017 誕生日パーティーと儀式
【グリニャック視点】
誕生日当日、わたくしは屋敷でトロレイヴ様とハレック様が居らっしゃるのを待っております。
パーティーが王宮で行われますので、エスコートしていただくためですわ。
しばらく待っていると、お二人が到着したとドミニエルに言われ、わたくしは早速玄関に向かいました。
「ラヴィ、レク。今日はエスコートをよろしくお願いしますわね」
「誕生日おめでとう、ニア。そのドレスとっても似合っているよ」
「誕生日おめでとう、ニア。流石はアナトマ、いい仕事をしたな」
「体のラインがはっきりわかってしまって少々恥ずかしいのですが、ラヴィとレクはこのようなデザインがお好きなのですか?」
「んー、好きって言うか、ニアに似合いそうなデザインを考えたらそうなった感じだね」
「そうだな。それに、そのデザインだと、ダンスを踊ってターンをした際に、裾が綺麗に広がって美しいだろう?」
「それはそうですけれども……」
顔が少し赤くなってしまいましたが、わたくしは二人にエスコートされるまま馬車に乗り王宮に向かいました。
お父様とお母様は先に王宮に行っておりますわ。
「それにしても、ニアもやっと十八歳になるんだね」
「そうですわね。ラヴィとレクはそれぞれ十月、十一月生まれですので、とっくに成人しておりますものね。やっと追いつけた感じですわ」
「でも、まだ一応学園に通ってるから、夜会には出れないし、お酒を飲むことも禁じられてるけどね」
「まあ、それでも家では酒の練習だと言って飲まされてはいるがな」
「それは僕の家も同じだね。デビュタントの夜会で初めてお酒を飲んで醜態をさらさないようにだって」
「そうなのですか。わたくしもそうなりそうですわね」
「そうだね、ニアは特に女性なんだし、お酒に飲まれるわけにはいかないしね」
「まあ、私達もついているから、飲みすぎるという事もないだろうが、家で多少の訓練はしておいたほうが良いだろうな」
「そうですわね」
お父様もたまにご友人の家に御呼ばれして、お酒を飲みすぎて帰ってらして、お母様に怒られている事もございますものね。
お母様はお酒に強いとお父様が仰っていましたが、わたくしもお酒に強い方なのでしょうか?
そんな話をしていると王宮につきまして、使用人に会場になる広間に案内されます。
わたくしは正室になるトロレイヴ様の腕に自分の手を添えて歩き、ハレック様はそんなわたくしの斜め後ろにぴったりとくっついている感じですわね。
会場に入りますと、既に多くのお客様がいらっしゃっておりまして、プリエマが聖女だからか、神官長の姿も見えます。
プリエマは、まだ来ていませんわね。
わたくしはお父様を見つけると近くに行って、到着したことを知らせますと、この場で待機するように言われましたので、トロレイヴ様の腕から手を離してお父様の横に並びました。
そうしているとプリエマもウォレイブ様にエスコートされて会場に入って来まして、わたくしと同じようにお父様の横に並びました。
「皆様、本日はグリニャックとプリエマの為にお集まりいただきありがとうございます。グリニャックとプリエマも本日でようやく十八歳になりました。これも皆様のおかげでございます。まだ学園に通う身ではありますが、今後、立派な淑女として活躍できるよう、今後も皆様にどうかご助力いただければと思います」
お父様のスピーチに拍手が沸き起こります。
拍手が鳴りやむのを待っていると、お父様がわたくしの方を見てきましたので、拍手が収まったタイミングでわたくしはカーテシーをしてからまっすぐに立ちますと、軽く息を吸ってから言葉を発します。
「皆様、本日はわたくしとプリエマの誕生日パーティーにお集まりいただきありがとうございます。お父様が仰ったように、わたくし達も本日で十八歳となりました。今まで以上に、淑女としてだけではなく、わたくしは次期女公爵としてこれからも精進してまいりたいと思いますので、どうかよろしくお願いいたします」
わたくしがそう言いますと再び拍手が沸き起こります。
もう一度カーテシーを致しまして一歩下がりますと、今度はプリエマがカーテシーをしてから頭を上げました。
「皆様、先ほどお姉様が仰ったように、ようこそおいで下さいました。私も本日で十八歳になりました。今後も立派な淑女としてよく学んでいきたいと思いますので、ご協力のほどよろしくお願いいたします」
そういってプリエマがカーテシーを致しますと、再び拍手が送られました。
「それでは皆様、グリニャックとプリエマの誕生日パーティーをお楽しみください」
お父様の掛け声で、皆様がそれぞれ楽しみながら、わたくしとプリエマに挨拶をしにいらっしゃいます。
