009 四月のある日

【プリエマ視点】


 草木が芽吹く四月になったある日の事、いつものように適度に講義をサボっていると、国王陛下から呼び出されてしまった。

 最近聖女になったからってサボり過ぎたから怒られる?

 迎えに来てくれたウォレイブ様と一緒に、国王陛下の居る玉座に向かい、到着すると大きな扉が開き、中に入るように言われたので、ウォレイブ様と一緒に行って、玉座に近づいてカーテシーをして頭を下げる。


「父上、本日はどのようなご用件でしょうか?」

「うむ、とりあえず其方たちは列に控えているように」

「はい」


 な、なに? 怒られるんじゃないの?

 私とウォレイブ様は王族の方々や宰相や大臣、騎士団長が並んでいる列に並ぶと、しばらくそのまま待機させられてしまった。


「ウォレイブ様、いったい何が起きるんでしょうね?」

「わからない。ボクも何も聞かされていないから」


 ぼそぼそとウォレイブ様と話していると、その声が聞こえたのか、ウォレイブ様のお兄様のデュドナ様がそっと近づいてきた。


「隣国の第二王子が、終戦協定を結ぶためにやってきているんだよ。約半年前から調整していたんだけど、アーティファクトが正式起動したことによって、ブライシー王国の国王の依頼を受けて、やっと正式に終戦協定を結ぶことが出来るようになったんだ」

「そうなんですか。けれど、既に国政に関わっている兄上はともかく、ボク達までなぜここによばれたのですか?」

「ブライシー王国の第二王子エドワルド殿は、ウォレイブ達と同じ年だからね、接待役を申し付けるつもりなのだろう」

「なるほど」

「じゃあ、私は戻るから、調印式が終わるまで大人しくしているように」

「はい」


 デュドナ様がそう言って元の位置に戻っていく。

 そんな大きな声で話していたわけじゃないのに、なんだか責められたみたいでやな感じ。

 デュドナ様も『オラドの秘密』の攻略対象の一人だけど、攻略しても結局側妃になって愛されるっていう日々を送るだけのエンディングなのよね。

 確かに愛される寵妃エンドではあるけど、正妃になれないんだから意味ないわよね。

 まあ、かっこいいキャラだから、それでもいいっていうファンは多かったけど、私は好きじゃなかったわ。

 そうして、これからやってくるっていうブライシー王国の第二王子のエドワルド様も攻略対象なのよね、ルート的には、戦争が起きて、ヒロインがアーティファクトをエドワルド様に献上することで攻略できるっていうルート。

 タイミングが微妙だし、すぐに他のキャラのルートに入っちゃうから難易度は高かったのよね。

 そんな事を考えていると、エドワルド様が入場するという声がかかったので扉の方を見る。

 入場してきたエドワルド様は、手に二通の書簡を持っていて、迷いなく国王陛下のもとまで行くと、膝をつき頭を下げた。


「ご機嫌よう、アトワイト王国、国王陛下。この度は、我がブライシー王国との終戦協定にご理解を示していただきありがとうございます」

「うむ。こちらとしても、無駄な争いはしたくない故な」

「終戦協定の書簡はこちらになります」


 エドワルド様がそう言って、持っていた書簡を掲げると、それを侍従が受け取って国王陛下のもとまで持って行った。

 国王陛下はその内容を確認して、問題ないと判断したのか、二通の書簡にサインをして、一通をエドワルド様に返すよう侍従に指示を出していた。


「それでは、ブライシー王国第二王子エドワルド=リック=ブライシー殿は、しばらくの間我が国に滞在し、交流を深めたいという事で良いのだな」

「はい」

「学園にも通いたいとの希望も聞いているが、相違ないだろうか?」

「はい」

「では、学園での世話役として、我が息子ウォレイブを任命しよう。年も同じだし、通うクラスも同じものとしよう」

「ありがとうございます」

「ウォレイブ、前へ」

「はいっ」


 国王陛下の言葉に、隣に並んでいたウォレイブ様がエドワルド様の隣に並んだ。

 そういえば、私は腐女子の世界には手を出してないからよくわからないけど、ウォレイブ様とエドワルド様のカップリングって結構あったみたいよね。

 えっと、前世でニアさんから聞いた話だけど、ロミオとジュリエットみたいな関係が萌えるとかだったっけ? 腐女子の考えってわかんないわぁ。


「ウォレイブよ、エドワルド殿をしっかり世話するのだぞ」

「かしこまりました」

「うむ。では下がるがよい」

「はい」


 ウォレイブ様が私の隣に戻って来る。


「聖女プリエマ嬢、前へ」

「はい」


 え、なんで私まで呼ばれちゃうわけ?


