008 アーティファクト起動
【グリニャック視点】
あのお茶会以降、プリエマは基本的に真面目に講義に取り組んでいるようで、サボリの回数も減り、成績も淑女教育も順調にレベルが上がっていると報告を受け、わたくしもお父様もお母様もほっと胸を撫でおろしております。
そうしてわたくしは、いつものように学園での生活を終え、家に帰り夕食を頂き、湯あみをして寝室に一人で入り、本日撮影をしたトロレイヴ様とハレック様の写真をアルバムに貼り付けて、その麗しいお姿を十分に堪能してからベッドに入り眠りにつきました。
『目覚めよ、グリニャック』
「まあ、神様。お会いしたいと思っておりましたのよ」
『そうか?』
「ええ、よくもわたくしの夢とトロレイヴ様とハレック様の夢を繋いでくれやがりましたわね?」
『おかげで想いを理解し合えたであろう』
「わたくしの趣味までばらすことはないのではないでしょうか?」
『グリニャックの嗜好を言わずして、どうやって想いを通わせさせると言うのだ』
「神様なのですから、やりようはいくらでもございましたでしょう?」
『ない』
「役立たずですわね」
『ぐ……。そ、そんな事よりも、本日呼び出したのは他でもない。プリエマの件だ』
「プリエマに何かありましたか?」
『うむ、最近は講義にも励んでいるようで、アーティファクトを正式起動しても良いぐらいには器が満ちている、しかし、やはりグリニャックのサポートが必要なようだ。近々神官長にアーティファクトの正式起動の啓示を出すが、その正式起動の場にグリニャックも同席して欲しいのだ』
「なぜわたくしのサポートが必要なのですか?」
『いや、まだ完全に器が満たされているわけではないのでな』
「では満たされるまで待てばよろしいのでは?」
『そうはいかなくなって来た。ブライシー王国の第二王子がこの国に潜入している事は話したな? 今は王宮の離宮で秘密裏に過ごして居る、何故だと思う?』
「亡命とかでしょうか?」
『違う。第二王子は独自にこの国との終戦協定を結びにやってきているのだ』
「……それって、もし結ばれても有効ですの? 独自にって、ブライシー王国の国王陛下の許可は得ていないのですよね?」
『ブライシー王国を守護している神は、第二王子、エドワルドをいたく可愛がっていてな、終戦協定が結ばれれば、啓示として国王にも認めさせるだろう』
「無茶苦茶ですわね」
好戦的と噂に聞くブライシー王国の国王陛下が、そんなことで納得しますでしょうか?
『アーティファクト正式起動の際には高位貴族を集めての儀式とするように啓示を出す故、グリニャックが儀式に参加するのは問題ない』
「わたくしがサポートすることに変わりはないのですか?」
『今のプリエマでは器がまだ若干足りていないのでな』
「はあ……」
わたくしは思わず深いため息を吐き出してしまいました。
さて、どうやってバレないようにサポートすればよいのでしょうね? プリエマの祈りに合わせて、わたくしも心の中で祈ればよいのでしょうか?