わたくし達はしばらくそのお相手をして時間が過ぎていきます。
その間、飲まず食わずですので、最後の方の挨拶になりますと、いい加減喉が渇いてきてしまいますけれども、招待なさった方で挨拶をしていない方もあと少しですし、頑張らなくてはいけませんわね。
その後、しばらく挨拶が続き、ようやく全ての方の挨拶を受け終わると、リリアーヌが果実水を渡してきてくれましたので、それを一口飲みます。
「お疲れ様、ニア」
「招待客が多いと大変だな」
「そうですわね。けれども、こう言った事にも慣れなければいけませんし、がんばりますわ」
わたくしは気合を入れ直すと、引きつりかけていた表情筋に再度力を入れて、笑みを作り直します。
「僕達も、ニアの伴侶になるんだし、こういった大規模の集まりには慣れておかないとね」
「そうだな」
トロレイヴ様とハレック様もリリアーヌから受け取った果実水を飲みながら仰います。
そうですわよね、招待するにしてもされるにしても、このような大規模なパーティーは今後もあるでしょうし、なれなくてはいけませんわね。
わたくしが一呼吸着くのを待っていたのか、丁度曲が変わったタイミングでトロレイヴ様が手を差し出して来ました。
「ニア、お手をどうぞ」
咄嗟にハレック様を見ますと、肩を竦めていらっしゃいます。
なるほど、ファーストダンスは正室と踊るという事なのですね。
わたくしはトロレイヴ様の手に自分の手を重ねると一緒にダンスフロアに躍り出ます。
一曲目のダンスをトロレイヴ様と踊りましたら、二曲目のダンスでは流れるようにハレック様に手を取られてダンスを踊りました。
プリエマは三曲連続でウォレイブ様と踊るようでございますので、まだダンスホールに居ますが、わたくしはとりあえずダンスを終わりにし、軽食の準備されている場所まで行きます。
「どれも美味しそうだね。ニア、何か食べたいものはある?」
「そうですわね、そちらのピッツァ風カナッペを頂けますか?」
「OK」
わたくしが言いますと、トロレイヴ様がお皿に言ったものを盛り付けてくださいます。
その間に、ハレック様が飲み物を取ってきて下さり、わたくしに渡してくださいました。
ダンスを踊って喉が渇いていたので丁度いいタイミングですわね。
グラスが空になったタイミングで、トロレイヴ様からピッツァ風カナッペが盛り付けられたお皿を渡されましたので、空になったグラスは近くを通った給仕係に渡します。
ピッツァ風カナッペを食べていますと、視界の端にこの場にいらっしゃるには少々くたびれたスーツ姿の方が入り込みました。
「あら、ティスタン様ですわ」
「え?」
「ほう?」
ティスタン様はキョロキョロと会場内を見渡して、わたくしを見つけたのでしょう、人垣を避けながらわたくしの方に近づいていらっしゃいます。
「グリニャック様。誕生日おめでとうございます。来るのが遅くなってすみません」
「かまいませんわよ。まさか来ていただけるとは思っておりませんでしたし、来ていただけただけで嬉しいですわ」
「実は、グリニャック様の誕生日までにカラーインクの開発を完成させようと思っていたのですが、生憎まだで、申し訳ありません」
「まあ、そうなのですか。カラーインクの開発はゆっくりでも構いませんわよ」
「そうですか?」
ティスタン様はそう言って首を傾げます。
「そうですわ、丁度いいのでご紹介しますわね。ティスタン様、こちらがわたくしの正室になる婚約者のトロレイヴ様、こちらが側室になる婚約者のハレック様ですわ。お二人とも、この方がわたくしお抱えの錬金術師のティスタン様です」
「初めまして、トロレイヴ様、ハレック様。グリニャック様に雇用されている錬金術師のティスタンと言います」
「初めまして、貴方には会ってみたいと思っていたんだよ」
「お初にお目にかかる。貴君の開発した痛み止めや軟膏にはいつもお世話になっている」
「あ! そうでした。グリニャック様、生憎カラーインクの開発は間に合いませんでしたが、依頼されていた軟膏の匂いについて改善してみましたのでお持ちしました」
「まあ、そうなのですか?」
「はい、こちらになります。大分匂いはましになったと思いますよ」
わたくしは軟膏の入った小瓶を受け取ると、蓋を開けて匂いを嗅ぎます。
確かに、湿布臭さは残っておりますが、以前に比べたら大分匂いが薄くなっておりますわね。
トロレイヴ様とハレック様も小瓶に鼻を近づけて匂いを嗅いでいらっしゃいます。
「本当だ、大分匂いがましになってるね」
「すごいな、あれだけ臭かったのがこんなにも改善されるんだな」
近い! トロレイヴ様とハレック様の顔が近いですわ! 色々な意味で!