「エドワルド殿、彼女が我が国の聖女、プリエマ嬢だ。学園ではクラスも同じであるし、ウォレイブの婚約者でもある。ともに世話を焼く場面が多くなると思うので、よろしく頼む」

「こちらこそ、是非ともよろしくお願いしていただきたいと思います」


 そう言ってエドワルド様が私の方を見て来る。

 艶やかな黒髪に、お姉様とよく似た、冷たいサファイアをはめ込んだような青い瞳、今はその瞳が私を観察するように射抜いてきている。

 私は正直見つめられてドキドキしながら、精一杯エドワルド様に笑みを返した。


「では、聖女プリエマ嬢、下がるがよい」

「はい」


 国王陛下に言われて、私はそのままウォレイブ様の隣に戻った。

 聖女だから調印式に呼ばれたのかしら?

 そうして調印式が終わって、ウォレイブ様がエドワルド様を客室に案内するっていうから、私も付いて玉座を出て行った。


「数か月前から王宮には滞在していたんですよ」

「え! 知らなかったな」

「極秘裏に離宮で過ごしていましたからね。今は第一王子と父上を支持する声が大きくて、祖国にはちょっと居づらいので、亡命ではないですが、父上からこの国の事情を偵察するように言われていたので、丁度いいと思って避難していたんですよ。この数か月、独自に終戦協定を結べないか調整していたのですが、この国を守護するアーティファクトが正式起動したことにより、父上もこの国を侵略することを諦めたようで、私に終戦協定を結んでくるように命令が下ったんですよ」

「そうだったのか。苦労しているんだね」

「まあ、私の国の事情はそこそこ複雑ですからね」


 エドワルド様の国って好戦的って攻略本には載っていたけど、国王が好戦的なのよね。

 エドワルド様自体は好戦的ではなかったはずだわ、お国柄、武術は一通り仕込まれていて強いけど、暴力に訴えるような人ではなかったはずよね。

 実は、結構お気に入りのキャラだったのよねえ、攻略が面倒だからあんまり手を出してはいなかったけど。

 私はまじまじとエドワルド様を見る。

 ウォレイブ様と同じぐらいかっこいいわよねぇ、ウォレイブ様と違って、将来は国王になるんだし、エドワルド様と結ばれれば隣国とはいえ私は王妃になれるってわけか。

 ……悪くないんじゃない? って、何考えてるのよ私。

 今はウォレイブ様の正妃婚約者でしょ、しっかりしなくっちゃ。


「それにしても、プリエマ嬢は愛らしいですね」

「え! 私ですか?」

「ええ、聖女と言われて納得できるほどの愛らしさをお持ちですね」

「そんな、ありがとうございます」


 ストレートな誉め言葉に思わず顔が赤くなっちゃう。

 もしかして、一目惚れされちゃったとか?

 やだ、どうしよう。


「エドワルド殿、プリエマ嬢はボクの正妃婚約者だから、あまりからかわないでくれるかな?」

「からかってなんかいませんよ。本当にそう思っているから言ったんですよ」

「……客室はもう少しだ、早く行こう」


 あ、ウォレイブ様ってば少し機嫌を損ねたみたい。

 婚約者を目の前で口説かれたんだから、仕方ないわよね。

 でも、ウォレイブ様とエドワルド様が私をめぐって争うとか、乙女の夢じゃない? 私の為に争わないで! とかリアルで出来ちゃう感じ?

