる私を見るのが辛いと言って、出産の立ち合いを途中でやめてお父様方と一緒に別室で待機なさっておりましたのよ。
「それにしても、結構安産だったね」
「そうなのですか?」
わたくし的には随分時間がかかったように感じましたけれども……。
「僕の母上は妹を産むとき、産気付いてから丸一日かかったて言ってたよ」
「まあ……、確かにそれと比べましたら安産ですわね」
「どちらにせよ、母子ともに健康で何よりじゃないか」
「確かに、子供やニアに何かあったら僕達も参っちゃうからね」
「そうだな」
本当に、母子ともに健康で良かったですわ。
「お父様やお母様方は、今は何をなさっておいでなのですか?」
「子供を見に行っているよ」
「そうですか」
初孫、初ひ孫という事もあり、お父様やお爺様がベタ可愛がりしそうな気がいたしますけれども、そこはお母様とお婆様がうまくコントロールしてくださいますでしょう。
「各所にニアが無事に出産し終えたことを知らせないとね。まずは王宮かな?」
「そうですわね」
それにしても、出産は体力勝負だとは聞きましたが、こんなにも時間がかかる物だとは思いませんでしたわね。
「ニア、何か食べる物を持ってこさせようか?」
「何か食べたいものはあるか?」
「スープ系をお願い致しますわ。あと、小さめのサンドイッチを数切れ頂きたいと思います」
「わかった。コレット、シェフにそう伝えてくれ」
「かしこまりました、お部屋様」
コレットがそう言って寝室を出ていくのを確認して、わたくしはトロレイヴ様とハレック様の手を借りて上半身を起こします。
「本当に、健やかな子供が産まれてよかったですわ。男女でございますので、これで我が家も安泰と言ったところでしょうか?」
「そうだな、男の双子だったら、継承権で揉めたかもしれないし、女の双子でもそれは同じだっただろうからな。男女の双子だ、長男をニアの次の後継者にすることで問題はないだろう」
「うん、でも娘は嫁に出しちゃうんだよね。なんだか今からそれを考えちゃって嫌だなあ」
「まあ、ラヴィってば」
「ラヴィ、そんな事を言って、子供をあまり甘やかしてわがままに育ててはいけないぞ。あくまでも公爵家の娘なのだから、厳しくするところは厳しく育てなければ」
「レクの言う通りですわね」
「まあね。淑女教育に関しては、ニアも担当するんだろう?」
「ええ、お母様がそうでございましたので、恐らくわたくしもそうなるかと思いますわ」
「帝王学についてもニアが担当することになるだろうな。私達では教えられない」
「そうですわねえ」
そんなことを話していると、お父様達が寝室に入っていらっしゃいました。
後ろにはスープの入った器と、小さなサンドイッチが盛られたお皿を乗せたカートを押しているコレットの姿が見えます。
「グリニャック、よくやった」
「今、産まれた子供を見てきましたが、健やかな子供でしたわ」
「ありがとうございます、お爺様、お婆様」
「本当によくやってくれた。これで儂も安心してグリニャックに家を任せられるというものだ」
「出産は大変でしたでしょう? 今はとにかく体力を取り戻すことに集中なさいませね」
「お父様、気が早いですわ。お母様、そのようにいたしますわ」
わたくしは妊娠中に母乳が出るという事はございませんでしたので、ちゃんと母乳が出るようにしっかりと栄養を取らなくてはいけませんわね。
コレットが寝室にカートを入れ、わたくしの前に大きな銀製のトレイを置き、その上にスープの入ったカップと、サンドイッチが盛られたお皿を置いて行きます。
わたくしは皆様の前ではありますが、早速スープに口を付けました。
優しい味付けのミネストローネですわね。
具沢山でこれだけでも栄養バランスを考えられているのだという事が分かりますわ。
サンドイッチも二口程度で食べられる大きさにカットされて居まして、具は卵やハムが入っている物になっておりました。
皆様、わたくしが食事をしているのを見守っていてくださいますが、食べにくいのでそんなに凝視なさらないで下さるとうれしいのですけれども……。
「皆様、わたくしがただ食事をしているのを見ても退屈でございましょう?」
「そのような事はございませんが、確かに食べている姿を凝視されていては食べにくいかもしれませんわね。わたくし共は関係各所へ急使を出す仕事に戻ることにいたしますわ」
「よろしくお願いいたします、お母様」
「では、また後で来るぞ」
「はい、お父様」
「疲れているでしょうから、よく食べてよく眠るのですよ」
「わかりましたわ、お婆様」
「グリニャック、儂等はもうしばらく王都に滞在している故、何かあったらいつでも言うのだぞ」
「ありがとうございます、お爺様」
お父様方はそう言って寝室を出ていかれました。