「匂いの改善は大変でしたでしょうに、よくやってくださいましたわ。後で特別報酬を出させていただきますわね」
「ありがとうございます、グリニャック様。それじゃあ、私は開発の続きがしたいので、これで失礼します」
「たまにはゆっくりとパーティーを楽しまれてはいかがですか?」
「それよりも、開発をしていた方が楽しいので」
「そうですか? だったら無理にはお引止めいたしませんけれども……」
「では、失礼します」
そう言ってティスタン様はわたくし達から離れると、人垣を縫うように歩いて行き広間を出ていかれました。
「なんだか変わった人だね」
「ボドワール伯爵家の次男と聞いているが、とても貴族とは思えないな」
「ティスタン様は本当に錬金術の研究に熱心な方ですからね、仕方がありませんわ」
「うん、でも安心したかな」
「なにがですの?」
「いや、ニアにかまけている余裕などなさそうだからな。ニアに信頼されているのを勘違いするような愚か者でなくてよかったと思っているだけだ」
「まあ、ティスタン様はそのような方ではございませんわよ」
「そうみたいだね」
お二人とも、何を心配なさっているのでしょうか? わたくしはお二人以外目に入らないといいますのに。
その後、パーティーを楽しんでいますと、様々な方にダンスに誘われ、ほぼ休憩無しでダンスを踊りましたので、パーティーが終わったころにはかなり体力が無くなってきてしまいましたけれども、わたくしは本日の主役の一人ですので、これも試練だと思って最後までがんばりました。
プリエマも似た状況ですし、たまに目が合って、お互いに苦笑を浮かべ合いました。
パーティーが終わり、最後のお客様を見送りますと、ガランとした広間にはわたくしとお父様お母様、プリエマとウォレイブ様、そしてトロレイヴ様とハレック様だけになりました。
「はあ、疲れました」
「そうですわねえ、お客様が思ったよりも多かったですわ」
「ほとんど飲み食いできなくって、お腹が減っちゃいました」
プリエマはそう言って、軽食が残っているスペースに行くと、生ハムをお皿にとってフォークでぱくりと食べ始めました。
少々行儀が悪いですが、わたくしもお腹が空いているのですよね。
「プリエマ嬢、軽食は後でまとめさせて部屋に届けさせるから、そんなことしちゃだめだよ」
「はーい、ウォレイブ様」
プリエマはウォレイブ様に言われてお皿をテーブルに置くと、こちらまで戻ってきました。
「お祝いの品物も沢山いただきましたし、屋敷に帰ってからお礼状を書くのが大変そうですわ」
「腱鞘炎にならないといいんですけど……」
「本当に」
「あ、お姉様。遅くなりましたけどプレゼントありがとうございます。中身は何ですか?」
「髪飾りですわ」
「わっ偶然! 私もお姉様へのプレゼントに髪飾りを選んだんですよ」
「まあ、そうなのですか」
「それにしても、とにかく、今は一刻も早く部屋に戻って休みたいです」
「同感ですわ」
「では、儂等は屋敷に帰るとするか」
「そうですわね、お父様」
「じゃあお姉様、また学園でお会いしましょうね」
「ええ、また」
「お父様、お母様。今度ちゃんとお会いするのはお姉様の結婚式になると思いますけど、その時を楽しみにしていますね」
「ああ、プリエマも息災でな。お前の結婚式も楽しみにしているぞ」
「お姉様より少し遅れての結婚式ですね。あ、お姉様今更ですけど、お母様の着たウェディングドレス、私が貰ってもよかったんですか?」
「ええ、構いませんわよ」
「よかったぁ。昔からお母様とお父様の結婚式の絵画を見てあのドレスを着たいって憧れてたんですよね」
「そうでしたの」
「プリエマ嬢、そろそろ部屋に戻ろうか」
「はい、ウォレイブ様。じゃあ、お父様方、私達はこれで失礼しますね」
「ああ」
プリエマ達が広間を出ていくのを見送ってから、わたくし達も広間を出て屋敷に帰りました。
屋敷について馬車を下りますと、トロレイヴ様とハレック様は乗って来た馬車に乗り換える事になります。
「じゃあ、また明日ね、ニア」
「プレゼントのお礼状、がんばるんだぞ」
「ええ、ではまた明日。ラヴィ、レク」
屋敷の玄関でトロレイヴ様とハレック様をお見送りして、わたくしも屋敷の中に入り、私室に戻りますと、テーブルの上には軽食が用意されていました。
夕食までまだ時間がありますので助かりますわね。