 ふふ、どうしよう、困っちゃう。



【グリニャック視点】


「トロレイヴ様、ハレック様、訓練お疲れ様です。これ、差し入れのレモンティーと蜂蜜レモンですわ。よろしければ召し上がってくださいませ」

「ありがとう、頂くよ」

「助かる、喉が渇いて仕方がなかったんだ」


 トロレイヴ様とハレック様はリリアーヌからレモンティーの入ったカップを受け取ると、一気に飲み干しました。


「うん、美味しい。この茶葉はエヴリアル公爵領で採れたものなの?」

「ええ、そうですわ。このレモンティーには疲れを回復する効果がありますのよ」

「そうなの? じゃあ、こっちの蜂蜜レモンも?」

「ああ、このレモンの蜂蜜漬けは良く差し入れしてくれているな」

「ええ、こちらにも疲労回復の効果がございますわ」

「へえそうなんだ」


 そう言って、トロレイヴ様とハレック様は、我が家のシェフお手製の蜂蜜レモンを一枚手に取って口に持って行きます。

 ……ああ、蜂蜜が口元に垂れて! 舌でその蜂蜜をなめとる仕草は、い、色気が凄まじいですわ。いつも差し入れに持ってきているわたくし、グッジョブ!

 蜂蜜レモンを食べ終えると、四月で気温も上がってきているせいか、お二人は汗まみれになっておりますので、渡したタオルでその汗を拭いています。

 ああ、汗まみれのお二人も素敵ですけれども、汗をぬぐう姿もまた眼福物ですわ。

 そんな事を考えながら、うっとりとお二人を観察していると、訓練場の入り口付近がざわめき始めました。

 何事かと三人で入口の方を見ますと、ウォレイブ様を筆頭とした集団が丁度訓練場に入って来たところでした。


「まあ、ウォレイブ様がこの訓練場に来るなんて、初めてではございませんか?」

「そうだね。初めて見るよ」

「今日編入してきたっていうブライシー王国の第二王子のエドワルド様だっけ? その人に案内をしているんじゃないかな?」

「なるほど」

「昼食の時も、ウォレイブ様の集団にいる令嬢達がいつもよりも賑やかにしていたよね」

「そうだな、まあ、ウォレイブ様の側妃婚約者候補の令嬢方にとっても、隣国の王子というのは目新しいものなんだろう」

「そうですわねえ。まあ、わたくし達には関係がありませんわよね」

「そうだね。ハレック、もう少し休憩したらもう一試合と行こうか?」

「望むところだ」


 お二人はそう言って笑みを浮かべ合います。ああ、見つめ合うお二人、想いあっていないとはわかっておりますが、やはりこういう場面を見ますと、妄想で滾ってしまいますわね。

 そんな事を思っていると、ウォレイブ様達の集団がこちらにやって来ました。


「あら、なんだかこちらにいらっしゃるようですわよ?」

「ほんとだ、何の用だろう?」

「こっちは休憩中だっていうのにな」


 近づいてくるウォレイブ様達の集団に、わたくしはカーテシーで迎え撃ちます。

 トロレイヴ様とハレック様の親密な交流の邪魔はさせませんわよ。


「ご機嫌よう、ウォレイブ様方。今日はどうなさいましたの?」

「やあ、グリニャック嬢。今、エドワルド殿に校内を案内している途中なんだ」

「然様でございますか」

「うん。グリニャック嬢は、よくこの訓練場に来るのかい?」

「ええ、トロレイヴ様とハレック様が毎日のように居残り訓練をしておりますので」


 だから、お邪魔虫はとっとと立ち去ってくださいませんか? という副音声付きで言ってみます。


「へえ、君達が騎士科で最高成績を争っているっていう、トロレイヴ殿とハレック殿か。一本お手合わせ願いたいところだな」

「あら、エドワルド様も剣をお手に取ることがあるのですか?」

「もちろん、これでもブライシー王国の第二王子だからね。自分で自分の身を守れる程度には嗜んでいるよ」


 嘘つけ。

 ゲームの中では先陣切ってこの国に攻め入ってきていたくせに、何を仰っているのでしょうね。

 それにしても、トロレイヴ様とハレック様の濃密な時間を邪魔するおつもりなのかしら?