「プリエマをサポートと仰いますが、具体的にはどのようにサポートすればよろしいのですか?」
『祈りを捧げよ』
適当ですわね。
つまり、やはりプリエマの祈りに合わせてわたくしも祈りを捧げればよいという事ですわね。
「プリエマ、神への祈りの文言をちゃんと覚えておりますでしょうか?」
『啓示を与え、再確認させておくので大丈夫だ』
「それは親切ですわね」
『ではグリニャックよ、儀式の際はよろしく頼んだぞ』
人任せですわねえ。
本当にこの国を守護なさっている神様なのでしょうか? 怪しいですわ……。
『な、なんだ?』
「いいえ、神様が信用出来ないと思っただけですわ」
『私は神だぞ!?』
「だからこそですわ。それで、いつになったらわたくしを戻して下さいますの?」
『全く……。とにかく、妹であるプリエマを良くサポートするように』
「言われなくてもそういたしますわよ」
そう言ったところで、わたくしの視界が霞がかっていき、意識がホワイトアウトいたしました。
目が覚めると、カーテン越しに陽が差し込んでくるのが見えました。
起きるのには少し早いですが、二度寝するほど時間もないですわ、うーん、時間は有効活用しなければいけませんわよね。
そう思ってわたくしはベッドを出ると、ドレッサーの一番上の引き出しを開け、アルバムを取り出すと、トロレイヴ様とハレック様の麗しい姿を堪能致します。
はあ、朝から見るお二人の麗しい写真というのもいいですわね。
そうして朝から鋭気を養っていますと、寝室の扉がノックされました。
「グリニャックお嬢様、お目覚めですか?」
「ええ、起きておりますわ」
それからはいつも通りに一日を過ごし、屋敷に帰りまして部屋でくつろいでおりますと、セルジルが早めに食堂に来るようにと言ってきましたので、何かあるのかと思いながら食堂に向かいました。
食堂にはすでにお父様とお母様がいらっしゃって、なんとも言えない顔で座っていらっしゃいます。
「お父様、なにかございましたの?」
「ああ、実は本日神官長に啓示があって、アーティファクトの正式起動を近日中に行う事になった。その際、高位貴族は全員参加するようにとの事らしいので、グリニャックもそのつもりでいるように」
「わかりましたわ」
神様、変なところで行動が早いですわね。
まあよろしいのですけれども。
それにしても、隣国の王子が秘密裏に王宮に滞在して勝手に終戦協定を結ぼうとしているとか、いくら考えても無謀なのではないでしょうか?
ブライシー王国を守護していらっしゃる神様に可愛がられていると言われても、第二王子が勝手に終戦協定を結んでは駄目でしょうに。
お父様は、知りませんわよねえもちろん。
わたくしは運ばれてきた食事を頂きながら、こっそりとため息を吐き出しました。
【プリエマ視点】
「え! 明後日にアーティファクトの正式起動をするのですか?」
「うむ、神官長が神に啓示を受けたため、至急正式起動の儀式を行う事になった」
「そんな、あまりにもいきなりではありませんか、国王陛下」
「プリエマが正式に神に認められたという事だろう。自信をもって儀式に挑むがよい」
「……わかりました」
ちょっと早すぎない? 自分で言うのもなんだけど、まだ能力値が足りているとは思えないのよね。
でも、神官長に啓示があったんだし、気が付かないうちに私ってば聖女になれるぐらいの能力を身に着けたっていう事?
そんな事を考えながら国王陛下との謁見を終えて、私室に戻ると、用意されていた夕食を口にして、湯あみをしてから寝室に入ると、ベッドに入って目を閉じた。
『プリエマよ、目覚めるがよい』
「神様?」
『うむ。本日はアーティファクトの正式起動の儀式について確認するために其方を呼んだのだ』
「確認ですか?」
『うむ、前世の知識のある其方なら心配はないと思うが、アーティファクトを正式起動する際の文言は覚えておるか?』
「えっと……」
なんだったかしら?
『……ふう』
「ご、ごめんなさい」
『謝らずとも良い。確認しておいてよかったと思っただけだ。文言は『神よ、我らが愛する国の為、我が愛する人々の為、そのお力をお貸しください。この祈りをどうかお聞き届けください。貴方様のお力を、この宝具を依り代にして顕現してくださいませ』だ』
「……」
お、覚えられない。
えっと、神よ我らが愛する国の為……なんだっけ?