そう思って手を伸ばそうとした時、
「グリニャックお嬢様、先にドレスのお着替えを」
「……わかりましたわ」
伸ばしかけていた手を引っ込めて、わたくしはリリアーヌと一緒に衣裳部屋に入り、ドレスを着替えました。
着替えが終わり、やっと軽食を食べていますと、使用人たちによって、本日頂いたプレゼントが部屋に運び込まれてきます。
中身と差し出し人を確認してお礼状を書かなくてはいけませんわね。
プレゼントは嬉しいのですが、そのお礼状を出すと言う作業が面倒ですわよねえ、まあ、これも貴族の務めですわ。
ドミニエルとリリアーヌがひと箱ずつ丁寧に開けていき、メッセージカードをわたくしに渡して来ますので、中身とメッセージカードの内容を確認しながら、お礼状をどんどん書いて行きます。
ずっとその作業に没頭しておりましたが、案の定夕食の時間になっても終わらず、一度手を休めて夕食を頂くために食堂に向かいました。
食堂にはお父様とお母様が既にいらっしゃいましたので、わたくしもすぐに席に着きます。
それを合図にどんどん食事が運ばれてきましたので、まずスープから口に付けていきます。
「グリニャック、プレゼントの開封は終わったか?」
「それが、お礼状を書くのに手間取ってしまっておりまして、半分ぐらいしか進んでおりませんの」
「そうか。まあ、今回は招待客も多かったからな、仕方がないだろう」
「けれどもグリニャック、今日中には終わらせるのですよ。お礼状を遅く出しては相手方に失礼ですからね」
「わかりましたわ、お母様」
そのまま、今日のパーティーの話をしながら夕食は終わり、わたくしは私室に戻ると、プレゼントの開封とお礼状を書くことに専念致しました。
終わった頃には、いつもでしたら寝ている時間になってしまい、湯あみを短時間で終わらせると、寝着に着替えて寝室に入りました。
本日はわたくしが主役の一人という事もあり、写真機を持ち込むことが出来ませんでしたので、トロレイヴ様とハレック様のお姿を写真に撮ることが出来なかったのが残念ですわ。
そう思いながら目をつぶると、沢山ダンスを踊って疲れていたせいか、すぐに夢の世界に旅立ちました。
翌朝、学園に行く前にドミニエルにプレゼントのお礼状を出してもらうよう頼んでから学園に向かいました。
学園に着きますと、いつものようにトロレイヴ様とハレック様がお出迎えしてくださいます。
「「おはよう、ニア」」
「おはようございます、ラヴィ、レク」
「昨日は大変だったね」
「あれも、女公爵になるための試練だと思えば苦になりませんわ。それよりも、頂いたプレゼントへのお礼状を書くほうが大変でしたわね。夜遅くまでかかってしまって」
「ああ、確かに量が多そうだな。でも、開封の際は注意しないと、何が入っているかわからないぞ」
「ええ、開封に関してはリリアーヌとドミニエルにしてもらいましたわ」
「ならいいんだけどな」
そうなのですよね、プレゼントに乗じて、何かを仕込んできている方がいらっしゃらないとも限りませんし、プレゼントの開封は慎重にしなくてはいけないのですよね。
本当に、大変でしたわ。
【プリエマ視点】
誕生日の翌日、学園から変えると、国王陛下に呼び出しを受けて、謁見室に行くと、神官長がいて、国王陛下にソファーに座るように言われたのでソファーに座ると、それを待っていたように神官長が口を開いた。
「本日は、聖女が十八歳になった際の祝いの儀式について説明しようと思ってまいりました」
「そんなものがあるのですか?」
「はい、まず聖女様には早朝の禊から始めていただくため前日の夜から教会本部に泊まっていただきます。そして、早朝の禊を終えられましたら、聖水をお飲みいただき、ローブに着替えていただいた後、礼拝堂で神への祈りを捧げていただきます。その祈りは三時間ぐらい続きますね。祈りが終わりましたら、本来ならこの国にある礼拝堂全てを巡礼していただきたいのですが、プリエマ様はまだ学園に通う身という事もございますので、王都にございます礼拝堂を巡礼していただこうと思います。巡礼が終わりましたら、教会本部に戻っていただきまして、再び禊をしていただき、再び神への祈りを三時間ほどしていただくことになっております。そして、最後に再度禊をしていただく手はずとなっております」
え、聖水を飲む以外の飲食禁止?