 そんなの、わたくしが許しませんわ!


「そうなのですか、けれども今は校内を案内されている途中なのでございましょう?」

「まあ、そうだね。トロレイヴ殿、ハレック殿、機会があったら手合わせをお願いしてもいいかな?」

「ええ、構いませんよ」

「もちろん、新しい相手と手合わせをするのはこちらとしても勉強になりますからね」


 まあ! お二人とも、相手がエドワルド様だからといって、そんな事言わなくてよろしいのですわよ!


「そうか、じゃあまたの機会に。ウォレイブ殿、次の場所を案内してくれますか?」

「もちろん」


 そう言ってウォレイブ様達は立ち去って行きます。

 はあ、邪魔しに来ただけなのでしょうか? まったく、止めて欲しいですわね。


「なにしにいらしたのでしょうか?」

「この国の騎士科のレベルを確認したかったとか?」

「そうだな。まあ、エドワルド様に侮られないためにも、訓練を再開するか」

「OK」


 エドワルド様も大変ですわね、今朝お父様から聞いた話ですと、アーティファクトが正式起動したことにより、正式にブライシー王国の国王陛下から終戦協定を結ぶよう指示があり、無事に終戦協定を結んで、表向きは国同士の交流を深めるためと言う理由でこの国に滞在なさるそうですけど、裏で何があるのやら。

 好戦的なブライシー王国の国王の事ですもの、プリエマを手に入れて来いとか密かに命令を下してそうですわよね。

 プリエマ、ハニートラップを仕掛けられても引っかからなければよいのですけれども、大丈夫ですわよね?

 わたくしは「ふう」とため息を吐き出しますと、エドワルド様の事を一旦忘れることにして、トロレイヴ様とハレック様に視線を戻します。

 見ると、お二人はちょうど鍔迫り合いをしている所でございました。


(きゃぁぁ! 顔が近い! 真剣な表情のお二人、かっこいい!)


 はあ、相変わらずお二人の訓練姿は眼福ですわ。

 ……先ほどはトロレイヴ様がハレック様の剣をはじき飛ばして勝ちましたが、今度はどちらが勝ちますでしょうか?

 ……ああ、若干ハレック様の方が押しているようですわね。トロレイヴ様の額に再び汗が浮かんでいますわ。

 けれども、押しているハレック様の首筋にも汗が流れて……、ああ、涎が出そうですわ。

 汗に濡れるお二人の色気は本当に半端ないですわね。

こんな方々の婚約者だなんて、わたくしはなんて果報者なのでしょうか。

 わたくしがうっとりと二人が剣を交えるのを見ていますと、やはり今回はハレック様が競り勝ったようです。

 お二人は若干息を荒くしながらこちらに近づいてきますので、わたくしはお二人分のタオルを手にします。


「お疲れさまでした」


 わたくしはお二人にタオルを渡します。


「うーん、連勝できなかったなぁ」

「そう簡単に勝たせはしないぞ」

「お二人とも、日に日に強くなっていかれますわね。……そうですわ! 今度、領地で行ったようにお互いを拘束し合っての訓練をするというのは如何でしょうか?」

「ああ、あれはいい訓練になったよね」

「そうだな、しかし、拘束具はないからな、どうしたものか……」

「領地から取り寄せますわ」


 わたくしは拳を握り締めて言います。

 お互いを拘束し合っての訓練は、今以上に眼福物ですものね。


「……グリニャック様、また何か変な事考えてる?」

「ま、まさか。そんなことございませんわよ?」


 くっ何故バレたのですか!