『神よ、我らが愛する国の為、我が愛する人々の為、そのお力をお貸しください。この祈りをどうかお聞き届けください。貴方様のお力を、この宝具を依り代にして顕現してくださいませ、だ』
「すみません」
『構わぬ』
えっと、神よ我らが愛する国の為、愛する人々の為、そのお力をお貸しください。…………えっと。
『神よ、我らが愛する国の為、我が愛する人々の為、そのお力をお貸しください。この祈りをどうかお聞き届けください。貴方様のお力を、この宝具を依り代にして顕現してくださいませ』
「あ、はい」
神よ、我らが愛する国の為、我が愛する人々の為、そのお力をお貸しください。この祈りをどうかお聞き届けください。貴方様のお力を、この宝具を依り代にして顕現してくださいませ。
うん、何となく覚えたわ。
こんな長い文言、いくら『オラドの秘密』をやり込んでいても覚えられないわよね。
神様が来てくれてよかったわ。
『念のため、今文言を奏上してみよ』
「はい。えっと、神よ、我らが愛する国の為、我が愛する人々の為、そのお力をお貸しください。この祈りをどうかお聞き届けください。貴方様のお力を、……お力を……」
『この宝具を依り代にして顕現してくださいませ、だ』
「は、はい。神よ、我らが愛する国の為、我が愛する人々の為、そのお力をお貸しください。この祈りをどうかお聞き届けください。貴方様のお力を、この宝具を依り代にして顕現してくださいませ」
『うむ、それでよい。本番まで忘れぬよう、練習しておくように』
「わかりました」
これは本気で練習が必要ね、起きたらメモしておかなくっちゃ。
『ではプリエマ、儀式の際は楽しみにしておるぞ』
「はい、神様」
そうして、私の視界が霞がかっていき、意識がホワイトアウトした。
目覚めた私は、早速ドレッサーの中からレターセットを取り出して、その紙に儀式の文言を覚えているうちにメモをした。
……こんな長い文言、本番でちゃんと言えるかしら? 練習するしかないわよね。
私はため息を吐き出して、紙に書かれた文言をぶつぶつと呟いて練習をした。
【グリニャック視点】
アーティファクトの儀式当日、わたくし達は王宮にある礼拝堂に行きまして、用意された上座の方の席に座りました。
しばらく待っていると、神官長に連れられて、白いローブを羽織ったプリエマが礼拝堂に入ってまいりました。
緊張しているようですわね、顔が強張っていますわ。
プリエマが礼拝堂にある石碑にアーティファクトの首飾りを置き、一歩離れて、祈るように膝をつき胸の前で手を組みました。
「これより儀式を開始いたします。プリエマ様、神への祈りの文言を唱えてください」
神官長の言葉に、プリエマがぐっと口を結ぶと、ゆっくりとその口を開きました。
「神よ、我らが愛する国の為、我が愛する人々の為、そのお力をお貸しください。この祈りをどうかお聞き届けください。貴方様のお力を、この宝具を依り代にして顕現してくださいませ」
わたくしもプリエマの言葉に合わせて心の中で祈りの文言を奏上いたしました。
その瞬間、アーティファクトから、ぶわり、と光が溢れ、礼拝堂の壁を通り抜けていきました。
この光はきっとこの国全土に届くのでしょう。
「ぐはっ」
「ぎゃぁっ」
礼拝堂の中からそんなうめき声が聞こえてきました。
絶命したのでしょうねえ、あれは。
なんと言っても、張られた結界はこの国に悪意を持ったものを
プリエマはゆっくりと立ち上がると、成功したことに安心したかのように、ほっとした笑みを浮かべました。
「アーティファクトが正式に起動いたしました。教会はこの場にて、プリエマ=サノワ=エヴリアル様を聖女と認定いたします」
神官長の言葉に、生き残っていた高位貴族達が拍手をプリエマに送ります。
わたくしの存在がバレなくてよかったですわ。
「プリエマ嬢、よくぞやってくれた」
「はい、国王陛下」
「プリエマ嬢、何か望みはあるか? 聖女となったのだ、流石に国を譲れなどと言われると困るが、出来る限りの事はしてやろう」
国王陛下の言葉に、プリエマは少し考えたようですが、首を横に振りました。
「私は、このままウォレイブ様の正妃なることが出来ればそれで十分です」
「そうか? わかった」
ふう、これで『オラドの秘密』のシナリオ通りにヒロインであるプリエマが、アーティファクトを正式起動したことになりましたわね。
本当に、わたくしが手を貸したことがバレなくてよかったですわ。
まあ心の中で奏上しただけですし、神様が余計なことを言わない限りバレませんわよね。
「聖女となったプリエマ様は、これから一度教会本部にお越しくださいませ」
「わかりました」
あらまあ、教会本部に行くなんて、大変ですわね。
まあ、二百年ぶりの聖女ですし、教会も気合が入っているという事でしょうか?
……プリエマ、無事に帰ってきますわよね? 教会でさらに変な儀式とかさせられなければいいのですけれども。
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