「えっと、巡礼中や祈りの前後などに食事は出来るのでしょうか?」
「申し訳ありませんが、聖水を飲んでいただくことは可能ですが、食事は我慢していただくこととなっております」
「そうですか……」
それって拷問って言わない?
王都だけで礼拝堂がいくつあるのかわかったものじゃないのに、それを全部回るとか、気が遠くなりそう。
しかも神様に合計約六時間も祈るとか、神官長は普段そんなことしてるのかしら?
「丸一日で終わりますか?」
「順調に行けば、夜中の三時ぐらいには終わるのではないかと思います」
「夜中の三時……」
「少々苛酷かもしれませんが、聖女様であれば出来ると思っております」
「……拒否権はありますか?」
「是非とも、儀式に臨んでいただければと思います」
神官長のイイ笑顔にこれは拒否権がないと察してしまう。
「分かりました、出来る限り頑張ります。それで、いつ儀式を行うのですか?」
「出来れば早いうちに」
「そうですか」
具体的な日程はまだ決まってないのね。
近日中に行われるらしいけど、覚悟しないと多分儀式の途中で空腹で倒れるわね。
御祈りの途中とかにお腹がなったら聖女失格とか言われないかしら?
「では、私は教会に戻り、儀式の準備を始めたいと思います。日程が決まりましたら、追ってお知らせいたします」
「わかりました」
「それではプリエマ様、国王陛下。私はこれで失礼します」
「お見送りは……」
「いえ、見送りは不要でございますよ、聖女様もお忙しいでしょうし」
「そうですか」
だったら儀式をしようとか考えないでほしかったんだけどなあ。
神官長が出て行ったのを確認して、こっそりとため息を吐いてしまった。
「大変な儀式のようだな」
「私に務まりますでしょうか?」
「聖女としての頑張りに期待している」
「聖女と言う肩書は思った以上に大変な物なんですね」
「仕方あるまい、プリエマはアーティファクトを正式起動したのだからな」
「そうですね」
はあ、絶食の儀式とか、今から考えただけで気が重いわ。
二週間後、儀式が執り行われる事になり、私は儀式に挑むことになった。
前日からの泊まり込みだったから、教会本部で夕食を食べたんだけど、なんというか、とにかく詰め込んでおけって感じの量の夕食を出されたのには驚いたわね。
満腹すぎて全然寝られないまま、早朝四時に起こされて、禊をさせられたんだけど、お湯なんて優しいものじゃなくって、冷たい水での禊だったわ。
六月だって言っても冷水はきついって!
その後、聖水を飲んで、教会本部内の礼拝堂で三時間ほど神様に祈りを捧げた。
何を祈ったらいいのかわからなかったから、とりあえずこの国の安寧を祈っておいたけど、よかったのかしら?
その後、王都内を馬車で移動して、各所の礼拝堂を回って、やっと教会本部に戻って来れたと思ったら、聖水を一口だけ飲んでまた禊をさせられて、また神様に三時間ぐらい祈りを捧げさせられた。
正直言って、その頃には意識がもうろうとしてたから、祈ってるっていうよりも、早く儀式が終われって願ってたわ。
神官長の言っていた通り、全ての儀式が終わったのは夜中と言うか、翌朝の四時。
正直お腹は空いてるし眠いし、疲れたし、最悪。
「プリエマ様、儀式はもうすぐ終了となります。最後に禊をしていただきまして、王宮に帰っていただいて結構ですよ」
「はい」
返事に力がないとわかりつつ、思わずため息を吐きそうになる。
こんな披露状態でまた冷水禊とか本当に拷問!
最後の禊をして、女神官の手を借りてドレスを着替えてから、やっと王宮に帰ることが出来た。
「おかえりなさいませ、プリエマ様」
「ただいま、クレマリー、アンセル。正直言ってもう眠気が限界なの、早く寝着に着替えてベッドに入りたいわ」
「かしこまりました。では早速寝着に着替えましょう」
「ええ」
クレマリーの手を借りて寝着に着替えると、ふらついた足取りで寝室に入って、ベッドに倒れこむと、肌掛けを強引に引っ張って目を閉じたら、一瞬で夢の世界に旅立ったわ。
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