 最近お二人がわたくしの腐妄想を察知する能力が上がっているように思えますわ。いけませんわね、もっと隠蔽力を上げなくては。

 はあ、平常心ですわよ、わたくし。お二人に腐妄想を察知されてはいけませんわ。

 わたくしはお二人を撮影するために持っていた写真機をスカートのポケットにしまいます。


「あ、そうだ。前々から思ってたんだけど」

「なんでしょうか?」

「グリニャック様はいつもその写真機で僕達の事を撮っているけど、たまには自分を撮ってみたら?」

「あら、そのような事に貴重なフィルムを使うわけにはいきませんわ」

「じゃあ、三人での写真を撮るというのはどうだ?」

「え」

「あ、いいね! それ」

「ええ……」


 ツーショットならともかくスリーショットですか? わたくしが間にいたのでは意味がないではありませんか。


「ほら、撮ってもらおうよ」

「……わかりましたわ。リリアーヌ、使い方を説明しますわね」

「はい、グリニャックお嬢様」


 わたくしは渋々再度ポケットから写真機を取り出しますと、リリアーヌに渡し使い方を説明いたします。


「使い方はわかりました。それではグリニャックお嬢様方、並んでくださいませ」

「わかりましたわ」


 そうすると、わたくしの左右にトロレイヴ様とハレック様が立って、それぞれわたくしの手を取ると、指先に口づけなさいました。


(はわわっ! なぜ今⁉)


「………………三枚撮影完了いたしました」

「あ、ありがとう、リリアーヌ」


 わたくしは顔が赤いまま、リリアーヌから写真機を受け取って、出来上がった写真を確認いたします。

 モノクロだからわかりませんけれども、カラーだったら私の顔の赤さがきっと目立っておりましたわね。


「このようなものでよろしければ、受け取ってくださいませ」


 わたくしはお二人にスリーショットの写真を渡します。


「ありがとう。一生の宝物にするよ」

「一生の宝物が増えていくな」

「喜んでくださるのでしたら何よりですわ」


 本当はお二人の絡みショットを撮るための写真機ですのに……。

 わたくしは納得のいかないまま、スカートのポケットに写真機をしまいました。


「今日の訓練はこれまでになさいますか?」

「そうだね。今日はこの辺にしておこうか。あんまりやり過ぎるのも良くないって講師に言われているしね」

「まあ、そうなのですか?」

「ああ、私達はまだ成長期だからな、無理をして骨格などに支障をきたしては危険と言われてしまったよ」

「そのようなものなのですか。剣の道と言うのも難しいものなのですね」


 そう言えば、二年生になってトロレイヴ様もハレック様も随分背が伸びましたわよね。成長痛とか大丈夫だったのでしょうか?

 成長痛に苦しむ姿……ちょっと見てみたかったですわね。きっとそんな姿も色っぽいに決まっておりますわ。


「じゃあ、着替えて来るね」

「わかりましたわ、いつもの場所でお待ちしております」


 わたくしはトロレイヴ様とハレック様と一緒に訓練場を出ますと、いったん別れて馬車停めの所へ向かいます。

 一緒の馬車で帰るわけではないのですが、馬車停めの所でお別れするのがいつものお約束になっているのでございます。

 馬車停めに着いて、リリアーヌの差す日傘の下でお二人を待っていると、賑やかな集団が近づいてきました。

 はあ、またですか。ついていませんわね。


「やあ、また会ったね、グリニャック嬢」

「そうですわね、ウォレイブ様方。今お帰りですか?」

「うん、校内の案内も終わったしね」

「然様でございますか」

「グリニャック嬢はなにをしているのかな?」

「トロレイヴ様とハレック様を待っておりますの」

「相変わらず仲が良いね」

「ええ、まあ」


 お恥ずかしながら、愛し愛される仲でございますわよ。


「じゃあ、ボク達は先に帰ろうか」

「お姉様、また今度」

「ええ、お気をつけて、皆様方」


 国を左右するような出来事には、出来ればなるべく関わり合いになりたくないのですけれどもね。

 わたくしはそう思いながら、笑みを浮かべて馬車に乗り込んでいくウォレイブ様方を見送りました。

 それにしても、毎回思うのですが、あんなに大勢で行動していて疲れないのでしょうか?