寝室の扉は開けられたままになっておりますが、部屋の中にいるのはトロレイヴ様、ハレック様、コレット、ドミニエル、わたくしの五人になりました。
「若奥様、写真機をお貸しいただけるのでしたら、お子様の写真を撮ってまいりますよ」
「そうですか? ではお願いいたします。写真機はドレッサーの上に置いてありますわ」
「かしこまりました。……では、行ってまいります」
ドミニエルがそう言って写真機を持って寝室から出て行きました。
わたくしがスープを飲み終わると、コレットがおかわりはいるかと聞いてきましたので、遠慮なくお代わりを所望いたしました。
「うん、本当にニアが元気そうでよかったよ」
「そうだな。これだけ食べられれば一安心だ」
スープのおかわりを飲みながら、トロレイヴ様とハレック様の言葉を聞いていますが、まるでわたくしが食いしん坊のように聞こえてきますわね。
「はふ……」
「ニア、眠くなっちゃった?」
「そうなのか? だったら眠ったほうが良い」
「そうですわねえ」
お腹がいっぱいになりましたら、つい眠気が襲ってきましたわ。
わたくしは、トロレイヴ様とハレック様の手を借りてベッドに横になると、そのまま布団をかけられて目を閉じました。
すると、あっという間に夢の世界に旅立ってしまいました。
『グリニャックよ、目覚めるがよい』
「まあ、神様。ご機嫌よう」
『此度は健やかな子を産み、誠にめでたい』
「ありがとうございます」
『出産も遅かったし、時間もかかっておったので、少々心配したぞ』
「そうでございますか。ご心配ありがとうございました」
『子供の名前は如何にするつもりだ?』
「名前に関しましてはこれから考えますわ。と言っても、お父様やお爺様がすでにいくつか案を考えていらっしゃるようですけれども」
『そうか。……そういえば、ブライシー王国の事は聞いたか?』
「いえ、なにかございましたの?」
『エドワルドがクーデターを起こし、王座を奪い取ったようだ』
「まあ!」
エドワルド様、行動が早いですわね。
いえ、この国にいらしていた時から準備はなさっていたようですし、満を持してと言った感じなのでしょうか?
『エドワルドには既に正妃との間に王子もいるし、民衆の支持も元国王よりもエドワルドに集まっていたようでな、あとは元国王の腰ぎんちゃくや元第一王子を担ぎ上げていた家臣の排除だけだったらしいので、クーデターもスムーズに済んだようだぞ』
「然様でございますか。それはようございました」
『それでだ、エドワルドがこの国との友好の証として、自分の息子、現在の第一王子にこの国の王女を娶らせたいと考えているようだ』
「まあ! では現在側妃様が妊娠なさっているお子様が女の子でしたら、有力候補になりますわね」
『ああ、女児を妊娠しているのでそうなるだろうな』
産まれた時から婚約者が決まるとか、王族らしいと言えば王族らしいですわね。
『まあ、誰が王妃になるかは、流石の私もそこまでの未来視が出来るわけではないのでな。今は何とも言えないな』
未来視、出来るのですか。
『ともあれ、此度は本当に良く健やかな子を産んでくれた』
「ええ、がんばりましたわ」
わたくしがそう言うと、視界が霞がかっていきます。
『グリニャック、今後も幸せに暮らすのだぞ』
「はい、努力いたしますわ」
そう言ったところで、意識がホワイトアウトいたしました。
目覚めると、寝室のベッドの上で、朝日が差し込んできております。
随分寝てしまっていたようですわね。
「ん~」
久しぶりに、グイッと体を思いっきり伸ばします。
腰骨がポキポキなりますわね、ストレッチはしておりましたが、やはり運動不足のようですわ。
わたくしは乱れた髪を手櫛で簡単に整えると、ベッドから起き上がり、サイドテーブルの上に置いてあるベルを鳴らします。
そうしますと、すぐに寝室の扉がノックされました。
「お目覚めでございますか? 若奥様」
「ええ、起きましたわ」
「失礼いたします」
コレットが食事の乗ったカートを押しながら寝室に入ってきました。
「わたくしはどれぐらい眠っていたのかしら?」
「半日以上お眠りになっておりました。若旦那様とお部屋様はお仕事に既にお出かけになっております」
「そうですか」
「朝食代わりに軽食を準備しておりますので、召し上がれるようでしたら召し上がってください」
「ありがとう、頂くわ」
コレットが再び銀製のトレイをわたくしの前に置くと、そこに軽食を並べていきます。
「子供達は元気にしているかしら?」
「はい、乳母の母乳をきちんと飲んで、よく眠っているようでございます」
「そう、ならよかったですわ」
そう言って、わたくしは軽食に手を付けました。
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