 五強がいつも一緒にいるのは乙女ゲームの仕様上仕方がない事だとして、それに侍っている令嬢方は秋波を送り続けているわけですし、疲れそうですわよね。

 そんな事を考えていますと、着替え終わったトロレイヴ様とハレック様がいらっしゃいました。


「お待たせ、グリニャック様」

「いいえ、そんなことございませんわ」

「じゃあ、名残惜しいけど今日はもう帰ろうか」

「そうですわね。また明日お会い致しましょうね」


 わたくしはそう言うと、家紋の入った馬車の所まで行くと御者の手を借りて馬車に乗り込み、窓からお二人に手を振ります。

 そうしていると、馬車は音を立てて走り出し、次第にお二人の姿が見えなくなったところで窓を閉めました。

 屋敷に戻り、夕食までの間私室で課題をしながら過ごします。

 王族の家系図ですか……複雑なのですよね、我が家にも王族の姫君が数代前に嫁いでいらっしゃっていますし、辿って行けば高位貴族は全員遠い親戚ですわよね。

 その後、課題が終わった頃に丁度夕食の時間になりましたので食堂に向かい、夕食を頂きまして、いつものように私室に戻り、湯あみをして寝着に着替えると、一人で寝室に入り、いつものようにアルバムに今日撮ったトロレイヴ様とハレック様の写真を張り付けていきます。

 そういえば、スリーショットの写真もありましたわね。

 わたくしは一応最後にスリーショットの写真もアルバムに貼ります。

 ……お二人に指先にキスをされている破廉恥な写真が残ってしまうなんて、このアルバムはますます人には見せることが出来なくなりましたわね。

 それにしても、ティスタン様はカラーインクの開発に相変わらず苦戦しているようですわね。

 やはり、この時代の文明では難しいのでしょうか? いえ、でもティスタン様ならきっと何とかしてくれるはずですわ。

 信じていれば力になると言いますし、きっとそのうち開発に成功しますわよね。

 ……はあ、それにしても汗に濡れるお二人が剣を交える姿は、何度見ても滾りますわね。

 そういえば、エドワルド様がお二人と剣を交えたいと仰っておりましたが、お二人の邪魔をするなんて許せませんわね。

 何とか阻止する方法はないものでしょうか?

 エドワルド様が訓練場にいらっしゃって、手合わせを申し込まれてしまっては、断ることもできませんし、出来れば訓練場に来ないようにするのが一番なのですが、そこは接待役のウォレイブ様の手腕次第という所ですわよね。

 ……自国の王子に対する評価としては何ですが、無理そうですわよねえ。

 講義が終わったらさっさと一緒に帰って欲しいですわね。

 正妃婚約者はプリエマに決まりましたが、ウォレイブ様にはまだ側妃婚約者を選ぶと言う公務もございますものね、エドワルド様の接待をしている場合なのでしょうか?

 第二王子様に接待役を任せればよろしかったのでは?

 ……ああ、駄目ですわね。我が国の第二王子は人に流されやすいのでしたわ。もちろん、第二王子も攻略対象者になっております。

 けれども、デュドナ様と同じようにもう正妃が居りますので、攻略しても側妃止まりなのですけれどもね。

 第二王子妃様はしっかり者で、良い感じに第二王子を誘導しておりますのよ。

王位こそ、器が足りないと判断して狙ってはおりませんが、大公兼宰相の地位は狙っているようですわね。

 けれども、第二王子妃様、わたくしは苦手なのですよね。

 なんと言いますか、上昇志向が強すぎると申しますか、元が伯爵家の令嬢だからなのか、夫である第二王子をなるべく高い地位にしたいと言う思考が強いと言いますか……。

 まあとにかく、わたくしとは水が合いそうにないのですよね。

 お茶会で何度かお会いいたしましたけれども、濃い目のお化粧もマイナスポイントですわね。もっと薄化粧でも十分にお綺麗でしょうに、もったいないですわよね。

 その点、デュドナ様の正妃様は堅実な方で、良い意味で夫であるデュドナ様を支えていらっしゃいます。

 ご長男も生んでいらっしゃいますし、ご実家の公爵家の援助もありますし、本当にデュドナ様に関しては将来が安泰と言ったところでしょうか。

 そんな事を考えながら、トロレイヴ様とハレック様の写真を堪能すると、丁寧にドレッサーの一番上の引き出しにしまい、ベッドに横たわって目を閉じました。

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